2019年1月18日(金)
『ソードアート・オンライン(以下、SAO)』の作者・川原礫先生と『やがて君になる(以下、やが君)』の作者・仲谷鳰先生、そして両作品のアニメに出演している茅野愛衣さんの対談をお届けしていきます。
▲左から川原礫先生、茅野愛衣さん、仲谷鳰先生。 |
2018年に両作品がアニメ化したことがきっかけで実現した今回の対談。ふたを開けてみると、川原先生が大の『やが君』ファンということが発覚し、割と『やが君』成分の多い対談となりました。どんな話を繰り広げているのか、ぜひご覧ください。
▲アニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』キービジュアル | ▲アニメ『やがて君になる』キービジュアル |
※こちらの対談は、2018年12月に実施したものです。
――2018年に両作品のアニメが制作されたことを記念して、川原先生と仲谷先生、そして茅野さんにお集まりいただいたのですが、対談直前に川原先生が『やが君』の大ファンだとわかりました。川原先生は、普段から百合作品を読まれているのでしょうか?
川原先生:そうですね。百合作品はかなり好きです。どこから好きになったのかを振り返ると、袴田めらさんの『最後の制服』という漫画からですね。何気なく本屋で買って、そこからスコーンとハマりました。
仲谷先生:なるほど、『最後の制服』がきっかけなんですね。
川原先生:今ではiPadの中に百合漫画フォルダができています(笑)。電撃関連で言うと、『やが君』と、柊ゆたかさんの『新米姉妹のふたりごはん』が自分の中で今、すごくキている作品ですね。
仲谷先生:ありがとうございます(笑)。
川原先生:自分でも何度か百合ものの執筆に挑戦してはいるんですけど、そのたびに失敗しているんですよ……。もっとも近かったのが『ソードアート・オンライン』(以下『SAO』)の《マザーズ・ロザリオ》編なんですが、あれも恋愛ものとしては書けなかったので……。いつかは僕も女の子同士の恋愛を書いてみたいです。
▲《マザーズ・ロザリオ》編では、アスナとユウキの心の交流が描かれました。 |
茅野さん:それはぜひ読んでみたいですね!
仲谷先生:ぜひ書いてください! 私も楽しみです。
――川原先生と茅野さんは『SAO アリシゼーション』の放送開始前に実施した対談企画でお話しされていますが、仲谷先生はお2人とこういった場で話すのは初めてですよね?
仲谷先生:はい。川原さんとは以前コミティアでご挨拶させていただいたことがあります。
川原先生:そうですね! 以前一度だけお話させていただきました。
茅野さん:コミティアにも参加されているんですね。アニメのアフレコにも毎回参加されていますけど、やっぱり書くのが速いからお忙しい中でも時間が作れるんですかね?
川原先生:いやいや、僕は遅いほうだと思いますよ。
仲谷先生:そうなんですか? 毎回コミティアに出ていますし、すごく速いイメージがありますよ。
川原先生:コミティアの原稿は1日で仕上がるので……。
仲谷先生:やっぱり速いじゃないですか(笑)。
茅野さん:仲谷さんもアフレコに毎回参加されていますよね? 全話のアフレコに必ず参加される原作者の方って、私からするとかなり珍しいんですよ。
仲谷先生:そうなんですか!?
川原先生:意外ですね……。
茅野さん:私もいろんな作品に参加していますけど、覚えている限りだと先生たちだけですね。1クール通して1回か2回参加される方が多いイメージです。
仲谷先生:最初と最後だけ参加して……っていうパターンが多いんですかね。
川原先生:僕はアフレコを見学させていただけるのは、作家を続けてきたご褒美だと思うんですけどね。
仲谷先生:楽しいですよね。私にとってもアフレコは仕事のご褒美です。
川原先生:ある意味で、そこが作家生活のクライマックス、もっとも楽しい時間ですから。アフレコに行かないならなんのためにがんばったんだ! って思います(一同笑)。
茅野さん:原作者の方とお話しして、役や作品について伺える機会があまりない作品もありますし、そう言っていただけるのは役者として本当にうれしいです。
――アフレコ現場にも川原先生、仲谷先生はよくいらしているということで聞いてみたいのですが、茅野さんから見て、お2人の印象はどういったものなのでしょう?
