2018年11月9日(金)

『PSO2』と『MHF-Z』開発者対談後編。長期運営で意識していることやバランス調整について語る

文:電撃オンライン

 セガゲームスが運営する『ファンタシースターオンライン2』と、カプコンが運営する『モンスターハンター フロンティアZ』がコラボレーション。それを記念して開発者インタビューの後半を掲載する。

インタビュー
▲左からカプコンの小泉隆秀さん、砂野元気さん、宮下輝樹さん、セガゲームスの木村裕也さん、酒井智史さん。

 『PSO2』には、『MHF-Z』のモンスター“灼零龍エルゼリオン”がコラボボスエネミーとして登場。また、『MHF-Z』のコラボアイテムがゲーム中に現れる。

 『MHF-Z』には『PSO2』のコラボ装備が登場。コラボイベントが行われるうえに、メゼポルタ広場に人型搭乗兵器“A.I.S”が出現する。

 インタビューには『PSO2』から酒井智史シリーズプロデューサー、木村裕也シリーズディレクター、『MHF-Z』から宮下輝樹プロデューサー、砂野元気アシスタントプロデューサー、小泉隆秀ディレクターが登場。さまざまな質問に対して、トークを展開していただいた。

 今回はインタビューの後半部分であるオンラインゲームの運営部分を掲載。『電撃PlayStation Vol.669』に掲載されていない内容もあるので、前半とあわせてチェックしてほしい。

 なお、本文中は敬称略。

オンラインゲーム運営の苦労について聞く

――前回からの流れで、オンラインゲームの運営についてお伺いします。まずはお互いの作品に対する印象を聞かせてください。

インタビュー

宮下:『MHF-Z』はストーリー的なものがあまりないので、そこがうらやましい。あとはキャラクターのモデルですね。うちはゴツイので、あのシュッとしているのがうらやましいです。『MHF-Z』でも細めの装備を作っているんですけど、やっぱりゴツくなっちゃう。

小泉:あのプロポーションのコントロールは欲しいです。

酒井:うちが『PSU』を運営している時に『MHF』がサービスインして、その時にいろいろな施策を行われて、国産オンラインゲームの中でも大きな成功をしたタイトルです。その施策もおもしろくて、『PSO2』を始めるにあたって、いろいろと参考にさせてもらいました。

宮下:逆にこちらから見ても『PSO2』でこんな施策をやるんだ、やられた悔しい、というのもあります。

――「やられた」と思うことはよくあるのですか?

木村:コラボが被ったり、うちが仕込んでいる時に先に出されたりした時とか。

宮下:グッズとかね。うちはグッズがあまり出せてないので。

酒井:あと、公認ネットカフェ全国ツアー。

木村:うちも感謝祭やキャラバンをやってきましたが、全国47都道府県は想像できませんよ。

――両タイトルとも、ネットカフェでの展開に力を入れていますが、そこでもお互いを意識していますか?

インタビュー

木村:うちはけっこう意識していました。『PSO2』の運営が始まってからも『MHF-Z』がずっと1位で、1回くらいは1位を取りたいって思っていました。

酒井:どうやったらネットカフェに行ってもらえるのかを考えました。「カップルで行こうキャンペーン、うちもやる?」みたいな。

宮下:ネットカフェキャンペーンを同じ時期に展開したりとかもありましたね。これからお盆だから絶対にキャンペーンしてくるだろうって。

砂野:先週やったから今週は大丈夫だろうとか。

――ネットカフェでの展開に力を入れる理由を聞かせてください。

宮下:ユーザーさんが集まれる場所ってそんなにないので、顔を突き合わせられる場所の提供という意味と、PCを持っていなくてもプレイできることですね。

砂野:最近は自宅にPCがないという方もいますし、ネットカフェに置いてあるPCのスペックもかなり上がっているので、よりよい環境で遊ぼうというお客様が集まっています。

