2019年1月18日(金)
1月12日より公開中の劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』に出演する杉山紀彰さん&門脇舞以さんのインタビューをお届けします。
『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』は、ヴィジュアルノベルゲーム『Fate/stay night』の3つ目のルート“[Heaven’s Feel](通称・桜ルート)”を全3章で映画化する作品です。衛宮士郎を慕う少女・間桐桜を通じて、聖杯戦争の真実に迫るストーリーが展開されます。
特集企画第1回では衛宮士郎を演じる杉山さん、第2回では杉山さんと間桐桜役・下屋則子さん、第3回では杉山さんとセイバーオルタ役・川澄綾子さん、第4回では杉山さんと遠坂凛役・植田佳奈さんのお話を伺ってきましたが、最後となる第5回では、杉山さんとイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを演じる門脇舞以さんのお話を対談形式でお届けしていきます。
対談では、士郎とイリヤが掛け合いをする場面でお互い意識していることや、イリヤの醸し出す独特な違和感についてのお話を聞くことができました。
▲左から杉山紀彰さん、門脇舞以さん。 |
杉山さん:『HF』のイリヤは見た目の印象と違って大人びた雰囲気や物腰があるところが印象的です。単純な聖杯戦争の勝ち負けではなく、切嗣やアイリへの想いを胸に秘めた上で今までとは違った関係性を士郎と築いていく。精神年齢の高さや知的な印象が他のルートより強いです。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
門脇さん:『HF』のイリヤは『Fate』ルート、『UBW』ルートとは異なる道をたどりますからね。その中で演じていなかった側面が現れることもあります。『第一章』の段階では、士郎を殺そうとしているやる気満々の謎の少女、という印象だったイリヤ。そんな彼女が『第二章』で士郎と急接近する中で、これまで描かれてきたイリヤとは違った印象を受ける方は多いかもしれません。
士郎に関しては、桜がつねに彼の傍にいるからこそ士郎の持つ優しさがすごく伝わってきます。『Fate』ルート、『UBW』ルートでは見落としがちだったちょっと鈍感なところや、ズレたところがあるという部分も目立っていて、士郎への理解をさらに深められそうです。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』ティザートレーラーより。 |
杉山さん:確かに、他のルートよりも士郎のそうした部分については強く出ているルートになっていますね。
門脇さん:『第二章』では人知れず自責の念を抱いたり、夢を失ったような気持ちになったりしながらも、でも自分の向かう先を探して何かを見つけようとしていて。内面が静かに変わり始めているという印象を受けたので、『HF』は士郎という存在を掘り下げるルートでもあるのかなと思いました。
――あまりネタバレにならない範囲で士郎とイリヤの関係性に対する印象も教えてください。
杉山さん:詳しく話してしまうと『Fate/Zero』なども含めたネタバレになってしまうので避けますが、イリヤは士郎に対して、必ずしもいい印象を抱いていません。
それと同時に、士郎に対してお姉さん的な愛情も胸の内に秘めています。『HF』ルートでは、他のルートではあまり描かれることがなかった、イリヤのそんな側面が描かれている気がします。お姉さん的な感情が見えるようになったのは、士郎と桜が置かれた状況を見て、手を差し伸べたくなったからなんですかね?
門脇さん:士郎と桜の状況を見ていることもそうですけど、士郎がセイバーを失ってしまったという状況の変化も大きいと思います。また、『第二章』をご覧になった方はご存知かと思いますが、『HF』ではイリヤの側にも大きな状況の変化が起きています。士郎とイリヤ両方の状況が変わり、個人として意識するようになったことでお互いを見つめなおす機会となり、これまでとは違った関係性が芽生えたのかなと。
『HF』ではメインヒロインの3人とはまた違う2人の関係性にもスポットがあてられていますが、お互いのことを心の奥で想っている描写は『Fate』ルートや『UBW』ルートにもあったと思います。『Fate』ルートで士郎がイリヤに囚われた時や、『UBW』ルートで士郎がイリヤを助けようとするシーンなどを見ていると、どこかで通じ合うものに気づいていたからこその振れ幅だったんじゃないかなという印象がありますね。
――では次に、士郎とイリヤが掛け合いをする場面などで印象に残ったことや意識していることを教えてください。
門脇さん:『HF』のイリヤはまっすぐ士郎に甘えているし、「シロウも私に甘えていいよ」って感じなんです。それはやっぱり「士郎がつらそうだから支えてあげたい」という気持ちの現れだと思うので、そんなイリヤに合わせて私も掛け合いのシーンを演じる時は士郎に素直に甘えたり、甘えさせてあげようという意識で演技をしています。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』ティザートレーラーより。 |