茅野さん:どちらの作品にも関わらせていただいて思うのは、一見するとぜんぜん別の作品に見えるんですけど、人の心を丁寧に描いているという点で似ているなと。お2人の人柄が作品にも表れているんだと思います。
それと、先ほどの毎回アフレコに参加してくださる話にも繋がるんですけど、アフレコ現場でみんなで信頼し合っていいものを作ろうと同じ方向を向いていられるのは、先生方が常に目印を用意してくれているからなんだろうなと。旗を立てて、「こっちだよ」と言ってくださっているイメージもあります。
川原先生:なんだか照れますね……。僕の場合は作品に造語がいっぱいあって、その場でイントネーションや言葉の切りどころを聞かれることがよくあるので、その影響もあるかと。
茅野さん:実際に声に出すと、難しい単語が多いですよね。
川原先生:前回の対談でも話題になりましたね。「アリス・シンセシス・サーティの名乗りが大変だ」って。
▲『SAO アリシゼーション』で茅野さんが演じるアリス。 |
茅野さん:サ行が続く単語は、発音が難しいんですよ。音響監督の岩浪さん(岩浪美和さん)に、「もう1回」って何度も言われています(笑)。
川原先生:岩浪さんに「川原さんのせいですからね」って言われて、そのたびに「ごめんなさい!」と言っています。
茅野さん:難しいですよね。仲谷先生にも伺ってみたいんですけど、作中のセリフや単語などは、執筆の際にご自分で声に出されたりするんですか?
仲谷先生:基本的には声に出すことはないのですが、燈子の名前に関しては、音の響きを意識しました。最初は七瀬という名字だったんですけど、そうすると先輩と呼ばれる時に「ななせせんぱい」とサ行が続いて言いづらいな、と思ったので、今の七海に変えましたね。
茅野さん:川原先生! 仲谷先生はちゃんと考えていらっしゃいましたよ!(笑)
川原先生:すごいなぁ……僕は全然考えていませんでしたから、映像化する際に「まさかサ行がそこまで大変だとは」と、いざ制作という段階になってから申し訳ない気持ちでした。
茅野さん:『SAO』で言うと、今話題になったアリス・シンセシス・サーティの他に、セントラル・カセドラルは苦労しましたね。
仲谷先生:苦労したと言いますけど、キレイな発音ですよね。
川原先生:本当、声優さんはすごいなって思わされます。
茅野さん:ありがとうございます。演技する側からすると、サ行とラ行が鬼門なので、今でも意識しながら演じています。
――仲谷先生から見た茅野さんの演技についての印象はいかがですか?
仲谷先生:沙弥香については、最初から完璧に演じていただけたので何も言うことはありませんでした。イベントやラジオ番組などで聞いていても感じるんですけど、茅野さんは頭の回転が速いと言いますか、“用意されたセリフを演じる際の最適解を引っ張り出す力”がすごいんですよ。
第1話のアフレコが終わった時もあまりにも自然に沙弥香だったので、「沙弥香でした」という感想しか出てこなかったです。
▲『やがて君になる』で茅野さんが演じる沙弥香。 |
茅野さん:先生にそう言っていただけてうれしいです。ちなみに、描かれている時って、「こういう声かな?」みたいなイメージはあるんですか?
仲谷先生:そんなにイメージしないほうだと思います。アフレコで声がつくと「これが正解だな」ってなる感じですね。ただ、最近はもう茅野さんの声をイメージして沙弥香を描いています。
――アニメ化を経て、描き方にも変化が出たということでしょうか?
仲谷先生:できるだけかわいく、ということはこれまで常に思っていたことなんですけど、気持ちがより入るようになりました。この顔から茅野さんの声が聞こえなきゃ、かわいく描かなきゃというプレッシャーが……。
茅野さん:とてもうれしいんですけど、プレッシャーまでは感じないでください!(一同笑)
――次に川原先生から『やが君』の魅力を、仲谷先生から『SAO』の魅力について語っていただきたいのですが……。
川原先生:『やが君』について話し始めると長いので、『SAO』の話題は3分くらいにしませんか?
