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2018年8月25日(土)

『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』のクエスト制作過程をCEDEC 2018で解説【電撃PS】

文:電撃PlayStation

 コンピュータエンターテインメント産業の関係者が一堂に会する、ゲーム開発者を中心とした技術交流会のCEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)。22日に行われた数あるセッションのなかで電撃PlayStation編集部が注目したのは、スクウェア・エニックスが運営中のMMORPG『ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター』を題材にしたセッション“『ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター』におけるクエスト制作術 ~500以上のクエストを作るには~”。今回はその講演リポートをお届けしよう。

 MMORPGは拡張パッケージの発売やパッチが更新されるたびに、大量のクエストが追加されていくのが特徴だ。『ファイナルファンタジーXIV』は『ファイナルファンタジー』というタイトルを冠したMMORPGだけに、パッケージ版のシリーズと同様にストーリー主導型で作られており、そこに満足度を求めるユーザーが多いタイトルでもある。そんなストーリーの掘り下げに欠かせないクエスト制作について、本作プランナーの織田万里氏(メインシナリオライター/世界設定)と、工藤貴志氏(リードクエストデザイナー)が登壇して解説を行った。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲講演者である織田万里氏(右)と工藤貴志氏(左)

『紅蓮のリベレーター』で実装してきたクエスト数は538個!

 まず壇上に立った織田氏が語ったのは、『新生版』のリリースから『蒼天のイシュガルド』を経て『紅蓮のリベレーター』に至るまでのクエスト制作数の変化について。

 絶対に失敗できなかった『新生版』は累計で1461個ものクエストが用意されたが、それ以降は作り方の見直しもあり、『蒼天のイシュガルド』では812個、『紅蓮のリベレーター』では538個(パッチ4.3xまで)であると紹介。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲クエスト関連のスタッフ規模も明かされた。クエストの数と比較しても、少数精鋭で作られていることがわかる。

 織田氏によると拡張パッケージを重ねることでノウハウが蓄積され、『蒼天のイシュガルド』と比べると『紅蓮のリベレーター』でのクエスト作りは大きく進歩を遂げたという。とはいえ、開発のスケジュールはより厳しく、さらにプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏から求められる“『蒼天のイシュガルド』と同等のボリューム感”“『蒼天のイシュガルド』よりさらにプレイ体験を向上させる”というお題目もあり、その達成には相当苦労させられたとのこと。

7つの工程を経て完成するクエスト

 では、実際に500以上ものクエストはどのような工程を経て完成されたのか。今回のセッションでは、工藤氏が以下の7つの流れに沿って作業の仕組みが解説された。クエストはシナリオを書くだけが仕事でなく、ゲームに落とし込んでから実装されるまで、長い道のりであることがわかる。

『ファイナルファンタジーXIV式 クエストの作り方』

①企画:コンセプトを考える。ラフプロットを作成する

②初期設計:詳細プロットを作成する。リソースを発注する

③詳細設計:詳細プロットを基に、クエストデザインを確定する

④仮実装:クエストの受諾~コンプリートまでの一連の流れを実装する。台詞などのテキストを作成する

⑤本実装:台詞やモーションなどを実装する

⑥調整&QA:クオリティアップ。バグ修正

⑦PDチェック:ディレクターチェック!

 このとき大事なのが詳細設計の段階でしっかり詰めておくこと。1つのマップにどれくらいクエストを配置し、さらに発生場所の重なりなどを確認することがキーとなる。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲解説では実際に使われた貴重な資料も惜しみなく公開された。

クエストのタイプで力を入れるべきポイントを見極める!

 クエスト制作の工程を解説した工藤氏に代わり、再び壇上に立った織田氏。ここでは具体的にクエストを制作するうえで、実装目的の再確認が大事であると強調していた。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲全部、だいじなもの! と『FF』らしい用語も交えてわかりやすく解説。

 その後、『紅蓮のリベレーター』では以下のように3種類にクエストを分類し、制作を進めていったことが解説された。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲メインクエストに対して、サブクエストの数はおよそ2倍となる

●メインクエスト

 対象のユーザーは全プレイヤーで、ゲームの主導線となるクエスト。プレイ時間は長く、シナリオの満足度も高いものが求められる。このシナリオの満足度を高めるために、シナリオチームでは2~3日ほど都内某所で吉田氏を交えた“シナリオ合宿”を行っていることを明かした。なにぶん吉田氏が忙しくチェックバックに時間がかかるため、この方法がとられるようになったとのこと。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲織田氏によるとこちらの合宿の模様はパッチ5.0時のものらしい。ということは……!?

