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2018年4月17日(火)

【電撃PS】『モンハンワールド』インタビュー連載第3回:新大陸の調査をテーマに描かれたフィールド

文:電撃PlayStation

 電撃PlayStationで連載されているPS4用ソフト『モンスターハンター:ワールド』の開発者インタビュー連載企画。ここでは、電撃PS Vol.654(2018年1月11日発売号)に掲載された“フィールド完成までの道のり”を全文掲載する。

⇒“【電撃PS】『モンハンワールド』インタビュー連載第1回:モンスター誕生の秘話”記事はこちら

⇒“【電撃PS】『モンハンワールド』インタビュー連載第2回:モンスターのAIやアクションの作られ方

『モンスターハンター:ワールド』
『モンスターハンター:ワールド』

 お話をうかがったのは、エグゼクティブディレクター/アートディレクターの藤岡要氏、ディレクターの徳田優也氏、デザイナーの川瀬恵美氏、デザイナーの岡田上匠氏の4人。フィールド完成までの紆余曲折を、ぜひチェックしていただきたい。

アートやデモによって共有されたコンセプト

――『MHW』のフィールド内をシームレスにすることにした経緯を教えてください。

徳田優也氏(以下、敬称略):『MHW』そのもののコンセプトとして、生態系を利用した狩りを体験させたいというものがありました。プレイヤーがエリアでやったことが、フィールド全体に影響をおよぼすような遊びですね。このコンセプトを実現しようと思うと、エリアごとにロードが入る仕組みだと技術的に厳しかったんです。そこで開発初期の段階に、シームレスなフィールドに挑戦しようと決めました。

藤岡要氏(以下、敬称略):シームレスにするとしても、最初はどういった形がいいかの議論がありました。一般的にオープンワールドと言われているようなものにするのか、違ったものにするのか。最終的に、『MH』シリーズが持つ遊びとの相性なども考えて、フィールドとエリアの概念は残しつつシームレスにつながる、今の形に落ち着きました。

――そこから“古代樹の森”の制作に?

藤岡:そうです。最初のフィールドを作成する際に決めたコンセプトは、フィールド内の情報量をとにかく増やすことでした。目の前にあるものをすべて使えるようにしたり、うっそうとしたところに入っていく没入感を得られたりするようなものを目指しました。これらを実現させるのに適した場所として決まったのが“森”だったんです。デザインも“誰も入ったことのないような場所に足を踏み入れていくようなイメージ”で進めてもらいました。

――川瀬さんがアートに取り掛かったのは、その段階からですか?

川瀬恵美氏(以下、敬称略):はい。森をベースにするにあたり、まずは『MH』らしさを感じられるランドマークを決めるところから始めました。アートチームのミーティングのなかで出された巨大な木に魅力を感じ、そこから発想を広げていったのが“古代樹”になります。

藤岡:岡田上にフィールドデザインに必要な技術の検証を始めてもらったのも、その時期です。

岡田上匠氏(以下、敬称略):最初はアートなどのイメージが何もない状態だったので、“密度感”や“うっそうと”などのワードから絵作りをしていましたね。

藤岡:自分たちが思い描いているものを、どうすれば実現できるのかを知る必要があったんです。普通に森を作っても仕方ないので、一番大事にしたい部分を決めたうえで、どういった技術が必要か見極めていく。自分たちにとっては初の試みばかりで、とにかく手探りで検証しつつ、作っては壊してを繰り返していましたね。

――時期的には、いつごろの話ですか?

藤岡:2014年から2015年にかけてです。

徳田:森のなかでどういった展開があって、何ができて、どう楽しませたいのかといったコンテの作成と、それにもとづいたコンセプトアートを描いてもらいつつ、挙動などを検証するためのプレイデモも作っていました。やっぱり、ゲームとして制御した際にどういった問題が起こるかや、気持ちよさを感じられるかなどを実証しないと、あまり意味がありません。無駄になる作業が発生するので、プログラマーに苦言を呈されたこともありますが(苦笑)。

藤岡:仮とはいえ、全部を作り込む必要がありましたからね。

徳田:そのときは、まだ技術もできていなかったりしたので、無駄な部分があったのもたしかですが、やる意味は絶対にあると思っていました。結果、成果や改善点などをみんなで共有できましたし、ワークフロー的にも効率化しないと無理だというのがわかったんです。

――具体的にはどのような発見が?

