2018年3月31日(土)
【GCC2018】『V!勇者のくせになまいきだR』で実現したVRゲームのおもしろさとは?
3月30日、大阪・大阪府立国際会議場にて関西最大のゲーム業界勉強会”GAME CREATORS CONFERENCE '18”が開催された。
ここでは本イベントのセッション“『V!勇者のくせになまいきだR』で目指した“VRゲーム”のあり方”の模様をレポートする。
7年ぶりの世界征服がスタートしたきっかけとは
『V!勇者のくせになまいきだR(Vなま)』は、2007年から続く『勇者のくせになまいきだ。(勇なま)』シリーズの最新作。VRで7年ぶりの大復活! ということもあり、非常に大きな注目を集めたタイトルだ。
本セッションには『勇なま』シリーズプロデューサーの山本正美氏が登壇し、PSPで発売されていた『勇なま』シリーズがPS3やPS4でもなく、いきなりPS VRで発売になった経緯から解説した。
▲山本正美氏(SIE) |
PS VRの開発はSIE ワールドワイドスタジオのロンドンスタジオが取り組んでいたので、VRコンテンツの着手自体も早く、『PlayStation VR WORLDS』に収録されている『Ocean Descent』は、ずいぶん前から体験できる状態まで研究が進んでいた。
それに加えてソフトメーカーのタイトルや、インディータイトルなども豊富にあるので、海外産のVRタイトルラインナップは充実することがある程度約束されていたとのこと。
ところが日本の場合だとVRが登場して間もないこともあり、VR専用タイトルの制作は海外ほど活発ではなかった。ただSIEとしては制作せねばならないだろうとなったそうで、ワールドワイドスタジオプレジデントの吉田修平氏からタクシーの中で「なにか企画考えてよ」と言われ、動き出したと明らかにした。
プロデューサーの考えとしては、制作するのであれば利益も考えたいが、PS VRが新しいデバイスなのでこれから普及が進み、市場が形成されていくタイミングだということ。そういった状況であればおもしろいものを作りつつ、リソースを抑えてコストを削減することで利益につなげたかったと語った。
山本氏がVRコンテンツを手がけること自体初めてなので、さまざまなタイトルをプレイして体験性の高さに被らないオリジナリティ、その中で使えるIPを模索していると、ある日アクワイアの大橋晴行氏から1つの企画の提案を受けたそうだ。
アクワイア社内ではVRコンテンツのプロトタイプを作っては壊しを繰り返しており、その中で種になりそうなものがあるというところから生まれたのが『Vなま』なのだという。
シンプルにしたからこそ完成したゲームデザイン】
ここからは『勇なま』のシリーズディレクターを務める大橋氏にバトンタッチ。『Vなま』のゲームデザインについて語った。
▲大橋晴行氏(アクワイア) |
まず、『Vなま』のコンセプトが“ともだち同梱VRコンテンツを作る”と明かされた。これはヘッドマウントディスプレイを被れば友達がいなくても、友達と一緒に遊んでいるような感覚が味わえるようにしようとしたのだという。
『勇者のくせになまいきだ:3D』を作り終えてから、次回作を制作するなら地上を舞台にしたいと思っていた大橋氏。コンセプトアートなども制作していたようだが、なかなかチャンスに恵まれず、続編を作りたいという想いも忘れかけていた2015年にオキュラスリフトを体験した際、部屋の中で魔王と一緒にボードゲームを遊ぶ体験をひらめいたそうだ。
『Vなま』は、部屋の中央にあるボードゲームでゲームの駆け引きを、そしてそのボードゲームがある空間で仮想体験を楽しんでもらうという、入れ子構造的アプローチというデザインが特徴だという。
この構造がどういうことか、具体的な流れで説明すると下記の通りだ。
1 プレイヤーがボードに干渉するとイベントが起こる
2 イベントをきっかけに魔王やムスメが反応する
3 反応を受けてプレイヤーが再度干渉する
これらのループをうまく作れればおもしろい体験になると考えたそうだ。
プレイヤーには友達の部屋に遊びに行く感覚を味わってもらいたかった点や、制作するのも基本の部屋だけにしたらコストも抑えられるという理由から、このゲームデザインに決定した。
次はゲーム部分となるボードゲームのバランスについて。当初はRPG世界をシミュレートし、じっくり世界に干渉していくゲームをイメージしていたが、実際のところは魔物を繁殖させて、勇者の拠点を征服する『勇なま』らしい慌ただしい世界征服に落ち着いている。
その大きな理由としては、じっくりとしたプレイが盛り上がらなかったからだという。状況変化が緩やかだと魔王やムスメのリアクション頻度が少なくなったうえ、勇者がダンジョンに入るなどの状況変化に待ちが発生。この時間が長く、手持ちぶさたになりがちだったと語った。
さらに1ステージのプレイ時間も15分を超えると疲れてしまうこともわかったため、想定プレイ時間を当初の半分以下である5~10分に設定。プレイ時間が短くなったことで複雑なことはできなくなったので、魔物や勇者の挙動や展開を極力シンプルにし、判断→アクションを実行しやすくしたそうだ。
また、本作の慌ただしさは、魔王やムスメがいかに反応するかという部分が大きい。ゲームのテンポがよくなるということは、その進捗に合わせて魔王やムスメが反応してくれるということ。以前の緩やかなゲームデザインだと、ちょっとしゃべるくらいだったので、シンプルさに振ったのはうまくいったとのこと。
『勇なま』は食物連鎖を扱うタイトルなので魔物との接し方も大きなポイントだが、生き物らしさを表現しようとすると、どうしても時間のかかるゲーム性になってしまいがちだという。