茅野さん:少な過ぎませんか(笑)。
川原先生:とにかく今日は、『やが君』について語りたくてここに来たんですよ、僕。
仲谷先生:うれしいですけど、怒られそうなのでほどほどにしましょう(笑)。
――本当に『やが君』がお好きなんですね。
川原先生:僕、まず『やが君』の絵がすごく好きなんですよ。漫画力が強いと言いますか。漫画力とはなんぞや? って突き詰めるとタッチだと思っていて……仲谷さんはデジタルで描いてますよね?
仲谷先生:はい、下書きから仕上げまでフルデジタルです。
川原先生:『やが君』はデジタルだけどアナログ味が残っていて、そういうタッチ……主線に勢いとか伸びやかさを感じられる絵がすごく好きなんです。
仲谷先生:ありがとうございます、照れますね……。
茅野さん:仲谷先生の照れ具合がいいですね、はわわって感じで(笑)。
川原先生:大ベテランの作家だと田中久仁彦さん、最近の作家さんで言うと『加瀬さんシリーズ』の高嶋ひろみさん、『千と万』という漫画を描いていらっしゃった関谷あさみさんなど、描線に趣き、テイストがある作家さんがすごくツボなので『やが君』の線はとても好きです。僕も絵を描くんですが、仲谷さんのようにビュッと一発で描く線が描けないので、本当に尊敬します。
仲谷先生:白状してしまいますと、バレないように重ねている時もあるんですよ。
茅野さん:バレないように! そういうのもあるんですね。
川原先生:だとしても、読んでいる側にそう感じさせないのがすごいんですよ。
仲谷先生:もともとアナログで描いていたので、デジタルっぽくならないようにっていうのは気をつけているところです。
川原先生:アナログがうまい方は、デジタルに移行されてもちゃんとその線が残りますよね。
仲谷先生:まさか絵について、ここまでほめていただけるとは……。
川原先生:漫画ですからね。まずはそこからだと思うんですよ。あと僕、燈子先輩のツヤベタがすごく好きで。
茅野さん:専門的なワードが(笑)。ベタって黒く塗るあれですよね? 私、漫画を描く役が今まで多くて、ベタとかトーンっていう単語はよく言ってきたんですけど、ツヤベタって用語は今初めて知りました。
川原先生:ベタの中でも線を重ねてハイライトを表現するのがツヤベタです。
▲こちらは、燈子先輩のツヤベタの参考画像です。 |
茅野さん:燈子先輩のツヤベタが川原先生的にはツボなんですね?
川原先生:時間がかかる作業ですし、ここまでキレイで味のあるツヤベタをされる方って、最近はなかなかいないですよ。
茅野さん:川原先生はそうおっしゃっていますが、仲谷先生としてはこだわりのある部分なんですか?
仲谷先生:たしかに燈子に関しては、意図的にツヤベタを使って他の黒髪のキャラと区別していますね。
川原先生:仲谷先生って、執筆にあたってアシスタントさんを入れていらっしゃるんですか?
仲谷先生:ほぼないですね。トーンなどの仕上げを手伝ってもらうことが時々あるぐらいです。
川原先生:えっ!! 本当ですか!? 背景も?
仲谷先生:はい(笑)。自分で描いています。
川原先生:本当に驚きました。ありえないというか……すごい。
茅野さん:ところで、話題が絵の話だけになっていますけど大丈夫ですか?
川原先生:(力強く)安心してください! これから内容の話に入ります。僕、百合漫画には幅というか、枠があると思っているんですよ。一番せまい枠が4コマの日常系とするなら、一番広い枠が同性同士の交際は社会的・家族的にどうなのか? っていうところまで踏み込むタイプの作品。
仲谷先生:ええ。どこまで描くかは作品によって違いますね。
川原先生:僕はどのサイズの枠も好きなんですけど、『やが君』は僕が読んでいる百合漫画の中でも相当枠が広いと感じます。男性キャラクターも登場しますしね。『やが君』に男性がよく出てくる理由ってあるんですか?
