2019年1月25日(金)
鉛筆描きにこだわった斬新なアートスタイルと、アイデアに満ちたゲーム性で話題を呼んでいるインディゲーム『RPGタイム! ~ライトの伝説~』(以下、RPGタイム!)(iOS、Android、Steamほかで発売予定)。
本作は“ゲーム開発者を目指す少年・中村健太(以下、けんた君)が手作りで制作したRPG”というコンセプトのもと、これまでのゲームからでは予想もつかないような演出や遊びが詰め込まれた斬新なRPGだ。
初めての展示となった“BitSummit Volume 6”以降、ゲームメディアやゲームファンから大きな注目を集め続けており、2018年の東京ゲームショウでは、インディゲームのプレゼンテーション大会であるセンス・オブ・ワンダーナイトでグランプリを含む3冠を達成。
4Gamer・ファミ通・ゲームの電撃の3メディアのTGSアワードのインディゲーム部門でもそれぞれ大賞を獲得。昨年のインディゲームシーンに多大な衝撃を与えたと言っても過言ではなく、2019年の発売がもっとも待ち望まれているインディゲームの1つだ。
また、なんと1月24日から台湾で開催されている台北ゲームショウINDIE GAME AWARDSにてBest Innovation、Best Choice Award by Xsolla、IGA Grand Prixの3部門で大賞に選ばれたというから絶好調だ。
今年、日本でもっともブレイクするであろうインディゲームを作っているのはどんな人たちなのか、いったいどんな現場で作られているのか。大阪の一角に開発現場を構えるDESKWORKSにお邪魔して、今まさに佳境となっている開発現場の様子を直撃取材。全身全霊で開発を続けている藤井トム氏と南場ナム氏へのロングインタビューから、本作に込められた“熱い想い”を感じて欲しい。
▲左から藤井トムさんと、南場ナムさん(インタビュー中は敬称略)。 |
『RPGタイム!』を開発しているDESKWORKSは、決まった開発現場を持たない2人の少数精鋭デベロッパー。現在は、ゲーム専門学校時代の恩師の会社の一角を借りて作業を続けている。まずは開発現場を紹介しよう。
▲壁一面に広がる『RPGタイム!』の原画。壁の裏には少年時代の絵が隠されていたり、学級新聞が貼ってあるなど、少年の心を忘れないためのアイテムがアチコチに散りばめられている。 |
開発現場をひと目見るだけで、いわゆるゲーム開発会社とは何かが違う雰囲気を感じないだろうか? それもそのはず。この開発現場にはランドセルやら教科書やら……小学校の小道具がいっぱい! “今現在を生きている小学生”の感性でゲームを作るには、こうした小道具が必須なのだ。
▲国語から図画工作まで、小学校時代の教科書が大量に乗った机。教科書を読み込むことで“小学生がギリギリ作れそう”という絶妙なラインが守られているのかも? |
▲壁一面のアイデアメモとPC上で動く最新の開発画面を見て、ここがインディゲーム開発の最前線だったと思い出す。憧憬と情熱が入り混じった不思議な空間だ。 |
DESKWORKSの現場は小学校の一室のような独特さで、ひたすら『RPGタイム!』を作るために整えられた環境になっている。なぜ、ここまで本作に情熱を傾けることができるのか、そして、なぜこの場所で開発をすることになったのか。『RPGタイム!』が生まれるまでに、どのような紆余曲折を経たのか。藤井さんと南場さんに、その始まりからうかがっていく。
──開発現場を見させていただきましたが、すごく特徴的な開発現場で驚きました。DESKWOKRSさんが机を借りている会社とは、どのような関係なのでしょうか?
藤井:お世話になっている会社の社長さんは、ボクたちが専門学校の学生だった時に、企画を教える非常勤として来られた先生なんです。ときにはボロボロになって教卓に上がったあと「今、マスターアップ前なのでボロボロですみません」と言うこともあって、あぁこの現役バリバリの人に教えていただけたら、きっと業界に近づけるはずだと思って、当時しつこく食い下がって作品を見せたり、フィードバックをもらったりしました。
学生の時に作ったゲームが日本ゲーム大賞のアマチュア部門で大賞を受賞できたのも、“現役で活躍されているゲーム業界の人に良い物を見せたい”という気持ちで作っていた部分があるんですよ。
え、日本ゲーム大賞のアマチュア部門で大賞をとったことがあったんですか!?
