2019年3月30日(土)
パールアビスジャパンが配信中のiOS/Android用MMORPG『黒い砂漠 MOBILE』。本作の開発者インタビューをお届けします。
『黒い砂漠 MOBILE』は、PC用MMORPG『黒い砂漠』を原作としたモバイル専用のオンラインRPG。韓国をはじめとしたさまざまな地域で、Google/Appleなどのアワードを多数受賞するなど、2018年度で話題となったタイトルの1つです。
本作のプロデューサーを務める秋山隆利さんのインタビューを掲載。クローズドベータテストからサービス開始までや、今後のアップデート展開など、さまざまなことを伺っています。
――2月に行われたクローズドベータテストは大きな反響があったと感じましたが、運営チーム内ではどのようにみられていますか?
正直な話をすると、予想よりも大きく違ったというものではなく、予想の範疇内でした。他のMMORPG系のコミュニティ内で話題が拡散されていたので、誘いあってユーザーが入ってくるだろうと想定していたのですが、「ちょっと試してみようかな?」ぐらいのレベル感で落ち着いていました。不思議な拡散のされ方だと感じましたね。
――クローズドベータテストを受けて、サービスインまでにプランを変更したものはありましたか?
本作の座組は制作は韓国側で行い、プロモーションは日本で行うというものです。サービスインまでのプロモーションは事前に出していた計画通りにほぼ進みました。
唯一あったのが、プロモーションのアクションを増やしたいという韓国本社からの要望です。それを受けて、途中からSNSでの告知方法を変更しました。日本は比較的ビジネスライクに告知をしていく傾向が強いのですが、海外は開発側がフレンドリーにユーザーに接しながらモチベーションを上げていく動きをやっています。それを実験的に取り入れる形で、SNSでの運用方針を変更しました。
――アプリのレビュー欄でも、ユーザーのレビューに対してコメントを返していますが、それもこの方針の1つになるのでしょうか?
ビジネス系のアプリの場合、コメントを返していることはよくあるのですが、ゲームのアプリではまだ多くはないです。過去に近しいことを行ったことがあるのですが、運営が選んでコメントを返信しているように見えてしまい、リスクが出てしまうのが問題でした。ただ、海外は返信するケースが多いので、試みとしてやってみようと思いリリース当日から始めました。
こういったプロモーション活動は日本だけで行っているのではなく、本アプリがリリースされている世界各国で行っています。正直、日本のゲームサービス運営に適しているかは悩みもありましたが、うまくハマってユーザーから期待も得られたことは新しい発見でした。
――改めてになるのですが、『黒い砂漠 MOBILE』の概要と魅力を教えていただけますか?
端的に言うとPCのMMORPGといわれているものをモバイルゲームにギュッと詰め込んだようなゲームです。
MMORPGは、2~5年遊んでもらうことを想定して作られているゲームで、ボリュームで考えるとコンシューマタイトルの3~5倍ぐらいの量が詰め込まれていて、長く遊べるゲーム性になっています。そのため、コンテンツのボリュームが魅力の1つだと個人的には思っています。
他のアプリと、一番大きく差別化されているところはグラフィックです。PCタイトルでこのグラフィックス技術は一般的なレベルですが、アプリでこのレベルにできる会社は世界に数十しかないかと。また、PC版のビジュアルをアプリに置き換えても、ほとんど劣化していない匠の技術は必見です。このレベルの技術を体感できることはなかなかないと思います。
「今この瞬間、モバイルゲームができる最高値ってなんだろ?」という興味本位で見ていただいても、価値のあるゲームです。
――プレイしているのですが、モバイルでこのクオリティを体験できることに感動しました。
何よりも「RPG体験が楽しい!」といったところに合わせて設計を組み込んでいるところに、技術者の思いが出ていると思います。自分なりに思いを込めてキャラクターを作成したとしても、体験できるのは声優のボイスや、パッと見のカワイさやキレイさぐらいで、拡大してみたら「アレ、このキャラの顔、ちょっと濃いな……」ということがあります。しかし、本作は願望そのままのキャラがゲームの中で再現されるので、これこそRPGの原点だと思います。
――RPGの原点というと?
自分の分身たるキャラクターを作成し、思い入れを感じられる部分が“ロールプレイ”の原点。本作のキャラメイキングは再現性が高いため、RPGとして没入感をかなり高めてくれるかと。
世界で提供することを考えると、アクション性がすごく重要になります。PCオンラインゲームでも主流はアクションゲームなので、普通に考えたらアクションゲームにする発想になるのですが、アクションゲームに向かわずにRPGという表現に行ったのはなかなかおもしろいところではないでしょうか。
――おもしろいというのは、具体的にはどういうことになるのでしょうか?
