2018年8月27日(月)
コンピュータエンターテインメント産業の関係者が一堂に会する、ゲーム開発者を中心とした技術交流会のCEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)。本イベントでは“オンラインゲームのこれまでとこれから ~国内主要オンラインゲームのスタッフが送るパネルディスカッション”と題し、オンラインゲームの開発を手掛けるクリエイターたちがその変遷や現状を語った。
内容はオンラインゲーム開発者だけを対象とした話ではなく、オンラインゲームを遊んだことがある人ならば理解ができ、かつ興味をそそる話題が中心だった。ぜひ現役オンラインゲームプレイヤーは目を通してほしい。
▲齊藤陽介氏(株式会社スクウェア・エニックス 取締役 兼 執行役員 兼 エグゼクティブ・プロデューサー)。担当タイトルは『ドラゴンクエストX』。 |
▲川又 豊氏(株式会社コーエーテクモゲームス シブサワ・コウブランド)。担当タイトルは『信長の野望 Online』。 |
▲酒井智史氏(株式会社セガゲームス オンライン開発研究部 MC第二開発室 東京開発チーム チーム長)。担当タイトルは『ファンタシースターオンライン2』。 |
▲宮下輝樹氏(株式会社カプコン MO開発統括 モバイル・オンライン編成部)。担当タイトルは『モンスターハンター フロンティアZ』。 |
パネルディスカッションは、CEDEC運営委員でありゲーム開発者でもある山田倫之氏(株式会社カプコン MO開発統括 モバイル開発部 MC第二開発室 東京開発チーム チーム長)と、山口誠氏(株式会社ディー・エヌ・エー ゲーム・エンターテインメント事業部 ゲームコンテンツ事業部 第一開発部 第三グループ グループマネージャー・プロデューサー)が司会進行を担当し、4つの主要テーマと公募で届いたテーマについて熱いトークが広げられた。
▲山田倫之氏(右)と山口誠氏(左)。山田氏はオンラインゲームの開発経験があり、川又氏が元上司で、宮下氏が現上司という関係性でもある。 |
ディスカッションの前半では、あらかじめ用意されたテーマに沿って、それぞれの想いや経験をトーク。ここではそのなかから印象的な言葉をピックアップして紹介する。
オンラインゲームの企画の立ち上げについて先行して語ったのは、『ドラゴンクエストX』のプロデューサーである齋藤氏。「まず本作は『ドラゴンクエスト』というタイトルを使い、何か組み合わせて作れないかというところがありきのプロジェクトの立ち上がりだった」と述べた。
さらにオフライン版の『ドラゴンクエスト』が、堀井雄二氏、鳥山明氏、すぎやまこういち氏を軸にしたアウトソーシングで1つのプロジェクトを組み上げていくスタイルであると触れた齋藤氏。逆にオンライン版はお客様の声に応えられるように、小回りの利く運営が必要なので社内に開発チームを持つようにしたとのこと。最初は齋藤氏とプロジェクトリーダーの2人からスタートし、一番大変だったのはその開発チームを作ることだったらしい。
15年という長期運営を続けている『信長の野望 Online』。「いわゆるオンラインゲーム黎明期からスタートしたタイトルであり、オンラインにつないで遊ぶことが一般的ではない時代だった」と、少しなつかしさを覚えながら語ったディレクターの川又氏。
そのなかで、MMOMRPGになれてもらうために例えばシングルモードを用意するなども検討したが、βテストを行うとすんなり入ってもらったので、なくても問題ないという判断にいたったとも振り返った。
また、サービス開始時はPS2でのスタートだったので、キーボードの環境がない人に向けてコントローラだけでコミュニケーションを取れるように、テンプレートの会話を用意したり、サーバーの負荷試験を昼休みに全社のマシンをつないで行ったりなど、黎明期ならではの苦労話を披露した。
現在の『ファンタシースターオンライン2』の前身であるドリームキャスト版『ファンタシースターオンライン』から、本格的にシリーズにかかわってきたプロデューサーの酒井氏。本作の企画を“5カ年計画”と表現し、まずユーザーを育てるところから始めたと語った。
企画が立ち上がった2008年頃は『モンスターハンター』シリーズで、多人数のマルチプレイがヒットしていたため、このマルチプレイからオンラインにユーザーを移行できる仕掛けができれば、ヒットが見込めるのではないかと考えたという。
そして、ハードを一番普及しているハードであるPCに絞り、できるだけたくさんのPCで遊べるような環境設定を用意。さらに敷居を下げるために、基本プレイを無料にするのはどうかというアイデアを出したとのこと。とはいえ、それではビジネスとして成り立たないので、どのような形で課金をしてもらうかという点の模索には苦労したのだという。