茅野さん:あ、私もその理由は知りたいです。
仲谷先生:女の子が女の子を好きになると言っても、やっぱりいろいろなパターンがあると思うんです。たまたま好きになった相手が女の子だったっていうキャラもいれば、最初から女の子しか恋愛対象にならないキャラもいます。
そういう違いを描こうとした考えていった時に、男性キャラも身近にいたほうが違いが出せるかなと思ったので、作品の舞台を共学にしました。
川原先生:なるほど。『やが君』の中だと、沙弥香は女の子が恋愛対象であるという点については自覚的ですよね。
仲谷先生:あとは喫茶店の店長の都ですね、恋愛対象が女性だってはっきり自覚しているのは。
川原先生:侑と燈子先輩は、“好きになった相手がたまたま女性だったタイプ”という印象があります。
仲谷先生:男性と女性のどっちが好きなのか、みたいなことは2人とも問題にしていないですからね。2人の中でもまだハッキリとはしていないだろうなという感じですけど。
茅野さん:アニメの話になりますけど、そのあたりも含めてすごく丁寧に原作を再現されていたと思います。
川原先生:丁寧でしたよね。キャラデザがあそこまで原作に忠実だったのは少し驚きました。仲谷さんの瞳が縦に長い絵ってすごく特徴的で、最近だと仲谷さんのような目の描き方をされる作家さんがあまりいないこともあって、アニメ制作サイドにしても挑戦だったんじゃないかと思っています。
仲谷先生:たしかに懐かしい感じかもしれないですね。キャラクターデザインの合田浩章さんとお話しさせていただいた時に、「ちょっとここで描いてください」って言われて、目の描き順を見せたこともありました。
茅野さん:そういうこともされていたんですね!
川原先生:レアケースなんですかね?
茅野さん:私も、作画の制作についてはそこまで詳しく知っているわけではありませんが、あんまり聞いたことないと思います。
川原先生:キャラデザが忠実なところも、演出も、色彩の感じも、『やが君』のアニメは全部好きです。
――ではそろそろ仲谷先生から見た『SAO』の話を……。
川原先生:いえ、もうちょっとだけ待ってください! アニメの劇伴の話もさせてください。劇伴も大好きだったんですけど、これはどういうオーダーだったんですか?
仲谷先生:劇伴は音楽プロデューサーの方が中心に動いてくださいました。監督からピアノ中心でやりたいというイメージを聞いた音楽チームが動いたり、監督のこういう曲がほしいですとのオーダーに応えて大島ミチルさんが作ってくださいました。
川原先生:劇伴なのにギリギリまで存在感があるっていうバランスが大好きです。
茅野さん:加藤監督(※アニメ『やが君』の加藤誠監督)にも伝えたいですね、川原先生がこう言っていましたよ、と。
仲谷先生:本当ですね。
川原先生:全体を通して奇跡的なバランスだと思いますよ。どれかひとつが過剰でも崩れちゃうと思います。
茅野さん:わかります。
――では改めて、仲谷先生から見た『SAO』の話をお願いします。
仲谷先生:『SAO』については、最初のアニメを見てから原作を読んでみようって感じだったと思います。もともと私がゲーム好きで、『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』で育ったところがあるんですけど、さらに『攻殻機動隊』の影響で仮想現実っていうテーマが好きなのもあって、すごく好みの作品でした。現実と仮想現実のどっちかに寄りすぎているわけではなく、両方が繋がっているのもいいですね。
川原先生:ありがとうございます。でも今になってみると、ちょっと失敗したかなと思っているところです。
仲谷先生・茅野さん:えっ!?
