2018年10月5日(金)
『Overkill's The Walking Dead』や『バイオハザード RE:2』などの注目ゾンビゲームタイトルが控えている昨今。電撃PlayStation編集部ではゾンビにスポットを当てた企画記事をお届けします。この記事では映画やアニメなどのゾンビの魅力を紹介!
ゾンビの起源は、カリブ海のハイチの民間信仰“ブードゥー教”にあります。西アフリカの土着宗教“ヴォドゥン(ブードゥーは英語読み)”が植民地時代にカリブに伝わり、キリスト教などと習合して生まれました。
“人間を襲う”“感染して増殖する”など今日の一般的なゾンビの特徴は、じつは本来のブードゥー教におけるゾンビとはかけ離れた、後年になって創作されたものばかりです。では、ブードゥー教における本来のゾンビとはどういったものなのでしょうか?
まず、ゾンビはボコールと呼ばれるブードゥー教の司祭が執り行う儀式によって生まれます。ボコールは犯罪者の遺体を儀式によってよみがえらせ、生前の罪を償わせるために農園などで奴隷として働かせます。なんと本来のゾンビは、労働力として生み出されていたのでした。
ボコールの執り行う儀式にはゾンビパウダーと呼ばれる毒を用いるとのことですが、じつは、この毒で生きている相手を仮死状態にさせ遺体として埋葬し、その後特殊な方法で解毒して自我をなくした人々を奴隷として働かせていたのだ、という説もあります。
いずれにせよブードゥー教を信じる人々は“死んだ後にゾンビにされてしまう”ことを恐れ、死後36時間経つまで死体を監視したり、遺体の首を切り離したりする事もあったそうです。このあたり、噛みつかれたり感染させられたりと、ゾンビを直接的な脅威として恐れる我々ゲーマーが抱くイメージとは対照的ですね。
この本来のブードゥー教的なゾンビは1930年代、爆発的なブームを巻き起こします。1929年、ハイチに渡ったアメリカのジャーナリストであるウィリアム・シーブルックが1年間現地のブードゥー教信者と暮らし、帰国後にその体験を『THE MAGIC ISLAND』にまとめました。その中でシーブルックは実際に「ゾンビを目撃した」と記しています。
出版後“生ける死者”であるゾンビとブードゥー教は大ブームを巻き起こし、当時の雑誌や新聞はこぞって特集を組みました。街には呪いの人形などを売るブードゥーショップが軒を並べ(映画『ハチェット』(2006年公開)の冒頭にも登場していますね)、かのオーソン・ウェルズは『マクベス』の舞台をハイチに変えて上演したほどです。
そして1932年、世界初のゾンビ映画である『ホワイト・ゾンビ』(主演は『魔人ドラキュラ』のベラ・ルゴシ)が公開されています。この頃の映画に登場するゾンビは、吸血鬼やマッドサイエンティストなどのボディガード的な召使いとして登場することがほとんどで、吸血鬼やフランケンシュタインの怪物など当時の“ホラー映画界の花形スター”に比べるとまだまだマイナーな存在に過ぎませんでした。もちろん主人に命令されない限り人間を襲ったりしませんし、感染して増えるといった今日のゾンビ的な特徴はまだありません。我々がよく知るゾンビの登場は、1960年代後半まで待たないといけませんでした。
この“ブードゥー教的”ゾンビに、人間を喰らい仲間を増やすなどの攻撃的な特徴付けをしたのが、“ゾンビ映画の父”と呼ばれるジョージ・A・ロメロ監督です。昨年7月になくなったロメロ監督によるエポックメイキングなゾンビ映画『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968年公開、以下『NOTLD』)は、これまでのゾンビ像を塗り替え、後のゾンビ像を決定づけるほどの多大な影響を及ぼしました。
この作品の登場によって、BEM(Big Eyed Monster=巨大な目の怪物)などの地球外生命体や欧州の民話に出てくる旧態依然とした怪物たちは一掃され、ホラー映画は新たな時代を迎えていきます。
ロメロ監督は『NOTLD』において、“生き血を吸って仲間を増やす”という吸血鬼の特性をゾンビに取り入れ、“噛まれたり傷つけられた者はゾンビになってよみがえる”という特徴を作りだしました。また、“死者が生き返る”“弱点(頭部もしくは心臓)への一撃で死ぬ”などという点も同じで、こうしてみるとロメロの創出したゾンビと吸血鬼には、意外と共通点があることに気付かされます。
