2019年1月29日(火)
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、2018年11月末に有料DLCが登場したPC用シミュレーションRPG『Battle Brothers』のプレイレポートをお届けします。
『Battle Brothers』は、中世ファンタジーの世界を舞台に傭兵団をマネジメントし、過酷でリアリティにあふれた傭兵生活を堪能できるゲームです。
プレイヤーは隊長として、仕事の契約、隊員の雇用、装備や物資の調達、戦闘に至るまで、すべてを自分で操作していきます。
▲プレイヤーは最大20名(戦闘に出せるのは1度に最大12名)の傭兵を管理し、彼らを育成・カスタマイズしながら傭兵団の戦力を拡大していきます。 |
中世ファンタジーといっても、リアル路線に近いところに軸足を置いた硬派な世界観を持つのが特徴です。ゴブリンやオークなどの魔物は登場しますが、人間同士の戦いにファンタジーらしい外連味(けれんみ)はありません。
傭兵たちは実在の武器を手にして戦い、深手を負えば何日も怪我に苦しみ、戦場に散れば生き返ることはない……中世のリアルな戦闘がターン制の戦術SLGバトルに再現され、血なまぐさい傭兵の雰囲気を濃密に体験させてくれます。硬派好きにはたまらんですよ!
▲バトルの難易度はシビア。後述しますが、その難しさがおもしろさともつながっています。上は死亡者を1人出して勝った時の画面。 |
各種設定と傭兵団の名前を決めると、以下のようにゲームが始まります。
「何もかも上手くいかなかった。2日前に仕事を受けた傭兵団は、“鼬(イタチ)のホガート”と彼が率いる賊の一団を追跡していた。しかし、先に見つかったのは我々のほうだった。待ち伏せを受けたのだ――」
敵の先制攻撃で多くの仲間を失い、傭兵団がほぼ壊滅した状況下で早速バトルが開幕。勝利したプレイヤーは、戦死した隊長の役割を引き継ぎ、わずか3名の生き残りと一緒に傭兵団を再建していくことになります。
▲ちなみに主人公自身は、矢による重傷が完全に癒えないのか、もはや戦いに出ることはなく、ゲーム中にユニットとしては登場しません。 |
ワールドマップはゲームを始めるごとに生成され、開始時の設定で入力する“Map Seed”に従って、地形や町の配置、町にある施設などが変わります。各町は3つの貴族いずれかの所領に分けられ、ゲームの設定次第では終盤に戦争も発生します。戦争の結果により、当然、勢力図が塗り変わることもあります。
プレイヤーはその世界の中で何をしようとも自由で、基本的には“町から町へと渡り歩いて仕事をこなし、報酬を得ながら傭兵団の戦力増強を図る”というのがゲームサイクルです。
▲支配権をめぐって戦火にさらされている町。正規兵は装備がよく腕も立ち、手強い相手となります。 |
▲ゲーム開始時に傭兵団の戦旗デザインや終盤のコンテンツ選択、ワールド構成に影響するMap Seedなどを選択できます。 |
仕事内容は、単なる荷物の配達やキャラバンの護衛といった簡単なお使いから、賊の討伐や町の護衛、魔物狩りなど多岐に渡ります。
傭兵たちの強さは人間の域を出ないので、人外の力を持つ魔物たちは強敵で、簡単に手を出せる相手ではありませんが……。ただ、後述する有料DLCでは、特定の魔物を倒すことに大きなメリットも存在します。
▲有料DLCの登場で序列的にはさほど恐い存在ではなくなりましたが、並の戦力では手も足も出ないオークたち。仕事の依頼以外で戦うのは避けたいところです。 |
ラインに沿ったストーリーはないものの、自由度こそが本作のおもしろさの1つで、“傭兵らしさ”を深く味わうための重要なシステムになっていると思います。
もっと書くと、歴史好きやSLG好きが抱える“傭兵に対する妄想”をゲームプレイで具現化できるタイトルなので、固定化されたストーリーでそれを邪魔されないところがいい! ある種のロールプレイを存分に楽しめる懐の広さがあります。
▲移動中、ランダムイベントが発生することもあります。 |
上に“傭兵団の戦力増強を図る”と書きましたが、実際のプレイでは言葉で書くほど簡単ではありません。
難易度の設定にもよるのですが、物資の確保や団員の人件費など“維持費”としてかかる金額が多いので常に懐具合は寂しく、戦闘に出れば“いつ誰が死んでもおかしくない”シビアさがあって、現状維持すらハードモードという傭兵生活の世知辛さに満ちています。
▲食糧・修理材・矢・医療品といった兵站物資は傭兵団の維持に欠かせず、傭兵を雇う際の契約費と日常の給料も懐を圧迫します。傭兵団の経営は火の車です(苦笑)。 |
▲武器や鎧は店で買うと高額で、基本的には敵の死体から漁ったドロップ品がメインになります。 |
逆に言うとそのリアリティが本作の大事なおもしろさで、金銭的にも人的にも厳しいリソース管理は、綺麗事だけで生きていけない傭兵団の過酷さと雰囲気を盛り上げてくれるエッセンスです。