藤井:はい! 専門学校の卒業制作の『バトルクエスト』というゲームで大賞をいただきました。『RPGタイム!』の原型となるゲームです。
※1:専門学校時代の卒業制作『バトルクエスト』
『バトルクエスト』は藤井さんと南場さんたちが専門学校時代に制作し、2007年の“日本ゲーム大賞アマチュア部門”で大賞を獲得したRPG。小学生の中村健太君がノートに描いたRPGという設定や、鉛筆画のアートスタイルなど、この時点で『RPGタイム!』の原型とも言える形ができており、プレイ時間は20分程度(当時は仲間内で15分RPGと呼ばれていたとか)だがラストまでプレイできる。
実際に遊んでみると、大賞を取るのも納得の完成度。敵を攻撃すると絵の上に黒い線が残り続けたり、HPが減るたびに消しゴムで消すアニメーションが入ったりと“ノートに描いたRPGの再現度”には舌を巻くほどだ。
また日本ゲーム大賞のHPには『バトルクエスト』の総評が載っていて、大賞選考理由と、審査員からベタ褒めされている記録が刻まれている。
藤井:『バトルクエスト』を制作したのは4年生の時だったのですが、在学中に賞を取ったわけではないんですよ。今は基準が変わったのでダメですが、当時は“卒業する年に作ったもの”は応募が可能だったので、就職してすでに働いているときに受賞の報を聞いたんです。日本ゲーム大賞を取ったことを聞いたのが入社1年目の夏で、南場はすでにゲーム会社で働いていましたし、ボクはお花屋さんに就職していました(笑)。
──えっ、お花屋さん!? ゲーム作りが好きで専門学校へ入ったのに、お花屋さんに就職したのは意外ですね。
藤井:それは、ボクも履歴書を書くたびに考えます。若気の至りと言うのか……当時の自分は何を思っていたのかな。
ただ、1回リタイアして早めに戻ってきたので、今は何があってもゲーム業界を辞めようとは思いませんね。だから、自分は早めに一度リタイアしてよかったと思うのですが、キャリア的には大コケなんです(笑)。
でも、そこで1度転職を経験してフットワークが軽くなったことは大きな収穫でした。もしも、ちゃんとしたゲーム会社に勤めていたら、なかなか踏ん切りがつかなくて出られなかったと思います。
お花屋さんはそれはそれですごく楽しかったのですが、やっぱりゲーム作りの楽しさも忘れられなくて。新卒での就職を逃がすとゲーム業界に行くのは難しいのですが、日本ゲーム大賞受賞という箔があれば、ゲーム業界に入り込めるのではないかと。そこで、『バトルクエスト』の受賞歴を使って、翌年にはゲーム業界にカムバックできました。
──ゲームメーカーに入れたんですね。
藤井:そうです。ただ入社したあとも、ずっと『バトルクエスト』を何とかしたいと思っていました。その後、2つめに入ったゲーム会社は、当時オリジナルのRPGだけを作っていた会社だったので、そこだったら『バトルクエスト』も作ってくれるんじゃないかと思って、社内コンペをしたときに持ち込んだのですがコンシューマーの壁は高くて……。
「PS2の時代だったらイケたのにねえ」などと言われたり、当時は初代ニンテンドーDSが全盛期の時代だったのですが、まだマシンパワーや解像度が足りなかったり、鉛筆絵という表現がその時代では難しくて断念しました。
次にPS3とPS Vitaの時代になり、解像度的にはイケると思いつつもなかなかうまくいかなくて、結局ゲーム会社に入ってから5、6年やりましたが開発が始まるまでには至らなかったんですよ。当時はもう、おそらく『バトルクエスト』が世に出ることは今後ないだろうなと思っていました。さらに、その後はスマートフォンが台頭してきて、コンシューマーのオリジナルRPGはほとんど作られなくなってしまいました。
そんな時、ボクが「なんとかならないかな」とグチグチ言っていたら、今もお世話になっている先生が「やればいい」と言ってくれたんです。「でも、場所がありません」という話をしたら「場所も貸すよ」とおっしゃっていただけて、「プログラマーもいないのでベースを作れません」という話をしたら、「じゃあプログラマーを3か月貸すよ」とまで言ってくれたんですよ。ちょうど、南場も前職を辞めて切りが良いということだったので、まずは1年間、毎週末に企画ミーティングをして、企画が完成に至ったら考えようということになりました。
当時、お絵かきBBSというものがWebにあったので、そこで土曜日の夜22時から朝の5時まで、みんなでスカイプをつけて話しながら企画の絵を書いていましたね。長方形をノートに見たててテーマを決め、そこに坂道やハシゴの絵を描いて、どんどん付け足していくんですよ。
南場:社会人をやりながらも、あそこで童心に帰って作れたのが良かったですね。
藤井:一年間を通して、ほぼ誰も休まなかったですね。年頃の男が土曜の夜に遊びに行かないのはどうなのかとも思いましたが(笑)。
南場:毎週、宿題が出るので「ヤバイ、今日は宿題がまだできてない」と焦っていました。週末は、宿題に追われる日々でしたね。
藤井:土曜日の夜中までやるから、日曜日も遊びに行けない。いつも、休日がつぶれていました。
▲当時、藤井さんたちが毎週末行っていたお描きBBSのアイデアメモ。少年の気持ちを取り戻しながら、毎週継続して続けたことが、今の『RPGタイム!』を生み出す原動力となっている。 |
──今は『RPGタイム!』を作るのに全力を傾けているところだと思いますが、お2人にとっては就職していた数年間も必要な時間だったのでしょうね。
藤井:ボクにとってはそうですね。とくに、1つのきっかけとなったのがUnityとの出会いでした。会社を辞めてここへ来るまでに、最後のプロジェクトとしてかかわったのがUnityを使ったタイトルなんですよ。
当時は、まだUnityがそこまで日本では普及していなかったのですが、“ゲーム開発を民主化する”のようなコンセプトのもと、鳴り物入りで登場したエンジンでした。自分も南場も企画なので、これがあれば企画だけでもゲームが作れるのではないかと。
とはいえ、それだけだと「何か作れるんじゃないか」というところで終わってしまうのですが、実務で使う機会があったんですね。その時にどんな機能があって、何人いれば作れるというのがわかり、実際にゲームとして世に出すことができました。
それは『Rain』(SIEがPS3で配信中のアクションアドベンチャー。DL版が¥1,543(税込))というゲームで、PlayStationフォーマットでは早い段階でリリースされたUnity製のタイトルではないかと思います。ここで、実際にUnityを使えばイケるという確信を持てたので、『RPGタイム!』の制作に踏み切れたところがあると思います。
もし、Unityがなかったら作れなかったですし、作れたとしてもPC版だけが関の山だったのではないでしょうか。とくに狙ったことではないのですが、広い選択肢を持てたのでUnityとの出会いはプラスになりました。