藤岡:導蟲を入れることにしたのも、プレイデモが要因です。痕跡を探すというテーマは最初からあったものの、次に導くものがないとわからないし、知ってる人しか遊べないようなゲームデザインになっていたんですよ。

徳田:スリンガーを入れることにしたのも同じタイミングですね。デモを作ったことで、こういう使い方をしたい、こうしたらおもしろいんじゃないかというアイデアが出てきたんです。『MH4』のときも最初に作ったプレイデモがいろいろと生きたので、今回も作ろうというのは僕と藤岡のなかでありました。

――今回は“新大陸の調査”というテーマのもとにフィールドに向かいます。フィールドをデザインするうえで、これまでと違った点を教えてください。

藤岡:舞台設定として、新大陸を調査していくというテーマは最初から決まっていました。これまでは、フィールドとフィールドの距離感をあまりイメージさせずにゲームが進んでいましたが、調査なら親和性の高いエリアをめぐっていく流れのほうが自然ですよね。広大な場所で、生態的にもそれぞれで特徴が異なるエリア分配にしようといったことも、最初から考えていたことでした。

徳田:ゲーム設計とプレイ体験を想像しつつ、どういったレベル設計にしていくかが最初のポイントでしたね。いくつかのフィールドをたどる構想は最初からあったものの、やり方としてはいろんなパターンが考えられました。それを踏まえて、新大陸のストーリー、秘密に近づいていくようなフィールド設計、レベル設計を軸に、ある程度自由さを楽しみつつも『MHW』のルールにも慣れられるような設計に仕上げていきました。

――これらのコンセプトや設計案をもとに、アートのほうも進んでいったわけですね。

川瀬:まず新大陸はどういった場所なんだろう? というところから入りました。「『MH』の世界の未開の地なので、違和感を抱かせる何かがほしい。印象的なシルエットの巨大な峡谷がその1つで、自然にできたものではなくて何か巨大なモンスターが通ってできた溝なのではないか」など、想像をふくらませつつ、全体像やフィールドを描いていきました。

藤岡:ゲーム的な部分で調整が必要になるところも出てくるのですが、最初はコンセプトをもとに、とにかく自由に描いてもらったんですよ。“陸珊瑚の台地”のような独特なフィールドが生まれたのも、自由な発想で描いてもらっていたからこそでしょう。独創的でよいアイデアがあがってくれば、じゃあそれを生かしつつゲーム的にどうすればいいかといった案も進めることが可能です。

徳田:注文としては、“古代樹の森”と“大蟻塚の荒地”のあとに、いったんプレイヤーが足を止めるようなものがほしいというのを出させてもらいました。

――足を止めるというものはなんでしょうか?

藤岡:壁となるようなアクセントを入れないと普通の広い大陸を描きがちなので、アクセントとなるものを入れるようにしたんです。そうしたら、渦巻きのようなデザインを描いてくれまして。おもしろかったのでこれを生かしつつ、展開などをはめていきました。ゲームを進めるうえでも、目に入ったときに「あそこに行きたいな」だったり、越えたいと思ったりするものがあったほうが、モチベーションになるじゃないですか。そのなんらかの障害が全体像にひもづいていたら、どうして先に行けないんだろう? といった謎にもつながりますし。

川瀬:プレイヤーのテンションをどう上げていこうか、というところですよね。これまではシンプルに景観がガラッと変わる“凍土”や“火山”でしたが、それを入れ込むのもどうなんだとなって。

藤岡:1つの大陸に“凍土”や“火山”が存在して、急にこれらがつながるのは違和感があるじゃないですか。だからアイデアを出すときも、今までのシリーズの流れをいったん忘れて、地続きの大陸のなかでどういった生態があり、進んだ先に何があればインパクトを与えられるかといった部分を重視しました。

――新大陸のリアリティを高めていったんですね。

藤岡:つじつまを合わせるといいますか、フィールドごとの関係性をイメージしながら描いていきました。そのなかに個性的なものを入れていくといった感じです。あと、何かしらのランドマークがあるデザインにしようとも決めていました。“古代樹の森”も最初は“原生林”としか決めてませんでしたが、シンボルとして存在する“古代樹”を中心に森が広がるようにしようと決めたことなどですね。ただ“大蟻塚の荒地”のランドマークに関しては、最後まで悩みました……(汗)。