杉山さん:いろんな作品でイリヤと掛け合いをさせてもらっているんですけど、『HF』に限らず士郎ってイリヤのことを見た目通りの年下の幼い女の子って捉えているんですよね。だから敵対する流れになっても「よし戦おう」ではなく「ちょっと待った、どういうことなんだ?」ってなるし、イリヤにひどいことをされても怒りは見せない。怒りではなく、幼い子どものイタズラをしかるように諭そうとします。
門脇さん:あんなに大きくて強いバーサーカーを従えているイリヤに対して、ああいう接し方をするのはすごいですよね。
杉山さん:士郎の中では、「大きいのがいても、女の子がそんな危ないことをしてくるはずがない」という意識がどこかであるんでしょうね。で、そんな価値観で戦いではなく話をしに行くもんだから、すべてのルートで死にかけてしまう(笑)。
門脇さん:バーサーカーは強いですからね!(笑) 『第二章』でもバーサーカー戦はものすごく力が入っていて大ボリュームですし、これからご覧になる方は絶対に圧倒されると思います。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』特報映像第1弾より。 |
杉山さん:『第一章』にも増してバーサーカーがヌルヌルと力強く動いているのがすごいですよね。迫力も『第一章』を大きく上回っていますし。
門脇さん:スタッフのみなさんの意気込みが『第一章』にも増して伝わってきますよね。正直、士郎には悪いですけど『第二章』の立役者はバーサーカーになるかもしれないなと思っています(笑)。これはもう結果的にそうなっちゃうかなと。
杉山さん:(笑)。言いたいことはわかります。バーサーカーって、戦っているところはもちろん、静止画で佇んでいるだけのワンシーンですら「絶対に勝てないだろこれ……」という威圧的な雰囲気があるんですけど、それが『第二章』ではさらに強調されていますからね。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
門脇さん:気迫だけでなくスピード感も圧倒的ですし、キービジュアルでカッコよく描いていただけていますし、バーサーカーファンが増えること間違いなしです。バーサーカーは覇権キャラクターになりますよ!
――バーサーカーはイリヤにとってかけがえのないパートナーですが、門脇さんにとってはどんな存在でしょうか?
門脇さん:私にとって、ですか。そうですね……イリヤを演じていると、収録中、孤独感を抱いてしまうことがあるんです。不意にひとりぼっちだなぁというような感覚になってしまう時があるんですけど、そんな萎縮してしまいそうな時には、バーサーカーがそばにいると意識することでがんばれる、そんな存在でしょうか。
私にもバーサーカーがいるから、どんなシーンでも弱気な心を持ち込んではいけないって、そう思えるんですよ。他の陣営ほど一緒に演じる機会は少ないし、ルートや作品によっても出番が限られてくる私たちではありますが、セラ役の七緒はるひさん、リズ役の宮川美保さんによる支えも大きいと思います。
杉山さん:僕個人としてはバーサーカーは何度も殺されている相手なので「恐ろしいやつだ……」という印象のほうが先行してしまうんですけどね(笑)。でも、イリヤとバーサーカーの関係性には、割り込みがたいと言うか、感じ入るものがあります。
――ちなみに、バーサーカー以外で印象に残ったキャラクターや、印象に残った場面についてはいかがですか?
門脇さん:士郎が桜に対して優しい顔を見せるところがいいなって思います。士郎の優しさがたくさん感じられてうれしかったです。それとこれは『第一章』のシーンなんですけど、セイバーと士郎が教会で握手するところもステキだなって。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
杉山さん:あの教会での握手は『Fate/Zero』との繋がりを思い起こさせる演出がありましたよね。
門脇さん:心が重たくなるようなことも多い中で、士郎にいい変化を導く大事なシーンなのかなと思って印象に残りました。
杉山さん:『第二章』も見どころが本当にたくさんあるんですけど、ネタバレしない形で言えば、キャラクターの心理描写に注目してほしいです。桜とギルガメッシュ、臓硯と士郎など、会話の中で精神的な推し量り合いみたいなものが描かれます。熱いバトルだけでなく、静かな場面の中で行なわれる緊迫感あるキャラクター同士のやり取りは必見ですよ。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』ティザートレーラーより。 |
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』特報映像第1弾より。 |
――続いて、電撃オンラインの読者から届いた質問にもお答えいただければと思います。
■『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』と『Fate/stay night』のイリヤを演じる際、演じ分けで意識していることはありますか?(レンさん、飛鳥さん他多数)
門脇さん:そもそもの生い立ちが違いますし、初めて『プリズマ☆イリヤ』でイリヤを演じさせていただいた時からずっと別のキャラクターとと同じように一から積み重ねてきました。だから演じ分けは意識していないです。強いて言えば……タイガー道場のイリヤのノリを活用してますかね?
