2018年5月3日(木)
『デトロイト ビカム ヒューマン』シナリオ制作の秘密に迫る。物語のこだわりポイントや作曲の流れとは!?
5月25日にSIEから発売予定のPS4『Detroit: Become Human(デトロイト ビカム ヒューマン)』の開発者インタビューを掲載します。
本作は、人間と瓜二つの姿や能力を持ったアンドロイドが普及した世界を描くアクションアドベンチャー。プレイヤーの選択に応じて多彩な結末へと分岐する物語が特徴です。
先日行われたメディアセッションでは、序盤の体験プレイに加えて、ディレクターを務めるデヴィッド・ケイジさんが登壇。本作の開発経緯や魅力などをお聞きしたので、その模様をお届けします。
なお、大きなネタバレは避けますが、内容的に物語の展開に触れる部分があるため、本作を遊ぼうと考えている方は注意してください。
プレイヤーが簡単には答えを出せない質問を構築した
――これまでクアンティック・ドリームのゲームは、すべて3人称視点で作られていますが、没入感を高めるという意味では1人称視点で製作することも選択肢としてはあると思います。3人称視点を貫いている理由を教えていただけますか?
キャラクターを見てほしいというのが最大の理由です。キャラクターを撮る角度やカメラを変えることで演出もできますし、キャラクターの反応もプレイヤーの方に見ていただきたいんです。ゲームではときどき、1人称視点のほうが没入感が高いんじゃないかと思ってしまいがちなんですけど、私は必ずしもそうだとは思っていません。
例えば映画で1人称のものはほとんどありませんが、それでも人々は映画に感情移入して、感動しますよね。なので3人称視点でも人々に没入してもらうことはできると思います。
――確かに、過去作と比べても没入感がかなり増していると感じました。何かそのために工夫した点があれば教えてください
過去作よりもよくするために、あらゆることを試しました。本作は非常に分岐が多いので、プレイヤーが自分の選択に意味を感じやすいというのもありますし、それ以外にもキャラクターとか、いろいろな面で工夫はしています。
それと3Dのエンジンを本作のために開発したので、それも寄与しているかなと思います。ライティングとか、非常に細かい物の描写とか、たくさんのキャラクターが登場するシーンとか……演出上必要なシーンを撮るためには、新エンジンが必要だったんです。
あとは、ムービーシーンに頼るのではなく、プレイヤーのアクションや選択を通じて物語を作っていくところに注力しましたね。
――“PlayStation Live From Paris Games Week”のセッションにて、脚本を書く際には「プレイヤーがどちらか迷う選択肢を突き付ける」とおっしゃっていたのが印象的でした。脚本を書き上げるのにはどれくらいの時間がかかりましたか?
最初に気を付けたのが、プレイヤーが簡単に答えを出せない質問を考えることです。ジレンマのある問いかけをしたいと思いました。
例えば、車を運転していたら突然故障して、ブレーキが効かなくなってしまったとしましょう。このまま行くとどこかに突っ込まざるを得ない……。その時、1人の妊娠した女性か、4人のグループか。そのどちらかにしか突っ込めないとしたら、どちらに突っ込むかといったような問題です。
今の例は極端ですが、そういった「あなただったらどうしますか?」という質問を組み立てることで、ストーリーを作っていきました。
期間で言えば、2~3年近く作業していたでしょうか。最終的な脚本は4~5000ページは書いていますね。映画の脚本が1本100ページくらいというと、量の多さがわかってもらえるでしょうか(苦笑)。
――分岐部分や、そこからの結末も全部書かなければならないので、大変そうですね。
正直、かなり大変な作業でした。状況とか感情というものが全部いいものでなくてはならないので。仰るように、選択部分やそこから派生する結果も、いいものにしなければなりませんから。それはもう悪夢のような時間でした(笑)。ただ、書き終わって思ったのが、プレイヤーの方々がちゃんと「自分の物語だ」と認識できるようなものになったのではないかと思います。
――主人公は3体ともアンドロイドですが、人間の主人公を入れることは考えませんでしたか?
