2018年4月3日(火)
【電撃PS】『モンハンワールド』インタビュー連載第1回:モンスター誕生の秘話
電撃PlayStationで連載されているPS4用ソフト『モンスターハンター:ワールド』の開発者インタビュー連載企画。ここでは、電撃PS Vol.652(2017年12月14日発売号)に掲載された“『MHW』のモンスターが生まれるまで 第1回”を全文掲載する。
お話をうかがったのは、エグゼクティブディレクター/アートディレクターの藤岡要氏、ディレクターの徳田優也氏、パッケージアーティスト/シェーダーアーティストの高木康行氏の3人。モンスター誕生に迫る内容なので、ぜひチェックしていただきたい。
フィールドにひもづくモンスター
――まずは、E3発表時に鮮烈なインパクトを与えたアンジャナフが生まれた経緯を教えてください。
藤岡要氏(以下、敬称略):本作の開発当初から、地形が複雑になることはわかっていました。地形が複雑になると必要になるのが、モンスターが通れるべき場所を移動できるかの検証です。このとき用意した検証用の獣竜が、のちのアンジャナフになりますね。検証段階ではリオレウスも用意していたのですが、飛竜はある程度移動に自由が利きます。そのため、とくにアンジャナフが複雑な地形を移動できるかに重点が置かれました。
徳田優也氏(以下、敬称略):開発当初は、本作のコンセプトの1つである密度の高いシームレスなフィールドのプロトタイプとして“古代樹の森”を作りました。次に作ろうとしたのが、“古代樹の森”に息づく生態系です。本作では全体を通してフィールド内の生態系を重視してモンスターを制作しています。そのうえで、モンスターの強さや狩猟をとおして、どんな体験をプレイヤーにしてほしいかという、ゲーム的な立ち位置を考えました。
飛竜であるリオレウス、どこまでも追いかけてくるモンスター、そして群れで制御するタイプのモンスターという3種類を、最初に制作するというところまで自分と藤岡で決めました。
藤岡:どこまでも追いかけてくるモンスターが、のちのアンジャナフです。一方の群れで制御するタイプのモンスターは、ジャグラスになります。
――3種のモンスターから手掛けた理由は、『MHW』の基礎を築くうえで必要だったということでしょうか?
徳田:ゲームのデザイン上、今までよりもフィールドに根付いたデザイン設計を押したかったんですよ。メインとなるモンスターがいて、それとテリトリーがかぶるモンスターがいる。そして、フィールドの奥のほうには、また別のモンスターが潜んでいるとなると、3種類ぐらいのモンスターが必要。そのなかで、リオレウスのような強力な主がいるのが、基本的なデザインになります。
どのフィールドにどのモンスターを配置するのかも、これまでよりもフィールドに生息するのに適したモンスターを選ぶというように、これまで以上に生態系を重視しています。
藤岡:本作のフィールドは、まず密度が高い“古代樹の森”と、開けた空間が多い“大蟻塚の荒地”があります。その先には、高低差のある“陸珊瑚の台地”があり、さらにその下層には“瘴気の谷”と、フィールドごとに特徴を分けるということを決めました。
そこに、ゾラ・マグダラオスやネルギガンテといった、ストーリーのキーになるモンスターをどう配置すれば、ユーザーに気持ちよく遊んでもらえるのかを考えて、モンスターの総数などを決めていきましたね。
――『MHW』は、これまでのシリーズとゲーム設計が異なります。こういった場合、開発初期はスタッフ間でどうやって意思統一をはかったんですか?
