2019年4月2日(火)
スクウェア・エニックスの『FINAL FANTASY XV』の新DLCとして、3月26日に配信がスタートした『EPISODE ARDYN(以下、エピソード アーデン)』。壮大な“『FFXV』ユニバース”の締めくくりとなる本DLCでは、本編で主人公・ノクティスと対峙したアーデンにスポットを当てた物語が描かれています。“彼はなぜ歴史から消されたのか?” 本編をクリアした多くのファンが求めていたその答えが、ついに白日の下にさらされるのです。
そこで今回は『エピソード アーデン』を制作した開発スタッフへのインタビューを実施。『エピソード アーデン』の誕生秘話から、作品に込めた想いなどをうかがいます。まだ未プレイの方は遊びたくなる言葉が満載なので、ぜひこれを読んで影の主人公ともいうべき男、アーデン・ルシス・チェラムの生き様を見届けてみてください。
▲インタビューにお答えいただいたのは、左から小山内(おさない)貫氏、寺田武史氏、加部栄一郎氏の3人。 |
――まずはみなさんがご担当された仕事を教えてください。
寺田武史氏(以下、敬称略):『FFXV』本編ではレベルプランナーを担当してきて、『エピソード イグニス』『エピソード アーデン』でディレクターを担当しています。
小山内貫氏(以下、敬称略):『エピソード アーデン』ではシナリオディレクターを担当しています。『FFXV』の本編ではいろいろなことを担当していて、ラスボスのアーデン戦を作ったり、エンディングを担当したりもしました。さらにはサウンドのディレクションや、ボイス収録のマネージャーもやっていましたね。
――ものすごくマルチにお仕事をされていたんですね(笑)。
小山内:いろいろやりすぎて、記憶があまりないくらいです(笑)。
加部栄一郎氏(以下、敬称略):僕は本編では召喚周りを担当していました。タイタン戦やリヴァイアサン戦、イフリート戦などですね。あとは“アサシンズ・フェスティバル(『アサシン クリード』とのコラボイベント)”のあたりからプレイヤーキャラクターも担当し始めて、『エピソード イグニス』『エピソード アーデン』という流れで、キャラクター周りも手掛けています。
――となると、みなさんは本編の頃から担当されていたんですね。
寺田:僕ら3人はそうですね。けっこう長い間担当してきました。
――あらためてみると、『FFXV』の制作にものすごい時間をかけていたんですね。なお、『FFXV』としての仕事は、この『エピソード アーデン』の配信をもって終了になると?
寺田:はい。『エピソード アーデン』の配信をもって、『FFXV』はひとまず終了となります。
――ではそんな『FFXV』のラストを飾るDLC『エピソード アーデン』ですが、まずは彼を主役にしたエピソードの制作が立ち上がったいきさつ、そしてどんなことを本作で描きたかったのかを教えてください。
寺田:制作のきっかけは、『FFXV』本編の発売から半年後くらいに実施した「『FFXV』のアップデートで何を求めていますか?」という、ユーザーアンケートですね。そこで1番見たいエピソードの結果が、『エピソード アーデン』でした。
それまでは『エピソード グラディオラス』『エピソード プロンプト』『エピソード イグニス』『戦友』という、4つのDLCだけを予定していたのですが、『エピソード アーデン』がユーザーさんに求められているとわかり、ならば『エピソード アーデン』のDLCを作ろうとなりました。
やはりそのなかで、自分たちも本編でシナリオや設定を深くしっかり描き切れていないという反省点がありました。そこもしっかりアーデンというキャラクターを通して、舞台となるイオスの世界がどういう理で、どういう風に生まれて、何をもって悪に染まったのかを描こうと考えました。DLCの制作は、そこを重点的に始めたという感じですね。
――世界観の補完という意味では、ヴァーサタイルのいる魔導開発研究所では、世界の成り行きがわかる資料がタップリ用意されており、自分のなかの知識欲が満たされてよかったです(笑)。
寺田:はい。そのあたりは意識して作っています。
――なので、この『エピソード アーデン』をプレイすると、『FFXV』のいろいろな情報が吸収できて、これまで謎だった部分が腑に落ちる感じでした。ある種『FFXV』のアーカイブ的な作りですよね?
寺田:そうですね。やはり本編はあくまで何も知らないノクティスを軸に描いていたので、どうやっても世界の大きな部分までは描けていませんでした。アーデンを通してならば、そこも描けるかなと考えたんです。
――すべてを知っている者側の視点を“あえて描く”というわけですね。
寺田:はい。だから新しいDLCの第1弾は『エピソード アーデン』でということは最初から決めていました。
――実際に企画がスタートして、シナリオ制作側としては「こんなことをやりたい!」という想いはありましたか?
