2018年9月21日(金)
『MHW』『NieR:Automata』『仁王』で語られるグローバルで勝つ方法【TGS2018】
千葉。幕張メッセで開催中の“東京ゲームショウ 2018”。ここでは9月20日に開催された“TGS Frum 2018 グローバル・ゲーム・ビジネス・サミット 2018”の模様をお届けします。
この“グローバル・ゲーム・ビジネス・サミット”では例年、海外のゲームクリエイターが登壇して、海外のマーケットの事情や成功体験を語るイベントとなっていました。
ところが、モデレーターである“日経クロストレンド”副編集長の降旗淳平氏が冒頭で説明したように、今年は趣向が変わっています。
2017年から2018年にかけて、海外で大ヒットする日本製のゲームタイトルがいくつも登場しています。そこで今年は、そうした日本製ゲームのクリエイターに、グローバルで勝つための方法を語り合うという形にしたととのこと。
“日本発グローバル・ヒットタイトルに学ぶ、国産ゲームが世界で勝つ方法~いまどきの海外向けマーケティング、開発、プロモーションの戦略とは?~”と題されたこのステージには、『モンスターハンター:ワールド』のプロデューサーであるカプコンの辻本良三氏、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』のプロデューサーであるスクウェア・エニックスの齊藤陽介氏、『仁王』のディレクターであるコーエーテクモゲームスの安田文彦氏という、3名が参加しました。
▲写真左より辻本良三氏、齊藤陽介氏、安田文彦氏。 |
『モンスターハンター:ワールド』が世界で戦うために選んだ、開発とプロモーションの施策とは!?
ステージの前半では3名のゲームクリエイターによって、それぞれのタイトルが世界で成功するためにどのような戦略を考えて実行したかというプレゼンテーションが行われました。
まず最初に登壇したのは、『モンスターハンター:ワールド(MHW)』のプロデューサーであるカプコンの辻本良三氏です。
▲辻本良三氏。 |
辻本氏によると『MHW』は開発の当初から、“世界で戦えるタイトル”として考えられていました。そのための基本となる大前提として、「ユーザーの本能的な感覚は全世界同じである」という考え方があったとのこと。
「ワクワクする感覚や気持ちいいところは、どの国であっても同じ」と辻本氏。しかしその感覚を伝える方法は、各国に合わせていく必要があり、そのためのさまざまな戦略が考えられたそうです。
もちろん過去の『モンスターハンター』シリーズでも、海外市場への取り組みが行われてきました。しかし累計出荷本数における国内と海外の比率は、過去作Aとして紹介された『モンスターハンターポータブル2ndG』では海外が16%、過去作Bとして紹介された『モンスターハンター4G』は海外が30%といったものだったそうです。
これを踏まえて、世界を目指すタイトルに向けて何をすればいいのかを考察したところ、国内外で要望が高まっていた据え置き機での発売によって、AAAタイトルとしての水準とボリュームを実現することが、大変ではあるがいちばんの近道であるという考えに至ったそうです。
なかでも「4K対応やHDR対応といった、海外タイトルで当たり前になっているものには当然対応する。ここは絶対に外さない」と、辻本氏は強調していました。
世界に向けて勝負するために、“最新技術を使って世界一のマルチプレイ・ハンティングアクションを作る!”というコンセプトを掲げた本作では、これまでの『モンスターハンター』にはなかった世界を意識したシステムや展開が、製品に不可欠な要素として設定されました。
全世界同時発売やワールドワイドのマッチング、そしてシリーズで最多の12カ国言語対応などがその要素です。
ただしワールドワイドにマッチングしても、ユーザーのなかには自分の国の人たちと一緒に遊びたい人もいるだろうということで、マッチングの言語フィルタリングも採り入れられました。
こうして決まった製品のコンセプトを実現するために、開発環境が整備されていきました。AAAの大規模な開発を効率的に行うため、ディレクター2名体制による役割分担が行われたのもその1つです。
また「ゲームエンジンの選択はかなり悩みました」と辻本氏。結果的に、近くにエンジニアがいる環境は開発がスムーズに進む要素となるため、自社エンジンのMTフレームワークをカスタマイズする形が採用されました。