川瀬:最初は湿地部分を推していたんですよね。

徳田:湿地部分は“古代樹”を水源として流れてきた水で構築されているエリアです。それなら水にかかわる場所のほうが親和性が高いんじゃないかと。モンスターの骨格を決める際にも、最初は水中のモンスターをたくさん出す構想があったんです。ただ、検証を進めるうちに水中のモンスターはあまり出せないというのが見えてきました。プレイの面から見ても、水辺はいろいろと制限がかかる遊びになってしまうので、“大蟻塚の荒地”は“古代樹の森”とは違う、開放感が軸のフィールドにしたという経緯があるんです。でも、何をランドマークにすえるかはまた別問題で……。

川瀬:“大蟻塚の荒地”に広がる砂漠も、ランドマークというには狭かったですしね。

藤岡:最終的には、もとから配置していた蟻塚をいろいろなところに置いてみたところ絵になったので、“大蟻塚の荒地”は、複数の蟻塚をランドマークにする方向で落ち着きました。

『モンスターハンター:ワールド』
▲川瀬氏が描いた“古代樹の森”のコンセプトアートの1枚。

シームレスなフィールドを実現するための挑戦

――シームレス化やハードの変化にともない、フィールドデザインで採用された新たな技術を教えてください。

藤岡:大きな部分でいうと、アセット化してフィールドをデザインしていったというところがあります。

岡田上:アセット化とは、さまざまな種類のパーツを作り、それらを組み合わせて絵を作っていく手法です。この方法を用いることで、少数のパーツを作るだけですごい数のバリエーションが生み出せるんです。

藤岡:これまでフィールドの大半をいちからすべて作っていました。しかし、その手法でシームレスにしようとすると、作り込んだり修正したりするのが困難なので、作り方を変えようと考えていました。もちろん、1つ1つこだわって作ったほうが素晴らしいものができるのは間違いありませんが、それでは作業にかかる時間もコストもぼう大なものになってしまうんですよ。

岡田上:アセット化しつつ、自分たちが目指す絵を作れるかの検証を進めるのが、最初の主な役割でしたね。

――それでも絵作りにこだわりだすと、際限なくアセットが欲しくなってしまいそうです。

藤岡:そこはもう、メモリとの戦いでしたね。なので、アセットだけでは、キレイになじんだ絵は作れないため、ほかの技術も入れていくことになります。いろいろな技術を重ねて、バラバラのパーツを1つの絵として仕上げていく手法は、僕らが経験したことのないものでした。自分たちでしっかりとカスタムして、開発チームが使いこなせるものにしていかなければなりません。

岡田上:技術の取捨選択ですね。まずはアセット化を必須にしつつ、必要な技術の優先度を決めていくような。

藤岡:ほかにも光源となる、フィールドのライティングをどうするかというところも悩みました。

岡田上:“古代樹の森”を作っていたとき、最初はパーツにかかる光の位置を決めずに作ってもらっていたんです。そうしたら、物によって光の当たっている位置がバラバラで……。ああ、ここは最初から決めておかないとダメなんだなと痛感しました(汗)。デザイナーに「光はこの角度から差すというルールのなかで作ってください」と言っておけば、あとはそれを利用してカッコイイ絵に仕上げてくれるんですよ。

藤岡:「ここの見え方が微妙だから光源を変えよう」という提案を受けることもありました。“古代樹の森”でいうと、古代樹は光の影響を受けるので、太陽を背負った側には光が入ってこないんですね。企画的な要件を満たす必要があるものの、それをすべて満たそうとすると難しい部分も出てくるんですよ、やっぱり。

――とくに“古代樹の森”に関しては、立体構造で複雑な地形なのでライティングが難しそうに思えます。

藤岡:暗い場所に光を入れたいから、この部分に穴を開けてほしいと伝えたら「そこに穴を開けると上のフィールドが支えられなくなります」ということも(笑)。

岡田上:ライティングでいえば、光の二次反射の技術も苦労した記憶がありますね。藤岡ディレクターが、めちゃくちゃ難しいことを言うんですよ(笑)。

藤岡:コンセプトアートでも、だいたいそうなんですが、好みとして光の当たっている部分にはしっかりと色を出しつつ、暗いところは色を落としながらもいい色を入れてほしい、みたいな矛盾してるような注文でした(汗)。