徳田:生態を利用したハンティング、密度にこだわったフィールド、そしてシームレスというコンセプトを提示して、“古代樹の森”と、アンジャナフのもとになった獣竜で検証を重ね、プロトタイプを形にしようとしたのが第一歩です。開発スタッフにはこれまでのノウハウがあるので、アクション部分の開発は順調でした。
ですが、探索して痕跡を見つけ、環境を利用した狩りをするという、本作ならではの要素は難航しました。どこまで作り込めばいいのかが、スタッフ内でも見えてこないんです。そこで、落石のギミックを作ってスリンガーでモンスターを下敷きにできたらゴールといったように、各要素で明確な完成形を決めていきました。
藤岡:言葉で伝えてもイメージは伝わりにくいですからね。プロトタイプを使って、狩りによるフィールドとモンスターの状況の変化を形にし、そこで完成したものをスタッフ間で共有していきました。
▲個々にデザインの異なる『MHW』のフィールド |
より精細にモンスターを描く
――システム的な検証と、ビジュアル面の制作はどちらが先に行われたのでしょうか?
藤岡:同時ですね。近年の据え置き機用の制作ということで、当然ビジュアルは、いちから描いていったものになります。ただ、ビジュアルの完成を待ってからシステム面の検証を始めるのは時間がもったいないです。
そのため、どこまでができてどこからができないことか、という調査を含めて本作のシステムの検証には、開発が使いなれているフレームワークをベースにしたもので早い段階から行い、それと同時にビジュアル面の開発も進めていきました。ある程度ビジュアルが完成したら、両者を合体させていくイメージですね。
徳田:最初は、この手順で1つずつ作っていく予定だったのですが、そうもいかずに開発初期はかなり手間取りました。ビジュアル面が変わったので、ライティング1つとってもどうすればいいかがわからないんですよ。ウソのつけない部分ということもあって悩みました。
――それでも何かしらのフェイクが生じたのでは?
藤岡:あるにはあります。ただ、リアルタイムで描画するゲームでライティングにウソをついてしまうと、空間に矛盾を起こして空気感を失うことにもなります。さらに、光の差し方はビジュアル面に影響するだけでなく、プレイヤーの方向感覚をフォローする役割も持っています。
そのため、ビジュアル重視で都合よくライティングを行ってしまうと、プレイヤーが今どちらを向いているのかがわかりにくくなってしまいます。それらを考慮し、どこにフェイクを入れるのかについても、細心の注意を払いました。
高木康行氏(以下、敬称略):フェイクを入れるにしても、その場しのぎのフェイクにはしないのが大事です。ビジュアル重視でフェイクを入れていくと、つじつまが合わなくなり、不自然さを生むことがあります。そこで、フェイクがあっても自然に見えるように、専用のシェーダ(描画にかかわる機能の1つ)やライティングを制作しました。
――シェーダは1つずつ個別に作るのでしょうか?
藤岡:そうですね。「○○のような表現がしたい」という要望をこちらが出して、デザイナーが既存のシェーダでは表現できないと判断したら、高木に新たなシェーダを作ってもらうというのが基本的な流れでした。
高木:通常のタイトルでは、新しいシェーダが欲しい場合、既存のタイトルで使われているものから作り出すこともあります。ですが、本作の場合は細かなところまで気を配ったので、ほとんどオーダーメイドですね。モンスターなどの毛専用のシェーダは、その代表になります。
藤岡:少し前に「恐竜には毛が生えていた」という学説が流行しましたよね。本作では、もし恐竜に毛が生えていたらという仮説を、自分たちなりに表現しようとチャレンジしています。例えばアンジャナフの背中には大量の毛が生えているのですが、これは今までの感覚だと表現が難しいものです。ものすごい数のポリゴンを刺せば毛の表現はできますが、それをすべてのモンスターで実現しようとするのは……(汗)。
高木:既存のタイトルでポリゴンを使った毛のテクスチャといえば、『バイオハザード7』の髪の毛などに使われています。髪の毛のようにかたまったパーツなら既存の技術で問題ないのですが、本作で同様の技術を使って毛を表現しようとすると数百万ポリゴンでも足りません。
藤岡:そこで高木に聞いたところ、短いファーであればおもしろい技術があるということで、まずはアイルーで試してみました。それがすごくよかったので、そのシェーダをアンジャナフに乗せてみたら、毛の質感がしっくりきたんですよ。
徳田:そのシェーダは、ほかのモンスターの毛の表現にも応用されました。じつはパオウルムーも、このシェーダがあったから毛が生えたんですよ。
高木:ほかにもフィールドのコケの表現など、いろいろなところでファーシェーダが使われています。
――パオウルムーは、毛が生える前はどのようなモンスターだったんでしょうか?
