2018年2月26日(月)
カプコンが基本プレイ無料でサービス中のPS4/PS3/PC用ソフト『ドラゴンズドグマ オンライン(DDON)』。本作のデザインチームへのインタビューを掲載します。
お話を伺ったのは、デザインチームをまとめている佐藤史法さんとモンスターのデザインをメインで担当する松下禄範さん。本作の世界観やモンスター、装備などを生み出す際に意識していること、デザイン面で考えていることなどをお聞きしました。
▲左が松下さんで、右が佐藤さん。 |
これまでにあまり公開されていない設定画とともにお届けするので、ぜひご覧ください。
なお、インタビュー中は敬称略。
――これまでにお2人はどのようなタイトルに関わられてきたのでしょうか。
佐藤:僕は『鬼武者』や『シャドウ オブ ローマ』、『デッドライジング』、『バイオハザード5』、『バイオハザード リベレーションズ』などです。他には細かいタイトルをポツポツやっています。最新タイトルは『ドラゴンズドグマ オンライン』です。
松下:最初は『バイオハザード3 LAST ESCAPE』から始まり、『バイオ4』、『バイオ5』に関わって、いろいろあった後に『ドラゴンズドグマ』の1作目から関わっています。
――本作におけるそれぞれの役割を教えてください。
佐藤:デザインチームのチームリーダーをしています。スケジュールとデザイン、モデル制作のチェックが主です。あとは、こういうものを出していこうなどの方向性も話し合いますね。自分では細かいものも描いたり、モデルを作ったりもします。
松下:敵キャラ周りのデザインやモデル作業などの作業を主に行っています。あとは『DDON』にどんな敵を登場させるかという、ラインナップも考えています。最近のシーズン3だと、物語がドワーフオークメインなのでその周りの敵を用意したり、大陸に出てくるモンスターにどんなものを出したりなどを考えました。
――もともと『バイオハザード』をやられていた時や、それよりも前からクリーチャーによったイラストが多いのでしょうか?
松下:会社に入った時からずっと敵キャラばかり担当しています。。昔、ホラー映画がすごく好きで、ホラー映画ばかり見ていたんです。弊社に入ったきっかけとしては、ホラーゲームを作れそうだなと思ったためです。
――デザインチームは、ゲームの設定を受けて一緒に世界観を作っていくのでしょうか。
佐藤:モデルやデザインのセクションは開発チームの中でも最初に走り出します。企画やプログラマーとかが前のバージョンを作っている時にすでに先行して動きだしていくんです。
松下:シーズン単位で“どんな雰囲気にもっていこうか”ということ先に決めています。それに沿う形で、「こういう場所だったらどんな敵が出せるかな、どんなデザインが合っているかな」ということを模索して、こちらからディレクターに提案していきます。
――シーズン3では、どのようなオーダーがありましたか。
佐藤:最初にディレクターの木下研人から「シーズン3は砦戦でいきたい」と言われました。シーズン2の世界観が『ドラゴンズドグマ』的なハイファンタジーではなく、どちらかと言えばなじみのあるファンタジーだったので、もう一度『ドラゴンズドグマ』シリーズっぽい、リアリティのある重厚な世界にしたいというイメージは聞いていました。ヨーロッパとかのモチーフのなかでも、過去に使っていない新規の地域を提案しました。
――デザインのラフを出した際に、大きな修正をもらうなどの経験はあるのでしょうか?