――それはハードルが高そうです……。でも、最終的には『MHW』に二次反射が取り入れられていますよね。

藤岡:光の二次反射は計算がすごくかかるものなので、本当に入れられるかどうかの瀬戸際でした。しかし、岡田上がこうすればいけるって方法を提案してくれたんです。おかげで、光を反射させることで暗いところにも色味を出せるようになりました。二次反射で光を入れると入れないでは、暗がりの絵の見え方が変わってきます。

岡田上:次世代のCG技術の一番すごいところって、光の反射なんですよ。計算が複雑になればなるほどリアリティが出てきますし、全体的な空気感も現実に近いものになっていきます。ウソの光源を置いて仕上げるのは、『MHW』の目指すところを考えたうえでもやりたくなかったので、どういった技術を取り入れれば実現できるのかを、かなり探りましたね。

藤岡:二次反射の技術を入れられたのは本当に大きかったと思います。植物などにはモンスターと同様にトランスルーセント(半透明化)の技術も使ってますし、光を感じられるフィールドというか、『MH』らしい景観だと感じていただけるものになっているはずです。

――ほかに、この技術を取り入れられたのが大きかったという部分はありますか?

岡田上:いろいろありますが、見た目に大きく影響している技術でいえばボリュームフォグですね。光の差し込みや大気中の光の拡散などを表現するための機能なのですが、差し込んだ光の周りがぼんやりと見えるようになり、空気感が増すんですよ。

藤岡:今までは光の板を置いて光の差し込みを表現するなど、簡易的に空気感を再現していましたが、それでは光の厚みが物足りないなと。『MH』シリーズを作るうえで目指している空気感はずっと変わってないので、スペックが大幅に増し、新しい技術が取り入れられるようになった今、どうすればそこに近づけられるのかを、とことん突き詰めさせてもらいました。

――フィールド作りを進めるなかで、一番苦労されたのはどこでしょう?

岡田上:先ほども少し話しましたが、アセットを組み合わせた絵作りは初めての経験だったので、勉強しつつ進めていたものの、やはり苦労することが多かったですね。デザイナーにまかせるとパーツを好きなだけ置くので、ハードのスペック的に描画ができなくなることもあるんです。だからといって数に制限を設けると、おもしろみが薄まるというところもあり……。とりあえず好きに置いてもらい、そこからスペックに収まるよう調整していったのが一番苦労した部分です。

藤岡:どういったルールを設けるかが悩みどころなんです。アセットを1個作るにしても、バラバラのルールで作ると、同じ場所に配置したときに解像度や光の受け方に違和感が出てきますからね。だからまず、アセットのつくりや使い方のルールを決めました。デザイナーたちは、これまでフィールドのすべてをオリジナルで作ってきた人なだけに、発想がとにかくすごくてですね。自由にやらせるとすごいパーツの使い方をしてきたりして、本当におどろかされるんです。

岡田上:例えばですが、丸い岩のパーツがあるとするじゃないですか。彼らはそれをギュッと縮めてペラペラのせんべいみたいにして配置したり、めちゃくちゃ小さくして砂利にしてみたりするなどの使い方をするんです。もちろんそれがいいときもありますが。

藤岡:使い方が特殊過ぎるんですね。アセットはすべての基本になるものなので、あまり自由すぎると最終調整のときにビックリするような影響が出てしまうんです。

川瀬:初期はアセットの種類が少なかったことも、特殊な使い方につながった一因でしょうね。

藤岡:アセットが増えてからは見せ方も広がり、スムーズに絵を作ってもらえるようになりましたが、ルールがない最初のうちは苦労が絶えませんでした。

――ちなみにですが、アセットのチェックはどのタイミングで行われたのでしょう?

岡田上:フィールドのプロトタイプが、ある程度でき上がった段階です。そこで、このままでは使えないものがあることに気づき、アセットを見直したり別のものに差し替えたりして、調整していきました。今回いい経験をさせてもらえたので、今後は最初からルールを決めて進めようと思っています(笑)。

――さまざまな技術を乗せるためのエンジンも、新たなものを開発されたのでしょうか?

