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2018年11月5日(月)

『デラシネ』プレイレポート。『ダークソウル』や『Bloodborne』と異なる魅力、共通する魅力【電撃PS】

文:電撃PlayStation

 11月8日にPlayStation 4で発売されるPlayStation VR(PS VR)専用ソフト『Déraciné(デラシネ)』のプレイレポートを電撃PlayStation編集部のあーやがお届けします。

『デラシネ』

 本作を一通りプレイして感じたのが、「ゲームをプレイしてこんな気持ちを抱いたのは初めてだ!」ということ。「PS VRでこんな体験ができるなんて!」と目からウロコ状態。間違いなく自分の心に残る一本になりました。

 それと同時に思ったのが「こんなにもネタバレをしたくないゲームに出会ったのは初めてかもしれない……」ということ。以下、レポートを行っていきますが「ある意味、ディレクターを務めた宮崎英高氏、プロデューサーを務めた山際眞晃氏がE3のインタビューで語っていたことだけでも十分なのかも?」とさえ感じてしまいました。

 お2人のインタビュー記事へのリンクも貼っておきますので、こちらもぜひ、ご覧になってください。

⇒インタビュー記事こちら

静かなゲーム性だからこそ、自分の感情の微細な変化に気づく

 本作のコンセプトは“古典的アドベンチャーゲームを、最新のVR技術で描く”ということ。基本的な構造は、気になるところを調べてアイテムや情報を入手し、それらを考察して謎を解いていく、いわゆるポイント&クリック型のオーソドックスなアドベンチャーゲームとなっています。

『デラシネ』

 そして、本作のテーマは“感情”。プレイしていると、だんだん家族の何気ない日常を切り取ったホームビデオを見ているような、ミステリー小説を読んでいるような、それでいてゲームらしく、自分が物語に介入しているような気持ちになっていきます。

 こういった複数の感情をプレイヤーに抱かせるゲームデザインの妙が新しく、そしてメチャクチャおもしろい! 数々のゲームをプレイされているゲーマーの方はもちろん、ゲーム慣れしていない方も、おもしろさがわかりやすいタイトルに仕上がっていると感じました。

 本作は近年の超大作ゲームと比べると、追求しているおもしろさの方向性が全く異なっているため、とにかく新鮮。超大作ゲームがダイナミックに状況が変化していく、刺激に満ちた動的なゲームと表現するならば、本作は非常に静的なゲームです。

 それ故にこのゲームでは、美術館で自分の気に入った絵に出会うような、読書中に自分の気に入った文章に出会うような、“自分の心が静かに、そして確かにざわつく瞬間”に出会うことがたびたびあるのです。比較的、自分の気持ちと向き合う機会が多いのも、本作の妙と言えるでしょう。

『デラシネ』

 また、“ゲームをプレイしているのに読書や映画鑑賞しているような気分になる”というのは、PS VRの効果が非常に大きいと感じました。PS VRの没入感がもたらす“そこにいる感覚”とふとした瞬間に抱く“そこにいない感覚”をゲーム性に昇華して組み込んだ、という意味でも、本作はゲームの多様性を証明した一作であると言えると思います。

 ちなみに宮崎氏は「素直な気持ちで本作を遊んでほしい」と語っています。『DARK SOULS(ダークソウル)』や『Bloodborne(ブラッドボーン)』といったフロム・ソフトウェアらしい血生臭いゲームが好きな人のなかには「もしかして、自分は本作を満喫できないのかな?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 ネタバレになるので多くは語れないのですが、フロム・ソフトウェアならではのストーリーテリングの手法が好きな方は「安心して大丈夫」とお伝えできるかなと。

 本作の物語は“温かくもミステリアス”。『DARK SOULS』や『Bloodborne』をプレイした方ほ“温かさ”の部分に戸惑うかもしれません。

 筆者も『DARK SOULS』シリーズのまとめ書籍を作るぐらいにはフロム・ソフトウェアのゲームを遊んでいる部類の人間ですが、振り返ってみると、その戸惑いがかえって感情を揺さぶり、考察を招き、物語を心から楽しむことができたかな、と思っています。

 ストーリーも考察の必要はあるものの、それが楽しい! また、ストーリーラインは『DARK SOULS』や『Bloodborne』よりもハッキリとしており、「物語をよく理解できないままクリアしていた」ということはおそらくないでしょう。アドベンチャーゲームということで、アクションゲームとは異なる形での満足感をちゃんと味わえますので、ご安心を。

『デラシネ』
『デラシネ』

温かさとミステリアスさが、プレイヤーをゲーム世界に誘う

 “温かくもミステリアス”な物語について補足していきましょう。本作の舞台は、6人の少年少女と年老いた校長先生が暮らす、人里離れた古い寄宿学校。プレイヤーはそこで“止まった時の世界の住人”である妖精として物語に関わります。

