2019年3月19日(火)
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、DLsiteで配信されているシミュレーションRPG『PIRATES 7(パイレーツセブン)』の魅力をお届けします。
本作は同人ゲームサークル773が開発し、キャラクターデザインにイラストレーターのカイエダヒロシさんを起用したオリジナルのシミュレーションRPG。多島海と呼ばれる陸地のほとんどが海に沈んだ世界を舞台に、海賊王女カリビアと仲間たちの戦いを描いた作品です。
ゲームはターン性のオーソドックスなシミュレーションRPGとなっており、仲間になったユニットを強化しながら各ステージを攻略していくことになります。ゲームのボリュームは、フリーバトルを含めて全20ステージ以上。平均8時間前後でクリアできる軽めの作品ですが、先が見たくなる物語の構造と遊ぶうちにコツが見えてくるゲームバランスが絶妙で、最後まで楽しく遊べるようになっています。
シミュレーションRPGとして複雑になりがちな要素は極限まで削られており、初心者でも入り込みやすいシンプルなルールも魅力の1つ。シミュレーションRPGの楽しい部分だけを抽出したようなゲーム性で、最後まで楽しく遊べます。
本作は戦闘アニメがなくフィールドマップ上で数値が出る(いわゆるS・RPGのスキップ表現に近い)など、演出はシンプルですがキャラクターのコミカルな掛け合いや絶妙なゲームバランスと相まって、サクッと楽しめる良質な内容となっています。いったい、どのような点がシミュレーションRPGとして優れていると感じたのか。その魅力をお伝えしていきましょう。
シミュレーションRPGというジャンルで悩ましいのが“運”の要素。命中率が低くて倒せない敵にリセットをしながら挑んだり、1%の敵にクリティカルを当てたりするのも、それはそれで楽しいのですが、やはり人を選んでしまう部分があるのは否めません。
このゲームが特に好きな理由は、こうした運の要素が極力排除されている点。例えば、命中率は基本的に高く、ボス以外の敵なら攻撃がほぼ当たるのでリセットを繰り返すこともありません。
また、攻撃力アップや移動力ダウンといった“バフ&デバフ”の概念だけで、毒や麻痺といった“状態異常”が存在しないのも大きな特徴。ちなみに、本作ではデバフが状態異常という扱いになっています。“クリティカル”や“反撃”は、敵味方ともに存在しません。命中さえしてしまえば、表示されているダメージが確定で出るので理不尽さが薄いのです。
S・RPGは敵味方ともにユニットが増えると1体、1体を動かしつつ計算する項目が多くなり、1ステージが長くなってしまうのが魅力であり弱点でもありますが、本作は反撃とクリティカルを排除してシンプルにしたことと、一撃のダメージが大きめなことが相まってターンがスピーディに進行。敵ターンの高速化オプションをONにしなくても、次々とゲームが展開します。ステージ中に背後を突かれるような増援が出現するステージも少なく、アクセントといったところ。遊びやすさこそが本作における最大の魅力といっても過言ではありません。
全体的に遊びやすくなっていますが、だからと言って何も考えずにクリアできるようなゲームではないのも好きなところ。フリーバトルをしなければ、程よいバランスで戦略を考えながらゲームを楽しめます。難しいと感じる人はフリーバトルでレベルを上げて、レベル差によるゴリ押しもアリ。コンシューマゲーム的な配慮がされています。
また、各ステージには勝利条件の他に、達成するとAPが手に入るタスクが用意されています。フリーバトルなしでタスクを満たしてクリアしようと考えると、しっかり戦略を考えないといけません。フリーバトルやタスクの獲得状況で、ある程度難易度を調整できるのもいいですね。
先ほどのAPをためるとステージとステージの間にある編成画面で“キャラクターエピソード”を閲覧できます。エピソード自体の会話が楽しいうえに、達成するとキャラが持つスキルがパワーアップするので、AP狙いでタスクを満たすことも重要です。
ステージ中で味方ユニットが撃墜されても、そのステージで使えなくなる以外にデメリットはなく、場面によっては味方を犠牲にして戦うことも可能な自由さもポイント。もちろん、味方が減るのでそのステージのクリアは難しくなるかもしれませんが、全員を生き残らせてクリア……という行為が強制されないのが現代的で割り切った作りです。