『ステイクランド 戦いの旅路』(2011年公開)では日中に行動できないという点以外はほとんどゾンビのような吸血鬼が登場しますし、『ロンドンゾンビ紀行』(2012年公開)では、登場人物の老人がゾンビを見て「あれはヴァンパイアだ。武器になるのは十字架と銀とニンニクと、聖水とクリストファー・リーだ」と発言しています。もっとも、ヴァンパイアに対抗するつもりならドラキュラ伯爵役のクリストファー・リーではなくて、ヴァン・ヘルシング役のピーター・カッシングを呼ばないとダメだと思うのですが……。
ともあれ、他にも『NOTLD』は“人肉を食う”“自我がなくよろよろとさまよい歩く”“頭部を破壊すると動かなくなる”などといった現代ゾンビの基礎となる数々の特徴も生み出しています。
しかし、この新たなゾンビ像を確立した『NOTLD』は一部のホラーマニアの間でカルト的な人気を得たものの、興行的に成功したとはいえませんでした。“現代のゾンビ像”がホラーマニア以外の一般層にまで広まるのは、さらに10年の月日が必要だったのです。
そんなとき、いち早くロメロの才能に気づいた人物がいました。『サスペリア』(1977年公開)『フェノミナ』(1985年公開)などで有名なイタリアンホラーの巨匠、ダリオ・アルジェントです。アルジェントはロメロに共同出資を呼びかけ、その結果完成したのが『ゾンビ』(1978年公開、原題『Dawn of the Dead』)でした。『NOTLD』の続編である本作は150万ドルという低予算ながら世界中で大ヒットし、これによってウーウーとうめきながらさまよい人を襲う、“現代のゾンビ像”がようやく世間一般に深く浸透したのです。
余談ですがロメロは『ゾンビ』以前は自身の映画に登場させた歩く死体を“リビングデッド”と呼び、ゾンビという呼称は用いていなかったようです(『NOTLD』の登場人物もゾンビのことを“グール”と呼んでいました)。しかしアルジェントが『Dawn of the Dead』の国際版タイトルを『ゾンビ』とし、大ヒットしたことを受けてロメロ自身も以後ゾンビという呼称を用いるようになったとのことです。
墓場からよみがった死体に追われて一軒の家屋に逃げ込んだ人々の、悪夢のような一夜を描いた名作です。
『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』
ブルーレイ発売中
\3,800(+税)
発売・販売:ハピネット
ロメロ以降のゾンビ映画ブームの中、ブードゥー教の儀式にスポットを当てて描かれた作品。秘密警察に目をつけられた科学者を待ち受ける黒魔術の恐怖が描かれます。監督は『エルム街の悪夢』『スクリーム』などのウェス・クレイヴンです。
『ゾンビ伝説』
DVD発売中
\1,429(+税)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2018年9月時点の情報です
さて、ひと口にゾンビと言っても種類はさまざま。単なる感染症の患者であったり瀕死で腐敗しているけれど死者ではなかったりと、作品によって定義も呼び方も異なります。そこで、今回の企画では下記の特徴に該当するか否かという基準を設けたいと思います。
・生物学的には死んでいるが物理的に動いている
・生きている人間を襲い、食らう
・体液などを通じて感染し、数を増やす
・脳を破壊されると活動を停止する
・知能がなく、本能や生前の慣習によって活動する
このような感じでおおむねゾンビだけれども、厳密にはゾンビとは呼べないものも多々あります。
例えば映画『霊幻道士』(1986年公開)に登場する東洋の生ける屍こと“キョンシー”は中国の動く死体で、襲われた人もキョンシー化しますが、対処するにはお札、犬や雌鳥の血、もち米などが必要になります。また『28日後...』(2002年公開)に登場するレイジウィルス感染者は凶暴化して人間を襲うものの、基本的には“生きている人間”です。これらは上記の条件に当てはまらないものですが、本記事では同様にゾンビ(ゾンビライクなもの)として扱います。