最初からアンドロイドの視点を通して物語を語りたいということは決めていました。SFにおいて、アンドロイドが人間に対して脅威であるとか、邪悪であって人間を滅ぼそうとするとか、人間側はそれに対して戦わねばならないというストーリーは、もう語り尽くされているんじゃないかほどに、たくさんあると思うんです。
その状況をひっくり返して、アンドロイドがいいパターンもあるんじゃないか……彼らが自分たちの権利を求めるという展開もあり得るのではないかと考えました。開発当初に疑問だったのが、アンドロイドの主人公にプレイヤーがちゃんと感情移入して、アンドロイドとして動いてくれるのか。それとも人間の側に感情移入してしまって、「なんだこいつら」と思ってしまうのかということです。
ただ、結果的に見つけたのは、プレイヤーはアンドロイドであっても感情移入してくれるということでした。テストでは、アンドロイドが抑圧されていて、自分たちの権利のために戦おうとしているときに、プレイヤーはそういう人たちに、アンドロイドであっても感情移入してくれたんです。
――もとは『HEAVY RAIN 心の軋むとき』に収録されている“KARA”というムービーから始まったとのことですが、最初から主人公は3人立てる予定だったのでしょうか?
最初にカーラに関する物語を作りたいと思ったときから、主人公が1人ではだめだろうなとは思っていました。というのも、語ろうと思った物語のスケールが非常に大きく、ひとつの視点ではそれらすべてを語ることはできないだろうなと感じたんです。
おそらく感情的な体験としてはカーラが物語の中心になるんですが、同時にスパルタクス(※)のように、奴隷として始まって権利のために戦っていくキャラクターも必要だろうなと。それから、3人目のキャラクターとして、絶対に人間とともに変異体を追いかけるというキャラクターも必要でした。
これら3人のキャラクターを考えた時に、それぞれ立場も違うし、趣味の違うプレイヤーでも誰かは気に入ってくれるだろうという気持ちがあったので、この3人でいこうと決めたんです。
※紀元前73年に、ローマの奴隷たちを率いて反乱を起こした剣闘士。彼の起こした第三次奴隷戦争は“スパルタクスの反乱”とも呼ばれる。
異なる作曲家からできあがった1つのタイトルの音楽
――それぞれの主人公用に異なる音楽を作ったとのことですが、それぞれの曲のイメージを教えてください
まず、3人のキャラクターに対し、3人の作曲家を起用しました。これはこれまでゲームではやったことがない試みだと思いますし、自分たちにとっても大きな挑戦でもありました。ひとつのいいサウンドトラックを作ることでさえ大変なのに、それが3つともなると不可能に思えたほどにね。それで3人の作曲家を探したんですが、それぞれが特徴的で、まったく別の作風を持つ方を探したんです。
まずコナーの作曲家に起用したのが、Nima Fakhrara(ニマ・ファクララ)さんという、電子音楽が得意な方でした。我々としては、コナーには電子音楽をつけたかったんですよ。なぜなら、コナーは冷たく、目標をしっかり定めて進んでいくというイメージが欲しかったからです。すると彼は、なんとコナー専用の楽器を作ってくれたんです。ナイロンの糸を5メートルくらい張って、それをハンマー叩くというもので、それをギター用のマイクで収録するんです。
音だけ聞くと、これでどうするつもりなんだっていうほどひどい音なんですが、それに加工を加えて仕上がったものを聞くと、不思議と素晴らしいもの仕上がっているんです。
もう1人、カーラの音楽を担当したのはPhilip Sheppard(フィリップ・シェパード)さんというチェロ奏者兼作曲家の方なんですが、彼は非常に独特なやり方でチェロを弾いて、サウンドを作ってくれました。チェロって、じつは人間の声に似ている楽器のひとつなんです。
彼は少人数の楽団と電子音楽を混ぜて、それに彼のチェロを乗せて音楽を作っていきました。詳しくどう作ったのかまではわかりませんが、カーラの音楽はとても心を震わせる音楽になっています。
マーカスにはJohn Paesano(ジョン・パエサーノ)さんという方を起用しました。彼はたくさんの人を集め、合唱団的なものを作って録っていましたね。マーカスは雄大で壮大な音楽であってほしかったので、それに合ったサウンドを聴くことができますよ。
――そこまで大きく違うと、一本の作品としてまとめるときに、とても大変そうな印象を受けますね
もちろんそれだけでも大変なんですが、もっと大変だったことがあるんです。ネタバレにならない程度に言いますと、3人のキャラクターが同じ場所にいるシーンがあって、そこではキャラクターだけでなくサウンドトラックも全部あってほしかった。
そこは作曲家の方々がとても素晴らしい仕事をしてくれました。それぞれまったく異なる曲にもかかわらず、実際に重ねてもまったく違和感がなかったんです。重ねると、違うなということはわかるんですが、ちゃんと調和しているんですよ。
不思議だったので、「どうやったの?」って聞いたら、「脚本が共通だったから」っていうんです。脚本と、作ろうとする世界が共通だったから、それに基づいて私たちはみんな仕事をしたので、結果的に同じ世界の曲ができた、と。驚きです。
それとサウンドトラックという意味ではダイナミックミュージックというチャレンジもしています。キャラクターの状況や選択によって、音楽のトーンが大きく変わるんです。すべてのキャラクターにおいて、それぞれどんなシーンのどんな状況かと、どういう選択をしてどうなったのかによって、同じ音でもぜんぜん違うように聞こえるようになっています。
――ちなみに、デヴィッドさんの好きなキャラクターというのは誰でしょうか?
