2018年6月27日(水)

『テトリス エフェクト』は未知の感情を体験する旅。プレイレビューと水口哲也氏コメントを紹介

文:電撃PlayStation

 2016年、PS VRの登場と同時に『Rez Infinite』をリリースし、数々のゲームアワードを受賞した水口哲也氏が、2018年秋、また新たな音と光の魔法をPS4にもたらしてくれます。その魔法の名前は『TETRIS EFFECT(テトリス エフェクト)』。もちろん、PS VR対応です。

『テトリス エフェクト』

 すでにE3で試遊出展されていた本作ですが、今回水口氏のプレゼンテーションとともにプレイする機会を得ることができたので、電撃PlayStation編集部のあーやが本作のインプレッションと水口氏のコメントをご紹介していきます。ただ、本作がどんなゲームなのかを具体的に説明する前に、遠回りですがまず“テトリス エフェクト(=効果)”という現象について説明させてください。

“テトリス効果”で『テトリス エフェクト』が心に残る!?

 “テトリス エフェクト”とは、『TETRIS(テトリス)』をプレイ後しばらくの間、あるいは夢の中でも、ブロックを動かし、ラインを消していくシーンが想起されたという現象のこと。

 2000年、ハーバード大学医学校からの研究レポートによれば、7時間、3日間にわけて『テトリス』をプレイしたところ、約3分の2にあたる63%のプレイヤーが、この現象を報告したそうです。さらには、脳にダメージを負い、記憶障害を持った患者においても、患者はそのゲームが何だったか、遊んだこと自体思い出せなかったにもかかわらず、同様に『テトリス』のゲームイメージが現れたそう。また、PTSDの患者に48時間以内に『テトリス』をプレイしてもらうと、トラウマが軽減されたという報告もあるそうです。

 それではこのゲーム、なんで『テトリス エフェクト』って名付けられているのか。学術的な言葉とかすっ飛ばして自分の主観だけでお伝えしますと、そりゃもう、これまでの『テトリス』よりも、“もっとずっと印象に残るから”のひと言に尽きるからだと思います。

『テトリス エフェクト』
▲何はともかく、画面がすさまじく美しいのが伝わるかと思います。そして効果音やBGMとの一体感も流石の一言。
『テトリス エフェクト』
▲しかもそういった“世界”はゲームプレイ中何度も変化し、私達の心をちょっとした“旅”にいざないます。

 おそらく、トレーラームービーを見た多くの方が想像する本作の印象は、『テトリス』のベーシックなゲーム性を『Rez Infinite』のような美しい光と音の演出で彩ったタイトル、というものではないでしょうか。その印象は間違ってはいません。では本作は『テトリス』と『Rez Infinite』を単に足して2で割ったゲームなのかと言われると、それは間違い。本作を遊んだら、すぐにこれまでの『テトリス』のプレイフィールがそっくりひっくり返ることでしょう。

 また、「『Rez Infinite』はPS VRで遊ぶ意味はあったけど……『テトリス』でしょ? 意味あるの?」という意見、これも間違いです。むしろPS VRで遊ぶことでなおさら、これまでの『テトリス』のプレイフィールがそっくりひっくり返ることでしょう。ではその理由を以下、プレイレポートともに詳しく説明していきます!

『テトリス エフェクト』

これが『テトリス』!? ちょっとキレイ過ぎませんか?

 まず、タイトル画面はパーティクルが彩る宇宙から地球を見た視点。画面中央にはロゴのほかT字型のテトリミノ(ブロック)が浮いていました。このタイトル画面で「おっ」と思ったのが、いわゆる“普通のゲームモード”の名称が“ストーリーモード”となっていたこと(ただし、名称は今後変更する可能性があるとのことです)。『テトリス』と言えば、何年もの歴史がある伝統的なパズルゲーム。その『テトリス』にストーリーがあるというのです。どういうことか? その答えは水口氏が手がけるゲームだけあって、やはり“光”と“音”にありました。

 久しぶりの『テトリス』だったので、BEGINNER、NORMALという2つの難易度のうちBEGINNERを選びゲームスタート。ゲームを始めると見えてくるのは、黒一色の背景にぼんやりと浮かぶフレームとテトリミノ。テトリミノを回転させたり動かすたび独特なSEが鳴り、ラインを揃えるたびテトリミノがパーティクルとなって消えていく。そしてラインをどんどん消していくたび、じょじょに背景にクラゲやイルカのようなオブジェクトが増え、BGMも盛り上がっていくのです。この繰り返しが実にキレイで、そして心地いい! 