──ゲーム会社での実務を経て、いざ2人で作ろうとしたときにメーカーで働いた知識が役に立ったということですね。
南場:はい。無駄にはならなかったと思います。ボクは企画職だったので企画書を作ったり、プロトタイプを作ったりといった仕事をしていましたが、会社ではデザインなども学べたので無駄なことはなかったですね。あらためて『バトルクエスト』から『RPGタイム!』を作り直したときに、経験を活かしてより良い作品を作れていると感じます。
藤井:ボクもオリジナルタイトルを作る機会が多く、とくにRPGを作る機会が多かったので、そろそろRPGなら作れるという予感はしていました。もちろん、見てきたことが通用しない部分もありましたが、学生時代に『バトルクエスト!』を作った経験があるので、手探りでもなんとなく作れるイメージは沸いていました。
たぶん、自分たちだけではおもしろさを信じきれなかったと思うんですよ。『バトルクエスト』を学生の時に同学年の仲間に遊んでもらって「おもしろいよ」と言ってもらえた。さらに、プロに見てもらって日本ゲーム大賞を取れたことが、おもしろさの担保や保険になっているような気がします。
南場:それだけを信じてきた感じですね。新しいゲームを作ろうとしていますし、プレイしていても不思議な感覚になることが多いんですよ。「この感覚は、本当におもしろいのかな?」と思う時もあり、そうしたものを積み重ねていくので不安もありました。
藤井:よく、夜に2人でテストプレイをしながら「いや~、コレはおもしろい!」と言っているのに、翌朝になると「本当におもしろいのかな。大丈夫かな、これは?」と不安になることもあります(笑)。誰かに見せたほうがいいのかと悩みつつも、見守ってくださる先生もいるので作り続けることができています。
先生は、一昨年までゲームの内容をいっさい知らなかったんですよ。最近知って驚いたそうですが、それは口を出すと先生と生徒というイメージが強くなってしまうので真に受けてしまう。ボクらはプロなのだからということで完全にシャットアウトしてくれていました。そこも、すごく大きかったですね。
──実際に先生と出会って開発が始まったわけですが、ゲームの骨子自体は最初に行った1年間のブレインストーミングで決めたのでしょうか?
南場:ベース自体は、ほぼ決まっていましたね。
藤井:ただ、いくつかターニングポイントがありました。今は、ゲームをひと言で説明すると“ゲームクリエイターになりたい少年が手作りした大作RPG”になるのですが、当時はまだ“ゲームクリエイターになりたい少年”ではなかったんですよ。
“ただ、なんとなくゲームを作っている文房具屋のせがれ”くらいの位置づけで、それがゲームクリエイターになりたい少年になったのは結構あとのほうですね。4、5年目くらいになって『RPGタイム!』のボリュームがどんどん膨らんでいったときに、これはもう“けんた君が1年生の時から準備して作らないと完成しないボリューム”になってしまったなと。
最初は“夏休みの宿題で作った”くらいの遊びにする予定だったのですが、普通の少年がただなんとなく作るゲームではなくなってしまったんです。なぜこれを作ったのかと考えたときに、けんた君はゲームが好きだから作った。ゲームクリエイターになりたいけど、パソコンを持っていないから手作りしたと考えると、いろいろな線が一気に繋がりました。
同時に、ボクたちもやっとけんたくんを理解することができたんです。そうなると、彼の言動もガラっと変わりました。説明の仕方もアイデアも、ゲーム好きならこうするだろう。ゲーム好きならココはわかっていて当然だろうと、芋づる式に繋がっていったのです。
南場:けんた君の性格設定が決まってからは、かなりスムーズにテキストが進みました。
藤井:ゲーム好きならこうするという柱ができて、作品自体が良くなりました。なぜ、今まで気づかなかったのかと思いましたね。ぼんやり作っていたからかもしれません。それが今から1年、2年くらい前のことです。
──そうしたターニングポイントは、これまでにも何回かあったのですか?
南場:何回もありました。
藤井:でも、そのたびに「良くなったね。おもしろくなったね」と言いながら作り続けてきています。ターニングポイントでアイデアを思い付いたときは、これを実装すると確実に1年伸びる。今は2年の予定だけど3年になってしまう……と少し考えるときもありましたけれども。
最初はボクらがちょうど27、28歳のときに作り始めたゲームなので、30歳になった記念でオリジナルのゲームを出せたら、自分の人生の区切りとしていいんじゃないかと思っていたのですが、気が付いたら今はもう34歳なんです(笑)。
南場:だいぶ過ぎちゃいましたね(笑)。
藤井:30歳の時点で、こんな「小学生が題材のゲームを作っていてすみません」という感じなのですが、もうすっかりおじさんですね。でも、実際に「もし実装すれば、もう一段階ゲームが高まる」と思って実装してみて、そうならなかったことは一度もありませんでした。
南場:そうですね。作ってみたら実際に良くなって世界が広がりました。
藤井:作ってみて進捗が無駄になったということはなかったです。
南場:基本的にはビルド、ビルド、ビルドで作り上げましたが、クラッシュ&ビルドもあるにはありました。ページを丸ごと書き直すこともよくありましたね。
藤井:ただ、クラッシュはしましたが捨てるのではなく、もったいないのであとで使おうと寄せ集めて再利用したりもしています。こぼれた部品があっても、世界観が違うページの中に入れ込めてしまえばいい。たとえば、宇宙ステージとして作っていた物を、別の古い洞窟ステージに持ってきても、この世界観なら許されるんですよ。滅茶苦茶な世界観になって、むしろ良くなるんです。
──『RPGタイム!』の原型と言える『バトルクエスト』ですが、この作品はどのような流れで作られることになったのか教えてください。
藤井:南場は就職が決まっていましたし、自分もお花屋さんに就職が決まっていたので、ボクらは卒業制作としてコンテストは意識せずに気軽に作っていたんです。
南場:コンテストの存在すら知りませんでした(笑)。
藤井:それと言うのも、当時、コンテストに出す作品は学校の精鋭が集まって作られることが多かったんです。グラフィック学科のエースや、プログラム学科のエースなどがドリームチームとして集結して、日本ゲーム大賞に出せるクオリティのゲームが作れていたようなのですが、ボクらはそのエースの集まりに漏れた人間だったんです(笑)。
ただ、ボクたちの学年ではそのようなゲームが出てこなかったからなのか、『バトルクエスト』をコンテストに出してはどうかと学校側から提案がありました。
南場:最初は、賞を取れるなんて思ってなかったから「出したくないです」と言ってたんですよ。
藤井:結果的に賞をもらって本当に驚きました。出すように薦めてくれた学校には感謝しています。
──『バトルクエスト』は、チームで企画を温めたものなのですか? それとも、藤井さんが考えられたのですか?