そして時代は下り、ロメロ的な現代のゾンビ像もかつての特徴やお約束が微妙に変化していきます。古くは群れる、増える、動きが緩慢、音で感知する、などが定番でした。青ざめた顔でフラフラとさまよう姿は『NOTLD』『ゾンビ』の時代において、“肌を青黒く塗る”“ぼろぼろの服を着せる”などといった低予算な技法で実現可能であり、80~90年代にかけてゾンビ映画が量産された理由にもなっています。
しかし特殊メイクやCG合成の技術が発展するにつれ、腕がもげている、頭蓋や下あごが損壊している、などのよりリアルでおぞましい造形のゾンビを登場させる事が可能になりました。
また2000年代に入り、それまでの緩慢なゾンビに取って代わって“走るゾンビ”が登場してきます。『ゾンビ』のリメイク作品である『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年公開)に代表される、ものすごい勢いで迫って来るゾンビが注目を集め始めると、『レフト4デッド』(Valve Software/2008年発売)などゲームでも全力疾走するゾンビが登場するようになりました。
かつての“数で勝負する”ノロノロとした牧歌的なゾンビと違い、強力な近代兵器で武装した現在のサバイバーには、ゾンビといえどもスピードと身体能力で立ち向かわないといけない時代になったということなのでしょう。
アグレッシブな走るゾンビが増えたのは、映画『28日後...』が嚆矢と言えるでしょう。
『28日後...』
ブルーレイ発売中・レンタル中
¥1,905(+税)
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
昨今のゾンビ映画では、『処刑山』(2009年公開)などのようにゾンビが武器を使って戦ったり、『ウォーム・ボディーズ』(2013年公開)など感情をもってハートフルコメディや恋愛模様を繰り広げたりと、単なるホラーの枠組みにとどまらない作品も出てきています。
またゾンビ業界のタブーとされていた“頭を撃たれたらゾンビでも死ぬ”という鉄則が通じない映画も、『Z ~ゼット~ 果てなき希望』(2014年公開)などすでにいくつか存在しています。いずれゲームでも、ヘッドショットが通用しない反則級のゾンビが登場するようになるのでしょうか……。
さらに、『ゾンビ・リミット』(2013年公開)『ザ・キュアード』(2017年公開)など、ゾンビに変化しても治療を受けて人間に戻ることができたり、ゾンビパンデミックが収束し平和な日常(?)が戻ってきたその後を描いている作品などもあります。
変わったところでは、世界一短くて泣けるゾンビ映画として、一時ネットでも話題になった『CARGO』(2013年発表)があります。7分ほどのショートフィルムでセリフもありませんが、世界中を深い感動に包みました。1500万再生を誇る本作は、最近長編映画化もされています。
このように、近年のゾンビ映画はさまざまなタイプのものが作られているのが特徴です。
コメディ要素強めのホラーアクションで、ゾンビとなった主人公が不死身の身体で活躍するという異色の作品。精肉屋で鶏肉や牛肉が駆けまわるシーンはトラウマ必至。
『ゾンビ・コップ』
ブルーレイ&DVD発売中
ブルーレイ¥4,800(+税)、DVD¥3,800(+税)
発売・販売:マクザム
なぜゾンビ映画はこれほどまでに人気があるのでしょうか? 低予算でも制作できるとか、存在がメジャーでお約束を周知する必要がないとか、人間じゃないから残虐な表現や手段が許容されるといったところが制作側の事情でしょうか。
観客としては怖いもの見たさや終末的世界観、さらには生き物としての根源的な恐怖を手軽に味わえるという部分も魅力でしょう。なにしろ、話も理屈も通じない集団に生きながら貪り喰われるなど、それこそゾンビ映画でもなければ滅多に味わうことができません。
またホラーというジャンルにとどまらず、コメディやギャグ、純愛ものなども許容する間口の広さも特徴といえるでしょう。間口の広さといえば、“脳内妄想のしやすさ”もあげられるのではないでしょうか。これを読んでいる皆さんも、一度は“ゾンビパンデミックをどう生き延びるか”を脳内シミュレートしたことがありませんか?