▲酒井氏によると、課金のスタイルは海外産オンラインゲームも参考にしたが、武器や強さを課金して得るスタイルはおもしろさをスポイルするやり方でないと判断したとのこと。 |
2009年にカプコンへ入社後し、そこから『モンスターハンター フロンティアZ』の前身『モンスターハンター フロンティア オンライン』のプロモーションや運営企画としてかかわり始めた宮下氏。サービス開始当時はいちハンターとして楽しむユーザーであったと前置きし、入社後に聞いた話として「開発初期は『モンスターハンター』のプログラムを使えば、そのままオンラインゲームも作れるという感覚だったと」打ち明けた。さらにサーバーを担当するプログラマーの数が足りない、サーバーのノウハウが社内にあまりない面でも苦労していたとのこと。
また、アクションゲームである本作は、コントローラが欠かせない周辺機でもある。だが、PC版ユーザーはコントローラを持っている人が少なかったため、周辺機メーカーと協力してコントローラを普及させたり、コンシューマ版では逆にキーボードを普及させたりというプロモーションを行ったという。
オンラインゲームの運営が長く続くことはそのサービスが優れている証でもあり、開発側としても喜ばしいことではあるが、ベテランユーザーと新規プレイヤーが共存する世界をどう維持していくのかも課題の1つだろう。
川又氏はその問題にまず触れつつも、「最近は子どもと一緒にプレイする現象もあり、新規層獲得のヒントになるかもしれない」と続けた。そして「コンパニオンアプリ的などのスマートフォンアプリもうまく使って、共存していくという未来を見据えることも、最近のトレンド的な課題」とも語っていた。
▲ちなみに最近は「コンテンツをソロで遊びたい」という要望が増えてきたことも紹介。プレイスタイルの多様化を指摘していた。 |
続いて齋藤氏は上を目指す人に向けたコンテンツの作成と、新規の人に向けた実装済みコンテンツの改善が大事だと語った。ただし、それが重なると積み上がるタスクも大量になり、開発が大変になると悩みを告白していた。
さらに“属人的(特定の人物が担当し続け、その人だけにしか業務内容がわからなくなること)”な開発や、個人のスキルに依存した開発はしないようにすることを心がけているとも紹介。そうしないと、担当者がいなくなったときにアップデートができなくなるリスクがあると語った。
そんななか、長期化運営の課題に対して「5年目くらいがわりとターニングポイントのような気がする」と登壇者に問いかけた酒井氏。「ユーザー層が成熟するにしたがって、オンラインゲームは僕らのなかではわりと国の運営に近いと感じている。だんだん政府である開発に対しての不満がたまってきて、爆発するかしないくらいかのタイミングが5年目くらいなのかなと。そのなかで失敗してそれを立て直して、また失敗して立て直して……の繰り返しがどうしても続いてしまう」と苦労を述べていた。
その言葉に齋藤氏は「今はほかに遊ぶゲームがいっぱいある世の中なので、今遊んでいるゲームがちょっとつまらないなと思ったら、それを遊べばいい」と少しおどけながらフォローするも、「『ドラゴンクエストX』の場合はタイミング的にPS4版、Nintendo Switch版の発売ができ、新しいお客さんが入ってくるところを要所に用意できた」と紹介。
そして「続けている方も新鮮な気持ちで1から遊ぶ方もいるし、ちょっと離れていた方もその理由で戻ってくるかもしれない。オンラインゲームが好きな方は、きっとほかのオンラインゲームも好きなんですよ。だからいろいろなオンラインゲームをたくさん楽しんでもらいたい」と結んだ。
「オンラインゲームはコンシューマとPCがある意味ミックスされた融合点で、現状のスマホにも広がってきたのを含めて、ある意味先駆けでもあり、集大成的な意味もあるのでは?」と、進行の山口氏から振られた酒井氏。
それに対して「『ファンタシースターオンライン』の開発が始まってから20年弱が経ったが、当時のオンラインゲームはわりと“夢のゲーム”と思われていた。今後はすべてのゲームがオンラインゲームになる! という論調もけっこうあったが、今は全部のゲームが“オンラインにつながることがある”に近いところまでにはなってきた」と分析。
そして「それはオンラインゲームで人とつながって、遠くの人と遊んだり世界中の人と遊んだりする楽しさをいろいろな人が体験したからであり、形を変えてはいるが、これはオンラインゲームが業界にもたらしたものなのでは」とまとめた。
