2018年10月27日(土)
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、アークシステムワークスより配信中であるPS4/Xbox One/Nintendo Switch/PC用ソフト『The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -』(以下、The MISSING)のプレイレポートをお届けします。
『The MISSING』は、SWERYこと末弘秀孝氏が率いるデベロッパー・White Owlsの第1弾作品となるアクションアドベンチャーゲームで、心に訴えるドラマ性の強いストーリーと、パズル性に富んだアクションを楽しめます。
特徴的なのは、主人公の四肢が欠損し、千切れた手足や首だけの状態を利用してギミックを攻略する斬新なゲームシステム。四肢の欠損以外にも、身体中が燃えたり、骨折したりと、さまざまな自己の損傷がギミック攻略と結びついています。
また、ゲーム部分とストーリーの両方で、プレイヤーの“気づき”や“思考”をさりげなく促すゲーム&シナリオデザインになっていることも大きな特徴です。斬新なシステムを入れつつも、ゲームの原点に忠実。そんな匠の技をうかがえるゲームになっていると思います。
ゲームの主人公は、サブタイトルにもあるJ.J.マクフィールドという名の大学生です。J.J.が親友のエミリーと一緒に追憶島と呼ばれる島にやって来て、一晩を過ごすところから物語は始まります。
しかし、J.J.が目覚めるとエミリーの姿はなく……。失踪した彼女を探し出すため、J.J.は島の奥へと足を踏み入れていきます。そして、森林公園を抜けて広い花畑に出たところで、J.J.は雷に打たれて“死”を迎えます。
衝撃的なのはむしろその後で、黒焦げの死体になったJ.J.が、骨のきしむような音を立て、身体をあらぬ方向にねじ曲げて動き出します。そしてついには、光を帯びて蘇生するのです。横スクロール画面ながら蘇生のシーンは凝っていて、強烈な世界観を醸し出しているというか……目に焼き付くものがあります。
▲謎の鹿男に見守られる中、「……まだ 死ねない」と立ち上がるJ.J.。 |
▲その痛みゆえか、壮絶な出来事によるショックゆえか、蘇生したJ.J.が泣き崩れると、バックにタイトルロゴが表示され、ゲームの本格的な始まりを告げます。 |
建物はあれど人の姿はない、まるで廃虚のような雰囲気と奇妙な仕掛けに満ちた島を、この不思議な力を使って探索することになります。
ストーリーについて書くと、ゲーム起動時に表示される「この作品は、すべての人々が自分自身であることを否定しなくても良いという信念のもとに作られています」というメッセージが、ある意味ですべてを物語っています。
本作はストーリーを直接語るようなセリフが少なく、J.J.のスマートフォンに届く会話の過去ログが、物語を探る大きなヒントになっています。そのため、上記のメッセージはプレイヤーの想像の大きな助けになるでしょう。
▲画面を見るとスマホはつねに圏外なのですが……。そういった細かな点からも、いろいろと物語の背景を想像できるでしょう。 |
▲ちなみに、J.J.と一緒に雷に打たれて灰になったはずが、なぜか喋れるようになったヌイグルミのF.K.だけは、現在進行形の会話としてメッセージを送ってくれます。 |
強いメッセージ性を持つゲームでありながら、それを登場人物が語ってプレイヤーに押しつけることがなく、むしろ物語の完成に必要な最後のピースを“プレイヤーの想像力”にゆだねる。そうしたシナリオデザインであるため、テーマが自然と心に浸透する、納得感と気持ちよさのあるエンディングを迎えられると思います。
ちなみに、主人公が早々に死ぬダークな導入であるため、それだけで本作をスルーされることのないように書き加えると、結末はハッピーエンドで、抱える悩みは違っても明日に希望が持てるような終わり方になっています。
ストーリー全体を考えると、闇の淵から光を見出すような展開の中で、その背景となる登場人物の心情がとても丁寧に描かれており、心に染みるドラマを体験できます。
主人公の肉体を駆使してギミックを攻略するゲーム性は、一般のパズルアクションとは異なる“気づき”や“発想”を得られるのが、一番の楽しさです。言い換えれば、ギミックに対するアプローチが新鮮でおもしろい。
例えば、シーソーに似た仕組みの木板を橋にして渡ろうとする場面。ここでは、木板が重量によって傾くため、普通に歩いて渡ることはできません。
▲半分だけ陸地に乗った木板。素の身体のまま渡っても重量の傾きで先に進めず……。 |
けれど、身体をバラバラにしてJ.J.の重量を落とし、なおかつ千切れた手足を木板の片側に置いて重さのバランスを取ると……見事に渡りきることができます。
▲身体の欠損を利用すると、左右で重量のバランスが取れて、木板を渡れるように。 |
他にも、全身が燃えさかるJ.J.の肉体を松明代わりにして、何かに火を点けたり、真っ暗な場所を進んだり。首だけの状態になって狭い場所を通過する、千切れた手足を投げて何かに働きかけるなど、一言では紹介しきれない多彩なシチュエーションが存在します。
▲首だけの状態になると通れる場所は、ゲーム中にいろいろあるので探してみましょう。 |
さらに、J.J.の身体を使う以外に、ボタンを押して働きかけるオブジェクトも多様で、さまざまな仕掛けが絡んだパズルを体験できます。
