2018年9月6日(木)
コナミとCygamesが共同で開発し、本日、9月6日より発売となったPS4/PC(Steam)用ソフト『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS』。発売を記念して開発のキーマンに、制作の経緯や秘話などを訊いた。
『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS:M∀RS(M∀RS)』は、2003年に発売されたPS2用ソフト『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS(ANUBIS)』と、2012年に発売された『ZONE OF THE ENDERS HD EDITION(ZOE HD)』をベースに、4K解像度への刷新や全ステージのVR対応といった現世代機向けのリマスターを行ったタイトル。開発を担当したコナミとCygamesのタッグによって新作と言える程の改良が施されており、シリーズファンも『ANUBIS』を知らなかった人も楽しめる作品となっています。
▲左からコナミの統括プロデューサー、岡村憲明氏。Cygamesのプロジェクトマネージャー、近藤健一氏。ゲームエンジニアの堀端彰氏(文中は敬称略)。 |
近藤:もともと、弊社のスタッフに『ANUBIS』のファンが多かったことがきっかけで、Cygames側からコナミさんに「ぜひ『ANUBIS』を作らせてください」と提案させていただきました。そこから、具体的にどうするかという話が進んだなかで“4K対応”と“VR”を柱にすることが決まり、企画がスタートしたのが経緯です。
岡村:じつは、Cygamesの渡邊社長ご自身が、直接熱意をぶつけてきてくれたんですよ。インタビューでも、よく「なぜ、Cygamesと組んで『ANUBIS』を作っているのか?」と聞かれるのですが、明白な答として、Cygamesさんは一番熱意が強かった会社だからですね。
現場で制作していただいた方たちも、本当に『ANUBIS』を愛していただいているファンの方だったので、こちらとしてもすごくうれしかったですし、実際に熱意のある方々と一緒に仕事がしたかったので、Cygamesさんと制作することになりました。
我々も、開発の方が持っている“熱意”はゲームの細部にクオリティとして反映されますし、一番大事なことだと思っています。愛と熱意があふれる方々に作ってもらえたので、制作中も楽しく見せていただいていました。
──今回はタイトルも変わっていますが、なぜ『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS:M∀RS』になったのか教えてください。
近藤:タイトルの『M∀RS』はVRからきています。“MARS”のAとRにVとRを重ねたから∀になっているんです。逆に、先日リリースされた期間限定のARカメラアプリのタイトル画面を見るとわかるのですが、あちらは“AR”なので、MARSの“AR”部分が∀じゃなくてAのままになっています。
岡村:こういった担当しか知らないこだわりが積み重なって、クオリティにも反映されているんですよ(笑)。
──2012年にもPS3&Xbox360『ZOE HD』にてリマスターが行われていますが、そちらを参考にされた部分はどれくらいあるのでしょうか?
近藤:今回は『ZOE HD』をベースに新しい要素を載せていく形で作っているので、そういった意味で参考にした部分は大きいです。ただ、リファレンス(参考)にすべきなのはPS2版『ANUBIS』だと思っていましたし、デバッグの確認などをするときも原作をベースにもとから合った要素なのか、それとも新しく生まれた不具合なのかを判断していました。
──公式PVで画質を比較すると、機体表面のデカールがより細かくなっていることが確認できます。これは、Cygames側のこだわりで追加された要素なのでしょうか?