すべてのキャラクターが自分の一部のようなものなので、特別誰が好きというと難しいですね(苦笑)。
――では、自分の考え方に一番近いと思うのは?
う~ん、画家のカールでしょうか。世界全体を見て、時折その世界の在り方に絶望したりしつつも、でも見ることをやめない感じとか。あとはマーカスに対して、父親のように文学や芸術を教えたりするんですが、自分も父親なので、そういうところが共感できるというか、似ているかなと感じます。
――ちなみに、カールの俳優を担当している方って、ランス・ヘンリクセンさんですよね?
ええ。映画『エイリアン2』などでビショップ役などを演じていた方ですね。世界で一番有名なアンドロイドの1人を演じたランスさんにこの作品に出てもらうのはおもしろいなと思って、お願いしたんです。
『Detroit: Become Human』はこれまで作ってきたなかでも最高傑作
――『HEAVY RAIN 心の軋むとき』では、物語に折り紙という要素が登場したり、ムービーに登場するカーラが日本語で歌を歌ったりと、たびたび日本の文化を取り入れていますが、それには何か意図があったりするのでしょうか?
日本の文化は素晴らしいものだと思いますし、フランスにおいて日本文化は結びつきが強いと思っているんです。日本以外では、フランスは一番日本アニメを見ている国だと思いますし、宮崎駿監督のような方へのリスペクトも非常に高い。私たちのようなものにとって日本文化は非常に興味深いし、夢中にさせられる文化なんですよ。
個人的に日本文化がとても興味深いなと思うところは、すごく深い伝統に根ざしていながら、同時にとても現代的な部分も持っている。その2つに軸足を置いているというのが、日本の特徴的なところかなと思います。日本の皆さんから見るとそう見えるかはわかりませんが、自分から見ると、伝統的なところと未来的なところが同居しているように見えるんです。
――『Detroit』にも、日本モチーフの何かは登場しますか?
アンドロイド自体がちょっと日本的なものと言えるのではないでしょうか(笑)。日本の科学者で、アンドロイドの研究をされている方も多いと思うんですが、パリで一度展覧会を見に行ったことがあるんです。そこで女性型のアンドロイドが展示されていたんですが、遠くから見ると本当の人間に見えたんですよ。彼女がしゃべっているときに、まるで本当の人間かのような感覚を受けたんです。もちろん、近くに行けば人間ではないことはわかるんですが。その感覚がとても鮮烈で、忘れられません。
その日本人の科学者の方がやっていた、人間そっくりのアンドロイドという研究が、私たちの調査に影響を与えていますし、この作品にも間接的に影響を及ぼしています。
アメリカの研究者がロボティクスやアンドロイドを研究する時には、どんな見た目かは気にしないで、それが何をするかという機能の面に特化するんです。でも、日本の研究者の方々は、機能だけじゃなくてどう見えるかとか人間らしく見えるかとかいうところまで気にされているようで、時には機能よりもそっちを優先しているかのように思えることがあるのが、非常に対比的な文化としておもしろいですよね。
――最後に、楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします
日本でもたくさんの方が『HEAVY RAIN 心の軋むとき』や『BEYOND: Two Souls』を楽しんでいただけたと思いますが、それと同じくらい、あるいはもっと『Detroit: Become Human』を楽しんでもらえればと思っています。特に日本のファンの方々には、過去2作のときも大きく応援していただきましたし、このゲームにも大きく期待いただいているということを聞いています。
この場を借りてお礼を言いたいと思いますし、皆さんのためにゲームを作っているということもお伝えしたいです。我々としては、『Detroit: Become Human』はこれまで作ってきたなかでも最高傑作だと感じていますので、ぜひお楽しみください!
※画面は開発中のものであり、最終仕様とは異なる場合があります。
(C)Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Quantic Dream.
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