2019年2月16日(土)
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回はNintendo Switchで配信されているアドベンチャー『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』の魅力をお届けします。
本作は、キャラクターデザインに漫画家の荒井清和さんを起用したファミコンソフト風のアドベンチャー。8bitのグラフィックやコマンドを選んでいくシステムなど、当時の作風をリスペクトした完全新作の推理ゲームとなっています。
レトロ風と言っても一口にいろいろありますが、本作は単純に古臭いわけではありません。システムや遊びやすさは、今のユーザーが遊んでも苦にならない設計がされているのでご安心を。当時の雰囲気を求める人はもちろん、はじめてコマンド式の推理アドベンチャーを遊ぶ人も楽しめる作品です。
リアルさを感じさせる言い回しでありつつ、くどさのないシナリオ。プレイヤーの誘導が巧みで使うべきコマンドがわかりやすい操作性。コダワリ抜いた実機風のグラフィックと、過去のよさを研究しつつも現代に合わせたていねいな作りが特徴です。
自分は一気に遊んで朝焼けとともにエンディングを迎えるほどハマってしまいました。今回の記事では、そうした本作の魅力をさまざまな観点から掘り下げていきたいと思います。
東京、上野の公園で発見された身元不明の水死体。刑事である主人公(プレイヤー)と後輩のケンは、事件を解決するために東京で聞き込みを始める。だが、それは伊勢志摩を舞台にした連続殺人事件の幕開けに過ぎなかった……。
という2時間ドラマのあらすじのような導入から始まる本作は、正統派のミステリーアドベンチャー。TVドラマのサスペンス(火曜サスペンス劇場といって通じる世代の人ならピッタリハマる作風)を見るような気持ちで、ちょうどよいボリュームの推理物が楽しめるようになっています。時間にして5~6時間程度です。
▲ファミコン風のドット絵なので、死体の描写などもグロすぎません。そういう意味でも非常に遊びやすい作品かと。 |
場面に合わせて新しいコマンドが出てくるのですが、基本的には画面内に収まるコマンドのどれかを使うことで物語が進んでいく方式。移動や聞き込みなど、情況に応じてケンがヒントを言う場面も多く、どのコマンドを使えばいいのか悩むことは少ないでしょう。
もし、謎解きに詰まってしまった場合でも、同じコマンドを2回連続で実行することで新たな展開が出る場合が多め。プレイ感覚は往年の推理アドベンチャーなのですが、こうした誘導がとても現代風です。「もしも、現代で往年の推理アドベンチャーの新作が出たとしたら、こうなる」という年月の進歩を踏まえた内容になっています。
▲往年のようにすべての行き先が出るわけではなく、次に向かうべき場所が場面に応じて整理されています。ある程度は自由なアドベンチャーですが、迷わないようにさまざまな部分で誘導されているのが親切です。 |
テキスト送りの速度といったプレイ感覚はファミコンソフトなのに、古臭さがなく素直に楽しめるのもいいところ。特にテキスト関連はお遊びが多く、推理ものですが暗くなりすぎずに楽しく捜査できるのも好きな要素です。
▲お調子者のケンが行く先々で食べた物をグルメレポートのように報告してきたり、伊勢志摩の観光名所を解説してくれたりと、旅行に行きたくなるような演出も。 |
場面と関係ないコマンドを選んだ時に、たまにお遊び的なテキストが挟まるのも小ネタが効いています。そもそも、レトロ風なのに舞台が現代なので、スマートフォンを使って検索しながら捜査しているんですよ。う~ん、今風。
▲撮影する必要のない場面で写真を撮ろうとしたら、こんなひと言が。意外な部分にネタを仕込んでいるので、見逃したものがあるかも? |
スマホを使って被害者の写真を撮影したり、スマホで向かうべき場所を検索したりと、見た目こそ80年代のゲームですが舞台は現代。スマホを使いこなして捜査する展開が、不思議と新鮮に感じます。
▲毎日の捜査開始時など、特定の場面でスマホのゲームコマンドを使うと『忍者カイ』というミニゲームを遊べます。もちろん、捜査中に遊ぼうとすると怒られちゃうので要注意。 |
基本的なシステムは昔懐かしのコマンド式アドベンチャーですが、レトロな理不尽さを極力なくしていることと、スマホなどの現代的な設定をうまく取り入れていることで、ただの懐古で終わらない工夫が詰まったゲームなのです。
本作におけるレトロゲームへのリスペクトは、非常に細かい部分にまで及んでいます。例えば、起動するとハッピーミールのロゴ表示しか出ず、すぐにタイトル画面が出る演出。今時のゲームは使用しているエンジンの表記などが挟まり、起動時から時間がかかるものが多いのですが、本作はタイトル画面がすぐに出ます。これも、ファミコンカセットのゲームを思わせますね。
また、ゲーム中に+ボタンを押すとオプション画面が出るのですが、ここで読める取り扱い説明書もこだわりのポイント。見てください、この説明書! やりすぎですよ!?