S・RPGとして、思い切った変更点がさまざまある本作。そのなかでも驚きなのは、戦闘中に使える回復アイテムが存在していないことでしょう。ステージをクリアすると資金が手に入りますが、資金を使って行うのは武器の強化のみ。防具はステージ中に敵を撃破するか宝箱から手に入るので、お気に入りのキャラクターの武器を強化しつつ、拾った防具を与えていけば自然とキャラクターが強化されていきます。
ただし、アイテムがないのでキャラクターが使える回復や補助といったアクション(いわゆるスキル)の比重は、同ジャンルのゲームに比べても高め。アクションは1ステージで使える回数が限られているので、回復アクションの使いどころが勝敗をわけるカギとなります。
ゲームとしては敵味方ともに受けるダメージが大きく、基本的に“攻め”が強いゲームバランス。それ故に、回復や補助といった特殊なアクションは戦局を大きく左右します。しかも、このようなアクションを使うことで手に入る経験値が高めで、レベルが上がりやすいという救済措置も。補助系のキャラクターが味方に置いて行かれることもありません。
むしろ、補助系のキャラクターのほうが突出してレベルが上がるくらい、特殊アクションの恩恵が大きいです。攻めどころと回復を考えながら進軍する、というS・RPGとしての基本的な魅力がたっぷり詰まっているのが見どころです。
ステージもバリエーション豊か。単純に敵を倒していくステージから沸き続ける敵を倒すステージ。目標地点を目指して逃げるステージなど、ストレスに繋がらない程度でプレイヤーがピンチになる状況を用意しつつ、サクサクと進められるのが魅力です。
王道で明るい物語も、本作を遊ぶうえでフックになるポイント。主人公の海賊王女カリビアをはじめ、信念を持って行動する登場人物の掛け合いが楽しく、全体的に明るく前向きなので遊んでいて苦になりません。キャラクターエピソードのちょっとした息抜きも楽しく、先が見たくなります。
ストーリーは1つのエピソードが終わる形で、カリビアを中心とした物語がまだまだ続けられそうな終わり方。大きな物語としての決着はつくので不満はないですし、もし続きがあるなら遊んでみたくなりました。
明るくも、きちっとシリアスに締めるところは締めるシナリオには、どこか懐かしさも感じられます。PS初期のころにあったようなジャパニーズS・RPGといった雰囲気が心地よく、仲間も気持ちがいいキャラクターばかりで不快感がありません。
▲個人的には、カリビアに振り回されるナマイキな少年・キッドがお気に入り。 |
海を舞台にした明るい物語は王道で楽しく、ゲームバランスも問題なし。オリジナルの同人S・RPGとして、非常によくできています。初心者でも、主人公のカリビアを中心に育てていけば最後までクリアできる作りなのがグッド。カリビアは“救済措置”ともいえる性能をしており、敵にやられるとゲームオーバーですが、鍛えていけばめったなことではやられません。後半はザコを倒して再行動したり、ボスも一撃で沈められる強力な技を覚えたりと、じつに主人公的な性能で爽快!
彼女を優先的にレベルアップさせつつ、もう1人の救済キャラであるマウリを使っていくだけで、スピーディにゲームを進められるでしょう。特にマウリは、仲間を再行動させる“応援”と、回復アクションを持った強力な補助キャラクターです。
もちろん、他のキャラクターも、それぞれが異なる強みを持っています。使っていくうちに、そのよさに気づける構造になっていて、いつの間にか愛着が沸くでしょう。パーシヴァルやプロセナも個人的に好き。短めなボリュームのゲームですが、そのなかでキャラクターの個性がしっかり立っています。
全体的に演出があっさりしているものの、空いた時間にサッと遊べるシミュレーションRPGとしてよくできていて、この系統の作品があまり得意ではない人にも勧めたい作品です。戦闘アニメがあれば、コンシューマに移植されてもおかしくないくらいのクオリティ。PCを持っている人は、ぜひプレイしてみてください!
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