2018年7月1日(日)

【電撃PS】歯医者探しから考えた“評価の信頼性”。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.664(2018年6月14日発売号)のコラムを全文掲載!

第133回:ハイシャの評価

 3カ月くらい前から、歯医者に通っています。嫌ですよね……歯医者。歯は自然治癒しない、とわかっていながら、匂いや音含め、あの雰囲気が苦手で先延ばしにし、結局痛くなって渋々通う、という愚行を、子供の頃から何度繰り返してきたことでしょう。

 というわけで今日も今日とて歯医者に通っているのですが、最近の歯医者って、ハイテクでありながらローテクなところもあって、ちょっと謎なところが多い。今回は、そんな歯医者の不思議と、「評価の信頼性」について書いてみようと思います。

 僕が歯医者に通うのはたぶん10数年ぶりなのですが、まず、個々の診察台にモニターが設置されていることに驚きました。先生を待っている間、患者をリラックスさせるためなのか、小笠原諸島の自然を撮影したDVDが流れているのでぼんやりと眺めます。すると先生が来て、まずレントゲンを撮りましょう、と。別室で撮ったレントゲン写真はファイルサーバーにアップされ、それを診察台のモニターに映しながら患部の説明をしてくれます。

 治療法もスライドでわかりやすく確認できるので、ほほう、これは便利。あとで人に聞くと今やこれくらいは当たりまえらしいのですが、問題はその後です。では実際に患部を見てみましょうということで口を開け、棒の先端にカメラがついた器具で口の中をモニターに表示しようとする先生。なのですが、画面には小笠原諸島が映ったまま。

で、先生が何をしたかというと、モニターに接続されているDVDのケーブルをたぐり寄せ、ビデオ端子を抜き、棒カメラの端子に繋ぎ替えたのです。いや、そこはセレクターのスイッチをピッと押したら切り替わるようにしようよ! と思った次第。セレクターなんて1~3000円ぐらいで買えるし、そもそも毎回端子を繋ぎ替えるって面倒だと思うんですけどね。

 そんなこんなですが診察は無事終了。お金を払い、次の診察の予約へ。と思いきや、この「予約」がなかなかにややこしい。では○月○日の○時は空いていますか、と問うと、受付の女性が紙の予約表を確認しながらそこは埋まっていますと。別の日時を告げるとそこは休診日。などなど、なかなか噛みあわない。

 そもそもこの歯医者はネットでの予約が可能なので、じゃあ予定を確認して大丈夫そうなところをネットで予約入れますね、ということにしたのですが、次回その時間に行ってみるとうまく予約が入っていない様子。どうやら、紙の予約表とネットで入っている予約がマージ(併合)されていないようで、抜けがあるようなのです。もうちょっとすんなりいかないものかなあ。

 そんなことが何度か続いたので、その歯医者に通うのを止めてしまいました。とはいえ治療を中途半端にするのはマズいので、別の歯医者を探そうと、ネットの歯医者専用総合サイト(?)や、奥さんの情報網なども活用し、いろいろと検索をしまし た。ウチの地元はなぜか歯医者が多く、評判などを調べるのも一苦労。最終的に、(1)親の代から受け継いだ二代目院長の地域密着型歯医者と、(2)数カ月前にできたまったくのご新規歯医者、ふたつに候補を絞りました。

 で、どちらにするかでこれまた悩むわけです。どちらも、口コミレベルでは押しなべてこれといった問題はない。「痛くない」「最新の治療」「優しい先生」を謳っています。ですが、地元の歯医者で検索すると、(2)がまっさきに引っかかる。いわゆるSEO対策が上手いのでしょう。サイトもすっきりしたデザインで見やすい。

 逆に(1)は、サイトはあるものの、なんというか、かつてのHTML臭が漂う昔ながらのサイトで、設備などはよくわからない。これは(2)かなあ、とは思うのですが、ひとつの疑念が沸きました。総合サイトでは、色んな歯医者に対する口コミが読めるのですが、その口コミの「数」が、(1)の3件に対して、(2)は50件以上と全然違うのです。しかも(2)は悪評がひとつもない。

 今どき、検索に引っかかりやすくしたり口コミをエサにしたりするのは、ネットで顧客を取り込む際の常套手段。とはわかっていても、飲食店ならともかく、できて数カ月の歯医者にそんなにネットでの評価って集まるものなのか? これ、仕込んでるんじゃないか……? と思ってしまったわけですね。こうなりゃもう賭けだ、ということで、結局、ご本人のコメントと人の良さそうな先生の写真を決め手として、(1)の老舗歯医者に決めました。

 そして、案の定診察台にモニターはなく、人は良いのですが何を言っているかよく聞きとれない先生の登場で、僕は賭けに負けてしまったのでした。

 ゲームもまさにそうですが、「評価の信頼性」は、それがいかに自然と高まった評価であっても、「ホントか?」と思わせる可能性がある。それを払拭し信憑性を高めるのは、客観的な評価の量と在り処、それと、「時間」しかないのではないか。なぜ なら、たとえば(1)の歯医者が地元で十年以上営んでいたとしたら、僕はたぶん迷う余地なく通っていたと思うんですよね。あー、どこかにいい歯医者さんないかな~。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.665』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年6月14日
■定価:694円+税
 
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