モバイルゲームで単純に遊べるようにするとしたら、アクションゲームの操作性は合いません。それにも関わらず、RPGという表現の中でいかにアクションらしく見せるのかという、発想が逆転しているところにおもしろさを感じました。
本作の技術レベルをしっかり世の中に伝えることで、モバイルゲームの技術レベルをもう一段階上げることができる……個人的には、この部分に一番の期待感を持っています。
――ローンチ発表会で西野七瀬さん、浅野忠信さんをイメージして作成したキャラクターが公開されていました。パッと見た瞬間にお二人だと分かるクオリティに驚きました。
当初、西野七瀬さんと比べると、浅野忠信さんの方が少し似てなかったのですが、そこから浅野さんを改良しました。お披露目した時に、いろいろなユーザーから「西野さんだ!」「浅野さんだ!」と言ってもらえて安心しましたね(笑)。
――似せたキャラクターを作成する秘訣はなんでしょうか?
韓国の本社に、キャラメイキングの作り込みがすごい“匠”と呼ばれるスタッフがいて、その人にお願いしてもらっています。キャラを作る際には、ぜひこだわってみてください。
――PC版『黒い砂漠』をプレイしていて、モバイル版もプレイしているというユーザーはどのくらいいるのでしょうか?
PC版のアクティブユーザー数から考えると、モバイル版も始めているユーザーは相対的に見て、そこまで多くないと思います。ただ、ゲーム内のチャット欄を見ていると、他のMMORPGをプレイしていたユーザーは3~4割ぐらいいて、その中でもガチでMMORPGをプレイしてようなユーザーは2~3割ぐらいいると感じました。
――プレイしていて若い年齢層のプレイヤーが多くいると感じられました。
いろいろな展開をしていくにあたり、低い年齢層を取り込むことは1つのテーマとして、仕込んできました。いろいろな中で、若い人に大きく引っかかったのが西野さんの起用でしたね。あとは、モバイルで遊べるMMORPGはそこまで多くないので、体験したことがないようなサービスを無料で楽しめると、中高生ぐらいのユーザーが興味を持ってくれたのも大きいと思います。
――『黒い砂漠 MOBILE』を制作するにあたり、一番大変だったところはどこでしょうか?
韓国側の開発は、容量の削減にかなり苦労していたようです。30GBあったPC版を単にモバイル版に移行する訳ではなく、エンジンを作り直したり、パーツをすべて作り直したりしたうえに、仕組みを全体的に差し替えて、容量を3GBに削減しなければならないという作業に戸惑っていました。
――ローカライズ作業も韓国で行われているのですか?
基本的には韓国で行われているのですが、すべて任せているわけではなく、私たちが韓国に週に1~2回出向いて、議論しながらその場で直していきました。出張の決まり方も一週間前に決まるわけではなく、「明日から韓国に行くか!」といった感じで突発的に決まっていました。まるで近所の友だちの家に行くような感じで(笑)。
――それはすごいですね。
開発はモノを作ることや、売ることに対してこだわりを持っている方々ばかりなので、「思い立ったら韓国に出向こう!」、「日本に出向こう!」という感じで、こだわるためには手段をあまり選ばないですね。
実際に、プロモーション時期は韓国のスタッフが日本に大勢来て、一緒に入り乱れながら行っていました。
先ほどのSNSでの施策もそうですが、予定を減らしていくという“引き算”ではなく、“足し算”をしていくことが多かったのが印象的です。時間がない中での“足し算”なので、「24時間365日走りっぱなし!」という感覚でした(笑)。
――韓国と日本でともに切磋琢磨しているような感じですね。
そうです! ちょっと前のヤンキー漫画のように、向こうがやってきたから、こっちもやるぞ! みたいなノリです(笑)。ただ、このフットワークの軽さは「いきなり明日からイベントを行います!」などいうことが起きるかもしれないので、ユーザー目線で考えると、ちょっと不安定に映るかもしれません。
特に日本の場合、消費者の選択肢が多いので、イベントなどのスケジュール管理をもっと話し合っていかなければと思っています。
――日本版独自のコンテンツ配信やクラスの追加はあるのでしょうか?
日本独自のコンテンツは作っていきません。基本的に全世界で同じコンテンツを回していく考え方になっています。
ただし、マップ拡大の順番や、クラスの追加の順番は各国で異なります。日本版で次に予定しているのは、韓国でも最初に追加されたクラスですが、その後は中期~後期に追加されたクラスが追加されるというように、順番を変えてます。
それは日本のニーズを踏まえているという理由もありますが、ゲームバランスとしてハイエンドな対人戦、シングルプレイでのモチベーション維持のためです。アップデートは内容が読めてしまうと楽しみがなくなってしまうので、後々の展開に期待が持てるもの、夢を見られるようなものにしています。
――全世界で共通化するにあたって、重視していることは?
もっとも重視しているのは、各国のユーザーの反応です。各国ごとに管理しているのではなく、開発者が現地に向い、一緒に開発や運営を行っているため、ユーザーからの意見を肌で感じています。それもあって、全世界のユーザーを相手にするという普通であればできないことも行えています。すごくおもしろい開発環境です。
――国内のユーザーの意見で印象的だったもの、多かったものはありますか?
