2018年5月8日(火)

三木一馬さんらが参加する新作VRミステリーADV『東京クロノス』も発表されたトークイベントの模様をお届け

文:伊藤誠之介

 徳島県徳島市で5月4日~5月6日に開催された“マチ★アソビ vol.20”。ここでは5月4日にufotable CINEMAで開催された“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”と題されたトークイベントの模様をお届けします。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”

 このイベントは、アニメーターやミステリー作家といった第一線のクリエイターの皆さんが、アドベンチャーゲームについて語り合うというものです。またイベントの最後では、新作VRミステリーアドベンチャーゲーム『東京クロノス』の発表が行われました。

日本のアドベンチャーゲームが世界に広がるきっかけとなったタイトルは?

 このトークイベントで登壇したのは、CGアニメ映画『楽園追放 -Expelled From Paradise-』でモーション監督を務めた柏倉晴樹さんと、『謎解き乙女』シリーズなどで知られるミステリー作家の瀬川コウさんです。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”
▲柏倉晴樹さん。
“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”
▲瀬川コウさん。

 さらに、日本の美少女アドベンチャーゲームを英語にローカライズしてSteamで販売を行っている、Sekai Projectの共同創業者兼CEOであるChristopher Ling(クリストファー・リン)さんも、ロサンゼルスから急遽来日して参加しました。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”
▲クリストファー・リンさん。

 またイベントのMCは、からあげアイドル声優としておなじみの有野いくさんと、VR×ノベル『Innocent Forest』やVR×マンガ『夢の相談所』などを発表している、MyDearestの代表取締役である岸上健人さんが担当しました。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”
▲有野いくさん(写真左)と岸上健人さん(写真右)。

 トークはまず“アドベンチャーゲームで好きな作品は? また影響を受けた作品は?”という話題からスタート。

 柏倉さんがいちばん好きな作品として挙げたのは『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』です。柏倉さんのお話では、この作品に影響を受けて、自宅を秋葉原の近くに引っ越したのだとか。

 柏倉さんにとって『シュタインズ・ゲート』は非常に印象の強い作品のようで、「(トゥルーエンドではない)キャラクターエンドを見たあと、(主人公の)オカリンがそのまま何十年も生きた人生を、自分の心のなかでシミュレーションしてから次のシナリオを始めていた」と語っていました。

 瀬川さんは大学生時代、「学校と自宅の往復で、ノベルゲームしかやっていなかった」とのこと。そうした日々のなかでもとくに好きな作品として、『暁の護衛』や『グリザイアの果実』といっや、美少女ゲームのタイトルを挙げていました。

 「アニメも小説も好きだけど、ノベルゲームがいちばん好き」と語った瀬川さんは、「自分がその世界に関わっているという感じがいちばん強い」と、その理由を説明していました。

 クリストファー・リンさん(以下、クリスさん)が好きな作品として挙げたのは、現在Sekai ProjectがSteamでの販売を担当しているサスペンスビジュアルノベル『FATAL TWELVE』です。こちらは英語版の翻訳だけでなく、ゲーム制作のためのクラウドファンディングなどもお手伝いされたそうです。

 そしてクリスさんがもうひとつ挙げたタイトルが、Keyの『planetarian ~ちいさなほしのゆめ~』です。海外でもKey作品の人気が高いため、クリスさんはビジュアルアーツの馬場社長に、『CLANNAD』の英語版を発売したいという交渉を行ったのだそうです。

 その時に馬場社長から「まず『planetarian』から」というお話があり、それで『planetarian』の英語版を発売したところ、その成績が良かったため、その後に『CLANNAD』の英語版も手がけることができたとのこと。

 当時、クリスさんは『planetarian』のことをあまりよく知らなかったそうですが、テストプレイでテキストを読んでボロボロ泣いたのだとか。「海外の皆さんに、日本のいろんな素晴らしい作品を紹介できたのは、『planetarian』のおかげです」と、クリスさんは語っていました。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”

 ここでクリスさんに対して「アメリカでアドベンチャーゲーム(ビジュアルノベル)はどれぐらい人気なのか?」という質問がありました。

 クリスさんによると、アニメやマンガが好きな海外の人たちは、それらがきっかけとなって日本のノベルゲームも好きになっているとのこと。最近ではそうした日本のノベルゲームがSteamで発売されるようになったため、人気が高まっているそうです。

 「FPSのようなゲームに比べれば人数は多くないかもしれないが、海外にも熱心なファンが確実にいる。とくに日本の名作ノベルゲーなら、世界のどこにでもファンがいる」と、クリスさんは説明していました。

アドベンチャーゲームで大事なのはシナリオ? それともビジュアル?