杉山さん:タイガー道場は、原作ゲームでバッドエンドを迎えた時のギャグ時空というか、別軸の話ですけどね(笑)。
門脇さん:そのくらい別人として演じています(笑)。とは言え、『プリズマ☆イリヤ』のイリヤを演じる時に、まったく『Fate/stay night』のイリヤ自体を意識していないかと言えばそうではなくて、『Fate/stay night』のイリヤを演じてきた経験をもとに、お互いの魅力を引き立てあえるような関係にしてあげたいとは思っています。
■『Fate』、『UBW』、『HF』の各ルートを演じる上で他のルートと変えている部分はありますか?(アンサーさん)
門脇さん:2014年に放送されたアニメ『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』の時から感じていたんですけど、意識的に違いを出そうとするとイリヤが持つミステリアスな魅力が薄くなってしまうんです。
たとえばイリヤが「こんにちは、お兄ちゃん」って言って登場する場面では、最初はシーンの不気味な雰囲気に馴染むように演じていたんですけど、ディレクターの方から「もう少し普通のトーンにしてください」と言われました。
杉山さん:制作サイドとしては、特別大きくはないけどなぜか気になる異質さ、みたいなところを目指しているように思います。一見すると普通の女の子だけど、「あれ? もしかして普通の子ではない?」といった小さな違和感。スタッフさんも門脇さんも、その小さな違和感を出すために演じ方のバランスを調整している印象を受けました。
門脇さん:私がこだわっているところとディレクターさんのこだわっているところが違ったり、私が微妙なニュアンスを汲み取れなくてリテイクを重ねることもあったりするので、たとえ共通のシーンでもルートごとにていねいに仕切りなおして考えるようにしています。
杉山さん:シンプルな何気ない一言で違和感を出すって、難しいですよね。
門脇さん:調整を重ねた結果、『第一章』上映後に「イリヤの登場するシーンでゾワッとしました」みたいな反応をたくさんいただけたのはうれしかったです。12年前に初めてイリヤを演じた時からイリヤの演技自体にも大きな調整が二度ほど入っているし、繊細な変化を常に受け入れ続けている作品なので、いつも油断はできないですね。
ufotableさんの多彩な演出によって、かつては声が担っていた演出的な音色を削ぎ落とす作業が生まれている部分もあるんですけど、それだけでなく、時代の流れの中でイリヤというキャラクターがさまざまな媒体で掘り下げられていって、みなさんの中にあるイリヤ像も変化してきているな、というのを感じています。その時その時ごとその時その時ごと、常にブラッシュアップされていくイリヤに向き合い続けているような感覚です。
▲劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』より。 |
■『Fate/stay night』のイリヤはシーンによって姉っぽさと妹っぽさが変わりますが、どちらが演じていて楽しいですか?(アルテミットワンさん)
門脇さん:私は個人的に士郎が大好きなので、士郎に甘えたいですね。妹派です(笑)。実の兄に甘えたいという気持ちはこれっぽっちもないんですけど……。ただ、姉という存在を知ることなく育ってきたので、姉ってどんな感じなんだろう? というのは今でも思っています。
杉山さん:イリヤが姉ポジになろうとすると、まず藤村大河っていう強敵が立ちはだかりますよね(笑)。姉ポジは大河、妹ポジはイリヤ、っていうイメージをしている方が多いような気がします。
門脇さん:姉としてのイリヤを見たいというファンの方の声はよく聞くんですよね。その大きすぎる期待に姉でない私がどこまで応えていけるだろうとい思いつつ、個人的にはドーンとぶつかっていきたい次第です!
――ありがとうございます。では最後に、読者へのメッセージをお願いします。
門脇さん:『第二章』に入り、いよいよ私たちアインツベルンが本格的に戦いに参戦しました。まだご覧になっていない方は、想像を越えた存在感と強さを見せつけるバーサーカーの姿をぜひ劇場で目撃してください。これから、イリヤも士郎と桜の行く末に関わっていくことになります。後半に向けて一気に物語が進んでいくので、ぜひそれぞれの選択の行方を見届けてください。
※杉山さんのメッセージは『Fate/stay night[Heaven’s Feel]II.lost butterfly』特集 第1回に掲載されています。
■劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] II.lost butterfly』公開情報
【公開日】2019年1月12日全国ロードショー
【公開館数】全国131館
【スタッフ】(敬称略)
原作:奈須きのこ/TYPE-MOON
キャラクター原案:武内崇
監督:須藤友徳
キャラクターデザイン:須藤友徳・碇谷敦・田畑壽之
脚本:桧山彬(ufotable)
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:松岡美佳
編集:神野学
音楽:梶浦由記
主題歌:Aimer
制作プロデューサー:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:アニプレックス
【キャスト】(敬称略)
衛宮士郎:杉山紀彰
間桐桜:下屋則子
間桐慎二:神谷浩史
セイバーオルタ:川澄綾子
遠坂凛:植田佳奈
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン:門脇舞以
藤村大河:伊藤美紀
言峰綺礼:中田譲治
間桐臓硯:津嘉山正種
ギルガメッシュ:関智一
ライダー:浅川悠
アーチャー:諏訪部順一
真アサシン:稲田徹
(C)TYPE-MOON・ufotable・FSNPC