2019年2月26日(火)
【2月26日10:58追記】
Red Candle Gamesは、2月26日、技術的な問題によるため『還願Devotion』の販売を停止しQAチェックを行うと発表しました。現在Steamから本作を購入することはできません。
本作は、「習近平くまのプーさん」と書かれた朱印の入った札の画像が実装されたままゲームが発売され、同画像がユーザーに発見されて後、中国で同国に対する政治的批判であると受け止める声が上がり、大きな問題に発展していました。
画像が発見された直後、Red Candle Gamesは該当画像を1時間以内に交換し、後日、同画像は開発メンバーの1人によって入れられたもので、他のメンバーはまったく気付かないままゲームが発売されたことを説明。
Red Candle Gamesは、習近平氏にまつわる画像が同スタジオの立場を示すものではなく、またゲームのストーリーに関連するものでもないと釈明したうえで、ユーザーに謝罪しています。また、たとえ個人の行動によるものであっても責任はRed Candle Gamesにあるとも重ねて述べています。
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、日本語対応してPC向けに配信されている『還願Devotion』のプレイレポートをお届けします。
『還願Devotion』は、『返校 -Detention-』を手がけた台湾のデベロッパー・Red Candle Gamesが開発した心霊ホラーアドベンチャーゲームです。
物語の舞台は、1980年代の台湾。古びたマンションで暮らす3人家族を描いた作品で、彼らの家で巻き起こる奇怪な出来事を体験し、家族の過去と耐えがたい苦痛をともなう真実を掘り起こしていきます。
本記事では、物語については極力ネタバレを避けて、感想のみを語っていこうと思います。概ね3~5時間のプレイで終わる作品なので、興味を引かれてダウンロードしようと思った方は、何も見ず一気にプレイするのがおすすめです。
本作をプレイして感じるのは、緻密な舞台背景と演出、シナリオを組み合わせて作られたホラー体験の巧みさです。
舞台となる古いマンションの一室は、1980年代の生活感と台湾文化の漂う、ごくありふれた日常生活を送る家族の家に見えます。
しかし、その日常性が現実と地続きであるために想像力をかき立て、小さな違和感にすら敏感に反応してしまうんですよね……。さらには物音だけが響く静けさが恐怖を誘い、肌がざわつくような感覚に、胸の中がじわじわと恐怖に絡め取られていきます。
何かを感じて足を止め、ゆっくりと唾を飲み込んで、また歩き出す。そうしていると、本来なら決して広くはない空間が、ずいぶんと広く感じられるから不思議です。
それでもプレイしていれば恐怖に慣れるわけですが、すると今度は非日常の中に残る日常、散らかった衣服や机、場違いに流れるTV-CMといったものが、逆に不気味に思えてきます。
――そして、不意に襲ってくる心霊現象に息を呑む。
ホラー作品の基本的な演出法であるジャンプスケア(緊張感を高める静かなシーンなどとの対比で、突然の大きな物音や怪物の出現によって驚かせる手法)は、映画や3Dゲームではやりの過度な演出ではなく、本作の場合、静かに漂うような予兆を置いてから“それ”がやって来きます。
そのまま素直に驚かされるシーンもありますが、本作の真骨頂は、驚きよりも不気味さを強調した、何かねっとりとした恐怖が襲ってくる演出のほうだと感じました。それがシナリオの謎と結びついているため、嫌でも想像力をかき立てられるのです。
言うなれば、画面の出来事そのものが恐いのではなく、そこから想像できるものによって心の内側から恐怖が湧き起こる感じで恐い。そのため、想像力がたくましい人は、ストレートに驚きをもたらす演出よりも心臓に悪いかもしれません。
それでもゲームとして心を引きつける魅力があり、恐怖とともに存在する謎を追いかけていく気持ちのほうが圧倒的に強いままゲームを進められます。ジャンプスケアに予兆があることがわかりやすい例ですが、丁寧な作りであるため、ゲームに理不尽さを感じる点が少ないことも大きいです。
恐怖に息の詰まるような緊張感を味わいながらも、本当に巧みな作品は、心のどこかでその術中にはまることが心地よい面もある。ゆえにゲームを終えて振り返った時、素直におもしろい。そういうゲームだと思いました。
シナリオは、イチから順番にストーリーが語られるわけではなく、断片的に入手できるヒントやセリフを読み解きながら、最後に1つの物語として繋がる形になっています。
▲基本的には、アイテムやメモを手に入れて謎を解いていくことでゲームが進みますが、中盤になるとシチュエーションの幅が広がっていきます。 |
『返校 -Detention-』もそうした傾向のあるストーリーテリングでしたが、本作はキャラクターの物語るシーンが極めて少ないので、より想像力をかき立てられ、それを使って謎を読み解く必要があるシナリオデザインになっていると思います。
ゲーム前半はわかりやすいものの、最終的なストーリーの見解においては、人それぞれの解釈と考察が生まれるはずです。話自体の好みは意見が分かれるところかと思いますが、ゲームの物語の見せ方としては非常に秀逸で、タイトルにもかなりこだわったものを感じました。筆者の場合、考えれば考えるほど皮肉と寒気を感じて背筋が凍りますけども……。
けれども一番恐ろしいのは、心の隅では「現実にあることかもしれない」と思えてしまう生々しさかもしれません。物語から真に迫った狂気を感じることが、本物のホラーとして心に爪痕を残します。よくも悪くも心に残る話となるでしょう。
ただ、ストーリーに明確な答えがほしい人は、少しモヤモヤするゲームかもしれないです。物語を整理するためのゲームシステム的なフォローがないので、現代の流行とは逆行していて、見方によってはプレイヤーを突き放したゲームとも言えます。
とはいえ、同じ映画を繰り返し観てそこに新たな発見を見出すのが好きな人や、物語について想像を巡らすことが好きな人は、おそらく、かなり楽しめるタイトルだと思います。
また、丁寧に作られたホラー体験は、ジャンル自体が嫌いでなければ高い没入感を得られるでしょう。筆者自身は、プレイしたよかったと心から思えるゲームでした。
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