 妖精は止まった時の世界に生きるため、時の流れる世界には限定的にしか関わることができず、その世界で生きる子どもたちには直接関わることができません。

 この要素が、ゲーム世界をとても静かなものにしており、またVRの没入感がもたらす“そこにいる感覚”と、“子どもたちと会話ができない”という遣る瀬なさを感じるときなどにふと抱く“そこにいない感覚”の両方を私たちに与えてくれます。

『デラシネ』

 妖精がどうやって子どもたちに関わっていくのかについても少し説明しておきます。本作で妖精が干渉できるものは、カギや紙片といった、ちょっとしたモノのみ。

 また、止まった時の住人ならではの特殊な力を2つ持っています。ひとつは、命の時間を移す力。もうひとつは異なる時を移動する力。この条件のもとで、プレイヤーは少しずつ子どもたちに干渉していきます。

 物語の序盤では、みずみずしいブドウの命の時間を枯れた花に移したり、子どもたちが隠し持っているハーブをシチューに入れたりすることなどで自分の存在をアピールする、条件を満たすことで異なる時に移動する、といったことができます。

『デラシネ』
『デラシネ』

 子どもたちへの感情移入の導線についても非常に丁寧に作られている印象を受けます。妖精としての自我の確立、子どもたちとの出会い、そしてお互いに直接的なやり取りができないながらも少しずつ紡がれていく友情……。

 なによりもポイントなのは、子どもたちがとても可愛く、そして素直なこと! ここ、フロム・ソフトウェアが手がける作品を知っている方ほど意外性を感じるかもしれません(笑)。自然と子どもたちに感情を入れ込んでしまい、ふとした時に、自分がとても優しい気持ちになっていることに、きっと気づくと思います。

『デラシネ』
『デラシネ』

 “本作のミステリアスさ”についても少し解説しておきましょう。ひと言にミステリアスといっても、本作におけるその意味は謎解きから考察まで幅広いものとなっています。

 子どもたちの視線や行動、引き出しにしまわれている何気ない写真、置物。そういったものは、たとえば“どうすれば子どもたちに自分の存在を気づいてもらえるか?”というヒントになる場合もあれば “物語や子どもたちのバックボーンを知る”ヒントになっていることもあり、さまざま。

『デラシネ』
▲止まった時の世界では、子どもたちの思い出が幻影として登場することもあります。
『デラシネ』

 本作には、いわゆる“コテコテの説明文”はあまり出てきません。だからこそ“子どもたちの言葉をちゃんと聞こう”という気持ちになり、子どもたちに感情移入していく。

 そしてちょっとした小物からも、秘められた想いなどを汲み取ろうとしてしまう……。あなたはきっと、気がつけば“妖精さん”として、子どもたちとの絆を深めるために奔走していることでしょう。

『デラシネ』
▲この写真は、これまで紹介されていた“少年少女6人と年老いた校長先生”の関係性に、謎を提示しているように思えます。
『デラシネ』
▲女の子の視線の先にある、わずかに赤く光るモノは何なのでしょうか?
『デラシネ』
▲なぜ雪山にいるのでしょうか? 何かを大事に抱いているようにも見えますが……。

 ひとつ、覚えておくことで体験の深みが増すだろう、ということがあります。それはタイトル名にもなっている『デラシネ』という言葉の意味。デラシネとはフランス語で「根無し草」転じて「故郷をなくした人」を意味します。

 これが何を指しているのか、いろいろな考え方ができますが……おそらくゲームをクリアしたとき、プレイヤーの心に答えが出ているのではないかなと思います。

 ということで、“だんだん家族の何気ない日常を切り取ったホームビデオを見ているような、ミステリー小説を読んでいるような、それでいてゲームらしく、自分が物語に介入しているような気持ち”になる理由を、ざっくり解説してきました。

 筆者は子どもたちへの思い入れと散りばめられた気になる謎があいまって、徹夜でプレイしてしまうほどグイグイと物語に引き込まれてしまいました。今、改めて自分のプレイを振り返って湧き上がる感情は、嬉しさと満足感、そしてほんの少しの寂しさです。

 繰り返しになりますが、このゲームはゲームデザインと物語が非常に高いレベルで融合しており、間違いなくゲームでなければ、そしてVR技術を駆使していなければ、ここまで印象に残ることはなかっただろうと感じさせるタイトルです。

 強い刺激はなくとも、人の感情はここまで揺り動かされるものなのか……とプレイ中は驚きの連続で、クリア後はしばらく余韻に浸ってしまいました。

 “フロム・ソフトウェアらしくないのにフロム・ソフトウェアらしい”、とても“優しい”と感じる本作は、個人的には大満足の一本。ゲーム好きの人はもちろん、映画や小説が好きな方にもおすすめできる内容です。ぜひ、遊んでみてください。

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