2018年12月5日(水)

カプコンCS第一開発部 統括の竹内潤さんが『バイオ RE:2』に求めたものは? 『DMC5』や『パルマ』なども語る

文:電撃オンライン

 カプコンのCS第一開発部 統括である竹内潤さんへのインタビューを掲載します。

竹内潤様インタビュー

 CS第一開発部は、2019年に発売される『バイオハザード RE:2』(以下RE:2)や『デビル メイ クライ 5』(以下DMC5)を手掛けています。また、2016年に配信されたアプリ『囚われのパルマ』、2018年に配信された『ブラック コマンド』も開発しました。

 竹内さんには、『RE:2』の開発経緯や開発メンバーに伝えたこと、第一開発としててがける『デビル メイ クライ 5』などについて語っていただきました。

今のユーザーに『バイオハザード2』を届けるためには……

――E3 2018と東京ゲームショウ2018でプレイアブル出展をされましたが、アメリカと日本での反響はいかがでしたか。

 「リメイクをしてほしい」という強いファンからの希望を切っ掛けに始まったタイトルですので、一定の受け入れはしてもらえると正直思っていました。ですが、それ以上の反響でした。発表をご覧になられている人のリアクション動画を拝見しても、レオンが出た瞬間に「レオン! レオン! レオン!!」と喜んでいただけて。どれだけ知名度が高いのかと驚きました。あそこまで喜びの感情を出していただけると作り手冥利につきます。

 TGSまでアメリカ、ドイツと回ってきましたがどこでも好感触で、リメイク作品として非常にいい出来になっているとの反応をいただいています。

――改めて『バイオハザード RE:2』の企画を立ち上げられた経緯から教えてください。

竹内潤様インタビュー

 自分たちの経験で言うと、第1作の『バイオハザード』で“怖さ”ということでお客さんの心に深く残り、その後発売した『バイオハザード2』によって、シリーズが大きく成長したと考えています。

 『バイオハザード7』のヒットを受け、その次作についてどうしようと考えていたのですが、その時にヨーロッパのインディーズの方が『バイオハザード2』のファンメイドのリメイクをやっていたり、『バイオハザード2』のリメイク作を希望する声が舞い込んだりしていました。そこで「これは難しいことを考えずに、ファンの言葉にそのまま耳を傾けるのが正解ではないか」と思い、要望に添う形で『バイオハザード RE:2』の企画スタートを決めました。

――制作するにあたってコンセプトとして掲げたものはどんなことですか?

 ゲーム作品として原作が存在するからには、“『バイオハザード2』でないものを作ってしまってはいけない”ということ。とはいえ、昔のゲームであることはどうしても否めません。今のユーザーに遊んでもらうためにどうすべきか、かつオリジナル版をプレイされていた人に「これは間違いなく『バイオハザード2』だ」と言ってもらうためにどうすべきか。この2つをクリアするのが課題でした。

――実際プレイさせていただき、『バイオハザード2』らしさと、異なる新作だという気持ちが入り交じっています。

 ありがとうございます。そこは現場の開発スタッフが苦労して形にしてくれたと思います。スタート時点ではいろいろなものに引っ張られたり、「客観視点であるべきだ」という意見もあったり、古い『バイオハザード2』にならずに、新しい部分をどう入れるかが苦労したポイントです。

――実際できあがっているものを竹内さんが遊ばれてみて、どのように感じられますか。

竹内潤様インタビュー

 スタッフはうまいことやってくれたと感じました。基本的に僕からごちゃごちゃと細かなことは言いません。もちろん、ものがよくない時は「よくない」とハッキリと言うのですが、開発にオーダーを伝える際には「言うだけなら誰でもできる」と思われたくはないので、どう改善するとよりよくなるのかを伝えるようにしています。

 今回の『RE:2』についてよく言っていたのは、「ゾンビをうまく表現できれば8割勝ったも同然だ」ということです。「とにかくゾンビに力を割きなさい」と伝えましたね。

――具体的にどうしたのでしょうか?