このように、多彩な素材として想像の羽を大いに広げられるのがゾンビのいいところなのかもしれませんね。
話題の邦画『カメラを止めるな!』(2017年公開)も見逃せません。こちらはネタバレが作品の魅力を致命的に損なってしまうため、ぜひとも自分の目で確かめてください。
『カメラを止めるな!』
大ヒット公開中!
製作:ENBUゼミナール
配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール
最後に、ゾンビもののゲームに興味がある方にぜひともおススメしたい、記事中では触れていない名作&注目映像作品のラインナップをまとめておきましょう。
『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』(2010年放映):パンデミックに巻き込まれた高校生たちのサバイバルを描いたシリアス作品。アニメの続編が期待されるも原作コミックが絶筆となってしまった、今なお惜しまれている名作です。
『さんかれあ』(2012年放映):主人公が愛猫をよみがえらせようと作った薬品がもとで、崖から転落死したクラスメイトがゾンビとなって復活。ヒロインがゾンビという数少ない恋愛ものです。
『がっこうぐらし!』(2015年放映):同名コミックのアニメ化作品で、“学園生活部”に所属する女の子たちの活躍が描かれます。見た目はハートフルな萌え系学園アニメですが、ストーリーが進むにつれて……。
『甲鉄城のカバネリ』(2016年放映):戦国時代の日本に蒸気文明を混ぜたような独自の異世界を舞台に、生きる屍“カバネ”の脅威から生き延びる人々を描いたオリジナル作品。本作に登場するカバネはいわゆるゾンビとは異なる感染系の生きる屍で、心臓にある弱点を貫かれない限り頭を撃たれても再生します。
『バイオハザード ディジェネレーション』(2008年公開):『バイオハザード5』の前日譚にあたるストーリーを描いた、シリーズ初のフルCG長編アニメ作品。第3弾まで制作されていて、最新作『バイオハザード ヴェンデッタ』(2017年公開)ではCGならではの脅威的なアクションが話題を呼びました。
『アイアムアヒーロー』(2016年公開):“ZQN”と呼ばれる感染者に襲われた漫画家・鈴木英雄たちを描いた話題作。原作コミックではパンデミック後の世界も描かれます。
『死霊のはらわた』(1981年公開):いわゆる大群ゾンビものとは異なる、スプラッター色の濃い名作。とある山小屋を訪れた若者たちが興味本位で古びたカセットテープを再生したことから、山に潜む死霊を蘇らせてしまいます。監督は『スパイダーマン』(2002年公開)のサム・ライミです。
『バタリアン』(1985年公開):『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』へのオマージュが込められた作品で、ダン・オバノン監督の創造による“ゾンビ事件の原因”が盛り込まれた後日談的なストーリーとなっています。登場するゾンビが個性的で、どこかコミカルな演出も見逃せません。
『ペット・セメタリー』(1989年公開):モダンホラーの帝王ことスティーブン・キングの同名小説を実写化。家族愛にスポットがあてられて、恐ろしくも物悲しい空気が漂う作品です。
『ブレインデッド』(1992年公開):動物園で謎の猿に噛まれたことがきっかけとなり感染が発生。死にかけた家族を隔離&看病したことから次々と汚染が広がってしまいます。ゾンビに対する人体破壊の描写や血糊の量が常軌を逸するレベルで、ゲーム『デッドライジング』シリーズに登場する武器(?)の芝刈り機は本作が元ネタでしょう。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年公開)三部作のピーター・ジャクソンです。
『バイオハザード』シリーズ(2002年~公開):ゲーム『バイオハザード』を原作に、映画オリジナルの主人公であるアリスの活躍を描いています。原作キャラであるジルやカルロス、クレア、ウェスカーなどが登場しています。
『REC/レック』(2007年公開):公開当時、ゾンビものとしては珍しかったPOV(手持ちカメラによる一人称視点)形式の作品です。悪霊取り憑き&感染系なので好みは分かれますが、隔離された建物という逃げ場のない舞台装置の効果もあって確かな恐怖を味わえます。