徳田:最初から「陸珊瑚の台地」の中ぐらいの強さのモンスターで、風船飛竜というコンセプトがありました。
高木:空気を溜めて空を飛ぶというコンセプトでしたね。あとからファーシェーダのおかげで毛を生やすことができたので、より見た目のインパクトを強くできました。
藤岡:高木の作ったファーシェーダは、理論的に考えるとおかしな部分が生まれるものなんです。そのため、プログラマにはおどろかれましたね。彼らは理論立てて表現するので。ただ、実際に実装してみると気になる部分は軽微なものだったので、ゴーサインを出しました。
高木:今回は新モンスターもよかったんですが、リオレウスやディアブロスのビジュアルへの反応もいいですね。
藤岡:今までのデザインにとらわれないで、リオレウスでも新鮮に感じられるものを目指しました。それをハイエンドで実現できたときの衝撃はすごかったです。
▲ポリゴンで1つずつ毛を追加するのではなく、専用のシェーダによって、さまざまなモンスターの毛を表現。 |
▲ボルボロスの泥にも特殊なシェーダを使用。 |
――本作のリオレウスの作り方は、これまでとどのような部分が変わっているのでしょうか?
藤岡:成体になるまで、どう成長をしているのかを考え直しました。身体が育つにしたがって硬くなる場所があれば、柔軟性を残したままの場所もあるように、部位ごとの表現は、これまでよりも突き詰めましたね。あとは、翼の表現も大きく変えました。今までは、広げているかたたんでいるかくらいの違いしかなかったのですが、皮膜が揺れる表現や透明感にこだわってもらいました。
高木:これまでとモンスター1体に使うポリゴン数がケタ違いですからね、ポリゴンモデルの説得力が違います。リオレウスサイズの爬虫類が実際にいた場合、かなりの年月を生きているので、傷や汚れも付いているはず。そういった細かい表現を盛り込むことができました。
藤岡:今までは、細かな陰影をテクスチャに書いて表現することが多かったです。しかし、ポリゴンが細かくなった本作では、テクスチャではなくポリゴンモデルの時点で細かな凹凸や陰影を表現できました。
ただ、今までテクスチャを手掛けていた人が、シェーダで陰影を作る方法を覚えなければいけないという手間もありましたね。そういったところで高木が活躍してくれました。リオレウスは、高木を中心としたポリゴンモデルのデザインを行えるスタッフの手でベースデザインが作られています。
徳田:手間はかかりましたが、そのぶん技術面にこだわり抜いて作る価値はありましたね。ボルボロスもかなり大きくビジュアルが変わっています。例えば、以前のボルボロスは泥をまく際に塊が落ちていくだけだったのですが、本作では実際の泥の写真などを見ながら、あらためて泥の表現を作り直しました。
高木:ボルボロスはシェーダも凝っています。ビチャビチャの泥が降ってきたあと、それが時間とともに表面が乾いていくという表現がされていますよ。
――1つ1つの表現へのこだわりがすさまじいですね。
藤岡:表現力が上がったことで、細かな表現にこだわれるようになりましたからね。個人的にはアイルーのオトモ道具の“お香”の表現が気に入っています。ちゃんとお香らしく、火を点けたあとに時間とともに減っていくんですよ。こういった地味なところが好きですね(笑)。
高木:お香にも専用のシェーダを用意しました。名前もそのまんま“お香シェーダー”とつけたような記憶があります(笑)。赤く燃えていた部分がしだいに黒くなっていきつつ、燃えている中身もチラチラゆらめくようになっています。こういった細かいところも、ユーザーさんの目にとまってもらえると嬉しいですね。
藤岡:狩りの最中だと、なかなか見る機会がないんですけどね(汗)。ちなみに、肉焼きもおいしそうに見えます。今までハードスペックや解像度の都合であきらめざるを得なかった部分を追及できていますよ。
高木:お肉も専用のシェーダを使っていて、開発当初は生肉、生焼け肉、こんがり肉、コゲ肉と時間に沿って、今よりも色合いなどがなめらかに変化していたんです。ところが、あまりにもなめらかに色が変わりすぎて、誰も上手に焼けません(笑)。そこで、最終的にもう少し色の変化がわかりやすいようにしました。
藤岡:肉を焼いているとき、ジワっと油が溶けていく感じとかも表現できてるので、とてもおいしそうです。
▲オトモ道具“ミツムシ寄せのお香”。燃えたことで生じた断面が、いくつもの色に分かれている。 |
リアリティのカギは目立たないところに
――検証用の獣竜を作るという話がまとまったあと、どの部門から作業に取り掛かかったのでしょうか?