藤井:一応、自分になると思います。4年生になって「卒業制作を作りなさい。テーマは縛りがなく自由ですよ」と言われてチーム決めをする流れになり、ボクと南場と何人かで企画を考えることになりました。
当時、みんなから忌憚なく意見を出してもらって、良いアイデアがあれば否定せずにどんどん積み上げていくというブレインストーミングのようなことをやっていて、そこで出来上がった企画が『お肉の妖精』というゲームだったんですよ(笑)。
──『お肉の妖精』……!?
藤井:もう、締め切りに間に合わなければ単位がもらえないギリギリで『お肉の妖精』の企画書を書いて出そうと思っていたのですが、これを本当に作るのかと。確か、その時は南場がお肉の妖精というキャラクターを描いていて、そこにボクの“空き地を歩き回るゲーム”のベースを合体させていたと思います。
南場:空き地にお肉の妖精が出てきて、商店街をウロウロするような感じのゲームでした(笑)。
藤井:でも、これはなんか違うからやめておこうと。そこから、学校で学んだことをちゃんと生かそうと考えました。学生が作るゲームって、ほぼ3パターンに分かれているんですよ。それは、パズルゲームと2Dの横スクロールアクションとシューティングの3つで、もともと学校の授業で習うから作りやすいんですね。
単純にそのジャンルが好きで作っている人たちもいたのですが、ボクらは企画が多いチームだったので技術的な面からその3ジャンルで戦っても立ち向かえないと考えました。ここは、学校で習った“ブルーオーシャン戦略”でいこうと決めて、みんなが作らない物を探して歴代の卒業作品を調べました。そこで、唯一作られていないのがRPGだったんですよ。
──確かに、RPGは作るのが大変ですからね。
藤井:そもそも、冷静に考えるとRPGが好きでゲーム業界を目指す人が多いのに、なぜ作らないのか不思議だったんですよ。でも、これは逆にチャンスだと思って、まずRPGを題材にブレインストーミングをしていきました。
南場:水RPGやレコードRPGなどいろいろなアイデアが出たのですが、その時ちょうど彼が手帳を持ってきていたんですよ。
藤井:「手帳RPG!」と提案してみたら、これは何かおもしろそうだぞと。その手帳は“ほぼ日手帳(※2)”というものなのですが、中のページでいろいろできるようになっているんです。パラパラとめくって路線図があるからすごろくに使えるとか、スケジュール帳で何かできそうだということで、“手帳で遊ぶRPG”をみんなで考えようという結論に決まりました。
さらに、書いていくうちにもっとおもしろいページがあればゲームにしやすいと思って、手帳じゃなくて自由帳にしようと。そうすれば、なんでも勝手に書けるだろうということになり、そこから“ノートRPG”という言葉が出てきました。ただ、ボクらはデザイナーじゃないので本気で描いても下手な絵しか描けません。
だったら、小学生が描いたことにすればいいし、どうせ書くのならボールペンよりも鉛筆のほうが、絵心がなくてもそれっぽい絵に見えるかなと。鉛筆絵のままだと見栄えがしませんが、当時、文字がグニグニ動く“うごメモツール”というものがあったんですよ。その仕組みを使えば、絵を動かせるので鉛筆絵をアニメーションさせよう……といった感じでとんとん拍子に決まっていきました。
それに、ノートだったら最初と最後のページだけ作ってしまえばいいんですよ。ダメだったら途中のページは抜いてしまえばいい。そういう発想でオープニングとラスボス戦を作り、そのあとに中間部分を作っていきました。結局、当時だと中間の部分は構想の10分の1も作れませんでしたが……(笑)。
※2:ほぼ日手帳
コピーライター・糸井重里氏のホームページ“ほぼ日刊イトイ新聞(略称:ほぼ日)”が販売しているオリジナルの手帳。通常の手帳としての機能はもちろん、遊び心に満ちたおまけページなど、遊び心に満ちた構成となっている。
https://www.1101.com/store/techo/
南場:町に着いたあと、ダイジェストになってラスボスまで行っちゃうんですよ。作れたのは、起承転結の起と結だけ(笑)。
藤井:本当は洞窟を抜けて街に出て、そこから伝説の剣を探す旅に出て高い山に登り、森に行って妖精に出会って……といろいろ考えていたのですが、そこはもうダイジェストで済ませました。でも、当時はRPGだと言ってもらえましたし、これがゲームという形になったのは企画が良かったのかなと思っています。
▲後半はダイジェストで進む『バトルクエスト』。当時の無念を晴らしている『RPGタイム!』は、比べものにならないぐらいに作り込まれている。 |
──『バトルクエスト』でも特徴的な鉛筆絵ですが、当時から手描きで作られていたのですか?
