2018年5月14日(月)
5月12日、13日の2日間にわたって京都市勧業館みやこめっせで開催された、日本最大級のインディーゲームの祭典“BitSummit Volume 6”。
SIEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏とステージにてゲームAIの将来について語った、“モリカトロン株式会社”の森川幸人氏に、ゲームAIがもたらすゲームの未来についてを聞いた。
――まず最初にお聞きしたいのが、ゲームAIというのはどういうもののことを言うのでしょうか? 例えば、昔のゲームですと『ファイヤープロレスリング』シリーズのロジックレスラーだったり、プレイヤーが動きの方針を決めて自動で動くだけのようなものもゲームAIと呼ぶのでしょうか?
今だとゲームAIと言いますね。そういったものをビヘイビアツリーと呼んでます。
――ゲームAIというと、森川さんが以前に作っていたゲームのような学習して成長していくモデルのようなものを言うのかと思っていました。
AI自体にじつは定義がなくて、知能と言っているだけなんです。それで、AIという単語が浸透してきている今だと、わりと、プログラムなだけなのにAIと言ってしまっているものもありますね。
――僕たちは、『がんばれ!森川君2号』などの森川さんが作られたゲームで、AIというのは学習して成長していくもの、という認識があったので、ちょっと違和感があるんですね。
ただプログラムで動いているだけのものもAIじゃないとは、定義がないので言えないんです。僕が使っていたのはニューラルネットワークモデルというAIなので、胸を張ってAIと呼べるものでした。
――森川さんが作ってきたゲームは、今改めて見直してみるとほんとにオンリーワンというか、フォロワーがでてきていませんよね?
僕のゲームがそこまで売れなかったからではないですかね(笑)。AIを使ったゲームでミリオンを連発していれば追従があったかもしれません。そこはちょっと責任を感じてます(笑)。
――『アストロノーカ』だったりで賞を獲得したりはしていましたよね?
『くまうた』まではいろいろな賞をもらっています。営業的にいうといちばん売れたタイトルで40万本ぐらい、あとは10万本前後だったんですね。記憶には残っているゲームもあると思いますが、業績としてはそこまでではありませんでした。
――フォロワーが出てこないのは作るのが難しいというのもありますよね?
そうかもしれません。プランナーと言われる人は文系の人が多く、AIというのは工学的な知識がないと作れないので、そっちの知識を持ったうえでゲームのプランニングができる人がAIを使う、と判断しない限り使われないと思います。
――あとAIというのは、ゲーム開発の初期段階で採用を決めていないと入れられないものなのかなと思うのですが?
入れられないことはないんですが、途中からでは大変ですね。最初から入れたほうが早いです。
――インディーゲームのジャンルでローグライクと言ったり、手法としてマップのランダム生成が採り入れられているゲームもあって、ゲームの味付けや開発の効率化がはかられたりしています。AIがもっと違う形でゲーム開発に入りこんでくる可能性はありますか?
大いにあると思います。2つありまして、1つはゲーム開発の部分で、ステージを生成するとか、バグを見つけるとか、全体のバランス調整をするとか、パラメータの調整をするとか。これを”外のAI”という言い方をするんですけれど、外のAIで開発コストをおさえる。もうひとつは”中のAI”で、キャラクターの行動や、自然な会話をするとか、そういうところのAI。この2つがどんどん増えていくと思います。
今、開発費のコストカットをするとしたらもうAIに頼むしかないんです。私の会社のモリカトロンでゲームAIの開発を行っていますが、一緒に仕事をしている多くの会社はソーシャルゲームのメーカーです。運営型のゲームの場合、何週間に1回、アップデートでカードを追加したりしていくと数年で2000キャラを超えてくる。そうすると、昔のキャラクターの性能とか、それに伴うバランスとかの調整がもの凄い作業になってきます。
しかもそこは課金の部分なのでデリケートです。今は手作業で必死になってやっているそうですが、いずれ破綻するのも見えていると。そういったところAIに任せることができれば大きなコストカットができます。
コンシューマでもAAAタイトルになれば、規模の部分で人力ではどうしようもなくなるところが出てきます。インディーではもともと予算が少ないのであれば、AIに任せられるところを任せてしまえば、ほかのところに予算を割けますから、どんどんAIが活躍する場面は出てくるでしょうね。
――わりと今はAIが優秀な裏方というイメージですが、森川さんのゲームは根幹にAIが使われていました。
僕はわりとどうかしていて(笑)。AIが好きすぎて、AIを使いたい、これを使うことを許されるなら、どういうゲームにすればいいのかを後から考えるぐらいだったので。
――今、森川さんがAIを使ったゲームを作るとしたらどんなゲームですか?