松下:開発初期は、互いに模索しながら作業していることが多く、大きな修正もありました。
(同席していた)松川:初期には、白竜などドラゴンの造形をずっとチェックしていた記憶があります。
松下:白竜も見た目はそこまで変わっていないのですが、どういう扱いにするかなどはいろいろあって、デザイン完成時には女性を想定してたものが声を当てられた時には男性になってたりなど、かなり変わっています…。
シーズン1は浮遊大陸と黄金郷がテーマだったので、“錬金術”の要素を提案して錬金のエネミーやジョブのアルケミストに発展していきましたが、決定に至るまで紆余曲折ありました。
佐藤:開発初期は紆余曲折がありましたが、最近は順調に準備が進んでいます。
――人物については、どのようにして作成していくのでしょう。
佐藤:主要のキャラ設定がある程度決まった時点で、世界観を含めてキャラのデザインを起こして、作成していきます。
――シーズン3のメインキャラにネド王子がいますが、例えばこのキャラクターであればどのようなやりとりがありましたか?
佐藤:少年覚者という設定は決まっていましたので、中東寄りの世界観設定に則して衣装の装飾、素材は王族の高級感を出しつつ、 サイズ感やズボン丈などで少年っぽさを出しました。ヘアバンドのような物で、縛っている髪が膨らんでいるデザインなのですが、これがやりたかったというのもあります(笑)。それらを合わせてデザインしていきました。
――キャラクターデザインは、どなたかひとりが担当されているのでしょうか。それとも何人かで担当されるのでしょうか。
佐藤:基本的に役割は大きくは決まっていますが、ケースバイケースですね。それこそ敵のデザインをしているメンバーにお願いすることもあります。キャラクターデザイン専任みたいな人もいますが、できる人がいたらお任せしていく感じです。
――シーズン1、2、3と重ねてきてチーム内の意識が変わってきたと感じることは?
佐藤:意識ではないのですが、当然成長していることは感じます。ハードのスペックが決まっているため、ここまでできるというラインがあります。その環境下で何年も作っていると、開発速度がどんどん上がっていくのはいいところです。
いっぽうで「いつもの感じだね」となりがちなので、そうならないようにすることを皆で意識しています。
――例えばひと言に“鎧”といってもいろいろな種類があるのですが、いつものようにならないようにするのはなかなか難しいですよね。
佐藤:そのため、デザインする人を変えることで方向性を変えています。スケジュールや進行具合を見て「今回はこの人にデザインしてもらおうか」とかお願いします。
――松下さんは、他の人がデザインされているキャラや鎧をご覧になられて、自分だったらこういう風にしたいなと思われますか?
松下:個人的には人物デザインに関してはあまり興味がないので……そう思うことは正直ないですね(笑)。
――なるほど(笑)。自分が手がけられたというものでもいいですし、出しているモンスターで気に入っているものはありますか。
松下:シーズン1ですとゴリアテ、シーズン2ですとタラスクですね。全身新たにデザインできて、新しい本作の世界を出せたという意味でゴリアテは気に入っています。
――モンスターをデザインされる際には、モチーフやテーマを用意するのでしょうか。
松下:初代『ドラゴンズドグマ』の時は日本向けではなく世界向けを想定していましたので、コンセプトは“世界中の誰もが知っている昔から語り継がれているような怪物達と本当の戦いができる!”というものでした。そのため、神話や伝承にあるものをなるべく具現化して、見たら誰でもわかる共通認識としてあるモンスター像を表現して、ちゃんと戦えることを目指していました。
『DDON』でもその流れを意識しつつ、先ほどいったような世界観を混ぜながらデザインしています。
――タラスクは?
松下:タラスクも伝承がある生き物なので、それをデザインのベースにしています。ただ、ドラゴンとして扱いたかったので、翼が硬質化して甲羅になっているような見た目にして仕上げました。開発時間があれば甲羅を開いて戦う展開を考えていたのですが……そこまではやれませんでした。
松川:初代『ドラゴンズドグマ』の時からそうなのですが、デザイナー特有の隠れた設定が結構あります。ドラゴンの翼は手が進化したものであると聞いたのですが、それなら「腹のあたりにある手はなんなの?」とかですね。
松下:あれも手なので、ドラゴンは6本足ということです。
松川:このようにいろいろな設定を考えながらデザインしてくれています。
松下:ただそれは我々が考えたわけではなく、昔からそういう風にデザインされていることなので、そこを丁寧に描いています。
――個人的に顔が特徴的だと思いました。化け猫のようと書いてありますが、ここはデザインされた部分ですか?