しかし最終的には“ワールドエンジン”と別の名前で呼ばれるほど、大幅にカスタマイズされたものになったそうです。
一方、大規模な開発にあたってはそのコストも重要です。辻本氏は「映画に例えて言うと、ハリウッド映画に真っ向から勝負するためには、それなりのコストが必要」という意識を会社全体で共有することで、あくまで必要なチャレンジであるという理解を求めたと説明していました。
そのうえで、開発のマイルストーンを細かく設定して、成果を発表する機会を設けることで、会社側の協力を得ていたそうです。
一方、プロモーションの面では、開発スタッフ自身も自分たちの作ったゲームを世界のユーザーに届けるということを、これまで以上により強く意識したと、辻本氏は説明しました。
『MHW』の発表はアメリカで開催された“E3 2017”でしたが、そこから発売後までの期間、北米・欧州・日本・アジアのバランスを考えながら、各国のイベントで新情報を公開していくという、グローバルを意識したプロモーション展開が練られました。
その一方で、海外販社からの意見も聞いて、世界の地域ごとに伝え方を変えていった部分も存在します。
たとえばゲームのパッケージイラストは、日本・アジアと北米・欧州では異なっています。辻本氏によると、北米と欧州に関しては『モンスターハンター』の知名度を考えて、『MHW』のメインモンスターではなく、シリーズの代表的なモンスターをパッケージに登場させたとのこと。
また、ナンバリングがつけばつくほど新規に入りにくい側面があるため、今回はナンバリングではなく、“ワールド”という目指すべきコンセプトをタイトルに採用したそうです。加えてタイトルロゴも従来のデザインではなく、よりワールドワイドのニーズに合った方向性のデザインに変更しています。
さらに辻本氏によると、海外でのイベントには必ず開発スタッフを派遣して、各国ユーザーからの生の意見を採り入れるようにしていたとのこと。これについては「開発スタッフがユーザーの近くで対応することで、データだけでは見えてこないものを肌で感じてもらいたかった」と説明していました。
また、全3回行われたのベータテストからのフィードバックや、欧米でのフォーカステストからも、海外のユーザーからの意見を採り入れることができたそうです。
発売後の展開に関しては、ハンターの腕前を競うタイムアタック大会を、シリーズで初めて海外でも開催しています。これは日本と同等のイベント展開を、できるだけ海外でも行いたかったという理由だそうです。
こうしたことに取り組んできた結果、『MHW』の累計出荷本数に占める国内と海外の比率は、国内が29%に対して海外が71%と、海外のユーザーが大幅に増加し、シリーズ最大の世界1000万本出荷を達成することになりました。
辻本氏のプレゼンテーションは非常に具体的なものであり、『MHW』のようなAAAタイトルが海外市場を目指す際に、どのような点に注力すべきかというのが、明確に伝わってくるものとなっていました。
前作の及第点だったところを合格点に引き上げた『ニーア オートマタ』
続いて登壇したのは、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』のプロデューサーであるスクウェア・エニックスの齊藤陽介氏です。
▲齊藤陽介氏。 |
齊藤氏は「『ニーア オートマタ』のマーケティングに関する戦略はない」という、驚きの解説からプレゼンテーションを始めました。
とはいえ、開発において何もしなかったわけではありません。齊藤氏は『ニーア オートマタ』の開発をスタートさせるにあたって、前作である『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』の反省点を考えることから始めたと語りました。
前作の『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』でプレイヤーからとくに高く評価された点は、ヨコオタロウ氏の世界観や物語性と、岡部啓一氏をはじめとするMONACAのスタッフによる音楽です。とくに音楽に関しては、CDがものすごく売れたという実績を残しているそうです。