徳田:はい。最初のプレイデモを作る際には昔のフレームワークを使っていたのですが、それだと挙動などの制御はある程度できたものの、光の二次反射や透過表現など、絵に関しての技術はほとんどありません。昔のフレームワークでできる検証はそちらで進め、『MHW』用に最適化されたエンジンの開発も同時に進めていました。

藤岡:ゲーム作りの初期はだいたいそうなんですよ。エンジン側に技術を実装してもらいつつ開発も進めていくというように、網目状になっているんですね。

徳田:『MHW』用に最適化されたエンジンへの乗せ換え作業をしてた時期もありましたよね。

岡田上:プレイデモの制作が終わったあとです。ビジュアル面に関しては新しいエンジンで出す必要があったので、フレームワークで作ったプレイデモ用のアクション部分を『MHW』用に最適化されたエンジンに乗せ換えました。

藤岡:そのときは結局タイムアップで、乗せ換えは半分しかできなかったんですけどね。でも、そこまでやれただけで、当時はすごい成果があったと思っています。

徳田:自分たちがどういったものを作りたいかというビジョンを、開発チームや会社に理解してもらえましたからね。技術的にも裏付けがある状態だというのが示せたので、試作を作った意味は本当に大きかったと思います。

――開発チームのなかで、専門的にゲームエンジンを作っていたスタッフもいるんですか?

藤岡:います。今回は早い段階から『MHW』チームに合流してもらい、専任で動いてもらいました。開発に深く入ってもらわないと、ゲームの思想と合った技術の見極めが難しいですからね。技術をしっかりと取捨選択してもらいつつ、1個1個の技術も『MHW』用に最適化されたエンジン向けにカスタムしてもらいました。

徳田:彼ら自身もエンジンチームとして初期から入れたことがなかったので、今回は最初から力を発揮できましたと言ってくれています。

――そうしてでき上がっていった『MHW』用に最適化されたエンジンですが、どのような特性を持っているのでしょうか?

岡田上:ひとことでいうと、『MHW』を作るために開発されたエンジンですね。

藤岡:一番の強みは“アクションがなじむエンジン”というところですね。アクション面はフレームワークが優秀で、作り手側としても作りやすいものになっています。開発当時はビジュアルをうまく乗せられるかが一番ネックでしたが、技術スタッフにいろいろな検証をしてもらった結果、絵もなんとかなる見通しがたちました。ベースのMT FRAMEWORKをカスタムしたころ『MHW』用に最適化されたエンジンになりましたね。

徳田:それでも当時は、エンジンの選定について各セクションでさまざまな意見がありました。

藤岡:セクションごとに見方も変わるんです。アクションを作るセクションと絵を作るセクションでも、考え方や技術の優先度の付け方が全然違いますからね。難航しましたが、『MH』シリーズに触れていて次世代のエンジンにも触ったことのあるスタッフが、今の状態でもこれだけのアクションと絵が作れますというのを見せてくれたので、なら信じようと(笑)。『MHW』用に最適化されたエンジンのおかげで、結果的に『MH』として必要な技術をギリギリまで詰め込むことができました。

徳田:もちろん現状で想像できる範囲での話ですけどね。使っていくことで改善点が見つかることもあります。それでも結果として、今回はいろいろなチャレンジがビジュアル化できたのを実感しています。

川瀬:今までは作れなかった地形や演出もできましたし、デザイナーも満足しています。

『モンスターハンター:ワールド』
▲アセットの一例としてわかりやすいのが、“大蟻塚の荒地”に点在している蟻塚。サイズこそ大小さまざまだが、よく見ると同じパーツで蟻塚が組まれている。

没入感を高めるための作り手としてのこだわり

――モンスターでもありフィールドでもあるゾラ・マグダラオスには、これまでにないギミックが用意されています。前回のインタビューでモンスター側のお話を聞きましたが、フィールド側で苦労されたところは?

藤岡:フィールドというよりは、ゾラ・マグダラオスを作る全体の苦労のほうが大きかったです。

徳田:今までに例がないほど、特殊対応ばかりのモンスターですからね。

藤岡:プレイヤーをモンスターの身体の上に乗せるだけなら、これまでに『MH』でラオシャンロン、『MH3(tri-)』でジエン・モーランといったモンスターを作ってきました。ただ、ゾラ・マグダラオスの場合は、モンスターでありながらフィールドとして動かせられるかどうかが大きかったです。変形した部分でひずみが出ることもありますし。

――ゾラ・マグダラオスのフィールドとしてのデザインは、どのチームが行ったのでしょうか?