藤岡:新しいモンスターの案がまとまると、まずデザイナーとプランナーがほぼ同時に動き出します。デザイナーは新モンスターのデザイン案を作り、プランナーはそのモンスターとの狩猟を通じてプレイヤーにどんな遊びを提供するのかを決めていきます。
ただ、今回の“新獣竜”の場合は少々例外で、地形に対応できるかどうかが最初に重要になりました。そのため、獣竜としてフィールド内を動けるようになり、アクションも増えてきたあと、ゲーム的なおもしろさをどうやって盛り込んでいけるのかを検討していきました。
徳田:最初はアンジャナフらしさの影も形もない、獣竜の骨格そのままのポリゴンモデルで検証を行っていましたね。この頃は“新獣竜”とか“どこまでも追いかけてくる獣竜”と呼んでいました(笑)。藤岡が言ったとおり、検証がひと段落着いたあとにゲーム的なギミックを盛り込み始めました。本作ではハンターがエリア移動して安全に回復することができないので、隠れるための場所を作ったのが1つの例です。
藤岡:ただ、このギミックを作ると、隠れたハンターに対してモンスターにどういう行動をさせるべきか、という新たな課題が生まれます。もしもずっと隠れ続けられてしまうと、安全な場所で一方的に攻撃するというおもしろみのない狩りになってしまいますからね。
いくつか試したあと、最終的に隠れたときにプレイヤーが残していった臭いをたどり、いつかはたどり着けるようにしました。アンジャナフの特徴的な鼻は、臭いをたどっている挙動を視覚的にわかりやすくするのが目的です。
徳田:火のブレスを吐くというのも、『MH』らしいファンタジックな要素をビジュアルとして盛り込んだものです。アンジャナフが火を吐くモンスターと決めてから、それに適したデザインを煮詰めていきました。
――小さな翼も印象的なフォルムですよね。
藤岡:小さな翼にも意味があります。“どこまでも追いかけてくる獣竜”と呼んでいたとおり、アンジャナフは怒り状態になるとハンターを追い続けるモンスターとして生み出されました。そこで怒り状態になった際の記号として、何か印象的なパーツが欲しいという話をデザイナーに持ち掛けた結果、小さな翼が生えました。
徳田:アンジャナフは獣竜としても、現実の恐竜と比較しても、そこまで奇をてらったデザインではありません。そのため、こういった細かな部分でオリジナリティを表現しないとどうしても安っぽくなってしまうんです。
高木:先ほどのファーシェーダもこだわりの1つですが、光の表現にも注力しました。アンジャナフの一部の部位には“トランスルーセント(薄いものが光を透過する性質をゲーム内で再現する技術)”という技術で、生き物らしさが大きく増しています。
藤岡:それと同時に、トランスルーセントには逆光の位置でモンスターと対峙したとき、モンスターのビジュアルが暗くなりすぎる問題を解決できます。アンジャナフは、徹底して細かな表現でリアリティを出すことにこだわりましたね。
皮膚やその下の筋肉の動きを動的表現として盛り込んだのもその1つです。今までもテクスチャにシワを書き込んで生き物らしさを出していたのですが、リアルタイムで演算して描写したのは初めてです。正直、モンスターの皮膚や筋肉がどう動いているのかを、狩猟中にじっくり見ることは少ないでしょう。
ですが、ふとした拍子に筋肉の盛り上がりや皮膚の動きが目にとまると、これがリアリティを感じさせてくれるんですよ。ディテールがあればあるほど、モンスターを生き物らしく描写してくれますね。アンジャナフは最初に手掛けたこともあり、こういった自分たちの基本となる技術を豊富に盛り込んだモンスターです。