木村:ネットカフェはマンガ喫茶も兼ねていることが多く、オンラインゲーム自体に興味がない方もいらっしゃいます。店舗でポスターや立て看板を積極的に使ってくれるので、パブリシティとしてはとてもいい場なんです。

砂野:興味があればすぐにその場で始められますからね。

木村:家庭用PCがタブレットに移行していく流れのなかで、オンラインゲームはハイスペックなPCが求められます。そういう意味では、ネットカフェは大事なプラットフォームの1つです。

――両タイトルとも長期運営となっていますが、長く運営を続けていくうえで重要視していることはなんですか?

木村:アップデートなどの未来に対する期待感というものは、つねに意識しています。

インタビュー

砂野:こちらの意図は発信しないと伝わらないので、チームが考えていること、ここに関してはこう考えていますとか、情報を発信していくところは気にしています。言うのと言わないのと、何も言わずにバーンと出すのと何もしないのでは全然違いますから。

宮下:要望をくみ取るところはくみ取る、できないところはなんでできないのかを答えています。

小泉:すべての要望を受け入れるのは物理的にも無理ですからね。

――ユーザーさんの要望はどこからくみ取るのでしょうか?

砂野:要望フォームからいただいたものを、毎週レポートにまとめてチーム内で共有します。状況によってはみんなで集まって相談して、その中でも重要なものは運営レポートに掲載しています。

木村:ブログやTwitterをすべてを見るのは不可能ですが、要望フォームは確実に見ますし、会社の中で整理して共有できます。うちもだいたい1週間に1回まとめていて、その要望が実際にどれくらい重要なものなのかを解析調査したうえで議題にしています。

――どんな要望がくるのか、言える範囲で教えてください。

インタビュー

小泉:あのモンスターを弱くしてほしいとか、この武器を強くしてほしいとか。

砂野:緩和してほしいという意見は多いですね。

宮下:でもカンタンにすると今度は「難しくして」という意見が来るんですよ(笑)。

砂野:どんなものに対しても、両面の反応はありますね。

木村:『PSO2』はクラスや武器に対して強くしてほしいという意見が多くて、逆に敵を弱くしてほしいという要望はあまり来ません。

酒井:『MHF-Z』は全体的にちょっと難しめの調整ですよね。

宮下:そうですね。難しいものを攻略していく快感を楽しんでほしい。

砂野:その試行錯誤も楽しみの1つだと考えています。

小泉:難しめの調整にしたほうが多くのハンターさんに遊んでいただけるというのが、実際の数字にも出てきます。

両タイトルのバランス調整の方針は?

――バランス調整はどんな方針で決めているのでしょうか?

インタビュー

小泉:一強にはしないことが第一にあって、ある程度強いものがあるというのは前提にしつつ、それだけにはならないようにしています。

砂野:ボクらはいろいろな武器種で遊んでもらいたいですし、ユーザーさんは自分の思い入れがある武器で遊びたい。ですから、個々の武器種の特性を殺さないように、他の武器種との連携があるようにと考えています。

木村:今のお話は正直耳の痛いところです。ヒーローは上級クラスということで多少は意識して強くした部分もあるのですが、もともとあった武器の下方修正も重なって一強になってしまいました。この1年、ユーザーさんには本当に申し訳ないことをしたと反省しています。

 ただ、ヒーロー自体の楽しさや快適さ自体は受け入れられたと思っているので、下方修正をするのではなく他のクラスをヒーローに近づける調整をしていきました。自分の好きな武器、好きなクラスを使ってもらえるように、今後もその方針を守っていきます。