 映像と音、そして自分のプレイのコラボレーションは『Rez Infinite』でも体験することができましたが、本作のジャンルは落ち物パズルということで、ゲーム性がよりシンプルに、そしてやや受け身になっているためか、まったく別種の体験。コラボレーションがより派手な方向に進化しているという印象を受けただけでなく、さらに1つのテーマ、シーンをより具体的に掘り下げ、プレイヤーがストーリーラインを感じやすいように工夫されているようにも感じました。そう、この“コラボレーション”とそこから生じる“エフェクト”は“ストーリー”なのです。

『テトリス エフェクト』
▲中盤ではパーティクルが集まりマンタのような形を作っています。
『テトリス エフェクト』
▲終盤は背景に地球や銀河が出現、また魚群も見られます。画面左下のパーティクルはクジラを模しています。

 あ、今「この人ヤバい人だ……」って思いましたね? でもちょっと待って! 私たちが普段誰かとコミュニケーションを取るとき、言語を介さず目線やしぐさでも何かを感じることはありますよね。これと同じで、ストーリーを感じるにあたっても、テキストは必ずしも必要ではないと思うのです。今回私は、自分がゲームをプレイすることで、さまざまなオブジェクトが画面を彩り、BGMが私のゲームプレイを祝福するかのようにテンションが増していく、これだけで少なくとも言葉にできない、不思議なストーリー性を感じることができました。

『テトリス エフェクト』
▲幾何学的な模様でも、BGMや効果音といったその他の要素が加われば、不思議となにかしらの感情が湧き上がってきます。

『テトリス エフェクト』は、旅だ……!

 水口氏は本作を通じてプレイヤーの皆さんにちょっとした“ジャーニー”を味わってもらいたい、とおっしゃっていましたが、それを聞いた私も“なるほどこれは確かに旅だ”と素直にその言葉を受け入れることができました。実際、私たちは旅を通じて、非日常の物語を言語を介さず感じているのですから。

 『テトリス エフェクト』のストーリーモードが旅である理由は他にもあります。それは映像と音のコラボレーションが定期的にガラリと変化するから。本作の背景映像や効果音は、『ルミネス リマスター』で言うところの“スキン”に相当するものですが、もはや“世界”と言い換えてもいいほどのように感じました。その“世界”がプレイしていると、どんどん、しかもガラリと変化していくのです。

『テトリス エフェクト』

 今回のプレイではクリアまでに深海のような世界、ピラミッドのような三角形が印象的な世界、和風の世界、ケチャをBGMにした呪術的な世界、という4つの世界を確認することができました。またこれらの“世界”は、画面左下に表示された数字だけラインを消せば先の世界に進めるようになっており、経由する世界の数は、最初に選んだ難易度次第で変わっていくそうです。

『テトリス エフェクト』
▲今回は遊べませんでしたが、すでにSF的な世界も発表されています。

 そしてもちろん、最初にお伝えした通り、本作はPS VRに対応しています。PS VRで遊んだ本作の感覚は『Rez Infinite』を通じて “あぁ、VRのゲームってこういうものなんだ……!” と感じたのと同じように、非常に新鮮なもの。

 こればかりは口で説明するのが難しいのですが、『Rez Infinite』のプレイ感覚が“無重力空間で浮遊している感覚”であるとするならば、本作は“プラネタリウムをシートに座って楽しむ、あるいはテーマパークのアクアトンネルをアトラクションに乗って抜けていく感覚”が近いかもしれません。その迫力、没入感は『Rez Infinite』とはまた別種のもので、上記の体験が何倍にも増幅されて感じました。