「それに対して、ダメだったわけでは決してないが、まだまだ伸ばせる余地があったという、及第点の部分もありました」と齊藤氏。
その1つは、キャラクターを中心とするアートワークです。ゲームのキャラクターデザイナーとしては認知されていなかったイラストレーターをあえて起用し、新しい世界感を構築できたという点では高く評価されたものの、世界市場を見据えた意味では及第点だったと説明していました。
またアクションゲームとしての完成度についても、開発に際してマルチプラットフォームへの対応に時間を要してしまった関係で、操作性を向上させる時間自体は取れたものの、それでもまだ及第点だったと考えているそうです。
そこで『ニーア オートマタ』の開発にあたっては、前作で及第点だったところを合格点に引き上げる施策を考えたとのこと。
まずキャラクターデザインには、ワールドワイドで知名度の高い吉田明彦氏を起用しました。さらにアクションゲームでは世界屈指の実力を持つ、プラチナゲームズに開発を委託することになりました。
とくにプラチナゲームズの起用については、ゲームのクオリティが向上したのはもちろんのこと、発売前のプロモーションの時点で海外メディアからの認知度がかなり上がる結果になったと、齊藤氏は振り返っていました。
このように、前作で及第点だったところを合格点にまで引き上げることに尽力した結果、『ニーア オートマタ』は世界累計で300万本以上を出荷する大ヒットとなりました。
その理由について齊藤氏は、「何か1つが秀でていたわけではなく、前作で及第点だったところを合格点に引き上げたことで、全体のバランスが取れて世界的に成功した」と分析しているそうです。
そうした開発の施策の一方で、プロモーションについては「何か目新しいことをやったという記憶があまりない」とのこと。そのなかで効果があったと齊藤氏が考えているのは、開発者を前面に出した告知と、体験版をリリースしたことの2点です。
開発者を前面に押し出した告知に関しては、7年ぶりの『ニーア』ということで、前作で評判の良かったヨコオタロウ氏の世界観を喚起する意味もあり、開発と並行してプロモーションにも多大な協力をお願いしたそうです。
また、先の説明にも挙げられていたプラチナゲームズならではのアクション性ですが、これを口頭で説明するのは難しいので、発売3カ月前に体験版の配信を行いました。齊藤氏によるとこの体験版の配信は、売り上げに貢献できた大きな要素の1つだと考えているとのこと。
さらに、前作でも人気の高かったMONACAの楽曲を主軸としたコンサートを、日本における発売前の発表会として行いました。それが好評だったことから、発売後にもコンサートを開催する流れを作ることができたそうです。
この発売後のコンサートは、ゲーム発売前にチケットの発売を行うことになったので、齊藤氏としてはどこまで集客できるのか予想できなかったそうですが、結果として連日満席になって良かったと語っていました。
発売後の展開ではさらに、ゲーム実況の配信制限撤廃や、出演声優による“ネタバレ座談会”によって、口コミ効果を上げる施策も行いました。「ゲーム実況に関しては業界として賛否両論があるかもしれないが、私のなかでは重要なプロモーションだと思っています」と齊藤氏。
また、ゲームをプレイした人がSNSなどで遠慮してネタバレをなかなか口にしないことは、その配慮が有り難いと思う反面、ストーリーの魅力が口コミで広がりづらくもなっていると感じているとのこと。
そこで公式側が自らネタバレ座談会を企画することで、「ここまでなら話してもいいんだ」とユーザーにも感じてもらい、ストーリーの話題が話しやすくなるという効果があったそうです。
このほか、関連グッズの展開や舞台公演など、発売後1年間のプロモーションや二次展開を充実できたことでファン層が拡充し、それが製品自体のさらなる売り上げにもつながったとのことです。
齊藤氏はまとめとして、『ニーア オートマタ』が世界的にヒットした経緯を踏まえて、国産ゲームが世界で勝つ方法について語りました。
齊藤氏によると、今回紹介した方法をすべてトレースしたとしても、確実に成功できるかどうかは分からないとのこと。なぜなら「数年後の市場を予測して開発しても、それが成功につながるとは断言しづらい」からで、これが冒頭に語った「マーケティングの戦略はない」という言葉の理由なのだそうです。