 ここからは、客席の皆さんからの質問に対して回答することになりました。まず最初の質問は「たまに選択肢を選ぶだけのビジュアルノベルは、はたしてアドベンチャーゲームと言えるのか?」というもの。最初からいきなり重い内容で、ゲストの皆さんの雰囲気もやや重めに(笑)。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”

 この質問に対して瀬川さんは「僕のなかでは、あまり境目がない」と回答。ノベルゲームとアドベンチャーゲームでは、どちらも世界観とキャラが存在して、画面を見ながらプレイするという意味では、あまり違いがないと説明していました。

 柏倉さんもまた、「物語にフォーカスできるという意味ではどちらも変わらない」という回答でした。アドベンチャーゲームのほうが、選択のチャンスがより多く与えられているというイメージがあるものの、その間の境界線はあまりはっきりと分かれていないのではないか、と語っていました。

 「作品を作る際に、ジャンルを決めてから作ることはあまりない」と柏倉さん。ジャンルというのはできたものをどうやって売るか、お客さんに対してどういう印象を与えるか、という商品的な立ち位置をはっきりさせるものだと思う、とのことでした。

 ちなみに、この質問をした方が「自分の好きなアドベンチャーゲームはPC-98版『YU-NO』」と発言すると、客席のほかのお客さんからはなぜか大きな拍手が巻き起こりました。この反応からも、会場に詰めかけたみなさんの“濃さ”がよくわかります(笑)。

 このほかにも「自分がノベルゲームを買うとしたら、ビジュアルで選ぶのか?それともシナリオ出選ぶのか?」という、これまた厳しい質問が飛び出しました。

 「ビジュアルですね。『シュタインズゲート』に最初に興味を持ったのも、ビジュアルだったので」と柏倉さん。

 「小説も本文だけではなく、カバーイラストや帯も合わせた全体で雰囲気を作っているので、どちらも大事なんだけど、どちらか1つと言われたらビジュアルです」と瀬川さん。

 「まずビジュアルでフックして、そのあとでシナリオがおもしろくて人気になる。だから両方大事だけど、まずビジュアルで、その次にシナリオ」とクリスさん。

 3人とも「ビジュアル」という答えだったのには、MCのお2人も驚いていました。

最新VRミステリーアドベンチャー『東京クロノス』を発表!

 ここで会場が暗転して、スクリーンには意味ありげな文字が登場。MCの岸上さんによる「皆さんにはアドベンチャーゲームの未来の証人になってもらいたい」という言葉とともに、MyDearestが現在制作中のVRミステリーアドベンチャーゲーム『東京クロノス』がお披露目されました。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”
“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”

 『東京クロノス』はSteam VR/Oculus/PS VR向けに開発されており、2018年4月に発売されたばかりのスタンドアロンVRマシン“Oculus Go”でもプレイ可能とのこと。

 内容は、どうやら渋谷を舞台にしたミステリーとなるようですが、詳細はまだ謎に包まれています。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”

 今回のトークイベントでゲストとして登壇した3名の皆さんもそれぞれ本作に携わっており、柏倉晴樹さんが監督を、瀬川コウさんがシナリオを担当しています。

 またクリスさんの率いるSeai Projectが全世界に向けての販売を受け持ち、2018年夏にはクラウドファンディングも行われるそうです。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”

 また『ソードアート・オンライン』などでおなじみの三木一馬さんがプロデューサーを務めるほか、イラストレーターのLAMさんが、キャラクターデザインを担当しています。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”
▲LAMさんによるティザーイラスト。

 この『東京クロノス』については、現在ティザーサイトが公開されているほか、開発元であるMyDearest代表の岸上健人さんによる開発ブログも随時更新されていくとのことです。

 アドベンチャーゲームを振り返るトークから、VRという最新技術を用いた新作アドベンチャーゲームの発表まで、盛りだくさんの内容のイベントとなっていました。こうしたサプライズと出会えるのも、マチ★アソビならではと言えるでしょう。

“今こそアドベンチャーゲームの未来を語ろう。”