近藤:『ZOE HD』の時点でもリマスターをするときの基本として機械拡大ができるところはやっていたと思うのですが、機体の書き文字だけは新規で載せたという経緯がありました。今回も、ゲームのスピード感やシャープな部分を残したかったのでモデリングはいじらなかったのですが、ではテクスチャーでやれることを考えたときに、ユーザーが『ZOE HD』で機体の書き文字が読めることに感動していたことを思い出したんですよ。我々としてもそこが良かったと思っていたので、そこをもっと推していこうと。
デカールの文字自体はIllustratorのデータがあったので、そこ以外の部分も含めて“見えなかった部分が見える”方向にして「本当だったら、原作でもこう描かれていたのではないか?」という部分まで立ち入ったリファインをしています。
岡村:今回に関しては、もう1度PS4でもリマスターをしてモデリングを作り直すのではなく、PS2版『ANUBIS』の“ZOEシェーダー”を現代で再現するという目的が中心でした。モデリングを変えてしまうと『ANUBIS』ではなくなってしまいますし、そういった意味でも「本当はこうなっていたのではないか」という形で、現世代化されています。ポストエフェクト処理を取り入れたのも、そういった理由ですね。
▲採氷LEVの機体表面に張られているデカール。 |
堀端:コナミさんから原作の資料をいただいたときに、じつに多くの設定画や制作メモが載っていました。それを読むと、PS2版『ANUBIS』の時点でゲーム上では落とさざるを得なかった情報がたくさんあったんです。
当時のテクスチャの描き方では、どうしても色味を16色に減色しなければならず、そこで落ちてしまう要素を何とかするための方法が“ZOEシェーダー”だったと思います。今は色数の制限がない時代になったので、差し色で必要なものがあれば復活させますし、本来描こうと思っていたディティールをテクスチャで描けるなら描きたいですよね。
だから、今回は原作にあった設定画や立体造形物を見て、原作がやろうとしていたことを洗いなおした形になっています。今風にするというより、PS2の時代でもこまでやりたかったのだろうという部分を洗いなおすのが、今回のリファインにおける基本の考え方でした。
“ポストエフェクト処理”を取り入れた理由もそうです。ZOEシェーダーと並んで、当時は“透過光エフェクト”と呼ばれていたと思いますが、いわゆるアニメ的な表現ですね。アニメでは光の表現をするとき、セルに穴をあけて後ろから光を当てたり、直接上から光を当てたりしているのですが、それが今で言う“ポストエフェクト処理”の考え方に近いんですよ。そこで発光させるのではなく、発光させたいものへ最後に光を乗せるという考え方なんです。
これは今の時代にも通用する考え方なのですが、それを当時のPS2で実現していたのが『ANUBIS』なんです。ですから、我々がポストエフェクト処理のツールを選ぶとするならば、その上をいかなければならないと考えて、ミドルウェアの選択から含めてやらせていただきました。
技術的にいろいろ追加することも可能だったのですが、それをすることで原作のイメージが崩れてしまう可能性があったので、その点は気を付けて制作しました。原作にあった表現のイメージを今風に持ってきつつも、昔からのファンが納得できるようなグラフィックになったと思います。
▲本作はPS2版の設定画などを参考に、原作が目指した『ANUBIS』を意識して作られている。 |
──お話をうかがうと“PS2版でやりたかった表現を膨らませる”ということに注力されていますが、ボタンアサインもそうなのでしょうか。なぜ単純なキーコンフィグではなく、“CLASSIC”と“PRO”の2種類のボタンアサインを用意されたのですか?
近藤:まず、基本的には原作が持っていたボタンアサインは尊重する方向だったので、オリジナルの操作を残しています。ただ、CLASSIC操作とは言ってもコントローラー自体がPS2とPS4では違いますから、そこはフィットするように調整しました。基本的には原作のボタン配置でやろうとしたことは残していますが、ボタンのクセ自体が変わっているのでプレイフィールも変わってくるのではないでしょうか。
PRO操作を用意したのは、ユーザーの世代的な考え方が理由です。今はシミュレータ的な操作よりも、使うボタンを少なくして直感的な方が良いという方向に変わってきていますから、PRO操作のような操作方法を提案の1つとして用意させていただきました。
『ANUBIS』自体が15年という時間が経っているゲームですから、その歴史を踏まえつつ、どうしたら次に行けるのかを含めて提案させていただいた形です。“ZORADIUS”のARRANGEDモードでボタンをまとめていったのも、その側面が大きいですね。
これらの理由で、キーコンフィグについては立ち入らないようにしています。それに加えて、ゲーム中にエイダが操作説明をしゃべってくれるので、違う操作を作りたくないという理由もありますが……(笑)。せっかくエイダが「R1ボタンを押してください」と言っているのに、違う操作だと説明を聞き流してしまいますし、物語の没入感が削がれてしまうので対応できる範囲でボタンアサインができないかと考えたという理由もありますね。
──キーコンフィグがあるとボタンごとに違うセリフを収録し直さないといけないですもんね。
堀端:そうなんです。とはいえ、PRO操作に関しては音声を用意させていただいたので、PRO操作にあったボタンの説明が入っています。じつは、これも新録ではなくて『ZOE HD』を作ったときに音声を録り直していたファイルがいただけたので、それをもとに制作しました。言われないとわからないのではないでしょうか。
──ちなみに、今回は“ZORADIUS”モードのプレイ中に機体が変形できるようになっていますが、これも当時やりたかったことを尊重した形なのですか?
