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2018年9月23日(日)

ヒットの秘訣やJAPANスタジオの次回作などをSIE WWSプレジデント吉田修平氏に聞く!【電撃PS】

文:電撃PlayStation

 9月20日(木)から4日間開催される“TGS 2018”。その会場で、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE) ワールドワイド・スタジオのプレジデントである吉田修平氏にお話をうかがった。

吉田修平

JAPANスタジオの新作は“仕込み”の段階

――『Detroit Become Human(以下、Detroit)』『ゴッド・オブ・ウォー』『Marvel’s Spider-Man』といった海外スタジオのタイトルが、立て続けにヒットを飛ばしています。1タイトルの開発にかなりの時間とコストをかけていると思いますが、SIEさんや吉田さんの中に“勝利の方程式”みたいなものはあるんでしょうか?

吉田:方程式ではありませんが、要因としては2つあると思います。1つは、制作期間をかけているからこそゲームのクオリティも上がり、ヒットに結びついたのだと私は考えています。もう1つは「いよいよ日本でもPlayStation(R)4(PS4)の加速が始まったな」と思える時期に来たというところでしょうか。

 『グランド・セフト・オート』や『コール・オブ・デューティー』など、世界的に売れているようなタイトルはPlayStation(R)3のときよりも遥かに多くの枚数が売れているんです。でも日本ではハードの普及率に対して、海外タイトルがなかなか売れていませんでした。私が昔、海外で暮らしていた頃は「こんなにいいゲームなのになんで日本の人たちは遊んでくれないの!?」と、残念に思っていました。それがここ最近になって、海外タイトルが売れるようになってきた。

 例えば去年のTGSでは、PlayStation(R)ブースでご用意させていただいた『Detroit』のアンドロイドディスプレイが話題になり、その後もさまざなところで取り上げられたおかげか、日本での『Detroit』の売り上げはすごくよかったんです。これは過去にはあまりなかったことです。いまヒット中の『Marvel’s Spider-Man』も驚くほど好調な売れ行きになっていて、私も正直「これは一体何でだろう?」というくらいです。

 さらに、今年のTGSのPlayStation(R)ブースでもここまで大きく『Days Gone』を展開してくれるとは予想していなかったのですが、それらの動きを見て「いよいよ来たかっ!」と実感しました。

 また内輪ネタではありますが、まだ海外タイトルが売れなかった頃に、SIEローカライズチームの石立や谷口(石立大介さんと谷口新菜さん)には、「そのうちにキミたちの時代が来るから、今はツラいだろうけど耐えてくれ」と言ってきたんですが、それが報われた感じで、私も嬉しいですね。彼らの目も最近、ますます輝いているんですよ(笑)。

 ただ、日本だけの水準で見ると“大成功”と言うにはまだ早いかなと。もしかしたら何年後かには、『Horizon Zero Dawn(以下、Horizon)』や『ゴッド・オブ・ウォー』、『Marvel’s Spider-Man』などが、日本でも“大成功”と呼ばれるようなフランチャイズになる可能性は上がってきたのかもしれない。というのが、今感じているところです。

――日本での“大成功”にはまだ早いとおっしゃいますが、それはなんでだと思いますか?

吉田:ファミコン世代からゲームをしていた世代、40~50代の方々は昔ながらの『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などで盛り上がるじゃないですか。ところが今の20代くらいの若いプレイヤーのみなさんは『コール・オブ・デューティー』や『フォートナイト』などが、原体験なのかもしれません。

 そういう若い世代にとって『Marvel’s Spider-Man』や『Detroit』はあんまり違和感がないんですよ。ですから世代が移って来て、一番自分にとって大事だと思っているゲームタイトルのシリーズ、フランチャイズ、あるいはゲームのジャンルが、少しずつシフトしているような流れを感じていますね。

――そういう流れを感じたときに、数年後に大きなタイトルを発表するとしたら、開発の方向性も変わってくるのでしょうか?