そこで齊藤氏としては、数年間を要するゲームの開発を、できるかぎり楽しい現場にすることが重要だと考えていると語りました。生みの苦しさはもちろん分かった上で、それでも楽しい現場にすることが、最終的に良いものを生み出すことにつながるというのが、齊藤氏の考えです。
とはいえ、アイデアには“旬”があるため、開発だけでなくプロモーションも含めて、ベストな時期でリリースすることを意識するのは大前提だと強調して、齊藤氏はプレゼンテーションを締めくくりました。
3度に渡る体験版からのフィードバックが『仁王』の海外での高評価の原動力に
最後に登壇したのは、『仁王』のディレクターであるコーエーテクモゲームスの安田文彦氏です。安田氏は現在、続編となる『仁王2』のプロデューサーを務めているそうです。
▲安田文彦氏。 |
安田氏はまず最初に、海外の主要ゲームメディアによる『仁王』のレビューが、かなりの高得点を獲得したことを紹介しました。2017年2月に『仁王』を発売した際に、海外メディアから非常に高い評価を得たことが、海外で大きな追い風となり、全世界で200万本を超えるヒットとなったそうです。
そして安田氏は、『仁王』がこのように高い評価を獲得するゲームとなった上で、最も大きく影響したのは、3回にわたって体験版を配信した施策だったと語りました。
『仁王』では、発売の10カ月前にα体験版を配信して、全世界のプレイヤーにいち早く遊んでもらうこととなりました。そして、α体験版にそこで寄せられた意見やフィードバックを採り入れて、4カ月後にはβ体験版の配信を行いました。
そして3つ目の最終体験版は、製品版がどのようなものなのかを示すという、従来の体験版の位置づけに近いものとなっています。さらにこれらの体験版をリリースする合間には、どのような調整や改善を行うかという方針を発表して、ユーザーと共有するようにしたそうです。
α体験版のフィードバックをβ体験版に採り入れた結果、アンケートの結果でも各要素で明確に評価の改善が見られました。さらに、このように具体的な改善を示すことで、意見をくれたユーザーの方にも納得してもらうことができ、彼らが『仁王』を応援してくれるようになったことで、プロモーション的にも大きな効果があったと、安田氏は語っていました。
さらに、海外のユーザーにも体験版をプレイしてもらい、具体的なフィードバックが得られたことで、欧米のユーザーにはゲームのどの部分が評価されて、どの部分が嫌われるのかという点を分析できたそうです。
評価されるところを伸ばし、嫌われるところを修正したことが、最終的な高い評価につながったと、安田氏は考えているとのこと。
また『仁王』は、日本・アジアと欧米で、PS4のパブリッシャーであるSIEによるパートナーシップを得られたため、これも海外でのプロモーションのおいて、大きな後押しになったそうです。
ここからは「個人的な分析ですが」と前置きした上で、安田氏は『仁王』に関するエピソードを紹介しました。
『仁王』は2005年に発表されて以来、発売までなんと12年もかかったタイトルです。そのためネットでは、“なかなか卒業できない『仁王』先輩”とネタ的な扱いをされた時期もありました。
そんな『仁王』いよいよ発売されるにあたって、3度にわたる体験版の配信や海外での高評価を受けて、ネタ的な扱いから「意外とおもしろいのでは」と、ユーザーの評価が変化していったとのこと。そんな評価の変化がある種のストーリーとなって、SNSでバズる結果につながったと、安田氏は考えているそうです。
また、安田氏の所属しているTeam NINJAはかつて、ハードなアクションゲームを制作する開発チームとして、とくに海外では高い評価を受けていましたが、近年は十分な評価を得られない時期が続いていたそうです。
そんな折りに『仁王』が高い評価を得たことで、海外のメディアやゲームファンから「Team NINJAが戻ってきた」というカムバックストーリーとして、注目を集めたのだそうです。それが追い風となって海外のヒットにつながったと、安田氏は分析しています。
安田氏のプレゼンテーションは、海外のプレイヤーからのフィードバックを受けたゲームそのもののクオリティの向上が、世界での成功につながる実例として、非常に分かりやすいものとなっていました。
海外から見た日本製ゲームの弱点は、操作性やUIにある?