近藤:これは偶然の産物です。PS2版の“ZORADIUS”が制作されたときに、本編で敵として出てくるビックバイパーではなく、VSモードで使う機体を使って作ったという経緯があります。今回、開発中にL1ボタンを押すと自爆するデバッグコマンドを入れていたのですが、ある日敵を倒そうとしてL1ボタンを押したところ、自分が自爆しながら変形したんですよ。
VSモード用の機体はL1ボタンを押すと変形するようになっていて、それがZORADIUSでもできるということが開発中の不具合で偶然見つかったんです。前から変形できたらいいとは思っていたのですが、どうしたらうまくZORADIUSで変形させられるかわからなくて……。
偶然見つかったので、そこから、変形後の技やボタンアサインを考えて実現できました。じつは変形専用の隠し技も用意していて、人型の時にしか出せない飛び道具も出せるようにしています。ぜひ探してみてください。
──隠しコマンドがあるのですか!? もしかして、ほかにも隠し要素を仕込んでいるとか……?
堀端:ええ、あります(笑)。クリア後のボーナスコンテンツをやり込んでもらえると新しい発見があるので、ぜひいろいろと試してみてください。
──本作はCygamesさん側からの提案が大きなウエイトを占める企画のようにも感じますが、VRモードもCygamesさんから提案されたものなのでしょうか。
近藤:VRは、最初に弊社からご提案させていただいたプランの時点で入っていたのですが、当初はスケジュール的に難しいという話でやめる予定でした。ですが、どうしてもVRモードを作って欲しいという要望をコナミさんからいただいたので、弊社の方で検討して取り入れた形になっています。
最初にコナミさんから言われたときは「1、2ステージくらいをVRに対応させる」という提案だったのですが、実際に作ってみたら意外と問題なく作れてしまったので、それなら全編VR対応にしましょうということで話が進みました。
岡村:当初、VRモードは5分くらい遊べたらいいという想定しかしていなかったんですよ。このゲームだと5分以上遊んだらVR酔いをしてしまって不利だと考えていました。ただ、どうしてもボクがジェフティに乗りたかったので「5分でいいからジェフティに乗りたい!」とCygamesさんに頼んだら「仕方がないから入れましょう」という流れになり、気が付いたら全部のステージがVRになっていて。それに意外と酔わなかったんですね。
──本作は視点が上下するロボット物ですし、高速でアクションするというゲーム性なので、VRに落とし込むのは苦労されたと思います。
堀端:技術的な面でいえば、本当に細かい部分まで調整していますが、じつはこのゲームで「酔うかもしれない」と思われていた部分が、酔わない要素だったという発見もあったんですよ。
昨今のゲームでVRを作る場合、プレイヤーが持っているカメラを振り回す前提で作り、移動するので酔う場合が多いんですよ。逆に、中心に物体を用意して、それを周囲から見回す方向のVRは酔わない。視点を固定して、モデルビューワーなどで立体造形物を眺める場合は酔わないんです。このゲームも、そうした構造と同じ物を持っていて、必ずロックオンした対象を中心に周囲を回るんですよ。
だから、中心に物がある限り酔いにくい。視点の対象がぶれず、対象となる物体も動き回らないので酔わないんです。『ANUBIS』自体、ロックオンを解除して戦うのが一番難しいゲームで、必ず何かにロックオンがハマっている。だから、酔いにくいんです。
むしろ、我々が気を付けたのはロックオンする対象がない場面ですね。テイパーを探すときや、エネルギー施設でゲートを開けるためにクネクネしたところを曲がっていくといった場面では、我々も開発中に酔いました。
そこで、ロックオンの対象を作らなくてはいけないと考えて“ロックオンポイント”を作っています。ロックオンポイントを順番にロックオンして進んでいけば、話に沿ったルートに行けるというポイントを追加したのが、仕様的には大きな追加ですね。
ほかには、視界の周囲にビネットを入れて画面を暗くするといった工夫もしていますが、一番大きなものとしてはコックピットを表示して自分がいる場所をきっちり見せたことだと思います。当初はコックピットがない状態のVRをコナミさんにお見せしたのですが、これだと足元がなくて不安なんですよ。
岡村:最初期に実験したなかでは3人称視点のバージョンもありましたが、それだと全然おもしろくないんですよね(笑)。
堀端:ありましたね。3人称視点でVRにするとプラモデルみたいな見た目になってしまうんですよ。ボクらが考えている絵とは違う印象になってしまって……。やはり、コックピットに乗せるまでと、ロックオンをはずした場面をどうやってVRにするのかは苦労しました。
──回転して投げる動作も、VRでは視点が固定されて機体が回らなかったりと、いろいろ工夫されているのがわかりました。
堀端:グルグル回ってしまうと、流石に酔いますからね(笑)。それと、コックピットに乗っているときにジェフティが何をしているのかわからないので、我々が“子ジェフティ”と呼んでいる小さなジェフティのモデルを右下に置いて、機体がどんな動きをしているのかわかるような工夫もしています。
──確かに、コックピット視点だと物をつかむ感覚や斬る感覚がわからなくなるんですよね。子ジェフティ以外にも、こうした動作を見せるうえで行った工夫はありますか?
