2018年12月11日(火)
12月12~17日に東京のDDD青山クロスシアターで、『蟲師』のイベント“蟲師・音楽夜話『蟲音・奏』”が開催されます。
“蟲師・音楽夜話『蟲音・奏』”は、2014年に放送されたTVアニメ『蟲師・特別篇「日蝕む翳(ひはむかげ)」』をピックアップしたライブ。音楽・増田俊郎さんが自ら生演奏をすることに加えて、映像・芝居・空間演出などを交えて、『蟲師』の世界観を忠実に再現します。
中野裕斗さん、土井美加さん、うえだゆうじさん、小林愛さんという声優陣を招いてのトークや、稀有な音色を奏でる珍しい楽器を生で観て聴けるのが特徴です。
都内で行われた通し稽古の現場を訪れ、イベントに出演する増田俊郎さんと中野裕斗さんに、イベント開催の経緯や、当日への意気込みなどをお聞きしたので、以下で掲載します。
▲左が音楽を担当されている増田俊郎さんで、右がギンコ役の中野裕斗さん。 |
なおインタビュー中は敬称略。
――まず、本イベントが開催されることになった経緯を教えてください。
増田:私が言い出しっぺです(笑)。ですが、その発端となったのはアニメ第1期の放送期間中、折から全国展開中だったトークライブ・ツアーのなかで「ミニライブをやってみないか?」という話が出たことでした。もちろんぜひとも参加したかったのですが、当時の状況下では『蟲師』の曲を忠実に再現するために必要な楽器、演奏者、テクノロジーなどの諸条件をクリアすることが非常に難しく、そのため断念せざるを得なかったんです。
以来ずっと、その経緯が“くすぶった火種”として私の中に残り、いつの日にか必ず実現させたい!という強い思いに繋がっていきました。
その後、“詠舞台”が開催されることになった際にも、一曲だけでもいいので……と演奏のオファーがあったのですが、今度は私のスケジュールがまったく合わず、再びとても悔しい思いをしまして……。「こうなったらもう自分でやるしかない!」と考え、本腰を入れて準備に取り掛かったわけです。
――企画自体が前代未聞という印象を受けました。
増田:そうですね。まさに『蟲師』だからこそ生まれたアイデア……と言えると思います。何しろ当初の音楽打ち合わせの結論が「この作品には音楽はいらない」でしたからね。当然その音楽の在り方は通常の成り立ちではなく、「この作品に必要なのは音楽というよりむしろどんな音なのか?」からスタートしたわけです。
ですから蟲師のBGMには“音楽”ではなく“音”そのものを聴かせる……というニュアンスの曲が多いんです。なので、こうしたある意味特殊な楽曲と、広義の解釈で役者さんの声をも音として捉え、それらを生で聴かせるステージがあったらきっとおもしろいものになるんじゃないか? という実感がありました。
また、『続章』の放送期間中、諸般の事情によりオン・エアーされることとなった『蟲語(むしがたり』の中で、「楽器持参で参加は可能ですか?」と打診されたので、いくつか珍しい楽器を持って行ったんです。そして番組のエンディング部分で出演者の方達全員に加わっていただき、楽器紹介も兼ねてそれらの楽器群を使い即興で曲を演奏したところ、ファンの皆さんから予想以上の反響がありました。
その時、それなら即興ではなく、きちんと曲を演奏したらもっともっと喜んでもらえるんじゃないか? いいものを見せられるんじゃないか? と感じ、さらにライブ実現への熱意が高まっていきましたね。
――なるほど。
増田:そして約2年間の試行錯誤の末、バンド・メンバーを集め、リハーサルを重ね、ようやく形が見えてきたところで長濱監督をはじめ、関係各位の方々にお集まりいただいてプレゼンを行いました。その結果、これが期待通り大変評判がよかった。中でも監督がものすごい乗り気になってくれてました。「実現させましょうよ! だって俺が見たいすもん。」と言ってくれたり……。うれしかったし俄然やる気出ました。
そしてここからさらに一年かけて開催場所や予算確保、そして開催に向けて快く協力を引き受けて下さることとなった貴重な方々との出会い……さらには、まさしく“蟲の仕業”としか言いようのない奇跡的な偶然もが度重なり、ようやくここまで来ることができました。
中野:個人的には、はなからやるものだと思っていました(笑)。声をかけていただけて、うれしいし光栄でしたが、連絡を受けた時はこんなにすぐではないと思っていましたね。“詠舞台 蟲師”から3年がたっているので、「数年に一度『蟲師』のお祭りがある、オリンピックかな?」という気持ちでした。
増田:中野さんには正式にオファーをする前に、時々メールで経緯についてはお伝えしていました。「制作を手伝ってくれる人が見つかりそうです」と送ると「希望が見えてきました」と返信があり、「劇場を確保できそうです」と出せば「生きる気力がわいてきました」と……毎回違う反応がうれしかったです。
中野:ギンコが淡々とした人間なので、目立たぬよう、はしゃがぬよう……そんなギンコを維持し続けている13年です。
(一同笑)
――“特別篇「日蝕む翳(ひはむかげ)」”を選ばれた理由はなぜですか?