川原先生:もしも今書くなら、ゲームっぽい異世界に行ったっきり帰ってこない話になっていたと思います。
仲谷先生:でも私、帰るのが大目的っていうところで「あ、この話好きだ」ってなりましたよ。
川原先生:ええ。その目的は変わらないと思うんですよ。ただ、帰ったところで終わり、っていうのでもよかったかなと。現実世界の話は書くのが大変なので……(苦笑)。その思いが反映されたのが『ソードアート・オンライン プログレッシブ』です。
▲浮遊城《アインクラッド》でのキリトたちの戦いを再構築していく小説シリーズ『SAO プログレッシブ』。現在までに6巻が刊行されています。 |
仲谷先生:川原さんはそうおっしゃいますが、読む側としたら、やっぱり現実も含めた世界観がすごくステキなんですよ。《マザーズ・ロザリオ》編のメディキュボイドは、私たちが生きるこの現実世界でも同じようなものが出てきそうですし、ARも最近流行ってきています。『SAO』でもAIの人権の話などが出てきますし、すごく惹きつけられました。
川原先生:AIの人権については、『攻殻機動隊』が30年近く前に通った道ではあるんですけどね(苦笑)。
仲谷先生:それを今の時期にやるっていうのがいいんですよ。他にもヒロインの女の子たちが強いのもステキです。
茅野さん:たしかに『SAO』では女の子もすごく活躍しますよね。
川原先生:これからの『SAO』は、もっと女の子たちが活躍するようになると思います。
仲谷先生:そうなんですね。
茅野さん:川原先生がそうしようと思った理由ってあるんですか?
川原先生:海外のイベントやファンの反応がフィードバックされるようになって、ポリティカル・コレクトネスをある程度意識しなければいけないと思うようになったからですね。
実際に海外ではヒーロー、ヒロインという言葉を使わず、プロタゴニスト、アンタゴニストという風に分けていて、そこに男女は関係ない。その考えは僕も正しいと感じていて、ヒロインがトロフィー的な扱いになってしまうのは歪だよなと思うようになりました。最近は意識的に女の子たちが活躍する話を書くようにしています。
こう言うと「じゃあキリトはどうなるの?」と考える方もいらっしゃると思いますので補足すると、決してキリトが目立たなくなってしまうわけではありません。女の子たちがどうやって自分の人生をつかみ取っていくのかという部分にも力を入れたいなと。
仲谷先生:『SAO』のヒロインたちは、みんな戦っていますし、自立しているイメージがあったので、囚われの身になってしまうようなことを除けば、あまりトロフィー的な扱いにならないよう意識されていたのかなと思っていました。
川原先生:いやぁ……最初はそういう意識はまったくなくて、無自覚にどんどんヒロインを増やしていっちゃったんですよ。
茅野さん:無自覚に(笑)。
川原先生:百合作品の場合は、カップルの女の子がどちらも主人公的という構造が多いので、そういうところも僕が百合漫画を好きな理由かもしれないです。『やが君』も最初は燈子先輩がヒロインでしたが、途中から侑が追う立場になりますよね。
仲谷先生:主人公とヒロインの立場の入れ替わりがよくあるというのは、女性同士ならではかもしれないですね。
――仲谷さんはヒロインを描く際に意識していることはありますか?
仲谷先生:ヒロインは“主人公の動機になる人物”だと思っています。動機であり、目的であり、話の中心となって物語を展開させる存在ですね。主人公の侑がヒロインの燈子を変えるために行動を起こして物語が進むように、主人公が前へ進むための理由がヒロインなのかなと。
そう考えるようになったのは、藤崎竜さんの『封神演義』がきっかけなんです。読み終えた時にヒロインが誰かって考えた時に妲己だと思ったんですよ。
――“主人公の動機になる人物”という点では、確かに妲己はそうですね。
妲己って、主人公の太公望にとって倒すべきボスだったじゃないですか。恋愛対象じゃなくてもヒロインになるし、攻略すべき目標と考えると、むしろヒロインはラスボスなのかもしれないと思うようになって、作品にもその考えが反映されています。
――お2人の言葉を受けて、茅野さんはいかがですか? ヒロインを演じる上で意識されていることはありますか?
茅野さん:ヒロインだから意識しているということって、実はあまりないんですよ。ヒロインであれ敵役であれ、私としては「いただいた役に誰よりも寄り添ってあげたい」という気持ちで演じているので、ヒロインだからこうやって演じなくちゃいけないと意識しているものはありません。
川原先生:その言葉を聞くと茅野さんのキャラクターとのシンクロ率の高さも納得できる気がします。
茅野さん:周りのスタッフの方たちや作品に引っ張っていただいている面も大きいですけどね。うまく流れに乗せてもらって、その結果としてハマれるところにハマっているのかなと。
川原先生:今までハマるのが難しかった役とかってあるんですか?