徳田:絵作り自体はモンスター側のチームです。フィールド側のチームは、ゾラ・マグダラオスの身体の上に乗せるアセットなどを組んでいました。

藤岡:ゾラ・マグダラオスのモンスターデザインを描いてもらった際、フィールドとして見たときのディテールが足りなかったんですよ。細かい部分をどうしようといったところは、ゾラ・マグダラオスのフィールドのアセットを組んでくれていたスタッフがめちゃくちゃがんばって仕上げてくれました。

徳田:地形としての制御を考えると表面をツルツルにしたほうがいいものの、それだと見た目がイマイチなんですよね……。そこで、溶岩の吹き出し口を作ってもらい、定期的に溶岩が吹き出すようにしてもらったりと、手数とテクニックを駆使してもらいました。

藤岡:ゾラ・マグラダオスに関しては、たぶんアセットを組んだスタッフが一番たいへんだったと思います。

――ベータテストや体験会で『MHW』をプレイされたユーザーさんから、フィールドに関してはどのようなご意見をいただいていますか?

藤岡:すごくよい評価をいただけているかなと思っています。作った側としても、1つのルールで表現された世界にユーザーさんが降り立ち、フィールドを見て回った際に印象に残るものが多くあると感じてもらえてるのは、すごく達成感があります。いろいろと苦労しただけあって、それが報われた気分ですね。

徳田:美しさもそうですが、地形を利用したさまざまな遊びが楽しめる部分も評価していただけているのが嬉しいですね。こちらの設計どおりのことを感じていただけているようなので、安心しました。

――ベータテストでも、フィールドの景色を見入ってしまうという意見を見かけました。

藤岡:体験プレイの場でもユーザーさんといろいろ話をさせてもらったんですけど、「モンスターが弱ったタイミングで夕暮れになってドラマチックでした」などの感想もいただいています。時間の変化って、プレイ中にあまり気にしない部分だと思うのですが、それにもかかわらず、遊んでいるなかで印象的に感じてもらえることの1つになっていたのは、とてもよかったです。

岡田上:時間の移り変わりはすごく力を入れて作ったので、注目していただけると個人的には嬉しいですね。

藤岡:時間の変化以外では、雲の話とかもずっとしてました。実際の空を見ればわかると思うんですけど、雲にもいろいろあるじゃないですか。自分たちとしては、厚みがあって光もちゃんと感じられる雲をイメージするんですけど、それを正直に作ると処理がすごく重くなってしまうんですよ。やりたいことはあるけど、すべてを物理的に見せようとすると、ほんの一瞬しかドラマチックな絵にならない。じゃあどうしよう? といった議論を繰り返していました。

岡田上:雲に限らず、デザイナーとしてはカッコイイ絵を見せ続けたいという思いがあります。リアルに作りすぎると、カッコイイ場面がすぐに終わってしまうんですよね。そのため、リアリティよりも見栄えのよさを優先するケースもあります。

藤岡:その結果、雲に厚みを持たせたり、光の影響を受けさせたりして、ウソになりすぎないように見栄えを重視してもらいました。雲は多重で動いているものなので、解像度が高くなればなるほど、ちょっとしたことでカキワリを置いているような絵に見えてしまうんですよ。

岡田上:夜空なんかもそうですね。今回は、絵ではなく実際に星を置いているので、美しさを感じてもらえるものになっているはずです。

藤岡:製品版では拠点を出たときの時間からクエストが始まるので、ぜひとも朝焼けと夕焼けの差を見比べてもらえると嬉しいですね。

――空までしっかりと作り込んでいるんですね。ほかに注目してほしいポイントはありますか?