高木:アンジャナフ担当のデザイナーに、どの部位がたいへんだったかを聞いたら、脚と言っていましたね。
藤岡:重心が移動する表現や物をつかむための脚先など、細かな表現を出せるようにしていますからね。
高木:アンジャナフの脚は、鳥の脚をモチーフに作っています。いわば『MH』と現実をつなぐ部位ですよね。さらに狩猟中はモンスターの脚を攻撃することが多いので、注目する機会が多い部位だと思います。
徳田:モンスターの動きの参考にするために、爬虫類園にも行きましたよね。
高木:徳田ディレクターが爬虫類好きなので、取材に行きたいと申請しました。自分でしおりを用意するほどの力の入れようで。しかも爬虫類園に着いたらモンスターの開発班を置き去りにして、1人で爬虫類観察を満喫し始めて……。あれは完全に趣味で爬虫類園に来ている人でした(笑)。
――モンスターが生まれるまでにいろいろな要素が盛り込まれ、入念な取材をされるんですね。
藤岡:モンスターのビジュアルにリアリティを持たせたぶん、アニメーションにも手間を掛けました。細かい地形や追従しているものに対する動きもリアルにしていく必要があると思ったからです。モンスターの動きは骨格の作りにも影響が出る要素なので、早い段階から検証を進めていきました。
徳田:追従する動きといえば、モンスターがハンターを追いかける際に顔の向きを変えて、ハンターを見ながら追いかけてくるという動きを盛り込んだら、一気にモンスターが生きているという感じが増しましたね。道なりにまっすぐ追いかけてくるなかで、獲物であるハンターのほうを見ている。これも今までできなかった表現の1つとしてあげられますね。
藤岡:こういった、モンスターの動きのひな形を作るのが、アンジャナフとリオレウスを作るうえでの役割です。ひな形を作り、それぞれの骨格に対しての制作ルールを決めて、個々のモンスターの制作に取り掛かりました。
▲アンジャナフ。翼膜や鼻、そして口もとが光を透過している。 |
――モンスター制作では、アンジャナフとリオレウスにかなりの時間をかけていたんですね。
藤岡:当初は、とにかくこの2頭を作り続けていました。ベーシックな動きと表現だけで、1年くらいはかかっていたと思います。
徳田:ですが、それでもアンジャナフとリオレウスのあらゆる動きを作り上げたわけではありません。あくまでさまざまなモンスターを制作するうえでのたたき台として1年かかっています。
藤岡:このとき、同時にモンスターの行動をどう制御するかの開発も同時に進行していましたね。
――モンスターに対するハンターの動きは、モンスターの動きが完成してから取り掛かったのでしょうか?
藤岡:そうですね。そもそもモンスターの動きのひな形を作った時点では、ハンターに武器を用いたアクションをいっさい用意していませんでした。
徳田:むしろ武器を使わずに、スリンガーや環境の利用だけでどこまで立ち回れるのかや、遊びのバリエーションを増やせるかを検証していました。それもあってE3で公開したトレーラーには、ほとんどハンターが武器を使っているシーンがなかったんですよ。
藤岡:また、本作はテレビやモニターの大画面でのプレイが前提になります。さらに画面内の情報量も増えているので、細かな動きが画面映えするんですよ。あとはスリンガーや環境利用などが、開発が進むにつれて要素を増やすのが難しい部分でした。そのため、最初にこれらの要素をできるだけ作り込むことを、あらかじめ相談して決めていましたね。
――アニメーションを作る際に、映画などを参考にすることはあるのでしょうか?