茅野さん:アリスはそれこそ難しいですよ。彼女の境遇って、私が絶対に経験しないことじゃないですか。まったく心境が想像できないので、現実の自分から遠ければ遠いほど演じるのが難しく感じます。あ、ただ沙弥香に関しては、演じるのが難しくなっていた可能性はありますね。
――難しくなっていた可能性、というのはどういうことでしょうか?
茅野さん:沙弥香の過去を深く掘り下げた『佐伯沙弥香について』という外伝小説があるんですけど、読んだあとに感情移入しすぎてしまったので……。もしあの作品をアフレコをしている時期に読んでいたら、絶対に冷静に演技できなかったと思います。
『佐伯沙弥香について』では、原作の漫画だけだとわからない彼女の内面が描かれているんですけど、展開がすごく重いんですよ。最終回のアフレコ後に仲谷先生から本をいただいたんですけど、読んだのがアフレコ後で本当によかったなと。
▲入間人間先生によるスピンオフ小説『やがて君になる 佐伯沙弥香について』。ままならない想いに揺れ動く少女、佐伯沙弥香の恋が描かれています。 |
川原先生:バッドエンド確定なのが読む前からわかる作品ですからね……。それどころか、入間人間さんが書くという話を聞いた時は、2人くらい死んでもおかしくないぞと思っていましたよ。あ、沙弥香と言えば『電撃大王』の2019年2月号に掲載されたエピソードの話もしたいんですけど。
――お手元に刷り出したものがありますので、よろしければご覧になりながらどうぞ。
仲谷先生:……対談中に目の前で読まれるのって、緊張しますね。
川原先生:(ページをめくりながら)この話で燈子と沙弥香のやり取りがありますけど、僕、このやり取りの前に侑と沙弥香の対決があると思っていたんですよね。
仲谷先生:それをやってしまうとかなりドロドロになるので、そこまで重くする必要はないなと思って考えていませんでした。
川原先生:たしかにそうですよね。僕、この展開にたどり着くまであと2年はかかるだろうと思っていたんですよ。そしたらもう最終章だと明言されていて、「いやん」って気持ちになりました(笑)。
茅野さん:「いやん」って(笑)。
仲谷先生:起承転結は最初から意識していて、すでに結の部分に入っていますからね。
川原先生:ぜひアニメでやってください。第2期で……!
仲谷先生:もっと言ってください(笑)。かく言う私もアニメでこの話が見たいですね。とくにこの話数の沙弥香のモノローグはとても気合いを入れて描いたので、ぜひ茅野さんの演技で聞きたいです。
茅野さん:そう言われると、私もなんだか楽しみになってきました。やりたいですね、第2期。
仲谷先生:そういうわけですので、皆さん、今後もアニメ・原作ともども応援よろしくお願いいたします。
――ちょっと先に言われてしまいましたが、最後に『やが君』と『SAO』のファンの皆さんにメッセージをお願いします。
川原先生:ここまで『やが君』について語る機会がいただけて、うれしいです。アニメは残念ながら最終回を迎えてしまいましたが、原作はまだまだその先が続いていますので、ぜひ皆さん手にとってください。
仲谷先生:どうしてそんな宣伝を(笑)。
川原先生:いや、もう今日は『SAO』のファンに『やが君』を布教する目的で来ましたので。
仲谷先生:では私からは『やが君』のファンに『SAO』の布教を(笑)。本当に一ファンとしてアニメも原作も楽しみに見ています。『SAO』と『やが君』はジャンルこそ違いますが、私と好みが同じ方は『SAO』も好きになると思います。ぜひ原作小説・アニメともにチェックしてみてください。
茅野さん:最初に今回の企画を聞いた時はどうなるかと思ったんですけど、話しているとどんどん言葉があふれてきて、異なる作品の先生方が出会うとこんなにも楽しいお話になるんだなと思いました。
改めて『やが君』と『SAO』に関わることができてよかったなと幸せな気持ちになったので、ぜひまたこういった企画をやっていただきたいですね。両作品ともこれからも応援いただけますようよろしくお願いいたします!
(C)2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
(C)2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会