川瀬:どのフィールドも探索要素がすごく充実しているので、隅から隅まで歩いてほしいです。“古代樹の森”も、こんなところまで行けるのかというところまで作り込んでますから。これは、オーストラリアやタスマニアへの現地取材で得たものも生かされていると思います。

藤岡:原生に近いものは日本だと目にしづらいものです。そのため、現地で実際に見たときの空気感を知るのも、フィールド作りには重要になってくるんですよ。

徳田:現地取材には、アセット担当のスタッフも一緒に行ったんですが、テレビなどではわからない植生と植生の間というか、気候の境目を体感できたのがよかったと言ってましたね。そういった体験が、自然なフィールドのデザインにつながっていると思います。

川瀬:実際に現地で見た植物が“古代樹の森”で使われていますからね。そのほか、フィールドごとに絶景ポイントなんかも用意してあるので、ぜひお気に入りのフォトスポットを見つけてほしいです。

――プレイしていると、ついついフィールドの最も高い位置に登って、全景を見下ろしちゃいますね。

藤岡:“大蟻塚の荒地”にも自分のなかでの絶景ポイトがあります。チームスタッフはパワースポットとか、シャーマンポイントって呼んでたりしますね。岩場と沼地の両方が見渡せるようなところがあるので、探してみてください。『MHW』のスタッフは、みんな必要なところをきっちりと作ったうえで、そういう部分もこそこそ作ってたりするんですよね(笑)。

川瀬:エリアごとに作った人の情熱がこもってると思います。あとは、フィールドの話とは少しずれてしまうんですが、環境生物にも注目してほしいです。

――たしか徳田ディレクターが環境生物の制作にかかわっていましたよね。どのようにして環境生物が作られていたんですか?

徳田:環境生物のユニットは、僕と川瀬ともう1人、モーション担当のスタッフの3人が、初期メンバーです。

藤岡:川瀬はフンコロガシばっかり作っていました(笑)。

――“大蟻塚の荒地”にフンコロガシがいますね。

徳田:あれは、かなりしっかりと作られていて、モンスターのフンを見つけたらすぐに丸めに来るんですよ。

川瀬:個人的に愛着があります(笑)。

藤岡:フンコロガシの評判はいいですね。見かけると、「なんだなんだ?」とついつい触りにいっちゃうんですよ。それが環境生物のよさでもあります。

徳田:フンコロガシが作る「ころがされたフン」ってアイテムがあるじゃないですか。あのアイテムは、開発途中で名前を「フン」に変えられているんです。それを見たときに、待て待てと。「ころがされたフン」に戻してくれと注文をつけました(笑)。「モンスターのフン」と「ころがされたフン」で効果も違うんですよ。

川瀬:もちろん、フンコロガシ以外にもステキな環境生物がいっぱいです。めったに見られないようなレアな環境生物もいますよ。

藤岡:モーションを担当していた環境生物ユニットの初期メンバーの方は、自分がかかわったタイトルに絶対カブトムシを入れるんですよ。『MH3』では、チャナガブルの胃袋の中にカブトムシを仕込んでいました(笑)。今回もいろいろと仕込んでるんじゃないでしょうか。

徳田:カブトムシは強化されています。“古代樹の森”には、あるカブトムシが7匹いるので、ぜひともコンプリートを目指してほしいですね。

藤岡:環境生物もそうですが、フィールドにはしっかり見ると何かを感じられるものを用意しています。例えば壁画のようなアートなど、遊び心が感じられるものですね。これらの“何か”は、狩りとはまた違った楽しみとして味わってもらえればと思います。

『モンスターハンター:ワールド』
▲シリーズ初の試みとなる、モンスターでありながらフィールドとしての役割も担うゾラ・マグダラオス。

【コンセプトアート】『MHW』チームが夢見た世界

 ここからは、『MHW』のフィールドで見せたいもの、やりたいことを開発チームで共有する役割をになってきたコンセプトアートをお届け。本作の原点でもある“古代樹の森”の設定画の数々を見ていこう。

“古代樹の森”が見せるさまざまな一面
『モンスターハンター:ワールド』
『モンスターハンター:ワールド』
『モンスターハンター:ワールド』
▲3点のアートからは、朝と夜、開けた場所と光が遮られた場所というように、“古代樹の森”が見せる明暗の違いを感じられる。
“古代樹の森”に潜むモンスターの恐怖と生態系
『モンスターハンター:ワールド』
▲群れで行動するタイプのモンスターが暗がりからハンターを狙う1枚。
『モンスターハンター:ワールド』
『モンスターハンター:ワールド』
▲上2点はアンジャナフを思わせるモンスターが描かれている。

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