ステージの後半は、3名のゲームクリエイターによるパネルディスカッションとなりました。
今回のステージにあたり、モデレーターの降旗氏は、海外のゲームファンにを対象とした調査を実施して、738人から回答を得たとのこと。
回答者の52%がアメリカに在住しており、ほかにもイギリス、インドネシア、カナダ、香港など、世界各地に渡っているそうです。年齢層は20代が半数以上で、ゲーム歴が10年を超える回答者が90%以上ということで、かなりのコアゲームファンであることが伺えます。
実際にゲームを遊んだことのあるゲーム会社についての質問では、トップ10の7社が日本のパブリッシャーであり、具体的なタイトルに関しても日本製ゲームが上位に挙げられていました。
そして「ゲームを購入したり遊んだりする際に、日本製のゲームであることを意識しますか?」という質問に対しては。64%が意識すると回答。
これについて降旗氏は、海外のコアゲームファンのあいだで、日本製のゲームに対する明確なイメージや期待感がたしかにあると分析していました。
また注目すべきは、一般的な日本製ゲームの長所として、エンタテインメント性やキャラクター、クリエティビティなどが挙げられる一方で、短所として挙げられた項目としては「操作性・ユーザーインターフェース(UI)」が際だって高かった点です。
そこで3名のクリエイターの皆さんが、この回答についてどう考えるかという点から、ディスカッションがスタートしました。
そもそも日本と海外では「UIに対する考え方の違いがあるのでは」と齊藤氏。自身も開発に携わった『ドラゴンクエスト』シリーズでは、UIを例にできるだけ幅広い年齢の人に遊んでもらいたいため、使いやすいことよりも一目で分かりやすいことのほうを意識しているとのこと。
そのため誰でも直感的に操作できる反面、どうしても操作が複数の階層になりがちなのだそうです。それに対して海外のゲームは、いろんな操作がボタンを押せばすぐその機能を呼び出せる反面、使用するボタンの数が多くなって操作が複雑になるとのこと。
「UIは『仁王』でも改善に苦しんだ点です」と安田氏。『仁王』はアクションゲームではあるもののRPGの要素も色濃いため、さまざまなパラメータを画面上に表示する必要があったそうです。
日本はRPGの人気が主体となっているため、画面上の情報量が多くなる傾向があるのに対して。海外はFPSが主体ということもあるのか、通常時の画面上での情報量が少なめになっていると、安田氏は感じているそうです。
辻本氏は、UIではなく操作の面から話を進めました。『モンスターハンター』にはユニークな操作が多いため、「FPSに慣れている海外の人たちは操作しにくいのでは」と辻本氏。
『MHW』ではそういったところを意識して改善しているものの、フォーカステストなどの意見を検証していくと、それは別に海外の人だからというのではなく、『モンハン』を初めてプレイする人であれば、国に関係なく思うことではないかと感じているそうです。
操作に関していろんな意見があるなかで、辻本氏としては表面的な操作しづらさといった問題ではなく、その奥深くでプレイヤーは本当は何に困っているのか? ということを見極めて、本当は何を求めているのかを考えるのが重要だと感じているようです。
また齊藤氏は今回のアンケート結果を見て、カルチャライズという点で、海外版ではUIの階層をもう一段浅くするといった変更も必要なのではとも思ったそうです。
とはいえ、『ニーア』に関しては物語性のなかにUIのギミックなどもあるため、操作について「検討はすべきだけど、できないものはやるべきではない」と考えているとのこと。そうした点も含めて、海外のユーザーに日本のUIについてもう少し掘り下げて聞いてみたい、と語っていました。
日本製ゲームが世界で成功するための改善点は?
続いてのテーマは、“日本のゲームは開発の部分に改善の余地があるのか、それともプロモーションやマーケティングの部分に改善の余地があるのか”というものです。
辻本氏は、海外のゲームスタジオでの開発のスタイルや環境なども勉強したとのこと。それを実際に採り入れて試したりもしているものの、日本のスタジオのやり方に合うかどうかは、また別の話だと感じているそうです。
それでも開発に関しては、「ゲームをより効率的に作ることと、ゲームを考えることに頭を使うための環境を構築することは、すごく重要だと思います」とのことです。
プロモーションに関して辻本氏は、言語の問題が大きいと考えているようです。「海外で自分たちの考えをを代弁してくれる人を多く作っていかないと、ゲーム自体がユーザーに届かないことを気にしている」と、辻本氏は語っていました。
「『ニーア オートマタ』に関しては、出来過ぎの結果なので」と語る齊藤氏は、先のプレゼンテーションと同様に、どう改善すればヒットにつながるかどうかは、正直言ってわからない」というスタンスです。
