2018年6月9日(土)

【おすすめDLゲーム】『WILL -素晴らしき世界-』は最後までプレイしたら忘れられないADVになる

文:キャナ☆メン

 ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、日本語版が6月1日から配信されているPC用ソフト『WILL -素晴らしき世界-』のプレイレポートをお届けします。

『WILL -素晴らしき世界-』

 『WILL -素晴らしき世界-』は、人々の“願い”が込められた手紙を受け取った神様が、そこに書かれた出来事の順番を入れ替え、送り主の身に起きた出来事も変えることで“願い”を叶えるアドベンチャーゲームです。

 送り主はさまざまで、女子高校生やオタク男子、画家、刑事、生き別れの姉弟など、多彩なキャラクターたちが登場します。次々に届く手紙によってその心情やドラマが描かれ、時に意外な人物たちの運命が交差するストーリーは、特に群像劇を好む人を夢中にさせるでしょう。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲学生の甘酸っぱい青春を感じさせるワンシーン。2人の運命はどうなる?
『WILL -素晴らしき世界-』
▲手紙の送り主となる刑事は2人いて、熱血漢の新米(右側)とクールなその上司(左側)、別々の視点からストーリーが描かれていきます。

 また、ゲームの主人公となる神様も魅力的な存在です。人々の願いを叶える役目を負った少女のユアンと犬の姿をしたイシの凸凹コンビが、笑いを誘うコミカルな会話でプレイヤーを和ませてくれます。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲語尾にワンが付くのに犬じゃないと主張するイシに、「こんなにワンワン言うのに犬じゃないなんて……」と内心ツッコミを入れるユアン。

 なお、本作はゲームデザインやストーリーに驚きをいくつも感じる作品なので、本音を書けば、何も見ずにプレイしてほしいところ。ストーリーの内容や驚きを感じる部分への具体的な言及はなるべく避けますが、心配な方は騙されたと思ってゲームをダウンロードし、この記事のことは忘れてください(笑)。

『WILL -素晴らしき世界-』 『WILL -素晴らしき世界-』
『WILL -素晴らしき世界-』 『WILL -素晴らしき世界-』
▲2017年6月にリリースされて以降、日本語版が待望されていた本作。オープニング映像のセリフによる演出も、しっかりとローカライズされています。

手紙で人の運命を変える独特なゲームシステム

 手紙に書かれた出来事の順番を入れ替えるという本作の特徴的なゲームシステムは、イメージするために少し説明が必要かもしれません。

 まず設定として神様は、手紙を分割して別の順番でつなぐと起きた出来事を変えられる、特殊なペンを使って人々の運命を変えます。

『WILL -素晴らしき世界-』

 ゲーム画面では、このペンで分割された手紙のうち、順番を動かせる文が白色のブロックで表示されます。

 白いブロックを動かして出来事の起きる順番を変え、不幸を回避できるような流れの文章に作り替えれば、手紙の内容と送り主の身に起きることが変化し、最初とは異なる結末を迎えるわけです。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲送り主の運命を変えるため、手紙の文を入れ替える画面。黒いブロック内にある文章は動かせず、白いブロックだけを動かせます。
『WILL -素晴らしき世界-』
▲難易度ノーマルを選択すれば、どんな出来事が不幸を呼ぶのか、そのヒントが赤文字で表示されます。

 同じ手紙でもブロックの並べ順によって結末が分岐し、願いを叶えて不幸を回避する以外にも、笑えるおかしな結末もあれば、拍子抜けしてしまうような結末、時にはより大きな不幸を迎えることもあります。

 カンタンに書けば、手紙の1通1通がマルチエンディングになっていて、選択肢を選ぶ代わりに、文の順番を入れ替えて手紙の内容を変えていくのです。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲多くの手紙は5つ前後のエンディングが存在し、その内容に沿ってランクが設定されています。

 このユニークな遊びがとても楽しい! 新たに起こりうる出来事を想像しながら文を入れ替えているので、まるで“自分で話を変えている”ような感覚を味わえます。

 そのため、手紙の送り主を助けようと真剣に文の並び順を考えた後も、「こんな風に文を入れ替えたら、きっとおもしろいことが起こるんじゃないか?(笑)」とあれこれ想像し、さまざまな可能性を探って並べ替えに夢中になってしまいます。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲2通の手紙が同時に届くことも少なくありません。2人を同時に救うには、1通の手紙に対処するよりも頭を悩ませることが多く、ゲーム的なやり甲斐を感じられます。
『WILL -素晴らしき世界-』
▲場合によって、手紙の内容がこんなシーンに発展してしまうことも。基本的にはシリアスな展開が多いので、思わず腹を抱えました(笑)。