 オリジナル版を作っていたディレクターは「走るゾンビは作りたくない」という、こだわりを持っていました。それも正しい考えなのですが、今時のゲームのテンポに合わせると、走らないゾンビで恐ろしさを作ることは苦労します。

 だとしたらどうすればいいのかという話になり、ゾンビの象徴は食欲なので、何が何でもプレイヤーを喰いにくるゾンビを作ろうとなったのです。「手がもげようが足がもげようが、とにかく喰いにくるゾンビにしよう」と伝えたところスタッフは納得してくれて、今の形がようやくできたという感じです。

――とにかく喰いにくるゾンビですか。

 倒れても、這いずるゾンビになっても向かい、喰らいついてくるゾンビは、『バイオハザード1』の時からやりたかったこと。象徴的なのが、かみつく時に顔が迫ってくるシーンです。あそこが人間を喰いにくるというゾンビを表現するために頑張った部分となります。実際に見たのですがよく表現できていると思いました。

 20年前の原作でゾンビの姿を見た時の「えー!」という驚きと同じ感覚を今のユーザーにも感じてもらう必要があります。現在ではいろいろな技術があるのですが、さまざまな手法があふれている現在でどう表現するのか、それを見事にスタッフがやってくれたと感じています。

――本作では「この惨劇に喰われるな」というキャッチコピーが付けられていますが、どのような意図が込められているのでしょうか?

竹内潤様インタビュー

 それだけ“喰う”という言葉がスタッフに浸透していて、キャッチコピーに出てきているので、それだけ大事にしているということです。

――『バイオハザード2』の“恐怖”を改めて表現するにあたって、一番心がけたことは?

 ハイテンポでどんどん畳みかけてくることはオリジナル版の『バイオハザード2』でも起きるのですが、それ以上にじっとりとした怖さはシリーズの持ち味。その雰囲気を、いかに崩さないようにするのかを心がけてもらいました。

 警察署の廊下を歩く時、暗くて警官が倒れてて、曲がり角を曲がると死体が天井からぶら下がっているシーンがあります。そのシーンに遭遇すると「寝ている警官は立ち上がらないのか」や「天井からぶら下がっている死体が落ちてゾンビになって襲いかかってくるんじゃないか」と、ビクビクしながら進んでいくわけです。あの感じは他のシリーズにはない、『バイオハザード』が持っているテイストだと思っています。そこはとても大事にしていますし、スタッフは理解して作っていたかと。

――確かに先に進むことについての怖さはつねにありました。

 曲がり角が怖いというのは第1作『バイオハザード』から言われていて、簡単なように見えて実はすごく難しいホラーの演出方法。『バイオハザード7』、『RE:2』ではその感覚を引き継ぎたいという思いで制作しています。

――ゾンビの怖さだけでなく、タイラントが出てきた時に対比的にアップテンポになっていくところがあり、そこもメリハリが出ていて、新しい部分だと感じました。

竹内潤様インタビュー

 遅すぎず、速すぎずという、絶妙なテンポになっているかと(笑)。タイラントは象徴的なクリーチャーの1つですが、ああいうキャラクターを置くことで、よりジットリとした恐怖を出せます。

 僕らは“お汁粉”と“塩昆布”という言い方をします。お汁粉だけを食べているとずっと甘いので、少し塩辛いものが欲しくなる。その時に食べる塩昆布は“むちゃくちゃおいしい”んですよ! ユーザーは「タイラントやGというクリーチャーはよかった」、「おもしろかった」と言ってくださるのですが、あれは僕らから見たら塩昆布の部分で、おいしく感じるという“お汁粉”がしっかりできているからだと感じています。その辺りは20年前のコンセプトと変わっていないです。

――開発に『バイオハザード7』で力を発揮した“REエンジン”が採用されているとのことですが、『7』の開発を踏まえて原作から進化した部分はどんなところでしょうか?

竹内潤様インタビュー

 進化した場所という質問ですが、全部変わっています。プレイヤーが操作する部分から始まり、いわゆるイベントシーンと呼ばれるドラマを語る部分の演出方法を含めて、何もかも当時よりもグレードアップしています。それだけ変わっているので、当時の味をそのまま再現するほうが難易度は高いんです。

 当時は、お客さんが表情もないようなキャラクターを見てご自身で想像を膨らませ、補完していた部分があったと思います。でも、それが表現できてしまう。むしろ表現しなければ、今のお客さんは納得してくれません。あの時にどういう風に感じていたのを自分たちでイメージしながら、お客さんのイメージを壊さない形を……ただし、まったく同じで、感動がなくなってしまってはおもしろくないので、当時プレイしたお客さんに、いかにもう1回、新鮮な驚きや感動を持ってもらえるかというところで変えるべきところは変えています。

 ガンショップ“KENDO”での会話はオリジナル版ではそこまでありませんでした。そこはラクーンシティで何が起こっているのかを遊んでいる人に感じてもらいたいと、新しく追加したところです。