松下:これも伝承に“山猫の顔”という言い伝えがあるため、こうしました。個性を出すために山猫ではなく、日本風の化け猫のおどろおどろしさを取り入れてみた感じです。
佐藤:もともとは、もっと猫っぽかったんですね。
――元覚者で自分にエンチャントするなどの設定も、興味深い印象を受けました。
松下:こだわっているところとして、『ドラゴンズドグマ』の世界のドラゴンは、元々は覚者であることがあります。覚者ということは何かしらのジョブについていたため、ドラゴンに変化したとしても過去に経験していたジョブの動きや攻撃手段が残っているのです。
このタラスクは特に覚者時代の個性を出したモンスターで、甲羅を盾に、尻尾をロッドに見立てて、シールドセージのエンチャントした状態で戦闘する方向にしました。
――例えばリンドブルムはどのジョブの設定なのでしょうか?
松下:リンドブルムはドラゴンとしての設定があいまいな時期だった為、ジョブは後付けでエレメントアーチャーにしています。それ以外では、ベヘモット⇒ウォリアー、アングルス⇒プリーストという感じです。
佐藤:敵のドラゴンには、下級とか上級とかあったよね?
松下:あまり特徴のないタイプは、弱い下級の雑魚ドラコンのイメージでした。ドレイクやウィルムなど、3属性のドラゴンはやや下級のドラゴンという設定です。それぞれファイターだったりメイジだったりストライダーだったりに寄せた攻撃をしてくるというイメージがあります。
――モンスターといえばプレイヤーに人気のモゴックが挙がると思います。モゴックのデザインはどうでしたか。
松下:モゴックは初め制作予定に入っておらず、ディレクターから追加でオークたちをを仕切る立ち位置のやつが欲しいと要望が来たキャラクターです。
佐藤:僕はそのころ、キャラクターを作っていました。モゴックはモデリングが大変そうで、何回も長期にわたって調整をやっていたのを覚えています。
松川:シナリオにからんでくるモンスターは、ディレクターの木下のチェックがとにかく厳しかった。デザイナーやモーションやコンテンツを作るそれぞれの人に対して、いろいろなオーダーを出していたのを横から見ていました。それこそ、体格や表情などいろいろなところまで指示が出ていたようなイメージです。
――浸食がテーマのシーズン2はいかがでしたか?
松下:浸食に関しては、見た目はスムーズに決まりましたが、ゲームの遊び部分がなかなか決まらず時間がかかった覚えがあります。
シーズン2の大陸は今までよりも少しファンタジー色の強い大陸のイメージで、世界樹を中心とした展開でいきたいというディレクターのイメージがありました。序盤から怖い感じではなく少し神秘的な雰囲気を出したいというオーダーから、樹を意識しつつ、緑色で少し発光したような感じで侵食を表現しました。
――デザインが決まった後に、どのようなアクションとして組み入れるかになると思うのですが、その時点ではデザイナーチームとしては別作業に取り掛かるのでしょうか。
佐藤:本当は足並みそろえて決めていくのが一番いいのですが、デザインチームが先行して決まった後に企画がアイデアを出します。ただ、遊びに関係する部分で、デザインを変えることはどうしてもあります。