 また、ゲームを進めると随所で新しいルールが追加され、プレイヤーを楽しませる仕掛けが豊富なのもうれしいところです。特に終盤は、緊張感をもってプレイできるでしょう。手紙の文を入れ替えるシステムだけでなく、全体的なゲームデザインにオリジナリティを感じられるタイトルだと思います。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲なお、届く手紙はフローチャートで管理されており、ここがゲームを進めるうえでのメイン画面でもあります。

手紙がつなぐ運命が複雑に絡み合うストーリー

 本作でおもしろいのは、手紙というエピソードの1つ1つに分岐があり、さらに手紙と手紙が織り成すキャラクターのストーリーにも分岐があるという点です。また、そのすべてを覆うゲーム自体にもストーリーが存在し、エンディングは1つでありません。

 つまり本作は、手紙、キャラクター、ゲーム全体という3つのレイヤーで物語が描かれ、それぞれに異なるエンディングが存在します。そのすべてを、もっともミクロな“手紙”がつないでいくデザインは秀逸です。ある手紙が、キャラクターの結末にもゲームのエンディングにも影響することがあるわけですから。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲イシが、“バタフライエフェクト”という言葉を使い、説明。たとえ小さな出来事でも手紙の内容を変えると、その人の運命を大きく変えてしまうかもしれないということがよくわかります。

 手紙の結末はプレイヤーのゲームプレイで変えられます。どのように物語が紡がれ終わりを迎えるか、運命を変えるというストーリーの体験を、とても強く実感できるゲームだと思います。

 さらに、登場するキャラクターそれぞれも魅力で、その人物の“生い立ち”がしっかり作られています。手紙で明らかにされていく個々の背景は、心に刺さるものが少なくなく、人物像にリアリティを加えてストーリーにドラマを感じさせます。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲手紙の送り主には、プロフィール画面が用意されています。各キャラクターの個性にかかわる趣味や経歴、その身に起きた出来事などは、手紙を読むことによって埋まっていきます。
『WILL -素晴らしき世界-』
▲プロフィールを確認できるキャラクターは12名。さまざまな国籍の人物が(中には人でないキャラクターも)いて、日本人もいます。

 また、手紙はすべて1人称で書かれているので、文面にキャラクターの個性がよく表れていて、それぞれの手紙を読み進めるのも楽しいです。

 この点は翻訳のクオリティに依るところも大で、単に正確な日本語に訳すのではなく、キャラクター性を重視した文章表現になっているのがうれしい! 文章の表示速度やテンポでキャラクターの心情を表現する演出も、違和感なく楽しめますし。

 ローカライズを担当した方々に感謝です。なおローカライズは、翻訳者の小泉千惠さんが行い、開発の王妙一(ワン・ミャオイー)さんが内容を確認した後、PLAYISMが最終チェックを行ったとのこと。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲カルロスという人物が、高所恐怖症で錯乱し、ものすごい速さで心情が表示される場面。セリフ回しの個性のみならず、その焦りを表すように、文章の後半は句読点がありません(笑)。

ぜひ最後までプレイしてほしいゲーム

 ゲームを起動すると、以下の画像のような2つのアナウンスが表示されます。

『WILL -素晴らしき世界-』 『WILL -素晴らしき世界-』

 遊び心ある作り手のメッセージなわけですが、書いてあることは事実です。特にプレイ時間が10時間を超えてきたら、ハンカチを忘れないほうがいいでしょう。

 おそらく12~14時間くらいでゲームをクリアできるかと思います。その時トゥルー・エンディングにたどり着いていれば、きっとハンカチは濡れているでしょう。そして、心に生まれた感動に少しでも長く浸っていたい、そんな風に思えるはずです。

 もし本作を購入したら、仮に途中でプレイが止まることがあっても、ぜひトゥルー・エンディングを見てほしいと思います。

『WILL -素晴らしき世界-』
▲ゲームをプレイすると生まれる多くの謎。そのすべてが明らかになる時、本作のさまざまなことに対する納得と、大きな感動を得られます。

 なお、『WILL -素晴らしき世界-』を手掛けた王妙一さんの個人スタジオ“WMY Studio”のTwitterアカウントPLAYISMのサイトによると、本作はPS4/Nintendo Switch版も開発中とのことです。

 アドベンチャーゲームが好きな人であれば、『WILL -素晴らしき世界-』は忘れられない1本になると思うので、ぜひプレイしてみてください。

データ

▼『WILL -素晴らしき世界-』
■メーカー:PLAYISM
■対応機種:PC
■ジャンル:ADV
■配信日:2017年6月6日
■価格:1,480円(税込)
※開発:WMY Studio
※日本語版は2018年6月1日より配信

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