――セリフのタイミングやカット割りが海外ドラマのような凝った演出であると感じました。

竹内潤様インタビュー

 そう思いますよね。第1作『バイオハザード』の時、映画やドラマのような表現をゲームでどこまで感じてもらえるのかという挑戦だったので、よりいっそうそこに力を入れたものを作れるようになっていることは大きいと思います。今のお客さんにも、映画やドラマを見ているような気持ちになると言ってもらえたらなと思います。

――キャラクターとしてはエイダがとにかく美人で驚きました。

竹内潤様インタビュー

 キャラをスキャンする時ですが、『7』のジャックのようなキャラは特殊メイクをしてからスキャンするのですが、エイダは普通のキャラクターなので、撮りやすいようにとそのままモデルさんに出ていただきました。ただ、できあがったCGモデルはスキャンしているので本当に数ミクロンしか違わないのですが、スキャンしたCGモデルは僕らがモデルさんから得る印象ではなく、何か違和感があったんです。

 ああでもない、こうでもないと手直しを繰り返していたのですが、ある日ふと「これはメイクが原因では?」と気付いたんです。当初、CGをスキャンしてキャラを作るデザイナーが当初は男性だったのですが、メイクが上手な女性を連れてきて、メイクについていろいろと聞き取りをしました。男性として初めて知る、女性のメイクの手間ですよね(笑)。

 一般のモデルさんがされるようなメイクと同じメイクを施して、でき上がったキャラを見た時に「これだよね!」と落ち着きました。僕らはキャラクターを作る時にメイクについても学ばなくちゃいけないのか、えらい時代になった……と思った瞬間でした。そのように苦労したキャラだったので、造形をほめていただけて、スタッフも喜ぶと思います。

一見の価値があるゲームをリリースしていきたい

――第一開発部についてお聞きします。E3では『デビル メイ クライ』最新作の『5』も発表されて大きな話題になりました。こちらの手応えもお話いただけますか。

竹内潤様インタビュー

 そうですね。『デビル メイ クライ』ですが、シリーズタイトルとして少し時間が空いたタイトルになります。ユーザー間でも「もし新作が出る時は大きく変わっているのかな」と言われていました。

 ただ、僕らはそうではなくて、『デビル メイ クライ』は『デビル メイ クライ』のおもしろさがあると思っているのです。間が空いたこともあったので、改めて今の時代にアクションゲームのおもしろさを問うていってもいい時期がきているのではないかと。

 開発を進めている時に「これまでと同じスタイル、純粋なアクションゲームを目指していいのかな?」という思いを持ちながらやっていたのですが、別のアクションゲームやアクションRPGが好評を得ているのを見て、自分たちの考え方とお客さんの望む物とはずれていないのではないかと感じました。純粋なアクションゲームをやりたいという声は大きいのではないかと思い、自信を取り戻して発表に至ったという感じです。

――その結果、大きな反響があったと。

 発表してみて「やっぱり!」という感触は確かにありました。例えよくできていたとしても、アクションゲームというジャンルがどのタイトルも同じような方向性の作品になってしまっては寂しいじゃないですか。マーケティングベースで見ると、そういうゲーム、例えばオープンワールドが今はやっているから、そういうジャンルの要素を採り入れたゲームがいいという話になりがちです。

 僕らはゲームを作る側でもありますが、ゲームファンでもあります。そういう観点から、オーソドックスなスタイル、王道のアクションゲームを遊びたいという人はまだまだいると思っていました。そもそも自分らが遊びたいんですよね(笑)。話を戻すと、想定以上に反響がありまして、お客さんが受け入れてくれたと感じたところです。

――gamescom(ゲームズコム)、TGSともに遊ばれた方の評価は高かったという印象です。

竹内潤様インタビュー

 はい。ああいうゲームもまだまだ受け入れてもらえる土壌はあると改めて感じました。純粋なアクションってマーケットから少なくなっていたので、もったいないジャンルであったと思います。

――『デビル メイ クライ』でも“REエンジン”は使われているとのことですが、それぞれのタイトルごとにカスタマイズして使われているのでしょうか。それとも一括で管理され、共有されているのでしょうか。

 それぞれのゲームで必要な部分は異なるのですが、ここらが“REエンジン”がミソでして……モジュール構造といってモジュールを組み替えることでいろいろなものを開発できるのです。カスタマイズに対応しつつ、同じエンジンであることを生かして、共有すべきところは徹底的に共有します。

――2016年に新作アプリ『囚われのパルマ』が、今年は『ブラック コマンド』が第一開発部から発信されました。今後もアプリの開発に力を入れていくのでしょうか?