侵食については、シーズン1の最中から動いていました。当時は“ゆさぶりゲー”というバトルシステムが目立っていました。それを違った遊びにしたいという意図があったので、アクション部分をふくめて開発に時間がかかりました。
――シーズン2ではブレイクが入ったり、浸食というアクションが入ったりしたことで見た目を含めて、遊びがかなり変わりました。そしてシーズン3で戦甲をまとうわけですね。
松下:戦いの場を見せたいということで、新たな大陸のオークとしてドワーフオークを用意しました。彼らはシーズン1に出てきたオークよりも文明度が高くて、自分たちの文化がちゃんとある。特にモノを作る技術が高いんです。彼らを武装させたのには、戦争が起こっている雰囲気を出したいという狙いがあります。
話の設定としては、“悪しき竜”と呼ばれているドラゴンが大地に加護を与えていた時、大陸にある鉱石を使ってできた鎧がありました。ドラゴンの力が悪い方向に向いたことで、その悪い流れをまとった鎧を使ってドワーフオークは他のモンスターを従わせているのです。
――先ほどもありましたが、デザイナーからゲームの設定が生まれることはよくあるんですね。
松下:どのデザインに関してもそうなのですが、シーズンごとのコンセプトが与えるバトルの役割や、シーズンごとのバトルシステムをどのように攻略をするのかは、デザインをする段階である程度ネタがないと形にしにくいんです。そこでネタを入れた状態で提案して、それがうまくハマっていればその流れで作られていきます。
――いただいたイラストに装飾イメージとありますが、どういうものをイメージされていましたか。
松下:例えばエルフは柔らかいラインの装飾を好むイメージの種族です。ドワーフであれば堅苦しい頑固なイメージの種族なので、直線的なデザインを全体的に取り入れています。
――確かに一目で見ても頑固そうなイメージはあります。シーズン3.1では印象的なモンスターとしてイービルアイがいると思うのですが、『ドラゴンズドグマ』で出てきたものと比べてモデルチェンジされた印象でした。そこについてお聞かせください。
松下:そう言われることが多いのですが、実はモデル自体は変わっていないです。ただしサイズがすごく大きくなったうえに、攻撃の手段がかなり増えているので印象としてかなり変わったものになるのかもしれません。
もともとは以前のサイズで実装しようとしていたのですが、オンラインゲームになったため、複数のプレイヤーと1体のモンスターが戦うことになります。あまり小さいと間が持たないですし、迫力が出ない。複数人で遊んで楽しい感じにしたいということで、ディレクターから「もっと大きくしたい」とオーダーがあり、このサイズにした経緯があります。
――ご自身がデザインされたモンスターがプレイヤーの操作する覚者にボコボコにされるのをご覧になって、デザイナーはどのような気持ちになるのでしょうか。
松下:ボコボコにされることは抵抗がないですね(笑)。やっぱり楽しんで遊んでもらえるモンスターになっているのがうれしいです。デザインする上ではいろいろ考えてデザインするので、設定面ややりたかったことがうまくゲームにハマって表現できているとうれしいですね。
――ここは大変だったという部分はありますか。
松下:今コメントした逆の要素になります。やりたかったイメージと違う形で表現されて世に出てしまうと、悲しいです。
――具体的にはどのモンスターでしょうか?
