2018年6月15日(金)
米国・ロサンゼルスで現在開催中の“E3 2018”。本稿では、E3に合わせて行われた各社の発表やプレスカンファレンスを受けて、その注目ポイントと、そこから見えてきた今後のゲーム業界の動向についての考察をお届けする。
“E3 2018”での各社の発表では、ゲームハードに関する話題がまったくと言っていいほど出なかった。昨年の“E3 2017”でもゲームハードに関する発表は少なかったが、それでもXbox One Xがお披露目されるといった話題があった。
だが今年は、マイクロソフトのフィル・スペンサー氏が「次世代のXboxも開発を進めている」と語ったのが、ゲームハードに関する唯一の話題であった。だがそれも、プラットフォームメーカーとして次の展開を考えているというのは、ある意味当然のことだろう。
もちろん、2016年にNintendo SwitchやPlayStation 4 Proが発表された時のように、今後E3とは別のイベントで新ハードが発表される可能性もないわけではない。とはいえ、E3での各社の発表を見れば、今年の年末商戦は現行ハードのゲームソフトが主役になると断言できる。
なぜなら、今回のE3で各社から発表されたゲームソフトの数々が、非常に充実したラインナップとなっていたからだ。
ファーストパーティの独占タイトルだけを挙げても、Xbox Oneでは『Halo Infinite』、『Forza Horizon 4』、『Gears 5』と、Xboxを代表する人気シリーズの最新作が一斉に発表されている。
一方、PS4は『The Last of Us Part II』『Ghost of Tsushima』、『DEATH STRANDING』、『Marvel’s Spider-Man』など、すでに発表済みのタイトルが中心だったが、そのクオリティはいずれも素晴らしいものだった。
そしてNintendo Switchでは、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』にこれまで登場したファイターが全員参戦するという驚きの発表が行われて、世界中のファンから喝采を浴びている。
日本のソフトメーカーが大きな存在感を示しているのも、今年のE3の特徴だ。
フロム・ソフトウェアは、Activisionとタッグを組む和風ACT『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』と、SIE JAPANスタジオと組んだPS VR専用ソフト『Deracine(デラシネ)』を発表しただけでなく、初代Xboxの傑作をリマスターする『Metal Wolf Chaos XD』をアナウンスして、大いに注目を集めた。
またスクウェア・エニックスは、『シャドウ・オブ・ザ・トゥームレイダー』『キングダム ハーツIII』といった人気シリーズの最新作を前面に押し出す一方で、プラチナゲームズが開発を担当する『バビロンズフォール』や、新機軸の『THE QUIET MAN』という完全新作を明らかにするなど、ゲームタイトルの層の厚さを見せている。
さらに、カプコンの『デビル メイ クライ 5』『バイオハザード RE:2』、バンダイナムコエンターテインメントの『テイルズ オブ ヴェスペリア リマスター』『JUMP FORCE』、コーエーテクモの『仁王2』、そしてマーベラスの『DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)』と、今回のE3では日本のゲームメーカーによる新発表が相次いだ。
スマホゲームへの進出をはじめとする日本のゲーム業界を取り巻く変化の波が一段落して、この1、2年はふたたび家庭用ゲーム機に力を入れるソフトメーカーが増えてきている。今回のE3は、それが新作ゲームタイトルという具体的な形となって表れた印象だ。
一方、海外メーカーのタイトルに目を向けると、『Battlefield V』、『Anthem』、『Dying Light 2』、『サイバーパンク2077』、『ディビジョン2』、『アサシン クリード オデッセイ』など、こちらも注目作がめじろ押しだ。
ここまで密度の濃い大型タイトルが各社から一斉に発表されたのは、PS4とXbox Oneの登場から5年目を迎えて、本格的なソフトの収穫期へと突入したからだろう。
ハードの登場から5年目ともなると、特に海外では次世代機への期待の声もチラホラと出始めている。だが我々ゲームファンにとっては今こそが、ハイクオリティなゲームを存分に堪能できるうれしい時期だと言える。
そこに、2年目を迎えてますます好調なNintendo Switchが加わって、2018年の後半から2019年にかけては、本当に充実したゲームライフを送ることができそうだ。
そんなソフトラッシュとなった今回のE3でも、特に強い印象を与えてくれたのが、ベセスダ・ソフトワークスだ。今年の同社のプレスカンファレンスは、非常に見応えのあるものとなっていた。
ド派手なゲームプレイが披露された『RAGE 2』も印象的だったが、同社の今年の目玉はなんといっても、人気オープンワールドRPGの最新作『Fallout 76』だろう。
しかも、それで終わるかと思いきや、完全新作となる宇宙RPG『Starfield』に加えて、ファンタジーRPGのナンバリング最新作『The Elder Scrolls VI』の開発まで明らかにされたのだから、発表会場に詰めかけた人々がスタンディング・オベーションを送ったのも頷ける。
ところで、ここで注目したいのは、今年の同社の目玉と言える『Fallout 76』が、オンラインRPGとなったという点だ。
Bethesda Game Studiosのトッド・ハワード氏は、『Fallout 76』を「ソロプレイでも楽しめる」と語ったが、一方で「ゲーム内にNPCは存在せず、出会う人々はすべて他のプレイヤーだ」とも説明している。
『Fallout』シリーズはこれまで、プレイヤー自身による選択の自由を楽しめるシングルプレイRPGとして好評を博してきただけに、この発表にはファンの間からさまざまな反応が挙がっている。
