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2018年7月15日(日)

山本正美氏コラム全文掲。現地で“体感”できる情報と、現地に行かないからこそ得られる情報の“密度”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.665(2018年6月28日発売号)のコラムを全文掲載!

第134回:リアルイベントのこれから

 今年も大変な盛り上がりを見せ閉幕したElectronic Entertainment Expo 2018、通称E3 2018。海外メーカーの大型タイトルの情報はもちろん、今年も日本のメーカーがかなり存在感をアピールしていたのではないでしょうか。

 “全員登場”という謳い文句とともに発表になった、任天堂さんの『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』。約10年ぶりに復活するCAPCOMさんの『Devil May Cry 5』。スクウェアエニックスさんからは、新作『BABYLON'S FALL』や謎の魅力に包まれた『THE QUIET MAN』など。その他数多くのメーカーから、盛りだくさんのニュースがありました。

 そしてなんといっても、『Demons Souls 』と『Bloodborne』で我々JAPAN Studioとタッグを組んだ、FROM SOFTWAREさんとの再チャレンジ、PS VRの『Deracine』も無事発表! いやー良かった良かった。フロムさんは、和風アクション『SEKIRO:SHADOWS DIE TWICE』も発表されていて、オーディエンスのハートをがっちりキャッチされていました。

 と、一部を書き出しただけでもてんこ盛り。全部遊びたいけどお財布事情が……! というツイートも多数あり、まさにゲームファンにとっては嬉しい悲鳴が轟くひとときだったのではないでしょうか。

 という感じでまるで見てきたかのような書きっぷりですが、実は僕、今年のE3は、仕事の都合で現地には行けなかったのです。思えば、E3に行かないのは十数年ぶり。毎年6月のこの時期はLAにいるので、ちょっと不思議な感覚で色々と公開になる情報を日本で追っかけていたのですが、だからこそ気付いたことがあったので、ちょっと書いてみたいと思います。

 まずこの季節、日本は梅雨なせいもあって、カリフォルニアのカラッとした気候が本当に心地良い。それも相まって、E3に先駆けて始まる各社のプレスカンファレンスを受けての、現地ならではの情報交換。社内メンバーや他社クリエイターとの語らいが、異国にいるという高揚感もあり本当に楽しいのです。

 そしてE3が始まると、会場の外から始まる巨大な広告やアメリカのショーマンシップが如何なく発揮された造作物にまず迎え撃たれます。一歩会場内に入ると、煌びやかなネオンが瞬く各社のブース。メジャータイトルの巨大バナーや音。ふかふかのカーペットが敷き詰められたフロア(これがあるからあまり足が疲れない)。そんな環境下で行われるデモンストレーションやステージイベントなど、日本にはないスケール感を目の当たりにし、ワクワクが止まらなくなるのです。

 というような現地ならではの濃い体験性は、当たり前ですが行かなければ味わうことはできません。しかし一方で、純粋な意味での「新作ゲームの情報を得る」という意味では、配信されていた各メーカーのストリーミングや各種メディアの記事のほうが、情報密度はかなり濃い。

 たとえば、カンファレンスでセンセーショナルに公開されるプロモーションビデオも、動的なグラフィックや世界観については伝わるものの、具体的なゲームシステムやその他の細かい知りたいポイントについては、記事化された情報のほうが網羅で、しっかりと溜めこむことができたのです。僕、現地に行ったらいったで、毎年Twitterで一人レポートみたいな情報発信を勝手にやっていて情報チェックする時間があまりなかったので、これは大きな発見だったのでした。

 毎年E3の前日に開催されるSIEAのプレスカンファレンスも、今年は例年とかなり違う趣向を凝らしたようで、単に巨大なホールで発表を行うだけでなく、『The Last of UsPart II』や『Ghost of Tsushima』の実際のシーンをリアルな空間にロケーションとして再現し、その中で演出たっぷりにゲームの情報を露出する、という手法で来場者の記憶に大きな印象を刷り込んだようでした。

 そういえば今年は「プレスカンファレンス」ではなく、「PlayStation E3 2018 Showcase」と銘打っていたのも、きっとそのあたりの体験性を重視したコンセプトを体現したかったのだろうなと思います。

 思えば、昨年12月にアナハイムで開催されたPlayStation Experienceでも『ワンダと巨像』の巨像に実際に登って写真が撮れるアトラクションがあったり、『Days Gone』のコーナーでは実際のゾンビに襲われたりなど、「その場にいて初めて体験できる」要素がかなり多く採用されていました。

 最近は、どんなイベントであっても、SNSの速報性や生放送でのストリーミングで簡単に情報が得られたり、発表と同時に体験版が配信されるインフラが整っていたりすることで、「居ながらにして」大抵の情報に触れることができます。だからこそリアルイベントは、それを実施する意味、現地に赴く「理由」を作ることが命題になっている。

 と考えると、TOKYO GAME SHOW 2018で大きな話題となった『Detroit: Become Human』の、アンドロイドを“展示”するというアイデアも、「会場に来た人だけが得られる臨場感」という意味で、かなり画期的な出展手法だったのではと思います。

 現地で「体感」できる情報と、現地に行かないからこそ得られる情報の「密度」。今後のリアルイベントは、その両方をしっかりと計算し、どの情報をどう切りわけて提供するか、それが大事になってくるのではないかと思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.665』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年6月28日
■定価:694円+税
 
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