●サブクエスト

 一番数が多いサブクエストは、対象が大半のプレイヤーで、実装目的は経験値とアイテム(装備品など)の配布となる。細かいクエストの配置は、世界観の演出に欠かせないスパイスの1つとなり、こちらもシナリオ満足度は高いものが求められる。なお、メインシナリオと異なるのは、1つのクエストのプレイ時間が短いことだ。

 ただし、数を優先するあまり、いわゆる“おつかいクエスト”と呼ばれる単調な内容ばかりでは、シナリオの満足度を高めることはできないと指摘した工藤氏。そこで有効な手段として挙げたのが“ハイローミックス戦略”という作り方だ。

 具体的にはクオリティはほどほどだが、制作コストが低くて数が必要なクエストを“ロー”、クオリティは高いが、制作コストも高いものを“ハイ”に分類。そして、イベントプランナーが先にローを、シナリオプランナーが先にハイのクエストを手掛けていく。スタートを互い違いにすることで、クエスト制作が進むとやがて仕事が逆転し、片方が完成するのを待つ時間のロスを極力減らすことができ、結果的に多くのクエストを制作できるのだと明かした。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲ローコスト版のサブクエストを制作するときのポイント。
CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲ハイコスト版のサブクエストを制作するときのポイント。

●クラス・ジョブ

 最後に解説されたのは、該当クラス・ジョブのプレイヤーが対象となるクラス・ジョブ。目的は新規スキル・装備の提供や、新ジョブのチュートリアル的な役目も担っている。時間は短いがこちらもシナリオ満足度は高いものが求められ、さらに該当クラス・ジョブらしい体験ができることが重要であると説明された。

 このクエスト制作でのポイントは、あらかじめプロットコンペを開催した点。織田氏によると、これは『蒼天のイシュガルド』での反省を生かしたとのこと。じつは前回は担当者に書きたいクエストをヒアリングして割り振ったため、ネタの重複が多発してしまったからだという。

 とはいえ、ネタの重複を避けるために、やりたい事は共有しつつ、細かく指定し過ぎないこともゲーム体験を高めるためにポイントであると語っていた。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲『蒼天のイシュガルド』はダークファンタジーがコンセプトのため、復讐劇を題材にした物語が多くなり頭を抱えることになったと織田氏が述べると、会場は笑いに包まれていた。

クエストの配置バランス調整は意外とアナログ

 クエストの制作は並行作業で行われるため、同一エリアで温度差があるクエストが集中する可能性があり、そうなるとカオスな状況が生まれるという新たな問題に触れた織田氏。

 例えばメインクエストがシリアスで進むなか、クラス・ジョブクエストでは殺人事件が起こり、サブクエストではノリノリなギャグが展開し、F.A.T.E.(ランダムでエリア内に発生するバトル)ではお花畑なホンワカな雰囲気のモンスターが出現するなど、“まさに、カオス!”という状況に。

 その状況を避けるために行ったのが、実際にマップを打ち出して壁に張り、担当するクエストを付箋で貼り付け、場所のかぶりや内容のすり合わせだ。アナログな手法ながらも、かなりの効果があったらしい。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲付箋には担当者の印鑑が押され、誰の担当クエストなのかがひと目でわかる仕様。その場で打ち合わせをしての調整も容易に。

まさに“ラストダンジョン”な量産フェイズ

 これらを踏まえたうえで訪れるクエスト制作最後の壁が“量産フェイズ”。織田氏が「まさに“ラストダンジョン!”」と語るほどの山場だが、「でも、きっと大丈夫! 我々の体験が活かせるはず……!」と、少し疲労感をにじませながらも力強くコメント。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション
▲『FFXIV』内のクエスト報告風に、セッションの要点を総まとめ。

 そして最後に織田氏は「オンラインゲームのいいところは、身分を隠しながら一般のユーザーさんと一緒に遊び、同じゲームを楽しめることです。ゲーム内のフレンドが楽しんでいる姿を見るというのは、何よりも代えがたい喜びとなります」と語り、“MMORPGを作ろうぜ!”というメッセージを披露。

 「日本語ベース開発のMMORPGは数えるほどしかない現状なので、英語圏と比べると開発者の数が圧倒的に少ないです。今回の講演をきっかけに、このジャンルをいろいろな方向から盛り上げていただきたい」と、熱い想いを言葉に乗せてセッションを締めくくった。

CEDEC 2018 『FFXIV: 紅蓮のリベレーター』セッション

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