吉田:PS4(R)世代になってからできることがとても増えたので、AAAタイトルを作るのに時間がかかるんですよね。

 最近だとオープンワールドが主流なので、メインミッションだけではなくいろいろなことを詰めこんでいますし、ユーザーさんもそれを期待しています。その期待に応えるためにも、中途半端な内容のタイトルは出せない状況になっているわけですが、数年前に目指していた方向性とはあまり変わらないのかな、と。

 むしろこれ以上に広がる可能性すらありますね。ただのオープンワールドではない深さがある、新たな地平を切り開くようなゲームも出てきていますし、デベロッパーが競い合ってユーザーの体験をよりリッチなものにしていくようになるのではないかと思います。

 一方でインディーゲームの存在感が安定してきており、ユーザーさんもビッグゲームを遊ぶなかでインディーゲームをチョコチョコと遊ぶ世界になっているので、バランスとしては良いと考えています。

 やっぱりAAAタイトルではリスクもあるので、これまでにないジャンルのゲームは作りにくいですから。そういった部分はインディーゲームにガンガン攻めてもらって、業界全体をインスパイアしてくれたらと思っています。

 悩ましいのは日本にいるスタジオが何を作っていくかです。一部のデベロッパーさんはAAAタイトルでガンガン勝負していますが、それは例外的な話ですので。やっぱり日本人にしか作れない、日本の文化を上手く使った特徴的なタイトルを生み出していく方向に進むしかないのかなと。海外のユーザーさんもそれが好きな人が増えてきていますから。

吉田修平

――JAPANスタジオとしての動きもそういったところを敏感に感じながら次のタイトルを考えていらっしゃるのでしょうか?

吉田:今年はVRタイトルが非常に充実していますけれど、大体の内製チームがタイトルを出し切ったたあとですから、今はまさに次のタイトルへの仕込みとして、議論を重ねているところですね。

――ワールドワイド・スタジオのなかのJAPANスタジオなので、JAPANスタジオがAAAタイトルを作ってもいいわけですよね?

吉田:SIEのスタジオ間ではグループ交流も盛んに開催していますので、「JAPANスタジオで一発AAAやるぞ」みたいな動きはあってもおかしくないと思います。

――たとえばオープンワールドを作るとして、日本にノウハウの無い部分はほかと提携することもあるのでしょうか?

吉田:無いとは言えないですよね。JAPANスタジオのクリエイターが持つ経験や得意分野もありますし、テーマによっては海外のスタジオとの協力もあると思います。そういう意味では、『ワンダと巨像』のリメイクはJAPANスタジオのプロジェクトですが、制作会社はアメリカのスタジオなんです。そういうコラボレーションもしていますし、JAPANスタジオゲームの『KNACK ふたりの英雄と古代兵団』なども、技術面では海外チームの技術を取り入れたりしています。

――ガチで日本のゲームが世界の最先端で勝負できるタイトルが少ないので、そういうところで戦えるといいなと。今の日本のゲームは、どちらかと言えばテクニックや変化球で勝負しているようにも感じますし。

吉田:プレッシャーをかけてきてます?(笑) でも、いずれはJAPANスタジオも勝負に出る時が来るかもしれません。でも日本のパブリッシャーさんもすごくいい形で成果を出されていますよ。最近はPCでの展開でかなり売り上げを伸ばしていますし、リターンが期待できると投資もしやすくなりますから。

――いま話題の“プレイステーション クラシック”ですが、タイトルは5タイトルほどしか発表されておりません。今後発表されるなかには、アーカイブスには含まれていないタイトルや、ファンが驚くようなものも含まれているのでしょうか?

吉田:収録タイトルの選定には関わっていないのでわからないですが、私は今回初収録のものを選定してほしいとか、そういう目で見てはいませんでした。例えば今回発表した『鉄拳3』が、ツイートによって「アーカイブスに出てなかったんだ」と知ったくらいですから。

 商品企画チームの人と話したとき、想いが強すぎてどのタイトルを選ぶかで、白熱したバトルが繰り広げられたと聞いています(笑)。最終的には日本版と海外版で大事にしているタイトルは違うよねとなって、一緒にできないということになったと。そういうなかで、「アーカイブスに出ていないから選ばれた」という理由があるのかは、私にはわかりません。

――2019年はPlayStation(R)、PSが25年目を迎えます。25年目を迎えるにあたり、何か考えていることはありますか?

