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2018年12月11日(火)

【電撃PS】山本正美氏コラム全文掲載。“名前”という死ぬまで一緒の宝物

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.667(2018年8月28日発売号)のコラムを全文掲載!

第136回:俺の名は

 こんにちは、僕の名前は山本正美です!と、136回目にして改めて名乗ったところで、今回は自分の名前について書きたいと思います。

 今現在ですが、僕には明確なあだ名やニックネームはなく、周りの人からは、「山本さん」か「正美さん」のどちらかで呼ばれています。7:3くらいで、「正美さん」のほうが多い感じですかね。山本って、日本で6番目とか7番目とかに多い名字だそうなので、お店の予約のときとか被らないようにあえて違う名前で予約してみたり、正直個性が物足りない。

 なので僕としては「正美」と呼ばれるほうが断然嬉しい……のですが、子どものころはこの名前がイヤでイヤでしょうがなかったんですよね。理由はずばり、「女子」の名前だったからです。

 未就学児の頃は、周囲からは大体下の名前で呼ばれるか、パターンとしては名前を多少砕いた呼び方、僕の場合は「まあちゃん」とか「まあくん」と呼ばれることが多かったので、自分の名前が女の子によくある名前だ、という意識は特に芽生えることはありませんでした。

 それが小学校にあがると、まずは名字で呼ばれることになる。名字には男女のイメージ差はありませんが、「山本くん」と呼ばれることで少しお兄さんになった気がして、ほのかに嬉しかったことを憶えています。

 しかし二週間くらい経つと指摘してくる友達がいるわけですよ。「正美って女子の名前やん」と。男子にも、「マサミ」という名前がいなかったわけではありませんが、漢字が「正己」だったりして、まだ男子っぽい風情が残っている。「オノレが入っててカッコええやろ!」みたいな返し技も使える。

 それが僕の場合は「美」ですからね。オレもお兄さんかあ……と思った自意識はあっという間に打ち砕かれ、恥ずかしいという思いだけがどんどん募っていき、とにかく周りには、「山本」って呼んでくれとお願いしていたことを思い出します。

 小学生って、リコーダーやピアニカなど、生徒全員で買うモノが結構あるじゃないですか。確か2年生のころ、クラス全員で裁縫道具を買ったときのこと。裁縫道具が入った箱には、和のデザインとして、男子は青色の鼓つづみ、女子は赤色の鈴の絵が描かれていたのですが、僕に渡された裁縫箱は、まんまと「鈴」でした。

 たぶん、名前での発注で女子だと勘違いされたのでしょう。さあ、小2のガキ男子ってどんな小さなネタにでも食いつきます(笑)。「おまえの裁縫箱女子のヤツや!」「正美ちゃん!」といい具合にイジられ、「名前で呼ぶな!」とケンカしたり……。今思えばちっぽけな出来事なのですが、そのときはホントに嫌で仕方なかったんですよねえ。

 しかし3年生になり、とある事件(?)が起こります。同じクラスに、「山本ケンジ」という男子と「山本ヨウコ」という女子がいて、僕も含め3人の山本が存在することになったのです。しかも、担任の先生がなんと「山本アツコ」という名の女性の先生。

 そう、同一クラスでまさかの山本4人被り。もっとクラス分け考えろよ! と思いますが、これが僕にとっては大きな転機となりました。生徒に3人も山本がいて呼び分けに困ったアツコ先生は、山本3人を、ヨウコさん、ケンジくん、正美くんと下の名前で呼び始めました。その瞬間から、僕はクラス全員から「正美」と呼ばれるようになったのです。

 瞬間的に、そして一斉に。呼ばれる呼称が有無を言わさずいっぺんに切り替わると、不思議なもので単発ではあんなに感じていた引け目が、まるで最初からなかったように消え去りました。それはまるで、世界の色が塗り替わったかのような感覚。まさに超個人的なパラダイムシフトが起こったのです。

 当時はまだ友達を下の名前で呼び合うことが少ない時代で、逆にみんなから下の名前で呼ばれること、女の子っぽい名前だからこそ得られる特別感のようなものすら感じました。むしろ「オレ、目立ってるやん!」と、まるで別人のように人前でギャグを言い出したりするようにもなったのです。物凄い解放感で、毎日学校に行くことが楽しくてしょうがなくなった。

 で、5年生にもなると、好きな異性とかも意識し始める。そのころには僕はクラスどころか学年全員から「正美」と呼ばれていますから、「おまえ、あの子に名前で呼ばれてええなあ」とか言い出す男子も出てきて、そういうもんなのか~、とちょっと自慢に感じたりもしました。そして、僕はこの名前が大好きになったのです。

 子どもは名前を選べません。僕も子どもが2人いますが、当たり前ですがどんな名前にするか相当迷いました。しかしそれでも、その名前を本人が気に入るかどうかなんてわかりません。生まれてからずっと自分の名前が気に入っている人もいれば、僕みたいに、昨日は大嫌いだったけど今日大好きになることだってある。

 今は自分の名前が嫌いな人も、名前は生まれて最初のプレゼントであり、死ぬまで一緒の宝物だと思って愛してあげて欲しいなあと、新企画のタイトルを考えながら思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.670』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年11月28日
■定価:880円+税
 
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