収録されているファミコン風の説明書が、本気で作り込まれています。しかも、普段は8ビットゲーム機のイメージを崩さない音楽やSEが流れているのに、この説明書を読んでいる時だけはボーカルのテーマ曲が流れるという演出もニクイ。ゲーム中では絶対にボーカル曲を流さないけれど、説明書を読んでいる時なら主題歌を聞いていてもおかしくない……というちょっとした心配りが効いています。イメージを極力崩さず、お遊びをしっかり入れ込んでいるのが好印象です。
▲中央のページには、説明書をホチキスで止めたあとまで残っています。ちゃんと説明書を作っているのです! やりすぎ!(笑) |
本作は、やろうと思えばきちんとファミコンの実機で動く範囲で作られており、グラフィックなども色の制限などレトロゲームとしての制限を守りつつ、説明書に至るまでこだわっているのが感涙もの。中でも説明書は隅から隅まで読みたくなるくらいコダワリを感じます。
▲昔のアドベンチャーゲームには、最後のページにメモをする欄がありました。本作にもちゃんと用意されています。実際に印刷してメモるべき? |
ゲーム自体にも推理アドベンチャーとしてのお約束がたっぷり! 聞き込みに次ぐ聞き込みはもちろん、逃げられた人物を追いかけて3Dダンジョンを探索する要素まであります。某探偵クラブ的なやつ!
▲左を向く、正面へ向かうといったコマンドで3Dダンジョンを探索。なんというか、あまりにも懐かしすぎますよ……。 |
「そうそう!」と思わず口に出してしまいそうになりましたが、昔の推理ゲームは重要な場面で3Dダンジョンの探索が入りましたね。もちろん、3Dダンジョンといってもノーヒントではありません。ケンの言葉を聞いてしっかり探索すれば、当時のように迷うこともなく目的地へとたどり着けます。ここら辺の遊びやすさも現代的。
ファミコンのゲームを思わせるグラフィックやSEはもちろん、細部まで徹底したリスペクトを感じさせつつも新しい作りが本当に素晴らしい! う~ん、ケンくん。これだけリスペェクトゥされたら文句はありませんよ!
自分が個人的にもっとも感動したのは、なんといってもシナリオ。本作はゲームを進めていくと謎が二転三転して、物語をしっかり盛り上げてくれます。次々に起きる殺人事件。解決に向けて推理しながら行動していくプレイヤーとケン。王道ですが、遊んでいると先が見たくなるよくできたシナリオです。ゲームは4~5時間ほどのボリュームでクリアできますが、それくらいの長さのドラマを見たような満足感がありました。
これはやはり、きちんと王道のミステリーとして成立しているからですね。ありえないトリックや犯罪ではなく、地に足がついているんです。何よりもテキストの言い回しが丁寧。キャラクターがしっかり礼儀をわきまえているので、どの人物も好感度が高いです。
例えば、後輩のケンは聞き込みをする時に、きちんと挨拶から入ります。聞き込みが終わった後も、いちいちお礼を言うんですよ。こういった描写は、往年の推理アドベンチャーでは省略されがちでしたが、ここがきちんとしているのでリアリティがあります。だからこそ、ドラマっぽく感じるのかもしれません。
▲聞き込みをするうえで、きちんと礼儀を守るケン。彼はいい加減な性格ですが、社会人として、刑事として、ちゃんと行動していることがわかります。こういう細かい部分が本当にイイ! |
細かい描写をおろそかにしていない。それだけで、自分好みのシナリオなのですが、出てくる登場人物が個性的で生きている感じがします。昔風なゲームなのでテキスト量も昔風……ではありません! 現代のゲームとしてドラマが成立するだけの分量があり、細かい描写でリアルさを出しています。こうしたコダワリこそが本作を単なるパロディの域に留めず、1つの作品として魅力的に見せているのだと思います。
▲伊勢志摩では、老人が方言を話すといった描写もあって細かい! そこまでしなくてもいいのに! |
それから、これも言っておかなくてはいけません。本作にはヒロインが2人出てくるのですが、どちらもドット絵なのにきちんと荒井清和絵。ちゃんと、かわいいぞな。もしーっ!
