2019年1月22日(火)
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回はPC(Steam)とNintendo Switchにて配信中のアクションアドベンチャー『GRIS』を紹介する。
▲本作のキーアート。淡く繊細なタッチが世界観をよく表現している。 |
『GRIS』は、つらい経験から自身の世界に囚われてしまった女の子が主人公のアクションアドベンチャーゲーム。身にまとうのは、深い悲しみにより薄暗い世界を旅する力を持つに至った不思議なドレス。
はたして彼女は、己のなかにある迷宮から脱出することができるのか……。
▲巨大な石の手のなかで目覚めた主人公は、投げ出された先で頼りなげに歩き始める。 |
アーティスティックなメニューは、ゲームスタートと終了時のみとシンプル。ここから先、ゲーム的な行動としては移動、ジャンプ、ドレスにまつわる特殊アクションがあるが、開始直後は移動とジャンプのみ。
▲詳しくは後ほどふれるが『GRIS』は芸術性が際立った作品。繊細なタッチと水彩風の色使いが素晴らしく、冒頭シーンからグイグイ引き込まれていく。 |
先に進むと、やがて“小さな白い光”を発見。接触すると主人公の周囲を動き周りついてくるようになる。これは本編でよく使われるギミックのひとつで、いくつか集めることで特定の場所から先に進めるようになるが、その際の演出が星座を思わせる美しさでとてもいい。
▲ゲート的なポイントで登場するギミックのひとつ。星座を想起させる美しさ。 |
ここで触れておくと、本作には“死”あるいは“失敗”がない。高所から落ちても大丈夫だし、一見完全に詰まったように思われても必ず先に進めるやり方がある。その解決法の一部が、ドレスにまつわる機能。ゲームを進めていくと、ドレスがキューブ形状の石のようになったり、ジャンプ中にもう1回ボタンを押すことでフワリと滞空できるようになったりと、機能を持つ。
▲ドレスを石のように変化させると風に飛ばされなくなったり、一部オブジェクトが壊せるようになったりする。 |
▲ジャンプ中に再びボタンを押す、いわゆる2段ジャンプ。わりとシビアな使い方をするシチュエーションも。 |
本作はアクションアドベンチャーらしく、先々にパズル的なギミックが用意されている。前述のドレスにまつわる機能を駆使したり、あるいはその場に用意された要素を踏まえたものだったりといろいろだが、前述のとおり“失敗”がないので「詰まって先に進めなくなった!」という時は、基本的に「何かありそうなところでやれることを全部試してみる」が基本となる。
特に足場はアーティスティックな描画と相まって「ここにジャンプで乗れたの!?」といったケースがちょいちょいある。
▲左に進みたいけど……勘のいい人ならもうおわかりだろう。 |
▲詰まった時は自分が勝手に「ここはこうなってる」と思い込んでいるケースが多い。柔軟さが大切だ。 |
▲ジャンプアクションの鉄板ギミックもあちこちで顔を出し、思わずニヤリとさせられる。 |
▲人によっては相当頭を悩ませるはず。ピン!と来てわかった時の気持ちよさは筆舌に尽くしがたい。 |
本作は、いわゆる「ここからここまでが〇章」といった具体的な区切りやインフォメーションはなく、シームレスに最後まで展開していく。一応の“大きな節目”と感じられるボス戦があるが、これも「これはボス戦です」といったアナウンスはなく、筆者が勝手にそう受け取っただけ。戦い方も何かで攻撃するといったニュアンスではなく、パズル的なアプローチが必要とされる。
▲ボス戦のように解釈できる唯一のシーンだが、それも筆者が勝手にそう思っただけ。 |
本作は、ごく一部を除きゲーム中にボイス、テキストなどのインフォメーションが登場しない。これは徹底したアートディレクションに基づくものと推察され、これによりゲーム本編に没入しやすくなっている。主人公やバックグラウンドの動き、背景や色使い、珠玉のBGMなど、ゲームのありとあらゆるところに五感が働くというか、気づけば全身全霊が『GRIS』の世界に浸りきったかのよう。
▲アートディレクションの気合とクオリティが尋常ではない。今の商業作品では実現が難しいスタイルだ。 |
クリアには半日も要しないが“体験の質”は比類なきものがあり、こればかりはプレイ時間でははかれない。下にいくつか印象的だったシーンを抜粋して掲載するので、1枚でも「ピン!」とくるものがあったらぜひプレイしていただきたい。必ずや気に入っていただけるはずだ。
▲ネタバレに配慮しつつ、目を引きそうな場面をいくつか……といってもほんの一部の一部。好きな人は一目見ただけで買わない理由がないかと。 |
さて……最後の最後に筆者から若干ひねくれた“蛇足”をひとつ。本作のように芸術性に比重を置いた作品は過去にいくつか覚えがあり、いずれもゲーム的なインフォメーションを廃し、序盤から高い芸術性でグイグイ迫ってくるタイプが多かったように記憶している。
興味深いというかおもしろいのは、そうした作品がほぼ例外なく“芸術性の比重が序盤に集中”していることだ。芸術性だけで押し通そうとすると、恐らくゲーム的な要素が希薄すぎて「物足りない」となり、序盤からの変化や差別化といった意味でも中盤からラストにかけては、パズルなどのギミックが目立つようになる。念のために言っておくと、「それが悪い」と言いたいわけではなく「そうなっていったんじゃないか」という邪推だ。
ただ、そうした経験のうちでも、本作『GRIS』は全体を通して芸術性の高さでは屈指だと感じた。芸術性とゲーム要素のメリハリがきいており、さらにはエンディングまで貫きとおしたアートディレクションの一貫性は、文字どおり“パーフェクト”と言っていい。繰り返しになるが、スクリーンショットのどれか1枚でも心を動かされたものがあるなら、この機会にぜひ手を伸ばしていただきたい。保証はしないが、恐らくは“心に残る”作品になる。
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