佐藤:メドゥーサはそれに近いのかもしれません。メドゥーサは地下の遺跡みたいな場所に出てほしいというイメージで作っていたんです。それが原っぱや崖のうえなどに出てきていると「ちょっと違うイメージだったんだけどなあ」と思います。
――モンスターのデザインや色味はライティング込みでやられているのでしょうか。
松下:一応、昼に出すか夜に出すかや、建物の中にいるのかなどざっくりしたイメージはあります。ただ、場所を限って考えすぎてしまうと配置しにくくなります。使いにくくて出さないというよりは、「自由に出していいけど、可能ならこういうところに出してほしい」という感じで作っています。
――モンスターは何人くらいで作られているのですか。
松下:現在は、デザインが2~3名と、モデル制作を2~3名でやっています。ただ、デザインメンバーの僕以外は武器デザインを兼任していたり、モデル制作のほうに重きを置いていたりしています。僕もお手伝い程度ですが、色変えのモンスターのモデルを担当したりしています。
松川:他社様だと役割を決めて専属にされると思うんですが、デザイナーのスキルが上がってきているので、1つの役割だけにならないように担当してくれていますね。
佐藤:人数、スケジュールともにいろいろとタイトなスケジュールで作っているので、それぞれがやれることを少しずつ増やしていき、全員がオールラウンダーになるように考えて作業を振っています。
松川:少しだけ雑談なのですが、プロモーションで使うパブ用のイラストもデザインチームが用意してくれるんですが、イラストを出す順番について、言われることがありました。「なぜ、そのイラストから出すんですか、このモンスターはこのバージョンで一番大きいんですよ!」と詰め寄られることがありましたね。
(一同笑)
佐藤:当初は「初報で全部の要素が出ちゃっているじゃん!」みたいなことがありました。
松下:広告宣伝として目玉になるもの、引きになるものを出したいというのは分かるのですが……ユーザーが想像したり楽しんだりする部分がなくなってしまうのは、作り手としては悔しいところ。そのせめぎ合いですね。
松川:ここについては、お互いに考え方が違うので、平行線をたどり続けていくイメージです。このインタビューの前に公開した“ハイセプター”の映像の一番最後に、実はシーズン3.2のメインになるモンスターの、とある姿をチラ見せしているんです。
――デザインを決めるにあたって、ルール付けはあるのでしょうか?
佐藤:例えば錬金であればデザイナー発信でいろいろと決まっていきました。錬金をつけている状態とつけていない状態がもともとあり、そこにデザインから出たアイデアが組み込まれました。シーズン2ではルールではないですが、シーズンの主素材となるものを装備につけようということになっていたので、世界樹に生えるオパールのような鉱石がついているようなデザインにしています。武器もそうですね。
――あの宝石のデザインのルーツはあるのですか?
佐藤:宝石などもそうですが、シーズン2の防具や衣装はアール・ヌーヴォーの装飾を参考にしています。もともと植物など自然がモチーフになっているものですね。
――武器と鎧はセットで考えられているのでしょうか。
佐藤:実は武器と鎧のデザインは、違う人がやっています。同時に作業しているのではなく、たいてい武器が先にあがってきます。「武器はこうなっているので、この素材を防具にも使おう」という流れで作っていくことが多いです。シーズン最後の武器防具はコンセプトからガッツリ合わせていますが、それ以外のものは武器と鎧でそこまでの親和性がなくてもいいかなと思っています。
――パッケージ特典の装備もすりあわせをしているのでしょうか。
佐藤:そうですね。パッケージの特典も最初に「今回はこのコンセプトでいこう」と決めて作っています。
――キャラクターにもそれぞれコンセプトを作りつつやっている?
佐藤:毎シーズン必ずヒロインが必要なんですね。デザインもそうですが、顔のエディットなど微調整の繰り返しです。
特にイリスの制作は大変でして、当時キャラエディットの仕様全般を担当していたのですが、イリス用に目の形のプリセットを用意した記憶があります。
松川:イリスだけでないのですが、オンラインゲームなのである程度キャッチーさを持ちたいところと、もともとの『ドラゴンズドグマ』からきているクラシカルなイメージとで、キャラクターデザインの落としどころを決めるところで当時はいろいろと相談しました。キャラクターはユーザーの気になるところですからね。
1人か2人決まったあとは方向性が見えてくるのですが、その1人目の制作には苦労していました。イリスはまさにそれでした。
佐藤:シーズン1のキャラクターは少しマンガ寄りのデザインだと思うんです。シーズン2はそれがより伸びています。シーズン3になった時に、もとの『ドラゴンズドグマ』のようなダークファンタジーの世界にもう一度寄りたいなというのが個人的にありました。あとその当時、海外ドラマの『ゲーム・オブ・スローンズ』にハマっていた時だったというものありますが(笑)。
そのような流れで、シーズン3はガッツリとしたダークファンタジー調になっています。
――すごいそう言われるとしっくりきます。最近は鎧の装飾がより細かく描かれ、こだわっているという印象を受けるようになりました。
佐藤:そうですね。シーズン3は鎧だったり装飾だったりの情報量が特に多い。中東系の装飾は細かくて綺麗なので、必然的にそうなっています。
――先ほどありましたが、表現できる範囲が決まっている中での制作は、わかりやすい半面、よりいいものを出してみたいなどの欲求が出てくることはありませんか?