藤岡:アニメーションによる質感の表現は、すでに映画で一般的に用いられています。ただ、映画は決められた動きのムービーを作ればいいのですが、ゲームはリアルタイムで動くアニメーションを作る必要がありますよね。ですから、映画で使われている手法は直接は使えず、あくまで参考にするレベルになります。
――モンスターの攻撃やアクションのアニメーションは、今までとかなり違うように感じました。こちらは、どのような流れで作っていったのでしょうか?
藤岡:まずプランナーから攻撃範囲やスキ、どういった体験をプレイヤーにさせるためのアクション、といった指定が出されます。これを受けて、アニメーターがビジュアル面などを織り込みつつ制作していくのが基本ですね。
ただ、これまでだとモンスターの多くは攻撃の際、身体全体をターゲットに向けてから攻撃を行っていました。ですが、本作ではいろいろな動きをシームレスにつなげたかったので、まず首がターゲットに向いてから身体が向くという挙動を取り入れました。こちらのほうがリアリティのある動きになります。ただ、そのぶん今までと同様にアクションを作ってもうまくいきません。
徳田:シームレスにつなぐためのアクションから、別のアクションへ移行するまで、ものすごいモーションの数になるので、こちらもアンジャナフやリオレウスを使っての検証から始めました。この検証がまとまったところで、ようやく新たなモンスターを1体作り出すのに必要な工数や時間が見え、本作のリリースまでにあと何体のモンスターを作るかという予定を立てました。
――モンスターの総数まで、最初の検証が重要になっているんですね。
徳田:理想のモンスター数は早めに決めます。ただ、開発が進むにしたがって、予定した数を作れないということはあります。こういったときは、どのモンスターを優先的に作るのか、どの骨格を先に作ればバリエーションを増やせるのかを見定めつつ、数を調整します。
藤岡:それと同時に、数を維持するためにデザイナーと相談もします。どこでデザイナーに苦労をかけて、どこで楽をしてもらうかの調整ですね。
――具体的にはどのような調整をしたのでしょうか?
徳田:例えば、ドスジャグラスは痩せている状態と獲物を飲み込んでいる状態の2種類の骨格をゲーム中で切り替えています。通常、モンスターの骨格は1体につき1なので、ドスジャグラスの制作にはデザイナーに倍の労力が掛かっていることになりますよね。ですが、この2つの骨格のどちらかを使ったモンスターの制作となれば、新しい骨格を作る労力は半減。こういった部分で、デザイナーに楽をしてもらうわけです。
藤岡:とはいえ、今回は開発スタッフ全員モチベーションが高かったです。いうなれば筆が走っている状態でした。環境生物がいつの間にか増えているということもありましたよ(笑)。
徳田:自分も環境生物ユニットの一員でした。ディレクターとしての仕事に詰まるとユニットに顔を出して、新しい環境生物を作ったりしていましたね。環境生物はネタを入れやすくて癒されるんですよ(笑)。
――ストーリー上でハンターが最後に狩猟することになるモンスター、言ってしまえばラスボスは、その作り方だといつ頃に制作されたのでしょうか?
藤岡:そういったモンスターの制作は、わりとあと回しになることが多いですね。徳田:デザインや動きなどで、そこまでのモンスターを狩猟してきたプレイヤーに衝撃を与える必要があるので、ほかのモンスターがある程度できあがってから制作に取り掛かるからです。
ただ、最後に出てくる手ごわいモンスターという立ち位置だけは開発当初、それこそ“新獣竜”での検証を始める前から絶対に変わりません。そのため、最後にプレイヤーにインパクトを与えられれば問題ないという側面も持っています。
▲2種類の骨格を持つドスジャグラス。 |
新たな試みだったゾラ・マグダラオス
――ゾラ・マグダラオスに関しても聞かせてください。これだけスケールの大きなモンスターは、どのようにして生まれることになったんですか?