堀端:まずは“ディザリング”です。ディザリングというのは、物体を疑似的に半透明のような感じにすることなのですが、VRで敵をつかむと視界が塞がれて奥が見えない状態になってしまうんですよ。そうならないように、つかんだ物体を半透明に変えています。本当にちょっとした工夫ではあるのですが、それを行うことによってゲームの進行がわかりやすくなるようにしました。
そこにプラスして、ユーザーインターフェースでつかめる物体の説明を出すようにしたことと、子ジェフティがつかんだ物体をちゃんと持つようにした部分です。描画の都合上、ラプターやファントマといったものまでは表示させられなかったのですが、外壁や棒などの物体はなるべく持たせて、状況がわかるようにしました。やはり、このゲームはつかむという動作が非常に重要ですから。あとは、原作通りの距離感にしてしまうとコックピット内に敵がめり込んでしまうので、そうならないように距離を離して見やすくしています。
──ゲーム後半でも外壁をシールドにして構えるシーンがありますし、物をつかんで動く場面が多いですよね。
近藤:そうなんです。制作中もシールドを構えると前が見えなくなるので、どうしようという話をしてました。
堀端:物体が近くにあると酔いにつながってしまいますし、薄く作って表示しているので今は前が見えないということはないと思います。逆に、つかんでいるのに見えないという可能性も若干ありますが、そこは心の目で見ていただくか子ジェフティを見てもらえればと。
──通常のモードとVRモードでセーブデータが共有できることにも驚きましたが、モードによって敵の出現率やゲームバランスなどは変わらないのでしょうか?堀端:細かいところでの変化はあるかもしれませんが、基本的には通常とVRモードで敵の硬さや出現頻度は変わりません。操作が若干変わっている部分や、酔いにつながる表現をシステム側で吸収している部分はありますが、セーブデータ的には同じ内容になっています。
ただ、移動速度に関してはVRモードのほうが若干早くなっているので、体感としては変わるかもしれません。主観視点で遊ぶと、どうしても速度感が変わってくるのでVRモードの方が早くなっているんですよ。対象物がない広いところを飛ぶ時に、通常モードと同じ速さだと速度を感じられないことがあったので、そこに関してはスピードを上げて飛ばしています。
ちなみに、VRモードのプレイで想定している難易度はVERY EASYなんですよ。ほかの難易度でも遊べますが、VR用として特別に調整した難易度がVERY EASYになっています。
──今回、難易度VERY EASYを追加したのは、VRモードのためだったのですね。
近藤:それもありますが、2つの考え方がまとまってできたのがVERY EASYでした。
堀端:当初、VRは一部だけにしようという話があって、なるべく破綻しないステージとしてエクストラミッションをVR化するところから始まりました。それでも、いくつかのステージで越えなければならないハードルが出てきて、そのハードルを越えていくために1個1個問題をつぶしていったら本編も可能だということがわかったんです。
そのときに、通常モードのVERY EASYとVR用の難易度を作るという話が出てきてたのですが、この2つはまとめられるのではないかという話になり、2つの要求から難易度VERY EASYが生まれました。
──つまり、VRや『ANUBIS』に初めて触れる人はVERY EASYから遊んだほうがいいのですね。