インタビュー

酒井:仮に新クラスを追加するとしても、ヒーローのような一強には絶対にしません。

――『MHF-Z』にも穿龍棍一強時代がありましたね。

宮下:みんな穿龍棍しか使ってなかった……。

小泉:ボクらにもそういう経験があったので、これからは気を付けようと。

インタビュー

宮下:その時も下方修正ではなく、やはり他の武器を上げていくという方向で調整しました。

木村:ボクら開発は、ゲームが停滞しないために新しいことに挑戦していかなければいけません。けど、それがユーザーさんの求める方向性とズレてしまっては本末転倒だと思っています。なのに、これだけ運営・開発を長くやっていてもそうなってしまうのは、本当に申し訳ないです。

――当然ですがバランス調整は簡単ではないわけですからね。

小泉:アクションゲームは特に難しいと感じます。手触りだとか、プレイスキルといったものもあるので。

木村:あとは気持ちよさ……バランスがよくても遊んでいて気持ちよくないとダメな点も難しいです。

――今まで運営されてきて、よかったこととつらかったことを聞かせてください。

インタビュー

宮下:嫌な思い出はいっぱいあります。

砂野:不具合を出してしまったときが一番つらいです。問題の大小はありますが、ユーザーさんにご迷惑をおかけしたという意味では、どれも等しく失敗です。

宮下:直近でもマグネットスパイクを入れました。「いい感じです」と言っていますけど、アップデート当日に24時間以上のメンテナンスとロールバックをしてしまいました。本当に申し訳ない。

小泉:うれしかったことは、やはりお客様が入ってきてくれることです。『MHF-G』から『MHF-Z』にした時はPS4でのサービスも始まって、13武器種を全部新しく調整して当時のスタッフには苦労をかけましたが……。

宮下:『MHF-G』でいろいろとご意見をいただいていたので、それを踏まえてのアップデートでした。

小泉:そのタイミングでディレクターになったのですが、1年かけてじっくりやりました。それで新しいユーザーさんが入ってきてくれた時は本当にうれしかったです。

砂野:今回のアップデートでも初心者装備の方を見たり、復帰者マークを見たりしてうれしくなりましたね。

インタビュー

木村:正直、EP5はつらかったです。過去にもHDDのデータ消去という大きな不具合を出してますが、今回はクリエイターとしての大失態なので。うれしかったことは、やはり新しいユーザーさんが来てくれたことです。

酒井:うれしかった部分は、アニメからPS4への展開がうまくいった時はうれしかったですし、一番の成功でしたね。

 つらかった部分は木村とまったく同じです。EP4で多く入ったユーザーさんをうまく継続して盛り上げられなかったという部分や、自分たちの度重なる失態でユーザーの皆さんに失望を与えてしまったという部分で、EP5については反省ばかりです。

宮下:PS4版の展開はやはり大きいですね。ユーザーさんがネットワークにつなげるのが当たり前の時代になってきたと感じます。

――そういった状況で、今後のオンラインゲームはどうなっていくとお考えでしょうか。

木村:プラットフォームの垣根がなくなっていくだろうと考えています。スマホのスペックも上がってきているし、ネットワーク環境もよくなっています。ボクらが意識しなくてもプラットフォームが増えていく時代になるのかなと。『PSO2クラウド』も運営していますが、ああいったプラットフォームの制限を受けない仕様で、いつでもどこでも遊べるようになっていくと思います。

インタビュー

酒井:ボクはスマホが今後のキーワードになると考えています。今、日本の中ではスマホがPCの位置へ乗り替わろうとしていて、ソーシャルゲームと言われていたものがネットワークゲーム化しつつある現状です。韓国では完全にリッチ化していて、過去にはやった『リネージュ』シリーズなどがスマホで遊べるようになっている。

 その流れが日本にも来るかはわかりませんが、そうなっていく可能性は十分にあります。そう考えると、リッチなゲームでは一日の長がある我々がまだ活躍できる余地はあるのかなと。

宮下:街を見てもほとんどの方がスマホを持って歩いていますが、オンラインでつながっているなんて意識していないのではないでしょうか。普通のスマホのゲームが今でいうオンラインゲームに近く、それ以上のことがどこでも誰でもできるようになっていくのかなと考えています。