 ということで、私の『テトリス エフェクト』の初プレイは、たった8分の旅ではありましたが、本作が『Rez Infinite』で行われた数々の試みを継承しつつ、しかも『テトリス』の完全新作であるとわかる、有意義なものとなりました。

 今こそ冒頭で私が感じた、“『テトリス』のプレイフィールがまったくひっくり返るような印象を受けた理由”についてお話しましょう。自分は今まで『テトリス』と言えば、ストイックにブロックを積み上げ、ある意味禅のように無心でテトリス棒を使ってひたすら4ライン消しを行い続けるゲームだと思っていました。

 しかし本作では、音と光の刺激がまるで自分が異国に降り立ったかのような感情をもたらします。それはときに癒やしであり、ときに興奮です。今回のプレイでは音楽にノリすぎたあまりコントローラ操作をミスしてしまうこともあるほどでした。次にどんな世界が見られるのか、つねにワクワクしながらプレイし続けることができたのです。このダイナミックさこそ、本作を本作たらしめる最大の要素と言えるでしょう。

『テトリス エフェクト』

ゲームシステム面でも進化アリ!

 『テトリス エフェクト』におけるゲームシステム面の新要素としては、“ZONEシステム”というものがありました。これはラインを消すことで貯まっていくZONEゲージが満タンになったら任意のタイミングで一定時間“ZONE”が発動できるもの。発動中はビジュアルがモノトーンに変化し、いわゆるバレットタイムのようにテトリミノが落ちなくなり、ZONE継続中はラインを揃えても消えずに下にスタックされ、ZONE効果終了時にまとめて消える仕組みです。ZONE効果終了時にラインがまとめて消えるので、消しているのにどんどん積み上がっていくのが、独特の緊張感を生んでいると感じました。

 なお、今回は一度に10ラインぐらいしか同時消しできませんでしたが、一度に大量のラインが消える爽快感はこれまでの『テトリス』では経験したことがないものでした。ちなみにZONEという名前は、『テトリス』のトッププレイヤーたちが自分たちが無我の境地で『テトリス』をプレイしていることを「ZONEに入る」というように呼んでいることに由来しており、実装理由もそのようなトッププレイヤーの感覚を体感してもらいたかったため、とのことです。

 また、「名称は未定なのですが……」とおっしゃりつつプレイさせてもらったのが、“エフェクトモード”。こちらは定期的に“規定回数後に積んでいたテトリミノが消える”、“画面が上下左右逆さまになりコントローラ操作も逆さまになる”、“超巨大なテトリミノが降ってくる”、など、プレイヤーにさまざまな衝撃が訪れるモード。こちらはゲーム的なおもしろさをより追求したモードになりそうです。

 さらに、このほかにも開発中のモードが複数あるそうで、プレイヤーにいろんなモードを通じて感情を体験してほしいとのことでした。未発表のゲームモードは近いうちに発表したい、と水口氏は語っており、続報にも注目です。

 なお、ゲームモードについては今回体験できたものと開発中のもののほか、マラソン(ラインを規定数消すまでのスコアを競う)、スプリント(ラインを規定数消すまでの時間を競う)、ウルトラ(制限時間内にどれだけスコアを稼げるかを競う)、といったおなじみのものも、既に実装されることがアナウンスされています。

 ちなみに、『テトリス』をやりこんでいる方にはおなじみのテトリミノを入れ替えてストックできる“HOLD”機能や、T字のテトリミノをギリギリのタイミングで回転させることで隙間にねじ込む“Tスピン”というテクニックは本作でも採用されているようでした。

VRでリラックス体験を……水口氏が語る『テトリス エフェクト』の意図

 最後に、プレゼン中にいくつか聞けた水口氏のコメントをご紹介します。 

『テトリス エフェクト』

――本作の開発のきっかけについて教えてください。

水口氏:『テトリス』って、ある意味最初から完成しているタイトルじゃないですか。そして“『テトリス』って進化させられるのか?”というクリエイターの取り組みがずっと続いてきていたと思うんです。