時には、バラバラの死体を1カ所に埋葬したり、手紙を読んだり、ギミックの先に人を感じるような物悲しいシチュエーションもあって、ゲームを進めるとだんだん世界観に浸れるようなエッセンスを感じるのも特徴です。
▲重量物にぶつかって骨折すると、ステージの上下が逆転するギミックもあります。 |
また、個人的に特筆しておきたいのが、説明を極力排したチュートリアルと丁寧なレベルデザインです。
“千切れた腕を投げる”という発想に行き着くまでの流れを例に取れば、最初に“石を投げてモノを落とす”ことを体験し、次に“J.J.の身体はバラバラになっても再生する”ということを体験します。
▲操作説明はあっても、あくまでJ.J.の思考を言葉にした表現。よくあるチュートリアルのように、メタ的な説明文がいきなり差し込まれることはありません。 |
そこまで体験して先に進むと、何かを投げると箱を落とせそうなのに周囲に石はない、というシチュエーションに出くわします。そして気づくのが、“J.J.の身体を欠損させて、千切れた腕を投げればいいのでは”という発想。
ここに至るまで説明文というものは一切なく、見慣れないシステムながら、プレイ中の体験だけで使い方を飲み込めるよう作られています。
▲先に進むためには、木の台の上にある箱を落としたい状況。 |
▲「投げるものがないなら、自分の腕を投げればいいじゃない」と脳内のささやきを聞いた気がして、有刺鉄線を使い自分から腕を千切ってみます。 |
▲後は方向を定めて腕を投げるだけ。無事に箱を落として先に進めました。 |
これ以降も、プレイヤーが段階を踏んで新たなアクションを経験し、“考える”というワンクッションを経てギミックを攻略できるのは同じ。絶妙なバランスで頭を使うパズルの醍醐味を楽しめます。
また、平常時は好きなだけ考える時間を使えますが、髪鳴り女という凶悪な敵に追われるシチュエーションもあって、時には緊張感も味わえます。新鮮なアプローチを楽しむパズル性、想像力をかき立てるストーリー性、多彩なシチュエーション。いろいろな刺激が絡み合い、時間を忘れて没頭できるゲームですよ!
▲大きなカッターナイフを振り回して追いかけてくる髪鳴り女。恐すぎます。 |
フィールドの至るところにドーナツやドーナツ店のマスコットキャラクターが配置され、合計で271個のドーナツを集めるというコレクション要素が用意されています。ドーナツを一定数集めるごとに、新たな衣服、学友や教授との会話ログ、ギャラリーがアンロックされるので、お楽しみ要素が充実しています。
▲友人や教授との会話ログは、主人公の人物像や背景に厚みを与える内容が多め。友人や教授の性格もユニークです。ただ、最終的には物語の展開ともつながっています。 |
特にギャラリーは、アイデア段階のイラストやそれに対するメモ書きがしっかり収録されているので、かなり贅沢な仕様です。意外な秘話が読めるので、ゲーム制作の裏話が好きな人などには、たまらないオマケ要素になっているはず。
▲J.J.のキャラクターデザイン案のの1つ。メモを見られるのが本当に貴重! |
▲こちらは、実際のゲーム内に採用されている衣服のカラーバリエーションの一部。 |
また、ストーリーをクリアすることで、ゲーム攻略を有利にする便利機能、BGMの再生機能、主要キャラクターの新しい会話ログ(隠しメッセージ)を読めるコレクション要素も解放されます。
本作は、チャプター選択によって好きな場所からゲームをプレイすることが可能です。ストーリーをクリアした後は、コレクションアイテムを探して、会話ログからさらに物語を掘り下げると、ゲームをより楽しめるでしょう。
▲衣服の変更やクリア後にアンロックされる便利機能は、すべてスマートフォンのチートメニューから設定できます。 |
▲1周目に取るのを諦めたドーナツの場所をメモしておくと、後から取りに行く時に便利だと思います。 |
いろいろと感想を書きましたが、一言にすると、最初にも書いた“斬新なシステムを入れつつも、ゲームの原点に忠実”なゲームデザインが、本作のおもしろさだと思います。
さりげなく“気づき”を促され、プレイヤー自身が考えるおもしろさ、想像するおもしろさがあり、いつの間にかゲームにのめり込む。そこに主人公の身体でギミックを攻略する尖ったゲーム体験もあるという。
主人公のゴア表現にしても、ゲームを進めることで、J.J.はなぜ激しい痛みにさらされるのか、J.J.にとってその痛みはどう対処すべきものなのか、だんだんと見えてくるものがあります。
ネタバレを避けるため回りくどい書き方に留めますが、最後までプレイすると、きっと人それぞれに思うところが生まれて、感想や考察を語りたくなるはずです。個人的には、J.J.が終盤に口にした痛みに対する決意の言葉が、ゲーム体験とストーリーを深くつないでくれる一言でした。
ゴア表現が苦手な人には無理に勧めませんが、あまり抵抗のない人であれば、単純に見た目のインパクトだけではなく、ゲーム性もストーリー性も深い、という部分を十分に楽しめるでしょう。純粋におもしろかったので、1人でも多くの人に体験してほしいと思うゲームです。
(C) White Owls Inc. / ARC SYSTEM WORKS
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