竹内潤様インタビュー

 僕たちの場合はゲームの企画ありきで、アプリでやるかは内容次第だと思っています。『囚われのパルマ』であればゲームのアイデアがまずは存在し、どのプラットフォームがいいのかを検討していたところ、今であればモバイルのアプリだろうと決まった経緯があります。

 『ブラック コマンド』については、企画の段階からアプリで展開していく予定でした。ソーシャルゲームがある種定型化してきていると思うのですが、定型化ではないところでもお客さんがしっかりいるだろうと思ったのです。そのうえで、ニッチな方からカジュアルな方まで誰もが持っている端末になっているので、ミリタリーオタク向けのゲームがあってもいいんじゃないかと考えました。

 おもしろい企画でしたが、まったく媚びのないゲームになってしまいました。第1開発部のモットーとして“一見の価値あるゲームを作ろう”というものがあります。『囚われのパルマ』や『ブラック コマンド』などは、好きな方が遊ばれて他の人に勧めてもらえるタイトルになったのではないかと思っています。とがったゲームだったとして、チャレンジし、プラットフォームを問わずいろいろと展開していけたらと思います。

――現状発表されているタイトルは3月までにリリースされますが、来期に向けて仕込んでいるタイトルは動いているのでしょうか。

 まだ言えないのですが、第一開発部の中では何本かゲームの開発は進んでいます。すべてが世にでくるかどうかはこれからですが。カプコン全体としては毎年いい時期に、何らかのしっかりとしたタイトルをリリースしていくという考えがあります。来年は来年であっと驚くようなものが出てくるので期待してください。

――20年前の『バイオハザード』『バイオハザード2』の開発当時は、どのようなことを思われて作品と向き合っていましたか?

 20年前ですか……“一球入魂”ではないですが、その一本のことだけを考えてやっていました。このゲームはどうすればもっとおもしろくなるのか、このゲームでこんなことができればいいのではないか、そんなことを日々考えていましたね。開発の現場で日々、右往左往していたというのが、振り返っての感想です。

 今はどちらかというと、もう少し視点を上げることができ、自分たちがゲームを作っていくことでお客さんにどういう楽しみを与えていけるのかということを考えるようになっています。ホラーゲームだから怖いことを体験できるし、アクションゲームだからネロやダンテのような超人的な動きができるわけです。

 そういった非日常を楽しんでもらえるのが、他のエンターテインメントと比べてゲームの大きなアドバンテージだと思っています。そのよさをもっとしっかりとお客さんに楽しんでもらえるものを作り続けていけたらなと思っています。

――第一開発部全体として今後の目標や心掛けていくことを教えてください。

竹内潤様インタビュー

 先ほどもお話した、一見の価値があるゲームをコンスタントに輩出していくことが大事だと思っています。昨今、ゲームにおけるマーケティングも重要だと思うのですが、一方でマーケティングありきからでは出てこないような潜在的な要求があると思うのです。

 自分たちと同じ考えの人はどこかにいるはず、と考えたうえで、ほじくり出していくことを僕らはやっていきたいのです。『バイオハザード7』の時であれば、「あそこまでホラーにして大丈夫なのか」という意見は社内でもありました。ただ、『バイオハザード』がホラーでなくなってしまったら何なのかという話になり、やれることはしっかりやろうということであそこまで突き詰めたゲームにしました。一定の評価は得られたと思っています。

 そういったお客さんの期待に応えられるようなものを、ちゃんと作っていくことを第一開発部として目指しています。そこはぶれずに、“キープコンセプト”でやっていきたいと思っています。

データ

▼『バイオハザード RE:2 DELUXE EDITION』
■メーカー:カプコン
■対応機種:PC
■ジャンル:アクションADV
■発売日:2019年1月25日
■希望小売価格:8,148円+税
▼『バイオハザード RE:2 Z Version DELUXE EDITION』
■メーカー:カプコン
■対応機種:PC
■ジャンル:アクションADV
■発売日:2019年1月25日
■希望小売価格:8,148円+税
▼『バイオハザード RE:2』
■メーカー:カプコン
■対応機種:PC
■ジャンル:アクションADV
■配信日:2019年1月25日
■希望小売価格:7,222円+税
▼『バイオハザード RE:2 Z Version』
■メーカー:カプコン
■対応機種:PC
■ジャンル:アクションADV
■配信日:2019年1月25日
■希望小売価格:7,222円+税

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