じつは『Fallout 76』に限らず、今年のE3では海外の大型ゲームタイトルで、このようにシングルプレイとマルチプレイの垣根をなくす試みに挑んでいるものがいくつか登場している。
EAの『Anthem』は、『ドラゴンエイジ』や『マスエフェクト』といったRPGシリーズを手がけたBiowareが開発を担当しているが、こちらもオンラインでの協力プレイと高密度のストーリーを融合させたRPGだ。
ユービーアイソフトの『ディビジョン2』は、前作の『ディビジョン』の時点からオンラインRPGとしてリリースされているが、トレイラーを見ると本作ではストーリー性がさらに強化されている印象を受ける。
一方、E3に先駆けて発表された『Call of Duty: Black Ops 4』は、シングルプレイのキャンペーンモードが搭載されないことが明らかになっている。
『コール オブ デューティ』はマルチプレイの対戦が人気のシリーズだが、シングルプレイのキャンペーンを好むファンも少なくないため、この決定も反響を呼んでいる(ただし『Black Ops 4』には、キャンペーンとは別の形でシングルプレイ向けのミッションも用意されるとのこと)。
現世代のゲーム――特に海外の大型タイトル――では、グラフィックや内容のボリュームが増大した結果、莫大な開発費用が必要になっている。そこで、プレイヤーが1つのゲームを継続的にプレイし続けるような工夫が求められている。“Game as a Service(サービスとしてのゲーム)”という言葉が生まれているほどだ。
そのためには、対戦がメインではないストーリー重視のゲームであっても、オンラインに接続して継続的なアップデートを行っていく形が考えられている。提供予定のDLCをまとめて先行購入できる“シーズンパス”といったスタイルもその一例だ。
だが、他のプレイヤーと一緒に遊ぶマルチプレイに、そこでしか味わえない楽しみがあるのと同様に、シングルプレイにもまた、その形だからこそ体験できる魅力があるはずだ。
たとえば、核戦争後のロシアを舞台にしたFPS『メトロ エクソダス』や、『ウィッチャー3』を手がけたCD PROJECT REDが制作する新作RPG『サイバーパンク2077』は、シングルプレイのゲームであることが明言されている。
また、『Gears of War』はマルチプレイの人気が高いシリーズだが、今回のE3で発表されたトレイラーでは、過去作から引き続き登場するキャラクターたちのストーリーが強くアピールされていた。
いずれにしても重要なのは、そのゲームの内容に適した体験を味わえるということだ。いくらオンライン必須のタイトルであっても、肝心のゲームプレイが魅力的でなければ、継続的に遊び続けることはないのだから。
『Fallout 76』に話を戻すと、同作はこれまで『Fallout 3』、『Fallout 4』を手がけてきたトッド・ハワード氏が制作を指揮しているだけに、ファンが望んでいるゲームプレイをよく分かっているはずだ。そのうえでマルチプレイとなることで、どんな新しい体験が生まれるのか、大いに期待したい。
また一方で、Bethesda Game Studiosの完全新作である『Starfield』は、シングルプレイのRPGになると伝えられている。同作がシングルプレイならではの魅力をどれだけ堪能させてくれるのか、今から楽しみだ。
“サービスとしてのゲーム”という考え方は、シングルプレイとマルチプレイといったプレイスタイルの問題を超えて、ゲームハードの、そしてゲームそのものの将来にまで及んでいる。
“Xbox E3 ブリーフィング”では、現在北米ほかで実施されている“Xbox Game Pass”というサービスについて、繰り返し言及されていた。これはプレイヤーが一定の月額料金を支払うことで、100タイトル以上のXbox OneやXbox 360のゲームを、自由にダウンロードしてプレイできるというものだ。
要するにゲームの“定額遊び放題”サービスなのだが、“Xbox Game Pass”ではファーストパーティーの新作タイトルは、その大半が発売時に即、利用可能になってきている。ちなみにこのサービスは日本でも準備中とのことだが、開始時期は未定だ。
またマイクロソフトのフィル・スペンサー氏は、今回のE3でゲームの“ストリーミングサービス”についても言及した。これはXboxのゲームをストリーミング技術によって、PCやスマートフォンといった他のデバイスでもプレイできるようにするというもの。ただしあくまで構想を語っただけで、詳細については未発表だ。
定額遊び放題とストリーミングの組み合わせといえば、“PlayStation Now”を連想する人もいるだろう。こちらはPS3やPS4のゲームを、クラウド技術を使ってPS4やPCで遊べるというものである。つまり、これらのサービスはすでに現実のものになっているわけだ。
さらに言えば、多数のコンテンツを定額で、しかもデバイスを問わず楽しめるというのは、音楽や映像ではすでに定着しているものでもある。ゲームをオンラインで購入するのが当たり前になりつつある現在、こうしたサービスが日本でも普及する環境は、すでに整いつつあると言えるだろう。
そして、先に説明した“サービスとしてのゲーム”という考え方と、この定額遊び放題というスタイルは、非常に相性がいい。
じつはマルチプレイメインのゲームでは、マップなどの追加コンテンツを購入したプレイヤーと、購入していないプレイヤーの間でコミュニティが分裂してしまうのを避けるため、そうした追加コンテンツを無料配信するケースが増えている。今回のE3でも、そうした発表が相次いだ。
もちろん、従来は有料だったコンテンツを無料で配布しているのだから、採算面では問題があるはずだ。ところが、そもそもゲーム本体が定額制のコンテンツの1つとなれば、そうした矛盾も解消できるはずだ。
ゲームの定額制とストリーミングが普及すれば、“ハード”も“ソフト”も具体的な形を失って、“サービスとしてのゲーム”だけが存在することになる。ある意味、今のスマホゲームに近い環境が、そう遠くない未来にコンシューマゲームにも訪れるのかもしれない。
ハードについての大きな話題がなかった今回のE3からは、そんな“ハードなきゲーム”の未来が垣間見えてくるのだ。