齋藤氏はビジネスという視点から、オンラインゲームが業界にもたらしたものを分析。「オフラインゲームの場合は2年、3年と時間をかけて開発しながらも、失敗するという大きなリスクがある。だが、オンラインゲームは安定すれば月単位でのリスクヘッジで済む」と語った。
また、「『ドラゴンクエスト』シリーズの場合は何年に1本というスパンで発売されるタイトルのため、その間を補完してくれるある意味“ファンクラブ”のような役割を『ドラゴンクエストX』が担ってくれている」とも分析。
川又氏は「例えば人とプレイする基本的なところやランキングなど、オンラインゲームがやってきたことが一回若返って、現在のスマホのモバイルゲームの基層概念的な大元になっていると思う。時代が繰り返している感はすごく感じる」と語った。
そして「そういう意味で、MMOが業界にもたらしたことはかなり大きいのでは」と続けた川又氏は、オンラインゲームのβテストを例に、パッチを当てて修正するという流れや、体験版での意見をくみ取って開発するという流れも、オンラインゲームがもたらしたことであると述べた。
オフラインゲームと比べて、ユーザーとの距離が近いことが魅力もあり、苦悩する点でもあるオンラインゲーム。なかでも上がってきた意見をダイレクトに汲み取れることに関しては、さまざまな意見が交わされた。
なかでも印象に残ったのは、川又氏が話題にした“サイレント・マジョリティ”と“ラウド・マイノリティ”。現状に満足している大半のユーザーは物言わぬ多数派“サイレント・マジョリティー”であり、少数派でありながら声の大きい“ラウド・マイノリティ”に気を取られ過ぎると失敗するということだった。この意見には齋藤氏も同調し、「みんながこう思っていますよ! という意見をよくもらうが、それほどみんなではない。好きの反対は無関心なので、要望は励みにしなければならない」と語っていた。
また、酒井氏は「ネットでマイナス意見ばかりを聞いていると、開発としては病む部分がある。でも、実際にイベントなどでユーザーと会うと、いいゲームにしようと考えさせられると思う」と、リアルイベントの重要さをアピール。宮下氏も「ゲームに対してすごく細かいメモを渡され、熱心で真摯に対応してくれる」とうれしさをにじませていた。
小休憩を挟んでの後半では、一般ユーザーから事前に公募したテーマについてのディスカッションが行われた。こちらはゲーム内容よりも運営や課金などに焦点が当てられた質問が用意されて、少しきわどいトークも繰り広げられた。ここではそのなかから、注目の言葉をピックアップして紹介しよう。
オンラインゲームと切っても切れない関係である課金。『ドラゴンクエストX』『信長の野望 Online』が定額制、『ファンタシースターオンライン2』『モンスターハンター フロンティアZ』が基本無料で、どのタイトルにも課金要素が用意されている。その内容に違いはあれど、共通しているのコンセプトが、強さにつながる課金要素は用意しないということだ。基本的にはアバターへのオシャレアイテムの販売などが主になっている。
また、いわゆるガチャが用意されている『ファンタシースターオンライン2』では、ガチャの上限の設定や、未成年が親のクレジットカードを無断で使用できないような取り組みも行っていると酒井氏は説明していた。
逆に長時間プレイについてはオンラインゲーム黎明期と異なり、プレイスタイルの変化ということもあり、そこまで気を配る必要がなくなってきたとのこと。とはいえ、低年齢層もプレイする可能性がある『ドラゴンクエストX』の場合は、ログアウトしているとボーナスがもらえるなどの仕組みを用意していることも齋藤氏から説明があった。
「開催したイベントでの開発者とユーザーとのやり取りが大事」と語った宮下氏は、「そのイベントを機にユーザー同士のつながりが目に見えてわかる。そのあたりは素晴らしいと思う」と続けた。さらには結婚したというケースをよく聞くと触れ、そういった部分でのつながりをアピールしていた。
齋藤氏は『ドラゴンクエスト』が他社とのコラボレーションがなかなか難しいことに触れつつ、先日『リアル脱出ゲーム×ドラゴンクエスト 大魔王ゾーマからの脱出』を開催したことを紹介。今後も積極的にコラボは行っていきたいと述べた。また、グッズをたくさん出している取り組みも紹介し、自分が欲しかったものなどがけっこう商品化されているともアピールしていた。
「新しいコンテンツとのコラボを行って、常にここに『ファンタシースターオンライン2』がありますよ! というニュースを発信していかないといけない」と語った酒井氏。『NieR:Automata』や『モンスターハンター フロンティアZ』とのコラボにも触れた。