そこで『Vなま』では、メインのアクションを魔物の巣を置く、魔物を掴む、運ぶ、合成に絞り、生き物らしさも出しつつ、攻略性のあるゲームデザインにまとめたそうだ。魔物に触れることはボードゲームの駒を動かすイメージにも繋がるので、掴み方、運び方にも注意をはらったとのこと。
プレイヤーの“ともだち”になった魔王とムスメ
『Vなま』のコンセプトでもある“ともだちと遊んでいるような感覚”を演出するため、魔王とムスメをどういったキャラクター・役割にしたかということについても語られた。
彼らはゲームの進行役であり、ユーザーと感情をともにしてくれる便利屋のような存在なのだが、ここではプレイヤー目線の反応をさせることを大事にしたという。
例えば「やりましたな破壊神様!」で終わってしまえば普通の反応だが、「でも、この流れだとまさかの展開とかありそうですなあ」というセリフがあることで、距離感も縮み、プレイヤーとともに遊んでいる感もアップ。魔王のキャラクターとしてメタ発言も多いので、この点の相性も良かったという。
親近感を出すためにはデザインも重要になってくる。旧作のイメージを踏襲して3Dモデリングしたら、できの悪いソフビの人形みたいになってしまったということで、中途半端はよくないと判断。
目指すところは“ともだち”だったので、第一印象でネガティブな感情にならないようにバランスや服のデザインなど、人間としてのフォルムがわかりやすいものに調整した。第一印象で拒否されてしまうと、一緒に遊びたくなくなってしまうので特に注意が必要と主張した。
ムスメは魔王よりもプレイヤーのことを気にかけるというコンセプトで、負け・勝ちが続いているとき。そしてジロジロ見られている時などに細かく反応するようなセリフやアクションが設定されている。
魔王はゲーム中のイベント全般に薄めの反応をするが、ムスメはプレイヤーに突っ込みを入れるなど魔王とは対照的な反応をするので、この対比が賑やかさにつながったという。
また、ムスメはキャラクター性だけでなく、物理的なポジションとして魔王より近いところに居るのだが、当初はプレイヤーの右斜め後ろに配置されていた。
理由としてはフィールド上に大量の魔物が出現するのでゲームの処理に負荷を軽減するという順当なものだが、これが後々大きな問題に発展していったと大橋氏は語った。
『Vなま』の魔王とムスメにはキャラクターボイスが実装されているが、最初から実装しようとしていたわけではなかったようだ。これまでの『勇なま』はテキスト+ゴニョゴニョボイスだったが、VRタイトルでテキストを読ませることは適さないという問題にぶつかったため、ボイス実装に着地した形だ。
ボイスを実装するメリットとしてはプレイヤーがどこで何をしていても情報が伝えられる点。加えてプレイヤーの操作に反応させることでキャラクターとプレイヤー間の距離感も縮み、当初のコンセプトである“ともだち感”のアップにもつながった。
実際にユーザーが遊んで判明した驚きの内容とは
開発も進み、いよいよユーザーに遊んでもらえる段階までたどり着いた『Vなま』。ところが遊んだユーザーは「ルールがわからない……」と困っていたという。
ボイスに対応し、魔王が頑張って説明してくれていたのだが、今度は自分のリズムで学べないので頭に入らないことなどが問題として挙げられたようだ。対処法としては視覚にも頼るという選択をしたことで、プレイヤー主体でゲームの進行が学べるようになり、体験としてもよくなったとのこと。
次に先ほど予告されていたムスメのポジション問題について。なんと誰もムスメの存在に気付かなかったのだ。本作を遊んだプレイヤーなら誰もが推しポイントに挙げるムスメだが、テーブル上の魔物に夢中になってしまったことで、初期の配置では声が聞こえてきてもムスメのほうを見ることはなかったという。
ゲームの処理負荷の都合でこのポジションに配置されていたムスメだが、魔物の表示数やキャラクターのモデリングなども見直して調整を実施。反映後はもれなくみんな右を向いていたとのことで、この調整の効果は絶大だったようだ。
ユーザーが見てくれないという点では、ゲームオーバー時の魔王が勇者に連れ去られてしまう演出も同じ悩みを抱えていたことも明らかにした。こちらは見せたい演出よりもフィールド上の勇者たちの喜びアクションに夢中になってしまった点から、ゲームオーバーになったらその演出を黒くして見えなくさせるという力技で対応したのだという。
このようにしっかりと作り込まれたものでも、見てもらう工夫をしないと徒労に終わってしまうので、関心事すら遮断するのも1つの方法とのことと語った。
大橋氏は最後にゲームのプレイデータから本作を振り返った。ステージの平均プレイ時間は6~10分と想定通りに落ち着いたものの、ゲームクリアまでの日数については最短で1日、4日もあればほとんどの人がクリアしてしまったというのは想定外だったとのこと。
開発側としては1日20分で7日くらい遊ぶことを想定していたようだが、VR酔いしにくく、かつ楽しいのでぶっ続けてプレイしてしまうユーザーが多かった様子だ。
今回取り組んできていたことは全体的にもよかったとしながらも、ボリュームについてはもう少し頑張りたかったとのことなので、ユーザーとしては次回作に期待したいところだろう。
まとめには再び山本氏が登壇。VRゲームはVRならではの体験ができるおもしろさがあるが、今回はこれまで積み重ねてきたゲームのおもしろさをしっかり融合させることに注力したと語った。
モニター会で“小さくなって大きなモノを見る”といったわかりやすいVRらしさをもっと出したほうがいいという意見も出たようだが、『Vなま』はゲームルールのおもしろさを大事にした。山本氏は、需要に則ることも大事だが、その裏をつくことでVRならではの遊びとして新たな価値が生まれてくるのではと締めくくり、セッションを終了した。
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