砂野:今後は5Gの通信環境へと変わっていきますし、もっと言えば5年後、10年後はスマホに替わるデバイスが生まれているかもしれません。どんなに形が変わっても、源流となったゲーム業界が新しいオンラインゲームを作るという形は変わらないと思うので、オンラインゲームを11年作ってきた我々としても、そのノウハウを生かしてよりよいものを作っていければと。

 同時に、VR・ARなどの自分たちが思ってもみなかった形で実現されているかもしれないと、ワクワクしながらやっていけたらなと考えています。

小泉:カジュアルなものと腰を据えて遊ぶものとで二極化するのかなと。個人的には、スマホで腰を据えて遊ぶのは厳しいと思っていて、ゲームハードやPCはこれからも高スペックになっていく。ゲーム作りは変わらなくても技術は進んでいくので、クリエイターのスキルがさらに必要になってくるんだろうなと思っています。新しいものにアンテナを張りめぐらせていないと取り残されてしまう時代になるのかなと危機感があります。

 この業界に入ったころは3Dのゲームなんて夢のような話で、それこそドットをプチプチと打っている時代だったのが、今や実写かと思うようなゲームもありますからね。それでも、腰を据えて遊びたいという部分は変わらないと思いますし、スマホで気軽に遊ぶゲームもその方向でどんどん進化していくんだと思います。

――最後に、それぞれのプロデューサーから読者に向けてメッセージなどをお願いします。

インタビュー

宮下:『MHF-Z』は先日、“MHF-ZZ”アップデートを実施させていただきました。マグネットスパイクという新武器種は重い武器種ではあれど、磁力を活かして要所要所でクイックに動いたりもできて、ハンターの皆さんからもご好評いただいています。新しいモンスターは、マグネットスパイクを使うと狩りやすくなる仕掛けが入っていていたり、環境の変化に合わせたスキルの組み立ても含めて楽しんでいただけていると感じています。

 新規のユーザーさんはもちろん、休止しているユーザーさんにとってもかなり遊びやすくなっているので、一度ログインしてみてください。10月31日からは『PSO2』とのコラボも始まりますので、アークスの皆さんもハンターになって遊んでもらえたらうれしいです。

酒井:『PSO2』のほうは11月7日からコラボが始まります。コラボボスを入れるのは『ファイナルファンタジーXIV』以来で、オンラインゲーム同士がコラボをするということ自体がなかなかありません。ボク自身も楽しみにしていたし、ユーザーさんにも楽しんでいただけると思っています。EP5のストーリーもちょうど終わるタイミングですので、その行く末もお楽しみに。

 これから年末に向けては、新レイドボスが登場するのでそちらも楽しみにしてください。EP5では大きな失敗があったと認識していますし、それをリカバーしていくということを1年半かけてやってきました。この1年半でやめてしまった方も、新しくなった『PSO2』をもう一度遊んでみてほしいです。

 そろそろ新しい展開をみなさん期待されていると思うんですけど、近々に発表できるかなというところです。EP5の轍は踏まないよう、我々もしっかりと臨みますので『PSO2』の今後にもご期待ください。

――ありがとうございました。

データ

▼『電撃PlayStation Vol.669』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年10月26日
■定価:880円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.669』の購入はこちら
Amazon.co.jp
▼『ファンタシースターオンライン2 クラウド』
■メーカー:セガゲームス
■対応端末:Nintendo Switch
■ジャンル:RPG
■配信日:2018年4月4日
■価格:基本無料/アイテム課金
▼『ファンタシースターオンライン2 エピソード4 デラックスパッケージ』
■メーカー:セガ
■対応機種:PC
■ジャンル:RPG
■発売日:2016年4月20日
■希望小売価格:4,990円+税
 
■『ファンタシースターオンライン2 エピソード4 デラックスパッケージ』の購入はこちら
Amazon.co.jp

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