近藤:はい。我々のオススメはVERY EASYです。PS VRのゴーグルで難易度設定を見ると、VERY EASYの“V”と“R”だけが浮かぶようになっているのですが、そこでも強調しているんですよ。もちろん『ANUBIS』自体に慣れている人は、ほかの難易度から始めても問題ないと思います。
堀端:難易度VERY EASYは、敵の硬さ以外にも調整が入っています。たとえば、ゲーム中に“ハープーン”という足元をつかんで動けなくしてくる敵がいるのですが、VRだと足元が見えないのでつかまれても移動できない理由がわからないんですよ。そういった、VRにはなじまないスピードが損なわれる敵などを消しているので、VERY EASYだと小物が少ない調整になっています。
近藤:ネフティスの3戦目で、電流が流れる場所がありましたよね。あそこも、背中に引っかかると見えないからどうしようという話になり、あまりダメージを受けない調整になっています。開発のなかでも、どこまで後ろに下がれるのかがわかりにくかったので、直してもらいました。
堀端:ユーザー目線で違うと思える部分に関しては、開発の段階で吸収するようにしています。開発内部にもファンが多く、熱意をもってディレクターに直してもらった部分がかなりありました。
──もし、VRモードでクリアできなかったとしても、セーブデータが共通なので通常モードで進められるから安心ですね。
近藤:眉にしわをよせながらVRに向いていないステージを遊んでもらっても仕方がないですし、その時の気分によってTPS視点で無双したいときとVRで体感したいときって変わるじゃないですか。
体調が悪い時は普通に遊んで、今日は荒野乱戦で地獄を味わってみたいと思ったときはVRで遊んでもらってもいい。そうした自由さを確保したかったところがあるので、セーブデータを共通にして、VRも遊べる本編と同じものを作りました。
──荒野乱戦をVRでプレイしましたが、いつもより難しくて驚きました。
近藤:荒野乱戦は体感的に難しくなっていると思います。いろいろな方向を見ないといけないですし、周囲を見渡してSOSがどこに出ているのかを探さないといけないですから。
堀端:原作では神の視点から見ていたので、優しく感じたところはあるかもしれませんね。とはいえ、遊んでいると背中の感覚がわかってきて慣れてくるので大丈夫ですよ(笑)。
──現状のVRモードは視界の周辺を暗くしていたり、回転投げでも視点を固定していたりと、リアルさよりもゲーム的な遊びやすさを重視して作られているように感じました。どこまでリアルにするかで、開発内部でも葛藤などがあったのでしょうか。
堀端:そうですね。最初に作ったバージョンでは本当に自由に逃げられたり、かなり広い視覚を見せようとしていた時もありました。ですが、VR酔いには個人差がありますし、いろいろとチューニングした結果「ココだな」というところに落ち着いています。
とくに大きかったのは、コナミさんで体験会を開いたときにもらったユーザーアンケートなんですよ。体験会で、ユーザーのみなさんからいただいたご回答には全て目を通させていただき、その要望は極力取り入れるようにしました。
ビネットの設定も7段階くらいで細かく変えられるようになっていますし、首を振るかもしれない。酔うかもしれないといった部分は全部オプションを作っています。本当に、VR酔いに関しては気を付けて作りました。
──具体的に、体験会ではどのような意見が寄せられたのですか?