さらに「ユーザーをリアルとゲームでどうつなげるのか?」という山口氏の問いに対して、ゲーム内のライブイベントのダンスを実際にみんなで踊るというイベントを開催したことを紹介。最初は開発も「本当に踊るの?」と半信半疑だったが、いざ開催すると盛況に終わったとのこと。しかも、このダンスイベントを機にダンスに目覚めたユーザーもいて、ゲームのなかから人生を広げることができたことは、ゲームとしての価値もあると喜びを表していた。
「例えば実際の城を見に行くと、ゲーム内の城にも何か変化が起こるというように、可能性といえばいくらでも妄想が広がりますよね」と語ったのは川又氏。残念ながら企画としての実現はまだまだ難しいが、こういった場だからこそ言えるのではないかと、力強いコメントを発していた。
なお、残りの“課金コンテンツ”“進行度の異なるプレイヤーの同居に対する工夫”のテーマはすでに語られていたため、急遽「長期化することによる開発メンバーのモチベーションの維持」に変更。
それに対して全員の共通認識だったのが、“コミュニケーションが大事である”“休暇を取る”という点だった。例えば流行っているゲームを一緒に遊んだり、一緒にスポーツをして体を動かしたりすることで、互いの人と成りを知ることができるという。
また、齋藤氏は「ほかでチャレンジしたいことがあるならばそちらで頑張れ、とよく言っていた」とも語り、川又氏も「長く同じ場所にい続けると居心地がよくなりすぎて、常識を覆せなくなる弊害的なものも生まれる。新しい血の入れ替えは大事」と齋藤氏の言葉に続いていた。
約2時間弱にわたって行われた本ディスカッション。その締めでは“これからのオンラインゲームの未来”についてコメント。大きな拍手が贈られたそれぞれの熱き想いを、ぜひ言葉から感じ取ってほしい。
「会場にはオンラインゲームの開発に携わっている方も多いでしょうし、学生さんでゲーム制作にかかわる方も多いと思います。私からのお願いは1つでして、私が死ぬまでに『レディ・プレイヤー1』を誰か作っていただければ。ぜひ遊びたいと思っております。よろしくお願いします。」(齋藤氏)
「最近オンラインゲームを題材にしたアニメも出ていて、私もよく見ています。あのような作品が4~5年前に出だした頃は、けっこう夢物語のようで、そのなかでのあこがれだったと思います。ところがここ1~2年でAR、VRと急激な進化を遂げてきていると、もしかしたらもう直前まで来ているんじゃないかという見方に変わっていると思うんですよ。オンラインゲームが好きな方のあこがれが、一歩前に来ているということが、まさにオンラインゲームの未来の姿が手前にあると感じています。」(川又氏)
「最近は昔のMMORPGがスマホで遊べるなど、デバイスを選ばない形のオンラインゲームがどんどん増えています。もちろん、日本で売られているソーシャルゲームも、広義の意味ではオンラインゲームですし、これからどんどんスマホが高性能化していくことで、オンラインゲームはもっとカジュアルなものになっていくと思います。その際たるものとして、その先にやはりVR的な世界が広がっていくのかなと。そうなっていくと、いろいろな問題が起きるとは思いますが(笑)。そのときは今ここにいるみなさんが、オンラインゲームを作ることで解決してもらえればいいかなと思います。オンラインゲームを作ることは、パッケージゲームと違って大変なことはたくさんありますが、正直ホメられることはないです(苦笑)。ほかのゲームと違って大変なこともありますが、ユーザーと触れ合えることによって、そのぶん得られるものもたくさんあります。ある意味夢のある仕事で、先ほど国家の運営と例えましたが、それくらいやりがいのある仕事だと思います。ぜひここにいるみなさん、放送をご覧になっているみなさんが作ったオンライゲームで、オンラインゲームの世界をより広げてもらえればと思います。」(酒井氏)
「オンラインゲームはグラフィックもすごく進化して、デバイスもいろいろ変わってきています。また、昔のオンラインゲームでは、ガッツリとしたコミュニケーションで成立していたものが、最近はスマホなどのライトなつながりも出てきました。ユーザーさんが自分で選択できるつながりの部分が、今後どうなってくるのかが、私自身非常に興味があります。オンラインゲーム、アプリに興味がある方は、ぜひカプコンの中途採用などのHPをぜひ見ていただいて、ご応募いただければと思います。」(宮下氏)
▲オンラインの未来というよりも、“遊びたい!”という欲望を語った齋藤氏(笑)。それだけに、根っからのオンラインゲーム好きであることが伝わってきた。 |