小山内:ユーザーのみなさんが本編の物語で消化不良な部分があったと感じてはいたので、『エピソード アーデン』では“アーデンというキャラクターはこんな人物で、『FFXV』の物語にはこのような背景がありました”ということを、ちゃんと知ってほしいという想いがありました。なので、シナリオではいかにそこあたりを理解していただける仕掛けを作るのかということに、かなり重点を置いています。
――このDLCをプレイすると、『FFXV』の始まりときっかけを知ることができ、ようやく自分の中で未完成だった『FFXV』のパズルが完成したので、今は万感の想いでいっぱいです。
小山内:すごくいい感想をありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいですね(笑)。
――『FFXV』本編を遊ばれた方は、これをプレイしないと絶対にもったいないですよ!(笑)
小山内:ユーザーのアンケートで『エピソード アーデン』が1位になった理由も、たぶんそこなのではというのは正直ありますね。それに応えるというのは僕らの使命なのかなと。
――アーデンはノクティスをとにかく敵視している“変な人”という印象でしたが、このDLCをプレイしたあとにキャラクター人気投票を行ったら、すごくランクが上がるキャラクターになったと思います。
寺田:ありがとうございます。
小山内:僕らが欲しい感想を完璧に言ってくれましたね(笑)。
一同:(笑)
――バトルのプログラム的な部分で、DLCだからチャレンジした部分や狙いなどはありますか?
加部:『エピソード イグニス』までは、本編の延長的なキャラクターの操作感を踏襲して作っていましたが、アーデンはまったく別の視点で作りました。ラスボスなので最強のキャラクター性能でもいいなと(笑)。だから、とりあえずは強いキャラクターを作ろうと考え、いろいろな能力を用意しています。シガイ化の能力はその最たるものですね。
また、アーデンは本編でいろいろな地方に神出鬼没していたので、そこも使用する技にも反映できたらいいなと考えました。制作を始める際は、まずパワーポイントにアーデンの情報をまとめて、開発メンバーに「俺、今回はこういうものを作りたいんです!」と伝えて、そこからアーデンの性能を決めていきました。
――もともとの本編にあった設定を、いかにゲームのプレイアビリティに反映させるかという部分にこだわられたんですね。
寺田:シガイ化の能力は、ファンタジーをわかりやすくする表現要素なので、考え甲斐はありました。イグニスやグラディオラスとはまったく違う設定を持つので、そういう意味ではアーデンのDLCは作っていてすごく楽しかったです。
――操作感もスピーディだし、シガイ化のコンボが決まると一瞬で倒せるなど、本編にない操作がいっぱい詰まっていてすごく楽しめました。
――発表されているコンセプトとして“悪役が主人公の『FF』”というキーワードがありますが、このような目線のキャラクターを主人公にそえることで、演出で意識された部分はありますか?
寺田:『FF』シリーズのCEROはCかBが中心で、暴力表現に関してはある程度線引きがあります。さらに『FFXV』の主人公であるノクティスは、世界を守る主人公であるという部分を意識して、そういった表現にも気を配っていたんです。
でも『エピソード アーデン』では「ノクティスではできないよね」という表現もあえてやろうと考え、実際にそこはできたと思います。「ちょっとやりすぎじゃない?」という意見ともせめぎ合いましたね(笑)。たぶんそういった表現は、バトルアクションに一番出ているのではないでしょうか。
加部:物語を進めてアーデンのアクションが増えると、シガイ化させることができます。じつは最初は、シガイ化させられた相手がずっと「うぁー」と苦しんでいるモーションが再生されていたのですが、「ちょっとひど過ぎない?」という意見が出たのでいろいろと調整しました。苦しんでいるという表現をまったくなくしたところ、背徳感がなくなってしまったので、フェードアウトするまでのフレームを調整しています。
寺田:残虐なところまで一度作り切って、どのあたりで消すかという形で調整しました。
――けっこう踏み込んだ表現までチャレンジした感じなんですね。
加部:はい。最初は「ひどい、この人」って。これ以上やるとCEROが上がってしまう、みたいな(笑)。
――実際のところ、本当にひどい人ですからね(笑)。あえてCEROを上げてみる、なんてことはやらなかったのですか?