南場:はい、手描きでした。複数描く時は、トレーシングペーパーで何回も写して描き、それをスキャナで取り込んで周囲のゴミを切ってデジタル化する。その作業の繰り返しでした。
藤井:自分たちのチームが企画担当だけだったということもあり3DCGの技術を使えなかったので、3DCGはほとんど使っていません。一応、ノートの部分だけは頑張って3Dで作ったのですが、それ以外は手描きです。
『RPGタイム!』は机や周囲の物も3Dで動きますが、当時作った『バトルクエスト』は全部平たい世界ですね。鉛筆と消しゴムとノートだけが3Dになっていますが、カメラも上から見下ろしたままです。
──お話を聞いていると『RPGタイム!』のコンセプトは、当時の『バトルクエスト』でほぼ固まっている印象を受けました。
南場:確かに2つとも似ているところはありますが、改めて作り直していますし、大きく違いますよ。
藤井:『RPGタイム!』は、当時最大限に思い描いていたこと以上の作品になっています。もっと言えば、7年前。今年で開発7年目ですが、当時よりも大きくなっちゃっていますね。
開発当初はプロで経験を積んだとは言え、作れるかどうかはわからなかったのですが、夢としてはこれくらい作りたい。これくらい作れればプロと戦える、というところまでを考えていたのですが、今はもっとすごいことになっています。こう言っては変ですが、自分たちでも、ここまでクオリティが上がって良い物になるとは思っていませんでした。
『RPGタイム!』は、ただ鉛筆絵で作られたアートが魅力なだけのRPGではない。いかにも小学生が作ったような絵や持ち物がUIとして機能していて、ノートをめくるごとに違うゲームが入っているような“異なる遊び”が詰まった本編は、イベントで新しいページを遊ぶたびに印象が異なる。
ゲームマスター的な役割を持つ小学生のけんた君による誘導と、彼が作ったRPGを遊ぶという“ゲームインゲーム”的な入れ子構造。メタフィクション的な発想でありながらも、小学生が作ったゲームというわかりやすさが嫌味を感じさせない構造になっており、懐かしいようで最新の考え方が詰まったインディゲームの最先端的な作品となっている。
▲学校が停電したことを利用して、けんた君がホラーなページを披露。突然、新たなUIを付け足してゲーム性が変わるなど、普通のゲームではありえない発想が魅力だ。 |
東京ゲームショウの“センス・オブ・ワンダーナイト 2018”では、優れたアートスタイルに送られる“Best Art Award”。自作品のプレゼンが評価される“Best Presentation Award”。会場内の観客が選ぶ“Best Audience Award”を受賞するという快挙を成し遂げた。この3冠のすごいところは“ゲームを作る人”。
“ゲームを売り込もうとする人”。そして“ゲームを遊びたい人”の3者に評価されたということ。メディアとユーザーの誰もが期待するほど新しい作品であるという証明にほかならない。
▲開発現場に飾られた三冠のトロフィー。 |
さらに、評価されているのは国内に留まらないのもポイント。中国厦門で行われた厦門国際アニメマンガフェスティバル“創造未来ゲームコンテスト”で金賞を受賞し、日本だけではなくアジアの人々にも訴えかける作品になっていることが証明された。
▲開発現場には、中国で受賞した“創造未来ゲームコンテスト”の賞状も飾られていた。 |
──『RPGタイム!』は、最初から完成形をイメージされて制作されていたのでしょうか。それとも、『バトルクエスト』を膨らます過程で広がっていったのですか?
藤井:完成形はイメージしていましたが、ボクたちが最初に想定した完成形は、現在の作品よりももっと手前でした。そこを目指して作っているときに「これは面白いけど、『RPGタイム2』を作るときに入れよう」と考えていた要素を実装しています。『RPGタイム2』どころか、実質的には『RPGタイム3』を作っているくらいのつもりですね。
南場:ボクらは企画出身なので、いつも最初から見直すと「もっと、こうしたほうがいいよね」という話になるんです。それができてしまう環境なので、直していくと枝葉がどんどん伸びていく。そんな経緯で膨らんでいますね。
藤井:本当は『RPGタイム1(仮)』の状態でリリースしようと思っていて、4年前の東京ゲームショウのインディゲームコーナーに出展希望として提出したのですが落選してしまいました。そこで「う~ん、1ではダメか!」となり、それなら『RPGタイム2』のネタがあるので、コレを入れたらおもしろくなるだろうと、さらに1年かけて『RPGタイム1.5』を作って挑んだのですが、またダメだったんです。
そこからさらに、2年かけて作り直して『RPGタイム2』を作って出したのですが、もう1回落選してしまったので2でもダメなのかと、それならば『RPGタイム3』で行くしかないと、世界をグッと広げて作り込み、ようやく当選したのが去年でした。
──そんな経緯があったんですねぇ。当初の『RPGタイム1』から、具体的にどのような要素を足したのですか?