それでも「前作でやりきれなかったことを丁寧に積み上げていくことが、いい結果につながるということだけは言えると思います」と語っていました。
「開発チームは自分の好きなものを作るのは得意だけれど、それが海外では嫌われる要素になってしまう場合は、しっかりと対処しなければいけない」と安田氏。
「とはいえ、欧米で好まれているものをヘンに真似しようとしても上手くいかない」と語った安田氏は、自分の好きなものを作る一方で、海外で嫌われる部分は対処するという両面で、開発の精度を高めていくことが重要になると考えているそうです。
先のプレゼンテーションで、3名のクリエイターの皆さんがそれぞれ、体験版やベータテストの効果を語ったことから、モデレーターの降旗氏より「体験版のフィードバックは今後の開発に欠かせないものなのか?」との質問がありました。
これに対して齊藤氏は、『ニーア オートマタ』の体験版は、フィードバックを受ける時間がなかったので、あくまでプロモーションに特化したものだと説明しつつも、「時間があれば、オンラインゲームのように繰り返しテストを行って、チューニングするのは重要なこと」と語っていました。
「ワールドワイドのマッチングは経験のないスタッフが多かったので、ベータテストでフィードバックを得られたのはよかった」と辻本氏。また辻本氏は「ゲームは実際に発表するまでは機密性が高いので、いろんな人の意見を採るのが難しい」とも語っていました。
その意味で、海外の販社にプレイしてもらうのは、ある種のテストに近いので、そこで出た意見は後日全部もらうようにしたとのこと。辻本氏としては、プレイした人すべてからフィードバックをもらうことが、重要だと感じているようです。
プレゼンテーションでも3回に渡る体験版の施策について語った安田氏は、「『仁王』の体験版は、もともとが苦肉の策でした」と明かしました。新規IPということで、ゲーム自体を知ってもらう機会を、なんとかして作りたかったのだとか。
全世界を対象とした体験版はそれまでやったことがなかったそうですが、実際にやってみると欧米からの反響が非常に大きくて驚いたとのこと。「お客さんの言葉はなによりも正しいと思う」という安田氏は、「体験版をやって悪いことは何もない」と語っていました。
またアンケートでは、今回採り上げた3つのタイトルについての個別の評価についても、回答が寄せられました。
齊藤氏はこの結果を見て「冒頭のプレゼンで語った全体のバランスが、この結果にも反映されていると感じて一安心した」とのこと。
「もし『ニーア』の次回作があるとしたら、まだ上を目指せるぞというところを補強しつつやっていけば、次の結果につながると思う」としたうえで、「『オートマタ』の結果は出来過ぎだったので、これから先にはたして何ができるのか、がんばって思考しなければいけない」と語っていました。
「『仁王』の弱点として評価が目立つのは、やはりUIですね」と安田氏。「その一方で エンタテインメント性の評価がすごく高いので、そこは決して変えてはいけない」と語っていました。
「明らかな欠点を改善しつつ、大事なところを伸ばすことのほうを、より意識すべきだと思う」という回答は、現在開発中の『仁王2』にもつながる考え方ではないでしょうか。
「ゲームシステムをすごく評価してくれているのは嬉しい」と辻本氏。「この回答のなかにある原因をしっかり突き詰めて、どこを変えていくのかというのを考えていきたい」とのことです。
また一方で辻本氏は、今後のゲーム開発について「ゲームを作る環境や技術は常に進化しているので、その進化についていくことが重要だ」とも語っていました。
ステージの最後では、モデレーターの降旗氏から、アンケートの自由意見として、海外のコアゲームファンから今回の3タイトルをはじめとする日本製ゲームに対して、熱いラブコールのようなメッセージが寄せられていることが紹介されました。
これについて降旗氏は、「日本製ゲームに対して海外のコアユーザーがすごく期待しているということが、思っていた以上に明確な手応えを得られた」と語っていました。
このパネルディスカッションでは、世界に向けたリリースされた日本の人気ゲームが、具体的にどのような考えに基づいて制作されているのか、開発者自らによって紹介されて、非常に興味深い内容となっていました。その意味で日本製ゲームの将来に、大いに期待が持つことのできるステージだったと言えるでしょう。
■東京ゲームショウ2018 開催概要
【開催期間】
ビジネスデイ……9月20日~21日 各日10:00~17:00
一般公開日……9月22日~23日 各日10:00~17:00
【会場】幕張メッセ
【入場料】一般(中学生以上)1,200円(税込)/前売1,000円(税込)
※小学生以下は無料