堀端:主には距離ですね。PS2版では、もう少し敵が上に寄っていたんですよ。ですが、VRで再現すると敵を見上げる形で戦うようになってしまうんですよ。設定上はコックピットがあって胸の下側しか見えないゲームなのですが、『ANUBIS』ではその調整を弱めに入れていたんです。
だからこそ、迫力のあるゲームになっていたのですが、そこが死角になって酔いにつながるという指摘がありました。ですから、若干迫力は落ちるものの、それでも体感としてギリギリもつところまで距離を調整しています。これが、意見をいただいた部分でも大きい調整ですね。
──ちなみに、そうしたVRモードを作るなかで、一番苦労されたステージを教えていただけますか。
堀端:縦方向に展開するステージですね。アージェイトに乗ったケンを引き上げるステージと、要塞都市の地下に潜っていくステージが苦労しました。PS2版でも縦方向のステージを作るのに苦労されたという話は聞いていたのですが、VRの場合だと上下が見えなくなってしまうので、そこをどう解決するか悩みましたね。逆に、縦方向のステージを解決する目途が立ってきたからこそ、全編をVRにできた部分でもあります。
──VRモードでアージェイトが落ちていくと拾うのが大変で……本当にはるか彼方に落ちていく感じがして絶望感がありました。
近藤:コックピットがあるので下が見えないから苦労するんですよね(笑)。
堀端:かと言って、そこをいじってしまうとモーション関連や敵の当たり判定が壊れてしまうんですよ。なので、ロックオンをいじることで解決したステージです。
──『M∀RS』の開発は、企画の立ち上げからどれくらいの期間がかかったのか教えてください。
近藤:初期の立ち上げから考えると2、3年くらいかかっています。実際の企画はもっと短くなりますが、最初に何をやろうかという試行錯誤にも時間がかかっていて、最初の立ち上げから考えるとそれくらいですね。
──PlayStation VR自体が出てきたばかりのころですね。
岡村:最初の半年くらいは、ずっと実験していましたね。
近藤:弊社のほうからコナミさんに提案する段階で、テスト版をお見せしていた期間があったのですが、そのころは本当にPS VRが出始めたころでした。世間的にもこれからVRが熱くなるくらいの時代だったのですが、それから2年経ってVRが話題になり、ようやくテーブルに乗ってきた感じがします。
堀端:最初に箱組のモックで作ったコックピットにカメラを置いたのですが、その時の感動があるからVRを実現できた部分は大きいですね。
──工数的には、制作を始めてからVRと4K対応のどちらに時間がかかったのでしょうか?
近藤:なんだかんだ言って、4Kのほうも時間がかかりましたよね。
堀端:今回、4KとVRの両方にはじめて携わることになりましたが、どちらも時間がかかりました。VRのほうは酔わないための調整をするのですが、4Kの場合も4倍くらい描画の領域が増えるので、高速化などを最後の最後までがんばっていました。
正直なところ、PS2版から2回目のリマスターとはいえ、直前の『ZOE HD』だけを見ればいいわけではないんですよ。4K対応といいつつも、PS2版と同じものを作らなければいけないというところが大きかったと思います。
とくに、今回一番戦った部分は不具合のチェックですね。制作中に不具合が出ると、それがPS2版由来なのか、『ZOE HD』の物なのか、それとも『M∀RS』で新たに出てきた不具合なのか、全部見なくてはいけない。チェックが3倍かかるんです。
近藤:原作と違っている部分の原因を洗い出す作業を含めると、4K対応にかかった工数のほうが大きいかもしれません。VRは新規の部分が多かったのですが、そちらはそちらでVR化したら困ったこともちょくちょく起こりました(笑)。
堀端:そういう意味では、どちらかと言えば4Kのほうが大変だったかもしれません。4Kでしっかり作れていれば、あとは遊びやすさとPS VRのスペックを見て処理的に刈り込んでいくことができたのですが、まず原作に準拠したうえで綺麗にするという作業をこなさなければならず、そこだけはエクスキューズが効かないので4K対応にはかなり気を遣いました。
──『M∀RS』の発売も楽しみですが、1ユーザーとしてはここから完全新作につながるのも期待したいところです。
近藤:当然、弊社としてもできれば完全新作をやりたい気持ちがあります。コナミさんとも、今回の作品が売れて評判が良ければ続編を考えたいとう話をしているので、みなさんに買っていただけるとうれしいです。
岡村:あくまでも個人的な話ですが、こちらとしても新作を作るならCygamesさんに作っていただきたいと思っています。
──もし、続編を作るとしたら、次もVRに挑戦されるのでしょうか。