藤井:世界が広がっていったことが大きいですね。今は画面比率が16:9になっていますが、最初は4:3でノート自体がピッタリ収まるサイズしか映っていませんでした。そのなかでクオリティアップを図ったのが『2』でしたね。ノートの中の世界だけではなく、RPGを作ったゲームマスターのけんたくんの世界を広げようとしていました。
それまではタブレット端末で遊ぶことを想定していたタブレット専用ゲームだったんですよ。でも、コンシューマハードをやるならば、16:9の画面にする必要があったので、今は画面を16:9にしてコンシューマハードも見据えています。
ただ、16:9になると横のスペースが余りますよね。そこで余ったスペースをどうしようかとなったときに、フェルトでUIやメニュー画面をつけたり、HPの数値を表すメジャーを用意したりと、どんどん世界が広がったのが『3』の要素です。主に、世界の拡張と機能の拡張をしていった感じですね。もちろん、ノートの内容自体も厚みを増していきました。
▲4:3の画面でノートだけが映っている『バトルクエスト』。当初の『RPGタイム1(仮)』も4:3の画面だったということで、その時点ではまだこの作品に近い形だった。 |
──そうした作業を、これまではずっと2人だけで続けてきたわけですよね。
南場:そうですね。ページ単位で作りながら2人で作ってきました。
藤井:じつは、意外と鉛筆絵ならサカサカっと書いて1ページ増やせるんですよ。本当ならば、そこから3Dにして色を付けるという工程があるのですが、最初の工程だけなので追加しやすいんです。
南場:かなり、ゲーム的に追加がしやすい仕様になっていますね。ページ単位で遊びを決めているので、新たなコンセプトの1ページを追加するという形でとんどん加えられます。逆にカットもしやすいですし、構成自体を組み替えたりもできますね。
──なるほど。『2』や『3』の要素を入れても、根本的に作り直すわけじゃないということですか?
藤井:上書きですね。上から重ねて重ねて……。その分だけボリュームを確保できたので、インディでは割と珍しいボリューム感なのではないでしょうか。
南場:かなり、ボリュームがありますね。秘伝のたれ状態で、継ぎ足し継ぎ足し作っています。
藤井:RPGにはボリュームが必要だというのは固定観念かもしれませんが、自分たちにはそういう思い込みがあるんですよ。その世界で長く遊んでもらえるからこそ、感じられる何かを表現できるのではないかと思っています。
──ボリュームと言う意味では、イベントに出展する際にイベントの性質にあわせて英語や中国語のローカライズがされているのがすごいなぁと思いました。
藤井:中国のイベント(第11回厦門(アモイ)国際アニメマンガフェスティバル)のゲームコンテストでは、ほかのチームで中国語のローカライズをしていたところはおそらくなかったと思います。ボクらはテキストだけではなく、中の絵やモデリングも中国語に変えてガッツリ翻訳していましたから、そのおかげで“創造未来ゲームコンテスト”で金賞をいただけたのだと思っています。
中国語にローカライズしたのは、ボクらのチームが掲げるコンセプトからすると当たり前の考え方なんですよ。どうしたら遊んでもらう人に一番喜んでもらえるかと考えたら、中国で遊ぶ場合は中国語になっているのが最適だと思っていました。
あの時は、ちょうど東京ゲームショウとの間に2日間猶予があったので、ガっと翻訳していましたね。イベントの最中も中国語の対応をしながら作っていて結構ギリギリだったのですが、やった価値がありましたし、中国で遊んでくれた人たちの顔も見られて本当に良かったです。
遊んでくれた人たちの顔を見ると、最初はキョトンとしているんですよ(笑)。「ん? なんだこれ?」と思って触ってみると「ああ、こういうことか!」と納得してもらえました。ボクらはRPGを見てきたうえで作っているのですが、やはり日本よりもそうした下地がないので本当に触っていいのかわからないみたいです。
触っていいのかわからないけど、実際に遊んでみたらどんどん進めていける感じでした。日本よりも「何かわからないけどおもしろい!」という反応がもらえましたし、喜んでもらえたので翻訳してよかったです。
──すでに、『RPGタイム!』は国内外で高く評価されていますよね。TGSではセンス・オブ・ワンダーナイトで3冠を獲得しましたし、メディアアワードでも3社が『RPGタイム!』を大賞に推しました。本来、メディア的には受賞タイトルを他メディアとは被らせたくない気持ちもあるはずなのに、3つのメディアが同じタイトルを選んだのは、本当にすごいことだと思います。
藤井:驚きました。自分たちのように日陰でやってきた者の背中を、みなさんが後ろから押していただけたのが本当にありがたいです。
南場:昨年は、本当にインディ界隈から可愛がっていただけました。みなさん、気にかけてくださってありがたかったです。
藤井:だからこそ、良い物を作って恩を返したいと思っています。あの人たちが大賞をくれたのだから、ここまで作れた、ここまで完成したという物を見せるべく、出来ることはすべてやるつもりです。人も増やせるだけ増やして、なんとかやっていきたいと思っています。
──お、ということはついに開発メンバーに新しい方が加わる?