佐藤:難しい質問ですね。もちろん表現力を上げると、描けるものは変わってきます。ただ、制約があった方がその中で頑張れるのはあるんですね。特にゲーム制作は制約があったほうが、いいアイデアが出るんですよ。また、物量との兼ね合いも関係し、現状の表現力だから制作スケジュールを担保できているところもあります。
――武器をデザインしている担当者の気に入っているものはどれですか?
佐藤:武器デザインの担当は1人は初代『ドラゴンズドグマ』からやっているメンバーなんですね。どの武器デザインが一番好きか聞いたところ“ドラゴンズドグマギガ”と言っていたので印刷してきました。初代で最強クラスの武器だったので、愛着がいろいろあるのだと思います。
――『DDON』で出た時、とにかく人気でしたね。
佐藤:そうなんですよ。このデザインをしている担当のこだわりで言うと、そこが『ドラゴンズドグマ』っぽさでもあるのですが、「普通ここまでディテールをつけないだろう」という装飾をしつこいくらいにつけるんです。それもあって、禍々しさがありつつ、独特な感じが出た武器になっています。日本のファンタジーゲームの方向とはあえて違う方向に行こうみたいな雰囲気はありますね。
――『電撃PlayStation』にコードをつけていただいたソードオブライトニングも、人気だと感じています。こちらからはデザインのイメージを円月刀でお願いしたのですが、どのようなこだわりがあったのかや、どういうところに注意したのか聞ければと思います。
佐藤:この武器は、言ってしまえばネタ武器に近い枠になります。これをデザインした人は、もともと『戦国BASARA』の武器デザインを担当していたので、ネタ武器の引き出しが豊富にあるんです。アスキー・メディアワークスさんのロゴをモチーフに組みこみつつ、うまく剣として作ってくれました。ネタの武器と本格的な武器は別の感覚でやっていると思っています。
――シーズン2の中で黒騎士は、ユーザーから評判がよかったと思うのですが、デザインされていく中でどのようなやりとりがありましたか?
佐藤:黒騎士は結構時間がかかりました。実は黒騎士は最初はただの剣士だったんです。ただ、僕のイメージはドラゴンがまとわりついているような鎧だったので、そのイメージでお願いしたんです。その感じにはしてくれたうえで、現実でもあってもおかしくないデザインにしてくれました。黒騎士が出てくると画面が持つんですよ。そういう意味でも成功だったと感じます。
モーション担当が10本の剣を使って、いろいろなバリエーションを表現してくれて、かなりキャラを立ててくれました。
――本作の特徴には、キャラの体型を変えられることがあると思うのですが、それによって鎧の雰囲気はかなり変わってしまいます。防具をデザインされる時にはどういうことを注意されているのでしょうか。
佐藤:デザインする際には体型を意識せずに描いています。それよりも、防具のカテゴリーごとに着合わせができるので、そこに細かなルールが多数あります。
例えばメイジのローブであれば、ファイターのアーマーアームのようなデザインは布からはみ出てしまうので絶対につけられないんですよ。メイジ系ではデザインできる鎧は決まっていて、ピッタリしているシルエットで外にハミ出ないようなものにする必要がある。なので、「デザインはいいけど実装は無理かな」ということは結構あります。
――なるほど。
佐藤:時間がない中で最初にルールを決めてしまったので、もしこれからルールを作るのであれば違うものになるのですが……現状でやれること、やれないことはどうしてもありますね。
細かな開発の話なのですが、オンラインゲームになる過程で、初代『ドラゴンズドグマ』と比べてキャラの関節数は半分以下に減らしているんです。なびくものだと専用の関節を入れる必要があるので、あまりに長くてヒラヒラなものはできないんです。