近藤:今回搭載したものはユーザーさんから求められると思いますが、製品版が発売されれば、よりユーザーが何を求めているのかいろいろわかってくると思います。そこで、あらためて次の作品で何をやるかという話になってくるのではないでしょうか。
本気で新作を作りたいので言いますが、作りたい感動を届けるのに問題なければVRをやると思います。ただし、VRが高速戦闘の枷になってしまうようなら、そのときは違う判断をするでしょう。
堀端:一番重要なのは『Z.O.E』シリーズというIPがお客様に愛されていることで、新作は予想外のものであるべきなんですよ。そのために必要な要素は伸ばしていくでしょうし、真摯に考えていきたいと思います。商品ではなく作品として良い未来に続けられればいいと思っていますし、そのお手伝いができるといいですね。
岡村:今回、とくにパフォーマンスですごく苦労されていたのを見てきたから言えるのですが、現世代機の限界と言える物を作っていただけました。おそらく、現世代機で4KであることとVRであること。この2つを同じレベルでそろえられる作品で、これ以上の物は出ないと思います。
4Kに特化してもVRに特化してもバランスが悪くなりすぎてしまいますし、そういった意味でも非常に良くできた現世代機の『ANUBIS』になりました。もし、Cygamesさんが次を作るとしても、そのハードに合わせた物になると思います。
近藤:次回作に対する意欲はありますし、できるだけおもしろいことができたらと考えています。社内でも『Z.O.E』シリーズのファンが多いので、できれば何かの形でシリーズを出していければと。もちろん、それが『Z.O.E3』なのか『ANUBIS2』になるのかはわかりませんし、まったく別のタイトルになるのかも現状ではわかりませんが、できれば次回作も出していきたいですね。
──自分もアニメ版やシリーズ自体が大好きなのですが、どれもPS2時代の作品なのでシリーズ自体が古くなってしまっているんですよね。
近藤:そうなんです。『ANUBIS』も15年前の作品なので、どうしてもひと昔前のタイトルという印象をぬぐえない方がいるかもしれません。ですが、今回の『M∀RS』はほかの直近でリリースされたタイトルと比べても遜色がない物になっていると思います。シリーズファンはもちろん、今までシリーズを知らなかった方にも触っていただいて、ぜひ初めて遊んだ人の印象や感想も聞いてみたいですね。
──お話をうかがっていると本当にPS2版への愛を感じますが、今あらためてPS2版『ANUBIS』の魅力の核となる部分はどこにあると思いますか。
近藤:アニメと3Dがうまく融合している部分ですね。当時から、ゲームの中でも3Dバリバリではなくアニメーション的なエフェクトを出したり、うまく融合しているタイトルですごいタイトルが出たと思っていました。今になってもオンリーワンのタイトルですし、本当に独特の魅力を持ったタイトルだと思っています。
堀端:当時プレイしていたとき、ロボット物は操作が難しいというイメージがあって苦手でした。しかし『ANUBIS』に関しては、良い意味で適当に操作していてもカッコイイ絵になりますし、自分がこんなにうまいのかという勘違いができるんですよ。簡単に遊べて、簡単にすごい演出をできるのがすごく魅力的だと思っていました。今回の『M∀RS』も、当時のような演出やカッコいい絵をそのまま出せるような形で作っていますし、そこが大事だと思っています。
──では、最後に今回初めて『ANUBIS』を遊ぶユーザーに向けてメッセージをお願いします。
岡村:リメイクに関していろいろな方法論があるなかで、結果として一番理想的な『ANUBIS』の形になったと思っています。ここまで来られたのは、最初に言ったようにCygamesさんの熱意と愛の賜物だと思いますし、こちらとしても、ものすごくありがたいことです。
本当に、すごく愛のある制作の方たちが、熱意を持って作られた作品だということがわかる作りになっていますので、ぜひ、愛があふれるこのゲームを楽しんでいただけるとうれしいです。
近藤:『M∀RS』を作るにあたって、今できる環境で最高のものを出せたと思っています。今までシリーズを遊んでくださった方々も、あらためてPS4版やPC版を触っていただいて変わったところを見比べていただきたいですね。新規のユーザーさんは、新鮮な目で4KとVRをそれぞれ遊んでいただいて、純粋に楽しんでいただければと思っています。
堀端:あの時僕たちがPS2版『ANUBIS』から受けたインパクトも含めて、愛を持ってリマスターしたつもりですので、原作を遊んだ方はもちろん、今まで遊んだことのない方にこそ、この未体験の爽快感を体感してもらえればと思います。 繰り返しになりますが、15年経ってもまったく輝きを失わない作品だと自負していますので、皆様に遊んでいただいて、ドシドシ感想を頂ければと思います。
(C)Konami Digital Entertainment
データ