 僕たちはテトリスカンパニーの会長、ヘンク・ロジャース氏と、アレクセイ・パジトノフ氏という、『テトリス』を作った2人にお会いしたとき、ヘンクさんからは『ルミネス』や『Rez』のように音と光を組み合わせた気持ちのいいものを『テトリス』でも作ってよ、ということを言われたんです。それでプレイヤーとして『Rez』に触れた後、僕のところで働きたいと言って会社に来てくれた石原くんとともに、ヘンク氏と何回か議論を続けていました。

 この議論は結構前から行われていたのですが、『Rez Infinite』の開発に入る少し前ぐらいのタイミング、2012~2013年ぐらいからその話が本格的になってきて、そこから音楽を作ったり映像を作ったりと、本作のプリプロダクション(制作前の作業の総称のこと)を始めたんです。

――開発チームは『Rez Infinite』のチームなのでしょうか?

水口氏:本作の本格的な開発は『Rez Infinite』の開発終了後に行っていて、基本は『Rez Infinite』の開発チームを母体にしつつ、1~2名ほど増えた形ですね。

――やはりプレイヤーが操作したときに発生する、音と光にこだわって制作されているのですね。

水口氏:そうですね。それは僕たちがずっとテーマにしていることであって、僕たちが『テトリス』を作ろうと思った理由でもあります。最高に気持ちのいい『テトリス』を作ろうと思ったんです。そこにストーリーが生まれて、感情が動くことを体験してほしかったんです。

――いわゆる“スキン”はどういう風に作っているのでしょう。

水口氏:ビジュアルがテーマのときもありますし、音楽がテーマのときもあります。とにかく意識したのは“世界を感じてほしい”ということですね。ちなみに、スキンは全部で30種ぐらいありまして、難易度によってスキンを経由する数が変わる、つまり“旅”の長さが変わるというイメージです。

――本作もまたVRに対応していますが、VRに対応するにあたり意識したことはありますか?

水口氏:VRのコンテンツは最近増えてきていますが、どれも“強い”体験だと思っていて。15分ぐらいプレイすると疲れてしまうんですよね。ですが、すごくリラックスして何分でもVRで遊べる、週末にVRをつけてリラックスできる、そういうものがないといけないし作れるはずだ、と思っていたんです。プレイすることでスッキリするゲーム、そういうものをどうやって作れるのか、ということも考えていました。その答えの1つが『テトリス エフェクト』なんです。

――語弊があるように聞こえてしまうかもしれないのですが、こういった音と光の効果は『Rez Infinite』と比較するとさらに洗練された印象を受けました。

水口氏:そういっていただけるとありがたいですね。効果音にあわせてパーティクルが変化させていくプログラムの複合体を、僕たちは“シナスタジアエンジン”と呼んでいるのですが、その特徴が『Rez Infinite』のときよりも、もっと色濃く出ていると思います。本作では“共感覚的なもの”、つまり“音楽を目で見ている感覚”をより強く感じていただけると思いますね。

――本作に対戦機能はあるのでしょうか?

水口氏:はっきりとはまだお伝えできないのですが、僕たちは本作をリラックスしながらやってもらいたいんです。だからガチンコの対戦というのは、リラックスにはあまり向いてないのかなと思っています。そのかわり、本作を通じて別の形でほかのプレイヤーたちと繋がれないか、と今考えていて。こちらはもう少し後でお伝えできるかなと思います。

――そういえば、シナスタジアスーツは本作に対応するのでしょうか?

水口氏:現在そういったアナウンスはしていないのですが、可能性はあると思います。シナスタジアスーツも日々、改良を重ねていますよ。

――現在の『テトリス エフェクト』の開発状況は、お話にあった“まだ公開していないモード”の製作中といったところでしょうか?

水口氏:そうですね。あとはゲーム全体のクオリティを磨いているところです。エフェクトの出方や音のチューニングしだいで、気持ちよさが全然変わってくるので。どれだけ気持ちよくできるか、という点は最後までこだわりたいと思っています。発売は2018年の秋ですので、もう少しお待ちいただければありがたいです。

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