ユーザーからの意見やTwitterなどを見ていて、デザインについての要望は多数あることは分かっています。ただ、こちらの都合で申し訳ないのですが、どうしてもできないこともあるのが現状です。
――ユーザーは自分のキャラやポーンに愛着を持っていて、スクリーンショットが数多く上がっていると思うのですが、着合わせにアドバイスがあればお願いします。
佐藤:装備品のデザインなどはセットで考えることが多いので、「このパーツとこのパーツをよく組み合わせているな」と毎回驚いています。すごくかっこいい色やうまい組み合わせを見ると感動すら覚えます。なのでむしろ毎回教わっていますね。
――デザインする段階で色をつけることも想定されたうえで、デザインされているのでしょうか。
佐藤:使える色数も決まっていて、ワンパーツに対して色を変えられるのは2色までとかはあります。そういうところも気にしてやっています。デザイナーはどうしても色を入れたがるのですが、抑えてもらいます。
――デザイナーの中で、人気のデザインはどれでしょうか?
佐藤:最初の初回限定装備のネメシスシリーズは未だに人気です。たぶんスカートっぽいシルエットが映えるうえに、足との間が空いていて中に何を着てもあうためです。初回限定系の装備はどれも人気がありますね。
――着合わせしやすいのが人気だと。
佐藤:あとは、全ジョブで装備できるところも大きいです。通常は特定カテゴリーのジョブしか着ることができないのですが、初回限定系の装備は全ジョブ対応になるので、デザインを含めて使い分けしていますね。全ジョブ装備は需要が高いと思っているのですが、ゲーム中で出せる機会はそこまで多くないので、もどかしさがあります。
――松下さん的にはありますか?
松下:僕は人間に興味がないので、全然装備は気にしないです。
(一同笑)
――他に人気の装備は?
佐藤:露出系のウェアは人気ですね。女性キャラ用の装備で、チェインブレイサーという胸当てのウェアと、ダイアプルームという羽がついたかなり軽装のアーマーの組み合わせはすごく流行して、一時期とにかく皆がつけていました。
――『インペリアル サガ』コラボの女性用のロックブーケは人気だったという印象です。あと、『モンスターハンター』の装備も人気でした。
佐藤:『モンハン』コラボの装備は屈指の大変さでした。まさにパーツごとにわかれているうえに、複数のジョブで装備できる。もととなっているレウスシリーズやレイアシリーズのデザインそのままだと『DDON』には落としこめないため、デザインし直しているんです。それでかなり時間がかかりましたね。
――社内コラボでは『魔界村』や『ジャスティス学園』とのコラボはどうでしたか?
佐藤:工夫しながら取り組みました。
――統一感という意味では、デザイナーごとにデザインのタッチの特徴が異なると思うのですが、それをまとめるのは大変では?
佐藤:みんな絵柄が違うので、すりあわせるのは大変です。デザインを見た瞬間に「ああ、この絵はあの人っぽいな」というのはありますね。
ちなみに、シーズン2.3防具のアズール装備を描いたのはもともとメカなどを描いているデザイナーなんです。『超鋼戦紀キカイオー』や『ガイストクラッシャー』などを手がけています。
黒騎士は、『ロックマン』などのデザイナーさんにお願いしています。「俺、こういう世界観のデザインやったことない」と言っていた人ですが、誰よりもハマっていました。
――この黒騎士のイラストにどこか見覚えがあったのですが、『ロックマンエグゼ』や『流星のロックマン』立ちだったんですね。すごく合点がいきました!
松川:デザインは、いろいろな人に制作してもらいました。入れ替わりで開発ラインを助けてもらっているので、カプコンのいろいろなタイトルのルーツを見られるかもしれません。
――ロゴは誰がデザインされているのですか?