増田:「今回はこのエピソードが一番ふさわしいんじゃないか?」という気持ちは最初からありました。「日蝕む翳」は蟲師のエピソードの中では起伏が多く、淡々と情に訴えかけるシーンや、反対に荷車を引くようなダイナミックなシーンなんかもあって舞台向きかなと思っていました。
さらにこの“日蝕む翳”は、第1期終了から10年の長き時を経て、再び『続章』として第2期がスタートする時のまさに記念すべき書き下ろし作品。いろんな意味でパワーに満ちているとも感じていました。さまざまな要素がピタッとハマった感じです。
――中野さんは、先ほど通し稽古をされていかがでしたか?
中野:個人的には、映画などのサントラが大好き。小さいころはレコードを流しながらセリフをしゃべったりしていました。今回は生演奏の中で芝居をできるのを聞いて、高揚しました。
ただ、それを出してしまうとギンコでなくなってしまう。その折り合いをつけるのが、自分の中で大変でした。とはいえ、ほどよい緊張感のなかで楽しくやることができたかと。
――あれだけ近くで演奏されていると、いろいろと感じることがあるのでは?
中野:やっぱり鳥肌は立ちますね。
増田:アフレコ時に音楽が付いていないのは当たり前なんですが、今回は音楽が付いていて、しかも生演奏。「その差はすごい」と皆さんおっしゃられています。小林愛ちゃんは「音量に押されて演技がアップする!」と仰っておりました。
中野:ただ、「この曲が流れたら『蟲師』」というのってあるじゃないですか? わかりやすくいえば、『ロッキー』のあのテーマが流れると、「来るぞ、来るぞ!」っていう(笑)。音楽が与える印象は大事だと、僕は思います。参加できて、本当にうれしいです。
増田:こちらも録音ではなく声優さんの生の声が入ってくると、「おぉー! ギンコだ! 生ボイスだ!」とテンションが上がります。出だしのタイミングも抑揚も毎回違いますからね。でもその他の役者さんの声が、録音されたものなので必然的にまだまだ制約はありますけど、今後はもっと自由度を広げて全員の演技を生でやれたら……もっとオモシロクなるんじゃないか? と思ってます。ぜひともトライしてみたいですね。
――イベントに向けての意気込みをお願いします。
増田:意気込みは「とにかく来て、観て、聴いてください!」ということですね。言葉では伝えられない……。だからこそのライブなんです。
チラシにも“目で聴く、耳で観る”というキャッチコピーを書いたのですが、この舞台を体感してもらえば“耳で観る”という意味がきっと実感できると思います。音から映像が見え、目で見ものから音の成り立ちを感じる……絶対におもしろいです。なのでぜひ! お越しください!
――中野さんは、演奏でも参加されていますね。
中野:ただ、音については素人ですからね(笑)。
増田:いや、さっきのリハーサルはよかったですよ。コッチにはちゃんと伝わってきています。なので、中野さんがあの楽器ともっと“仲よく”なれれば、アンサンブルの一員として存在感がもっと出てくると思いますよ。
中野:今回は僕という楽器を通して、いい音が出るといいかなと。アンサンブルとして、楽団の一員として参加できればと……。ただ、ギンコとしては“意気込まないことが意気込み”なので、そこは通したいですね。
増田:ライブなので要所要所、毎回演奏のニュアンスは変わると思います。
中野:セリフも変わるかもしれない!