吉田:繰り返しになりますが、ゲームの開発期間が長くなっていて、“周年合わせのスケジュール”などは対応が難しくなっているんですよね。日本発売が決まった『Dreams Universe』は2013年の2月にデモを見て、今は2018年なのですごい長大なプロジェクトです。『Days Gone』の制作を担当しているチームがその前に手がけていたのはPlayStation(R)Vita(PS Vita)の『アンチャーテッド -地図なき冒険の始まり-』ですし。

 私のなかではPS4(R)世代に入る前後から始まったプロジェクトが、いまようやく表に出てきたなという感じです。『グランツーリスモSPORT』も出ましたし、『人喰いの大鷲トリコ』も出ました。でもまだ『Days Gone』や『Dreams Universe』はこれからです。もちろん25年と言われると感慨深い気持ちもありますが、私の中ではまだまだこれから、といった感じです。

 とくにPS4(R)は非常にのびしろがある素晴らしいハードです。開発として出来ることが増えると、クリエイティブにも熱が入り、開発期間がどんどん伸びてきています。ハードの制限ではなく、クリエイティブを無尽蔵につぎ込める。そういう世界に入ってきてしまっているんだなぁ、という思いが強いですね。

PS4(R)で未発表のタイトルもあり、まだまだこれから

――まだまだこれから、とのことですが、未発表のビッグタイトルもあるんでしょうか?

吉田:楽しみにしていてください。でも発表して発売していないタイトルもたくさんありますので、まずはそれに注力していきます。個人的には『Ghost of Tsushima(仮称)』とかメチャクチャ好きですし、『デス・ストランディング』なんかはどんなゲームなのかとすごく楽しみです。

 まだ日本での発売について発表していませんが、『ラスト・オブ・アス パート2』はデモを見ててビックリしたんですよ。デモ用にすごいアニメーション作ってると思ったら、「AIでやっています」と言われて驚きました。“キャラクターAI”の部分では、『ラスト・オブ・アス パート2』は1つ先に行っていると思います。それを見てまたほかのチームも考えると思うんですけど、そういうチームの競争みたいなところも楽しみですね。

――直近で吉田さんが注目しているタイトルはありますか?

吉田:10月4日に発売を控えている、PS4(R)用ソフト(PS VR必須)『ASTRO BOT:RESCUE MISSION(アストロボット レスキューミッション)』ですね。もうこれは全PS VRユーザーの方にオススメしたいタイトルです! PS VRの性能を熟知したJAPANスタジオのチームが開発しているので、本作でしか味わえない画期的な遊びが楽しめます。このタイトルのためにPS VRを買って遊んでもらいたいくらい力を入れているので、既にPS VRを持っている方はもちろん、まだPS VRを持っていないユーザーさんもぜひ検討してみてください!

――19年にPS Vitaの出荷終了が織田さんからも伝えられました。吉田さんから見てPS Vitaはどういうハードでしたか?

吉田:私もすごく開発に関わった思い出深いハードです。2008年にアメリカから日本に拠点を移して、当時のSCEの社長から「今後のプラットフォームはゲーム開発チームとハード開発チームが一緒に作ってくれ」と言われて関わったのが、PS VitaとPS4(R)のプロジェクトだったんですよ。

 そのあとのPS VRもそうですけれど、私はプラットフォームの開発そのものに深く関わっています。いろんな仕様を提案されて、プロトタイプを作ってもらってはゲーム開発チームがそれで何ができるのかを検証する、ということを繰り返しながら作り上げたハードなので、ものすごく思い入れがあるんですよ。ですからPS Vitaが来年、出荷完了になるのも寂しいですが、よく頑張ってくれたなという気持ちです。

 SIEでは、ほかのタイトルにリソースを割きたいといった戦略的な意味合いで、ある時期からPS Vitaのタイトル制作から離れていってしまいました。でも、そのあともサードパーティさんやインディータイトルに恵まれてずっと遊ばれてきているので、そこはユーザーさんにも業界の方にも「ありがとう」と言いたいですね。

 日本だと需要もありますし、ポータブルゲーム機の良さというのはゲーマーにとってはすごくいい物だと思います。うまい具合にゲーム業界全体で、そういった文化を提供し続けられるといいですね。

電撃PlayStationでは、吉田修平さんのコラムを連載中!

 今回インタビューにお答えいただいた吉田修平氏によるコラム“ゲームと世界 ときどきお菓子”が8月からスタートしている。9月28日(金)発売となる電撃PlayStation Vol.668に掲載されるコラムでは、なかなか知ることができない吉田氏の具体的な仕事内容に詳しく語ってもらっている。さらに恒例のお菓子紹介コーナーなど、見どころたくさんの記事をお送りしていくコラムなので、ぜひチェックしてほしい!

  さらに、コラムとともに吉田修平さんに聞きたいことや食べてほしいお菓子の情報などを、ハッシュタグ「#吉Pのゲームと世界」でつぶやこう。コラムでの掲載もあるかも?

吉田修平

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