松川:うちのシーズンロゴは松下が担当しているんですよ。
――モンスターではないのですが、どのようなきっかけで松下さんがやられることになったのでしょう。
佐藤:描けるからです(笑)。背景のイラストに竜が描かれているものがあるのですが、あれも松下が描いてくれています。
松川:松下は象徴的なものを凝縮して描くことが得意。テーマをシンボルに落としたり、文字の印象をデザインに落としたりすることに長けているんです。『ダークアリズン』の時にはデザイナーにロゴをやってもらって、ベースとポスターとのすり合わせの部分を松下くんにやってもらったと記憶しています。
松下:そう言われると、やったような気がしますね。
松川:プロデューサーとかディレクターはその経験から、「松下はロゴができる」と覚えちゃうんですよ。シーズン1のロゴを作っている時、いろいろと試行錯誤していて悩んでいました。その時に松下に相談に行きました。「世界観を凝縮したいので、助けてくれないかな!?」とお願いして、「パターン出してみます……」と引き受けてくれました。
松下:そうだったかもしれません。無茶ぶりをされて、いくつかパターンを出してすりあわせをして決まったという感じです。
――ちなみにその後のシーズン2やシーズン3のロゴはどのようなイメージをされたのですか。
松下:シーズン2は、メインの象徴になるものが“世界樹”であると提示されていました。その世界樹と精霊龍のウィルミアを蛇に見立てて絡ませているような雰囲気にしました。
シーズン3は火竜が住む大陸のイメージです。火山とかマグマがあるような大地をイメージしたところをバックに、火竜がフェニックスのイメージだったので、今回登場するドラゴンと大地をあわせてロゴとして表現したという感じです。
このように、その大陸とドラゴンを象徴するような形でロゴを生み出しています。
佐藤:メインビジュアルについても、それまでやったことがない人が担当して慣れていくこともありますね。
――アートチーム全体として、今後やってみたいことはありますか?
佐藤:ロケハンがしたいですね(ぼそっ)。
松川:初代『ドラゴンズドグマ』の時はかなり行っているんですよ。『ダークアリズン』と『DDON』が始まるか始まらないかの時に、イタリア・シチリア島のエトナ火山に行きました。その時のテクスチャはシーズン3の岩になっています。火山まで見に行ったのに、火山を作ったのはシーズン3だったという。
佐藤:背景班はロケハンすることが多いんですが、キャラクター班はほぼないんです。以前に、博物館で鎧を実際に見たことがあるのですが、実際に見るのと写真で見るのは印象がまったく違います。思ったより荒くて大作りだなとか、意外と柔らかいとか、そういうことを感じるので、デザイナーは行った方がいいと思うんです。
松下:僕はモンスターを描いていることもあって、水族館や動物園にはわりと行っています。モンスター的にはそこは基本だと思います。
――デザイナーさんは普段どういうものを見たり、参考にされたりしているのでしょう。
佐藤:デザイナーそれぞれだとは思うのですが、映画や漫画、ゲームの他に、個人的にはオートクチュール系の雑誌などで色、形など影響を受けることが多いです。
あとは土台がしっかりしていないと説得力がなくなるので、中世の参考資料などは見ています。そこにさまざまなエッセンス、例えばアサシンっぽさとかを入れて自分らしさを入れるといった感じです。
――オシャレやモンスターデザインを含めて、読者の方にひと言ずつお願いします。
佐藤:ユーザーがするオシャレな着合わせには毎回驚いていて、個人的に楽しみにしています。これからも楽しんでプレイしていただければと思います。
松下:バージョンアップごとにワクワクできるモンスターを用意できるように頑張って開発していくので、楽しみにしていてください。
(C)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
※掲載内容は記事作成時のもので、アップデートなどで変更になる可能性がある。
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