増田:あぁー、ありますねソレぜったい。化野先生がギンコに対してもっと上から目線になっちゃうとか(笑)。
中野:自由度は高いですからね。
増田:初めて、うえだゆうじくんにこの企画の内容について伝えた時、「……ということは僕たちもバンドの一員となって、ボイスという楽器で参加するということですか?」という返事が返ってきました。でもまさしくその通りだったので、そうした解釈をしてもらえたことが本当にうれしかった!
そんな鋭い感性をお持ちの役者さん方が、ステージ上に、しかも4人もいるんですからね。今後、どう変化して行くのかが、いまから楽しみです。特にやっぱりうえだくんが(笑)。
中野:(うえだくんは)仕掛けてくるでしょうね(笑)。意気込みとは違いますが、にーやん(キャラクターデザイン・総作画監督を担当した馬越嘉彦さん)による入場者特典のポストカードはここでしか入らないものなので、ぜひ来ていただき、手に入れてください。
あわせて、リハーサル現場の様子をお届けする。イベントで実際に自分で見て、聞いて楽しみたいという人は、イベントに参加されてから改めて記事を確認してほしい。
取材日は、演奏を担当される増田さん、高杉さん、梶間さんに加えて、声優の中野さん、土井さん、小林さんが全体を通して確認・練習を行っていた。歩き方や音の入るタイミングなどを確認しつつの練習であったが、すでに息はピッタリであった。
今回のイベントでは70近い楽器を使って演奏が行われるという。さまざまなシーンでいろいろな音色が飛び出してくるので、ぜひ注目してほしい。
またイベント中では、来場者も一緒に参加するコーナーも用意されていた。小さな鈴をどのようにして使うのか……。
個人的な感想になるが、『蟲師』が好きな人であれば間違いなく引き込まれるイベントになると感じた。練習を見ているだけにもかかわらず、ぞわっとするような場面があり、『蟲師』という作品の魅力、奥深さを改めて感じた。
さまざまな音を楽しめ、「この音はあの楽器を使うのか!」や「今の効果音はなんだったのか!?」と興奮の連続。3人の演奏者と声優陣の演技、そして映像と見どころばかりであっという間であった。
稽古を見終わった直後にもかかわらず本番を楽しみにしているだけでなく、『蟲師』という作品をもう一度見たいと感じている自分がいた。
トライアウトということで、180席、全9公演という限られた人になるが、興味がある人はぜひ参加してほしい。
■“蟲師・音楽夜話『蟲音・奏』”概要(敬称略)
【公演内容】三部構成(全尺100分前後/途中休憩なし)
●第一部:日蝕む翳(50分~55分)……アニメカットの抜き出し映像に、増田俊郎さん自ら奏でる音楽をのせ、さらに声優陣が生で声をあて、『蟲師』の世界を目で耳で体感できます。
●第二部:トーク(約20分程度)……増田俊郎×キャスト陣によるトークのコーナー。その他にもゲストあり……!?
●第三部:アニメ“続章”からの楽曲を中心としたミニ・ライブ(15分~20分程度)……バンドによる生演奏。珍しい楽器が奏でる深い音色を心行くまで楽しめます。
※内容はすべて予定。
【原作】漆原友紀『蟲師』(講談社『月刊アフタヌーン』所載)
【企画・音楽】増田俊郎
【演奏】増田俊郎(Key.&Perc.)、高杉登(Perc.)、梶間陽子(Key.&Perc.)
【出演】中野裕斗、土井美加、うえだゆうじ、小林愛
【照明】福永直哉
【音響】カムストック
【舞台監督】上野容
【票券】ぴあ
【制作協力】シーエイティプロデュース
【協力】講談社、アニプレックス / ムーブマン、ポマランチ、グラート
【公演期間】2018年12月12~17日(全9公演)
※15日17:00、17日14:00の2公演は、うえだゆうじさんの出演はありません。
【会場】DDD青山クロスシアター(〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-3-3 ヒューリック青山第2ビル B1F)
【チケット料金】8,800円(全席指定・税込)※未就学児入場不可
【チケット取扱い】
●チケットぴあ
●ローソンチケット
●イープラス
(C)漆原友紀/講談社・アニプレックス