南場:1月からプログラマーがチームに加入しました! じつは、その彼はもともと『RPGタイム!』の立ち上げにかかわってくれた人なんですよ。
藤井:『RPGタイム!』の根幹となるシステムを作ってくれた1人です。ゲームの作り方としてはありえないことなのですが、このゲームの開発の割合は企画が9だとしたらプログラマーが1くらいの配分になることがわかっていたので、プログラマーに頼らない開発をするために“RPGタイム!ツクール”のようなツールを最初に作りました。その“RPGタイム!ツクール”を作ってもらったプログラマーさんなんですよ。
でも、当時「RPGタイム!ツクールを作ってください」とお願いしたら、かなり不評でしたね。「君たちが何を作っているのか、よくわからない」と言われました(笑)。ゲームを作らないで“ゲームを作るためのシステム”を作り、ツール上でツールを作っている状態だったので、本当にコレでゲームができるのかと半信半疑だったようです。
それから6年後くらいに「記事を見たよ。本当にあれでゲームが作れたんだね」と連絡を受けて、本当に完成しないと思っていたという打ち明け話をしてくれました。当時は説明を聞いたけれど、そんなゲームができるわけないと思っていた。しかも、6年経って世に出るとは思っていなかったので、もう流石に企画が潰れたのだろうと思っていたみたいです。今は、そのプログラマーさんに再び参加してもらって制作を進めています。
▲藤井さんの机には、10年以上にわたって紡がれてきた『RPGタイム!』のアイデアメモや作中に出てくるゲームのUI(十字ボタン)などが置かれていた。 |
──確かにその方がおっしゃる通りで、企画から考えても10年以上たって日の目を見るのはあまりない事例ですね。その間に、似たようなゲームが出てこなかったことにも驚きました。
藤井:そこは、本当に心配していました。
南場:ハラハラしていましたね。同じような絵柄が出るたびに買って遊び、良かったコレは違うと言っていました。
藤井:たとえば『Draw a Stickman: EPIC』というおもしろいゲームがあるのですが、あちらは棒人間が歩いて色を使ったギミックがあるなど、こちらとは別のゲームでした。
──最近では『Return of the Obra Dinn』の1-bitグラフィックスや『ネバーエンディングナイトメア』といった手描きのグラフィックを使ったゲームが増えましたが、それらともまったく違いますね。
藤井:自分たちも、よく13年前に良い企画を思い付けたと思っています。今遊んでもらっても新しいと言ってもらえることが多いですし、さらに懐しいという要素も見てもらえる。13年間作るうちに、良い感じで新しさと懐かしさの熟成が進み、2つの要素がちゃんと成立した感じがしました。しかも、それが日本の人だけではなく、世界の人たちにも同様に感じてもらえたのが本当にうれしいです。
──ちなみに、開発としては、もう終盤に差し掛かったと考えてもよろしいのでしょうか?
藤井:開発の進捗としては、現時点で90%ですね。
南場:すでにひと通り作っていて、絵的にもほぼ完成しています。
藤井:南場のリソースである鉛筆絵は99%完成しました。あとは、いろいろな遊びが混ざっているので調整に時間をかけたいのと、プラットフォームを増やすために頑張っているところです。
南場:鉛筆絵は、BitSummitの段階だと1万枚以上だと発表しているのですが、それでは済まない数になりました。下書きなどを合わせると、3倍くらいはあると思います。さらに、没絵もかなりあるので……。
藤井:使わなかった絵もボリュームアップを考えているときにもったいないので復活させるなど、いろいろな形で使っているので最終的にはデータだけでも2万枚くらいになると思います。
──その作業だけでも、7年間の開発の大部分を費やしていますよね。
藤井:本当に足し算ですよ。1枚、1枚、ずっと積み上げてきました。
南場:しかも、7年前に描いた絵は古いので描きなおしてるんですよね。ページ数としては換算していないですし、直さなくてもバレないのですが、7年の間描いていると筆圧がパワーアップしちゃって当時の線が細いのが気になるんですよ。
藤井:そうそう、最初の頃は細かった! でも、ツールで直すとデジタル感が出て味がなくなっちゃうので……。
南場:結局、そういった絵は手で描きなおすことになりました。
藤井:今後は、あまり調子に乗って欲を出さないようにしましょう(笑)。
南場:まだまだ、結構出ちゃいますね。
藤井:このインタビューを受ける直前も、結構重めな4ページを追加してるんですよ。
南場:ステージが追加されちゃいましたからね。結局欲が出ちゃってます(笑)。
──直そうと考えるとキリがないと思いますが、どこで見切って完成にするつもりなのでしょうか? 以前、2019年夏ごろに出したいとうかがいましたが?
藤井:はい、2019年夏を目指してはいます。ただ、延期が正式に決まったときは改めて告知しようと思います……!。今回追加した4ページは、長めのスパンでゲームを見たときにどうしても必要な4ページを追加した形ですね。いつも、必要に迫られてやっているんですよ。後半をもっとおもしろくしよう。そうなると、前半のバランスがないから追加して……。
南場:そんな感じでギッタンバッタンと、バランスを取りながら調整していますね。
藤井:おそらく、そうした調整は今回で最後だと思います。
南場:そうですね。あとは仕上げていくだけのフェイズにしたいです。
──これから、仕上げに向かうということですが、どのようなポイントを調整していく予定なのか教えてください。
藤井:演出の伝え方と出し方ですね。
南場:あとはテンポ感の調整。
藤井:イベント展示版でテンポが悪いという指摘を多く受けたので、そこは直しています。あとは継続的に最後までアイデアを詰め込んでいくことと、しっかり最後まで遊んでもらえるように“ゲームマスター”としての役割を全うすることですね。ゲームクリエイターというよりは、ゲームマスターとしての調整になると思います。物としてはすでに完成しているので、あとはどう見せるか。どう誘導するかですね。
南場:そこをきっちり調整して、遊びやすくすることを心がけています。
──まさに今が佳境というところですね。ちなみに、開発は、どのようなペースで行っているのでしょうか? ちゃんと休まれていますか?
藤井:かなり追い込んでます(笑)。朝から開発をはじめ、終電で帰る体制です。
途中までは週休完全1日制だったんですよ。祝日もないので、去年で6年目だと言ったものの普通の人月で換算するともっと時間がかかっています。例外はありますが、やはり時間をかければかけるだけおもしろくなる作り方をしているのが理由として大きいです。掛け算ではなくて足し算で着実に積み上げていく繰り返しですね。
南場:普通は掛け算的な作り方をするので、あまり他所ではやらない手法かもしれません。
藤井:うまくいったゲームは掛け算の作り方でも楽しめるのですが、どうしても退屈だとか、ボリュームだけが掛け算になっているケースが多くて、それならば「掛け算せずに足し算で行った方がおもしろい体験になるんじゃないか?」というのが『RPGタイム!』のベースです。ボリュームではなくて、本当にどれだけアイデアを詰め込めるかが、ゲームとしては大きい要素なのかなと思っています。
もしかしたら、AAAクラスのタイトルと比べてアイディア量だけなら見劣りしないのではないかというくらい詰め込んでいて、何をするにしてもいちいち新しい案を入れています。手を抜かずに、100個アイデアを出したなかから最高の3つを選ぶような感じで作っていますね。
南場:まあ、それも全部自分たちでやらないとダメなんですけど……(笑)。ほかの会社だったらデザイナーやプログラマーがやってくれる部分ではあるのですが、そうなってくると逆にストップがかかってしまうんですよ。でも、企画の自分たちがやっているのでストップをかけられない。ブレーキが壊れた状態になっている感じかも?