また、傭兵のリアリティは戦闘においても強く感じられます。基本はヘックス(6角形)で区切られたマップのターン制ですが、ユニットの行動に伴う疲労の管理、頭と胴体に分かれた攻撃部位、豊富な武器によるアクションの違いなど、戦術や駆け引き、死の迫る危機感をより深く感じられるシステムが充実しています。
▲雇った傭兵は、自分好みの育成ができます。また、傭兵ごとに伸びやすい能力が違い、メリット・デメリットのある個性を持っていることも。 |
簡単に書けば、ユニットがあっさり死ぬので一撃の重さがヤバいです。その緊張感から生まれる戦場を渡り歩くことのカタルシスと、装備選びや育成の工夫が戦術に生きるシステムは、やり応えと傭兵の戦いらしさを色濃く感じさせてくれます。
また、怪我の種類が充実していて、それぞれの怪我の内容や箇所によって減少する能力や回復までの日数が変わるところは、傭兵1人1人の人間味を増し、リアリティと愛着を持たせてくれる要素になっているでしょう。
▲怪我は町にある寺院で治療すると回復を早めることもできますが……お金を捻出できるかが問題。 |
▲倒れたユニットが稀に生き残る場合もあり、その時は隻眼など恒久的な損傷を負います。弓を扱うのが難しくなって剣士に転向させるなど、怪我が人の歴史になることも。 |
バトルで死が紙一重であるだけでなく、死と生の中間を丁寧にシステム化してあるので、2Dゲームながら3Dゲーム以上のリアリティと緊迫感を得られると思います。
そのバトルシステムと支出の多いタイトなマネジメントシステムが相まって、ゲームプレイから傭兵の世界観や雰囲気、一言にすると“らしさ”と呼べるものが体感できて、どんどんハマっていく作品です。
2018年11月末に有料DLC『Beasts & Exploration』が登場し、適用すると新たな魔物や装備品、探索要素、カスタマイズ機能、クラフト要素などが追加されるようになりました。
▲新たな探索要素としては、辺境地にイベントの発生するスポットが追加されています。何かアイテムを入手できたり、超高難度の戦闘が発生したり、種類はさまざま。 |
特におもしろいのは、魔物を倒して入手できる素材を加工し、いくつかのアイテムを生み出せるクラフト要素と、染色アイテムやアタッチメントで防具をカスタマイズできる機能です。
▲剥製師(Taxidermist)の店で素材からアイテムをクラフトできます。ダイアウルフなど既存の敵から素材を入手して、アイテムを作る場合もあります。 |
▲なお、染色アイテムやアタッチメントは普通の商店でも買えます。 |
アタッチメントは防御性能が上がるほかに外観も変わるので、純白のファークローク(Unhold fur cloak)など見た目のいいアイテムをお気に入りの傭兵の防具に装着すると、より愛着が持てると思います。ただ、雪原に生息するFrost Unholdの毛が2つ必要なのは大変ですが(苦笑)。
▲ファークロークを装着。アタッチメントは見た目も性能も変わるので、よりキャラクターに愛を注げる要素になっているでしょう。 |
▲攻撃力が異様に高く盾を構えても蹴散らされるUnholdは、それなりに育てた傭兵団でも相手にするのがつらい敵です。HPが毎ターン回復するので各個撃破を! |
ちなみに、本DLCの新しい敵は本気で殺しにかかってくるうえ、追加要素を楽しむには新しくキャンペーンを始める必要があるので、すでに本編を遊んでいる方が購入する場合はお気をつけください。
本作は、公式の言語対応は英語のみですが、ゲームプレイに必須な部分は短文であるため、一見した時のテキスト量よりはハードルが低いです。有志の日本語ガイドもありますし、英語に自信がなくても抵抗のない人なら、おそらく遊べるでしょう。
英語であることをわかって購入した場合、むしろ難易度の高さのほうがハードルになる気がします。バトルとマネジメントが密接につながった素晴らしいゲームデザインゆえ、全体的にゲームが難しいので。
リプレイ性のあるゲームでもあるため、最初は一番簡単な難易度でゲームに慣れるのがおすすめです。ある意味では死んで覚えるゲームに近く、傭兵が死んだり金銭的に行き詰まったりと苦しい状況を体験し、何とか打開した瞬間におもしろさが広がります。そして、もっと刺激がほしくなるという。
その時は、少し難しいと感じるくらいの難易度でキャンペーンを仕切り直すと、より深く“傭兵らしさ”に浸れるはずです。おもしろさを求めて、少しずつマゾくなるのが本作の放つ魔力かなと(笑)。
傭兵ゲームの名作『ゼルドナーシルト』や佐藤賢一氏の『傭兵ピエール』などが好きな人は、おそらくハマる可能性が高い作品だと思います。また、『ファイアーエムブレム』や『X-COM』など、一撃の意味が重たい高難度の戦術バトルが好きな人にも、おすすめできるかもしれません。人を選ぶでしょうが個人的に名作です。
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