基本的には想定内の意見が来ています。一番多かった意見はガチャについてで、ガチャの販売をどうするか、バランスをどうするかといった意見が多く見られました。
先ほどの回答とも関係するのですが、“ユーザーは何を買って、何を不満に思っているか?”という部分は慎重に見ています。「コレはどういうことなの? 言っていたことと違うよね?」という意見にはゲームバランス面を踏まえてどのような判断をしたか、丁寧に説明をしていこうと思っています。我々の動きはいい意味で早いのですが、悪い意味でも早すぎるところがあります。当初説明していた内容から変わってしまい、ユーザーが理解できずについて行けなくなる可能性もあるので、そこのバランスはつねにとりたいと思っています。
――ユーザーからの声でゲーム内容が変わることは多いのでしょうか?
フォーラムなどに書いていただいた意見は、すべて見ています。そしてそれを踏まえて開発チームと一緒に「『黒い砂漠 MOBILE』をどう作り上げていくか?」という議論を繰り広げています。
単純に儲けたいという思想ではなく、ゲームとしてどう成り立たせればいいのかという試行錯誤として行っているととらえていただけるとうれしいです。
――モバイルゲームでユーザー同士で“取引”を行えるのは珍しいのではないでしょうか。気をつけている部分などありますか?
“取引”は、どうやって需要と供給のバランスをとるのかが難しいんですが、基本的な経済学的概念に加え、オンラインゲームを多数一緒に開発したチームがそのバランシングに携わっています。分かりやすくいうと、1つの大きなマーケットを作っている感じですね。
取引の一番おもしろい部分としては、珍しいアイテムがドロップした時に取引所でドンッとあぶく銭が手に入ることがあるかもしれないというところです(笑)。
――今後、『黒い砂漠 MOBILE』の生放送やイベントは行われるのでしょうか?
4月くらいからMirrativ(ミラティブ)などを使って定期的に配信する予定はあります。内容については、現在もんでいる状態です。
――PC版を遊んでいるユーザーに、モバイル版で注目してもらいところはありますか?
若い子のライフスタイルや忙しい人たちにとって、スマートフォンというデバイスは最適です。その中でもここまでリッチなゲームが体験できるというのは革命的だと思います。
私たちの時代にも、外で友だちと通信できるゲームハードはありましたが、場所を問わずオンラインでのリアルタイム通信が可能なことをはじめ、若い子の遊び方の多様性にマッチしていると思います。
――ギルドやPvPを気軽に楽しめるというのはモバイルの魅力ですね。
ナイトメアモードや無法者モードといったPvPエリアなどエンドコンテンツが充実してきているので、やり込める要素がかなりあります。
ナイトメアモードでおもしろいエピソードがあります。普通、ナイトメアモードに低レベルで入るとほぼ100%で他のプレイヤーに殺されます。でも、日本の場合は殺されません。他のプレイヤーは基本的にスルーして、自分の陣地といいますかエリアのモンスターだけをひたすら狩る! 他のプレイヤーには迷惑をかけないという暗黙のルールが存在していて、すごく日本人らしさを感じました。おかげで低レベルの私も、ナイトメアモードを楽しめています(笑)。
今後の展開で他国と同じようにすぐにPKされるような状況に近づくと思いますが、こういったところに国民性が出るのはおもしろいと思います。
――今後はどのようなコンテンツが追加されるのでしょうか?
3月末に“ブレイダー”というクラスが追加されます。“ブレイダー”は、先ほどお話したように、韓国でも最初に追加されたクラスです。実はCMで浅野忠信さんのキャラクターのベースとなっているのが、この“ブレイダー”でした。
そして“メディア”という未開拓の荒廃された地域が追加されます。
その後は“リトルサマナー”というクラスも追加されます。“リトルサマナー”は、神獣である黒狼とともに戦う女の子という設定で、韓国と台湾で一番人気の高いクラスです。
――本作はボイスも特徴ですが、あわせてこちらも追加されるのでしょうか?
マップが追加されることに伴い、登場人物が追加されます。サービス開始時は330体ほどのキャラクターは登場しましたが、このアップデートで、150体のキャラが新たに追加されます。島田敏さんなど渋めの声優を多数起用しているので、ボイスの部分も楽しみにしてください。
――では最後に読者へのメッセージをお願いします。
ゲームを真剣に考えている人が集まって作っているゲームなので、ハッキリ言っておもしろいゲームになっています。一人でもまったりと遊べて、対人戦でも遊べるゲームというのは、いろいろなライフスタイルにマッチすると思うので、ぜひ一度体験していただきたいと思います。
開発はおもしろいタイトルを作ることに命を燃やしているので、「これではおもしろくない」「こんなのはMMORPGじゃない!」などがあったら、フォーラムなどで気兼ねなく言っていただければと。
先ほどお話したように、意見はすべて目を通していますし、ユーザーの意見が我々の議題にあがるような仕組みになっています。期待に応えることは、そんなにないかもしれませんが、期待を裏切るようなことしませんので、これからも楽しみにしていてください。
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