藤岡:ゾラ・マグダラオスは、コンセプトからほかのモンスターとはまるで異なっています。1体のモンスターでありながら、ハンターたちが歩くフィールドでもあるというのが大きな特徴ですね。
徳田:モンスターとしてのゾラ・マグダラオスの動きによって、フィールドとしてのゾラ・マグダラオスの形状が変化します。そのため、モンスターとフィールドを同時に制御する必要がありました。
藤岡:これまでもジエン・モーランなど、ハンターが身体の上に乗って狩猟を行うモンスターはいました。ですが、それらはあくまでフィールドのなかにモンスターがいて、そこに乗れるというだけです。今回のようにモンスターがフィールドでもあるというのは、シリーズを通しても初めての試みでした。
ただ、モンスターの身体がフィールドで、そこにハンターが乗りながら狩猟を行うというシチュエーション自体は、『MH』シリーズを通していつかは実現したかったものなんですよ。それだけに、妥協はしたくなかったですね。
徳田:とはいえ、モンスターが動くことでリアルタイムにフィールド上の壁が床に、床が壁になるという時点で、かなり特殊なものになります。プログラマーが「うまくいかない、うまくいかない」となげいていました(笑)。
藤岡:実際、どのモンスターよりも開発に時間がかかっていますね。開発初期から制作を始めて、完成したのはどのモンスターよりもあとですから。
――東京ゲームショウでは、ストーリー冒頭でゾラ・マグダラオスの背中を移動するシーンが見られました。あの時点で、どのぐらい完成していたのでしょうか?
徳田:開発初期には、まず冒頭のリアルタイムデモで使用するパーツだけを先に制作しました。そのため、あのプロローグを作り上げた時点では、まだゾラ・マグダラオスは完成していません。プロローグで使用するゾラ・マグダラオスの一部だけが用意されていて、プロローグの進行に必要な部分だけを動かしているという形でした。
藤岡:プロローグを作った段階で地形の変化も用意して、最終的にゾラ・マグダラオスに盛り込みたい要素をどこまで作れるのかを探りましたね。
――ゾラ・マグダラオスの制作では、具体的にどのようなところで開発が難航したのでしょうか?
藤岡:やはり、モンスターでありフィールドでもあるというのが第一ですね。この性質から、ゾラ・マグダラオスのどこをモンスター担当が作って、どこからフィールド担当が作るのか、開発スタッフ全体のなかでもイメージできていませんでした。私や徳田のなかでもハッキリと見定められていませんでしたね。
徳田:モンスター担当はモンスターとしてのゲームデザイン、フィールド担当はフィールドとしてのビジュアルを作っていました。モンスターとしてもフィールドとしても扱われる胴体部分を、どちらの開発スタッフが作るのかは、かなり長い間悩みましたね。
藤岡:さらにゾラ・マグダラオスの上に別のモンスターを出現させると決めたあとが、また難航しましたね。モンスターがフィールドを兼ねているというだけで本作全体を通して例外でありながら、さらにそのフィールド上にモンスターがいるという例外が生じるのですから。
――ほかのモンスターには、どのようにゾラ・マグダラオスを認識させることにしたのでしょうか?
徳田:本作のモンスターはプログラム上で、常にフィールドのさまざまな情報をチェックしており、どこが通れるかなどを判断しています。例えば“大蟻塚の荒地”の地下から地上へとディアブロスが飛び出してくると大穴が開くので、そこはモンスターが歩いて通らなくなるといった具合ですね。
しかしゾラ・マグダラオスの上にいるモンスターは、フィールドとしてゾラ・マグダラオスをチェックして、通れる場所などを認識させる必要がありました。ですが、ゾラ・マグダラオスは動きますし、大きく体勢を変えます。そのときにどうやって判定を取るのか、プレイヤー側とモンスター側、さらには通信同期まわりの検証が必要で、そこにたいへんな労力がかかりました。
――モンスターのゾラ・マグダラオスとフィールドのゾラ・マグダラオス。聞いているだけでたいへんそうです。
藤岡:フィールドであってモンスターでもあるという特殊なモンスターだったので、最終的にフィールド担当とモンスター担当混成の“マグダラオスユニット”を作って制作にあたりました。担当ごとに作業の分担はしてい ましたが、ゾラ・マグダラオスに関する問題点をすべて解決するというユニットです。
――担当の垣根を越えたユニットを作って開発にあたるというのは、本作が初だったのでしょうか?