『高慢と偏見とゾンビ』(2016年公開):ジェーン・オースティンの恋愛小説をモチーフに、ゾンビ要素を混ぜ込んだ異色作。19世紀イギリスが舞台という前代未聞の世界観というだけでも一見の価値ありです。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年公開):高速鉄道の車内という“閉ざされた空間”を舞台に、緊迫感あふれる物語が展開します。登場する感染者のすさまじい全力疾走っぷりが見どころです。
『Zネーション』(2015年レンタル&配信開始):世界の終末にスポットを当てて描かれる連続ドラマ。人類の希望である“ゾンビウイルスに対して抗体を持つ唯一の男性”を護送しながらカリフォルニアの研究所を目指すチームの活躍を描いた、ロードムービー仕立ての作品です。
『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』(2016年レンタル&配信開始):『ウォーキング・デッド』の前日譚に位置づけられる、ゾンビパンデミック初期を描いた外伝作品です。日常が一気に崩壊していくさまが恐怖を誘います。
『死霊のはらわた リターンズ』(2016年レンタル&配信開始):うっかり“死者の書”の呪文を唱えたことから悪霊を蘇らせてしまった主人公・アッシュの活躍(?)を描いたコミカルな作品。特筆すべきは、映画『死霊のはらわた』で主役を演じたブルース・キャンベルが、映画から30年後の主人公をそのまま演じているという点でしょうか。映画三部作とは異なる展開に注目です。
『iゾンビ』(2018年レンタル&配信開始):妙な成り行きから感染してしまった美人研修医が、ゾンビ検視官として大活躍。脳味噌を食べることで持ち主の記憶や能力、性格を取り込んでしまうという特異体質を生かしてさまざまな難事件を解決するという異色のホラーコメディです。
さて、ここまでゾンビ系の映像作品を紹介してきましたが、電撃PS編集部のライター・心斎橋三郎がどうしても語りたい作品が1つあるとのことなので、ここでショートコラムをお送りいたします。
ゾンビはもはや、怖くない。
かつて恐怖と嫌悪の対象であったゾンビはとっくに過去のものとなり、世界を置き去りにして先鋭化する日本のサブカル界隈において、それは“癒し”や“萌え”の対象にさえなってしまっている。
そんな日本のゾンビ業界(?)において、ひときわ異彩を放つゾンビが登場する作品がある。ロックミュージシャンであり、作家でもある大槻ケンヂ氏の小説『ステーシー』だ。
15歳から17歳の可憐な少女たちが、ある日突然世界中で変死をとげ、数十分から半日のうちに再び動き出した。死の淵からよみがえった少女たち――肌に浮かぶ再生屍体蝶羽状輝微粉から、まるでハーブティーのようないい香りを漂わせる屍の少女たち――“ステーシー”は、人間を襲い、血肉を食らう。彼女たちを“再殺”するには、その身体を165分割にまで細切れにしなければならない。
死期を悟った少女たちは多幸感に包まれながら、あるいは家族に、あるいは恋人に、自分の再殺権を託す――。
大槻氏独特の繊細な文体で綴られる本作は、長田ノオト氏によるコミカライズに加え、2001年には映画化され、翌2002年には舞台にもなっている。友松直之監督による映画版では主役として加藤夏希と尾美としのり(大林宣彦監督の『転校生』で主演していたあの人だ)が共演、作家の筒井康隆や漫画家の内田春菊も出演しているほか、原作者である大槻ケンヂ氏本人も出演している。
佐伯日菜子のCMガールとともに“ブルース・キャンベルの右手(ステーシーを165分割するための小型電動ノコギリ。原作では“ライダーマンの右手”だった)”の劇中テレビショッピングを演じる大槻氏の姿は、一見の価値あり、かもしれない。
愛しい娘が、姉妹が、恋人が目の前で死に、自分を襲う存在となってよみがえる――そのとき、あなたは彼女を165分割することができるだろうか? “愛”について哲学的な思索にまで耽らせてくれる本作は、ゾンビ小説である以前に、とても、とても切ない恋愛小説なのである。
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