もうAIにゲームを作らせます。AIを使って何かをするとかではなくAIにゲームを作らせます。いきなりRPGとかは無理なんですけど、例えばパズルゲームぐらいゴールがしっかりしているものだと、うまくいくかもしれない。
スリーマッチゲームはもう頭打ちで、ほんとにアイディアがないのか、人間が既成概念にとらわれて突破できない可能性もある。AIだとひょっとしたら人間が思いつかなくて、あっそういう手があったのか、というブレイクスルーができるかもしれない。3個ではなく7個がいいかもしれないとか、そういうああでもないこうでもないというのをやるのはAIが得意なので、そういうことをやらせてみたいですね。
AIが作ったゲームというのはまだ世の中に出ていないはずなので、それはチャレンジしてみたいです。
――あるメーカーで、ゲーム開発でバグが発生しても面白いバグは採り入れてしまう、という話を聞いたことがありますが、ちょっとそれと近い話かもしれません。
人間の既成概念を突破するという点ではそうですね。
AIを使ったゲームであとやってみたいのは、すべてがAIで動いているゲームです。フィールドの生成からキャラクターの行動まで、どうせならフルAIだ! と。スクリプトなんてない世界。もう、AI搭載って言うぐらいではつまらない。まあプレイするのは人間ですけれど(笑)。
――それってエンジンなんですか、ゲームなんですか?
もうどう定義すればいいかわからないですね。
――例えばそれがフリーで配られたら、それを使って作ったゲームが売られることもありそうですね。
商売的なことを考えると手が縮こまるので、商売のところはうまい人とタッグを組んでやりたいですね。
――ちょっと細かいことをお聞きしたいのですが、ランダム生成のゲームって、僕たちは完成型しか見ていません。ランダム生成だとハチャメチャな世界ができそうなものですが、そうなっていないのはどうしてですか?
それはAIにそこまでハチャメチャなことはダメだよと教えてあげれば、AIはちゃんとチューニングできます。それはリアルタイムにできるので、そのユーザーにとってはそこまでやるのはやめてほしいとか、ユーザーごとにチューニングされたゲームを提供することもできます。
今は同じ難易度の同じゲームをみんな遊んでいますが、AIを使うと忖度しながら、このプレイヤーはここが苦手のようだからもうちょっと軽めにしておこうか、みたいにユーザーごとにチューニングしてくれます。
――ゲームとしての理想ということでいうと、プレイヤーはまったく気がつかないうちに、その人にとってちょうどいいゲームを遊んでいると。
「このゲーム、バランスいいね!」ってみんな言っているけど、並べてみると全然違うゲームだった、なんてこともあるかもしれません。全部のユーザーパターンというのは事前に想定することはできないので、これはAIを使わないと実現できません。プレイログを見ながらゲームを生成していく形です。
――そういう時代がいずれ来るんですねぇ。もうレベルデザインではなく、個人個人にあわせてレベルデザインがされていくというような。
ゲームって20世紀の大量生産時代と同じで、“ユーザーを見ないまま大量に同じものを配って消費させる”という文化だった頃の作り方をまだしています。今はそうではなくて、カスタマイズされていて、ニッチでもたくさんあれば大きなボリュームになる。ゲームも個々にカスタマイズされるものがでてきても、もうそろそろいいはずですね。
僕がゲームを作っていた20年ぐらい前だとAIを搭載するのは大変だったんですけど、今はもうスマホでも簡単に載りますので、現実味がありますね。
――ソーシャルゲームのメーカーがモリカトロンに仕事をお願いしてきているというのは、やはり時代の流れでしょうか。
コンシューマのメーカーの開発現場は今でも手作業が多いようです。いわゆる職人気質ですね。ソーシャルゲームのメーカーはそこに先入観はなく、合理化のためならなんでもする、といった感じですね。
――最後に聞かせてほしいのですが、ゲームAIがこれからゲームにもたらすことはどんなことですか?
ちょっと先の未来のことを言うと、見たことがない世界や遊びを提供してくれる可能性がある。初めて人間以外のもので、人間を楽しませる技術が生まれたんです。そんなことが起こる可能性があると思っています。あ、でもどこかの社長さん向けには、AIは開発コストを下げられますよ、と言いますけれど(笑)。