藤岡:そうではありません。『MH4』あたりから、必要に応じてユニットに分けて開発を進めていました。こういった形を作らないと、自分のところに降りてくるまで他人事になりがちになってしまうんですよ。
▲調査団の大きな目的となるゾラ・マグダラオス。 |
世界中の言語から作られる名前
――新作がリリースされるごとに気になっていたのですが、モンスターの名前はどうやって決めるのですか?
徳田:モンスターの“挙動”や“身体的な特徴”を意味する“世界中の言葉”を調べ、そのなかからしっくりくるものを組み合わせ、1つの名前にしています。
藤岡:今まではスタッフから元となる言葉を募集して、最終的には僕が名前を決めていましたが、本作は徳田がとくに思い入れが強いので、名前を決める際にもがんばってもらいました。
――元になる言語は西洋を中心にするなど、名前を付ける際の制限などはありますか?
徳田:とくに国によって制限を設けることはしていません。例えば、パオウルムーのパオは中国語で“包む”を意味する“包(パオ)”から取っていますし、アンジャナフは“隠された翼”といった意味を持つ、アラビア圏の言葉から名付けたモンスターです。
藤岡:モンスターの名前について、ああでもない、こうでもないと、徳田と話すのが定例会になっていた時期もありました。その時期は、モンスターの名前を考えるための言葉を調べる専属のスタッフも立ててもらいました。
――モンスターを命名する専属スタッフですか!
藤岡:専属スタッフを立てないといけないくらい、ぼう大な単語のなかから決めているので。
――海外版での名称も決めているんですか?
徳田:ローカライズチームと協力して、現地の言葉に翻訳していい部分と、元の言葉を生かす部分を定めていきます。例えばトビカガチは“飛ぶ”と蛇の古い言い方の1つである“カガチ”を組み合わせた名前です。個人的にはしっくりきており、海外でも“Tobikagati”といったように、そのままの名前でリリースするつもりでした。
ところが、ローカライズチームから「カガはイタリア語で下品な言葉を意味しているので、別の言葉に変えてもいいですか?」と相談を受けたんです。そういったときに「その言葉はマズイので変えよう」と決めるのも、自分の仕事の1つでしたね。
――素材などに使われる、角竜や蛮顎竜といった名称は、どうやって決めるのでしょう?
藤岡:こちらもモンスターの名称とほぼ同じタイミングで決めています。モンスターの名前は長いので、素材名とかに付けるために用意しているんですよ。モンスター名と同様に、しっくりくる単語を当てはめる感じです。
――モンスター名よりも早く決まることも?
徳田:モンスターしだいです。本作だと、蛮顎竜は決めるのに時間がかかりました。先ほどから話にあがっているとおり、開発中は“新獣竜”と呼んでいたので、つい“獣竜”という単語を組み込もうとしていたんです。ネルギガンテの滅尽龍も、決まるまで長かったですね。
藤岡:ネルギガンテは、手ごわく何度も再生するモンスターです。“破壊”と“再生”がコンセプトにあるのですが、この2つの要素を漢字3文字程度に収めるのは難しかったですね。再生龍だと力強さが出ないので、不滅龍にしようなどと考えたこともありました。
徳田:不死身龍という案もありましたね。ですが、討伐できるモンスターなので不滅でも不死身でもないと。何度も振り出しに戻って考え直しました。
藤岡:下手な名前を付けて、ユーザーさんに討伐できないモンスターだと思われても困りますからね。コンセプトがシンプルなものほど、名前を決めるのは難しいです。
▲傷ついた部位を再生して手ごわくなる滅尽龍。 |
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