藤井:本当に、おもしろいページは全然公開していないので、まだまだたくさんあります。
南場:お見せした部分は、まだまだほんの一端なんですよ。先を遊んでもらった時に、みなさんがどう思われるのだろう、という楽しみな気持ちはあります。
藤井:早く後半のステージをお見せしたいです。順繰りに作っているので、後半のほうが当然良くできているんですよ。
▲イベントなどの展示で遊べたページだけでも、それぞれ異なる遊びが楽しめた『RPGタイム!』。どうやら、まだまだ驚くようなアイデアが隠されているようだ。 |
──完成したあとは家庭用ゲーム機でも出される予定とのことですが、段階を追って出していくのでしょうか?
藤井:パブリッシャーの意向にもよりますが、たくさんの人に遊んでもらいたいので、なるべく多くの言語やプラットフォームでリリースしたいと考えています。インディゲームはそこが一番難しいという話でもあるのですが、やれる限りは一緒に遊んでもらいたいですね。
──完成が本当に楽しみです。本作は構想から13年に及ぶ入魂の一作だと思いますが、個人的には藤井さんと南場さんがこれで燃え尽きないか心配です(笑)。気が早いのですが、『RPGタイム!』の次の作品といったことは考えていたりしますか?
藤井:流石にまだ考えていませんね。まだまだ『RPGタイム!』で作りたいものが残っています。
南場:『RPGタイム!』は派生が効くタイトルだと思っていますし、DLCなどもやりたいと考えています。
藤井:たとえば、けんたくんは男の子だったので女の子バージョンを作りたいという話もしていました。
南場:同じ世界観で広がる作品だと思っているので、そのラインで考えることもできますね。どうなるかはわかりませんが、アップデートで追加することもできそうです。
藤井:今後の展開もぼんやりとは考えているんですよ。たとえば、『ワンピース』に出てくるルフィのようなキャラクターがRPGを作ったらどんなゲームになるだろう。知的なキャラクターが作ったら、知的なRPGになるかもしれないといった派生も、いろいろできると思います。ずっと作り続けていると、その間に「アレはああしておけばよかった」という物もいくつか出てきているので、それを実現したいという想いもあります。
──最近はインディゲームもDLCを出すようになって、そうした派生や追加バージョンをDLCとして出すパターンが増えましたね。
藤井:ボクたちは知名度がないので、1年間かけてアップデートや新しい試みをしつつ、どこかで火がついたら続編が作れるし、ダメだったらお疲れ様でしたという形にしようと考えています。 リリース後も1年間は『RPGタイム!』を作るためのチームを維持する予定なので、まだちょっとゴールは見えていない状態ですね。
学生時代からの情熱を保ち続けたまま、制作を続けられている藤井さんと南場さん。『RPGタイム!』はゲームの開発の仕方としてはかなり独自な作られ方をしているが、お話をうかがっていて、だからこそこの2人の情熱は紛れもなく本物だと感じた。そして大手のメーカーからは絶対に出てこない、インディだからこそできるゲームだとも言える。
まだまだ、『RPGタイム!』をイベントでプレイした人も多いわけではなく、静止画や動画で見ても“ゲーム自体が持つ遊び”の本質は伝わり切っていないところがあるかもしれない。このゲームが最終的にどのような形になり、本当の姿はどんなものになっているのか、心から楽しみだ。
電撃PlayStationでは今後も『RPGタイム!』に注目しつつ、完成まで追っていく予定だ。読者のみなさんも、もし今後イベント会場などで『RPGタイム!』を見かけたら、ぜひ体験してみることをオススメしたい。2019年のインディゲーム界に殴り込みをかけるとてつもない愛と情熱の作品『RPGタイム!』に注目しておいてください!
『バトルクエスト』は、現在開発中の『RPGタイム!』の原型。今回の取材で藤井さんたちが大切にデータを保管していた『バトルクエスト』をプレイさせていただいたが、遊んだことで『RPGタイム!』との違いが明確に判明した。
まず、大きく違う点は『バトルクエスト』のほうがシンプルなRPGであること。けんた君によるナレーションで進行する点や、ノートの中の主人公を動かす点など『RPGタイム!』のプロトタイプ的な部分はあるが、道中で起こるイベントは展示されている『RPGタイム!』よりも密度が薄めだ。
戦闘も、敵に合わせて攻撃する部位や行う操作を変える『RPGタイム!』とは異なり、こちらはオーソドックスなコマンドバトル。シンプルでわかりやすいRPGといった感じを受けた。今の『RPGタイム!』がアドベンチャー的な要素とRPGの融合で、こちらは純粋なRPGといった印象だ。
『RPGタイム!』が目指している“けんた君が作ったRPG”という世界観の再現で言えば、やはりこちらはまだ試作品といった印象もある。しかしながら、『バトルクエスト』は『RPGタイム!』とは違った魅力を感じた部分もあり、DLCやオマケでつけてくれるとうれしいところ。