▲1人目のヒロイン、珠海ちゃん。カワイイ。 |
まずは、主人公たちが伊勢志摩に着いてすぐに出会う第1のヒロイン・珠海ちゃん。彼女は、正統派ヒロインという感じが心をくすぐりますね。彼女と母親の関係も含めて、物語をグイグイ引っ張ってくれるメインヒロインといったところです。
▲2人目のヒロイン、カナちゃん。カワイイ。 |
そのあとに出会うカナちゃんもいい感じ。2人とも表情が作り込まれていて、今のアドベンチャーに出てきてもおかしくないくらいヒロインとしてキャラが立っています。カナちゃんは、服装が2時間ドラマ的な感じなのも好き。
そして第3のヒロイン……というか、ゲーム中でもっとも絡んでくる謎のルポライター西沢さん! 正直、ヒロインを差し置いて個人的に一番好きなキャラかもしれません。
だって、このゲーム。事件が進展するたびに捜査会議と称して居酒屋で情報を整理しながら飲むシーンがあるんですよ。これは、もう推理ドラマの定番な描写! 自分はココが作中でもっとも好きな場面ですね。
▲ゲームとしてはどうでもいいかもしれませんが、こうした描写を入れてくる心意気が最高! シリーズ化して、各県の居酒屋で同じようなことをしてほしいです。 |
西沢とは居酒屋で毎晩情報交換をすることになるのですが、オジサンたち(主人公は性別不明)がアルコールで気持ちを緩めながら、どうしようもない会話を交えて楽しく晩酌している姿がニヤニヤしてしまいます。それでいて、きちんとストーリーの整理にもなっているという非常にいいシーンです。
旅先で出会った人と飲む旅情感。新たな謎にワクワクしつつ翌日へと向かうゲームの構造。すべてが自分のツボにハマりまくり。きっと、自分のようにこのゲームがツボにハマる人は多いと思います。こういう推理ゲームを待っていたんですよ!
自分は、あまりにもハマって徹夜でクリアしてしまったほどなのですが、遊んでみて損はしないゲームだと心の底から確信しました。次回作に続くような伏線を張らず、1本の作品として完結しているのも高評価。たまに、伏線を張ったまま次回へ続く作品もありますが、本作はきっちり完結します。
それでいて、刑事物なのでいくらでもシリーズを続けられる設定なのがウレシイ。気持ちよく終わってくれるゲームですし、ぜひこれからも●●ミステリーシリーズとして続編を見てみたいです。
▲ミステリーゲームのお約束ネタもふんだんに盛り込まれている(この場合は、被害者の写真を見せて突っ込まれている)のですが、まだまだネタはあるはず。 |
ただ、推理ゲームなのでシナリオやキャラの話をするとネタバレになってしまうのがもどかしい! まだまだおもしろいところはゲーム中にいくらでもあるんですよ。例えば、ヒロインたちと入浴するシーン。なんと、ここだけ専用のカーソルが出てきて“いろいろ調べられる”という演出があります。見たくなってきたでしょう? あまりにも、わかりすぎていますよ!
▲このあとに、ウワサの入浴シーンがあるのですがお見せできません! 自分で買って確かめてみてください。そうそう。たまには、2分待ったほうがいいですよ先輩! |
相棒のケンをはじめとする人間的で憎めないキャラクター。ドット絵なのにリアルな風景が目に浮かぶような伊勢志摩の描写。ミステリーとしてのワクワク感。すべてがよくできた作品ですし、クリア後の読後感も悪くありません。どのキャラクターも印象に残ります。
▲好きなキャラクターその2。2周目をプレイしてセリフをよく読んだら、さらに好きになった浜月真珠のダメ人間・レイジ。 |
本作は、値段が1000円と手ごろ。懐かしさも新しさもあって、まさに現代のレトロゲームと言えます。推理ゲーム好きにまだまだ届いていないと感じているので、ミステリーが好きな人たちはぜひストアで買ってください。もちろん、推理ゲームに触れたことがない人も大歓迎。夢中になって遊べる作品ですし、クリア後の満足感も高めです。レトロゲームではなく、新作のアドベンチャーとしてオススメします!
※本ゲームはフィクションであり、登場する人物・団体などは実在のものと一切関係ありません。
※ファミコン・ファミリーコンピュータ・ニンテンドー3DSのロゴ・ニンテンドー3DSは任天堂の商標です。
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