小山内:そこはさすがにですね(笑)。シナリオとしても悪いことをして、世界をどうにかしようとしているアーデンを、アクション面でも表現してほしかったんです。最終的にはカッコイイけど背徳感がある、アーデンらしいアクションに仕上がったと思います。
――アクションの背徳感といえば、街中で大暴れして車や建造物を破壊できます。最初は「あれ? 『FFXV』ってこんなゲーム性だった?」と驚きました。
寺田:その表現も本編ではできなかったんですよ。さすがにノクティスは王様なので、街中でそんな破壊行動をするのは問題ですからね(笑)。
――そうですよね、そういえば王様でした(笑)。
寺田:だから、その制限を取っ払って制作できたことは気持ちよかったです。
――あとは街といえば、王都インソムニアの造形には驚きました。まさか、こんなにも新宿西口をイメージして作られていたんだなと(笑)。
寺田:逆に僕はそういう反応が意外でした。僕が『FFXV』の開発に入って最初に担当したロケーションがインソムニアでした。だから、むしろ王都周りはゴシックなファンタジーの感じで、裏に周ると繁華街があるというロケーションを、わりと当たり前のように作っていたんですよ。
小山内:今まで一切こういった画面が出ていませんでしたからね。
寺田:『ロイヤルエディション』でも廃墟にはなっていますが、一応繁華街の看板もあったんですよ。
小山内:壊れていたから、みんな気づいていなかったのかも(笑)。
――駅前から繁華街方面に進むと、「これ某カメラ店じゃない? これ、あのそば屋だよな」とか(笑)。
寺田:出てくる看板は全部1つ1つ各所に確認を回して、チェックを受けているんですよ。あれがわりと細かくコストをかけているポイントでもあります。
――他社さんで歌舞伎町側を再現しているゲームがあったので、西口側が再現されたのは新鮮でよかったです(笑)。
小山内:“アーデンが如く”なんて言われていましたね(笑)。
一同:(笑)
――そういった意味で、このインソムニアというロケーションを再現してみていかがでしたか?
寺田:やはりこれだけの規模の街を作るとなると、時間はかかりました。もともと『KINGSGLAIVE(フルCG映像作品)』のデータがあって、それを『ロイヤルエディション』でインソムニアの廃墟として地形を作り、さらにその廃墟をまたキレイに戻して、という工程なんです。だから、もしゼロからこの規模のロケーションを作ろうとしたら、1年や半年といった短い期間で作れませんでした。これは長く『FFXV』を作り続けてきたからこそできたと、僕は思っています。
――そういった意味では、ゲーム全体でも設定的なズレがないように作られていると?
小山内:はい。『FFXV』はいろいろなコラボをしていますし、作ったあとに本編のアップデートを行いながら『エピソード グラディオラス』以降のDLCでも新しい設定を公表してきたんです。そこで補完していった設定もけっこうたくさんありましたし、未公開の設定もかなりありました。その壮大な設定を整理して、今回の『エピソード アーデン』できっちり消化するのは相当大変でしたね。
――ヴァーサタイルいる魔導開発研究所から雪山が見えるのも、『エピソード プロンプト』で雪山だったというところとリンクしているんですね。
小山内:ここは『エピソード プロンプト』と同じ地方にある研究所となっています。
――「そういえばここはこんな場所だった」と、プレイしながらDLCシリーズを思い出すきっかけが用意されていたのもよかったです。
小山内:本編ではあまり触れていませんが、ヴァーサタイルの変遷についてもわかるようになっています。『エピソード プロンプト』ではこのように変化したけども、その前の『エピソード アーデン』ではこんな人物だったと整合性を取って、彼のパーソナリティを失わないように設定しています。
――ヴァーサタイルにいたっては「『FFXV』の本編でどんな奴だったけ?」と一瞬迷いました(笑)。
小山内:若い頃ですから、本編と顔がけっこう違いますよね。ネットでも彼の顔は話題になっていました。「同じ遺伝子を持つプロンプトは、将来的には本編のような感じになっちゃうの?」とか(笑)。
寺田:言われていましたね。僕もビックリしました。その解釈があるのかと(笑)。でもそこは意図的にデザインした部分もあります。本編のまま若返らせても仕方がないのかなと。やはりヴァーサタイルは遺伝子的にプロンプトとつながっているので、思い切って若い頃の彼の顔はプロンプトの顔にしようと。
これはエイラもソムヌスも意識的にデザインしています。やはり新キャラクターをDLCで追加するときは、ユーザーさんが何も想い入れのない顔にするよりも、何かしら接点のあるほうが理解しやすいのではないかなと。
――それを聞くと、また違う視点でプレイができますね。
――今回のDLCにあたり、ものすごい量のボイスを収録されていると思いますが、アーデンを演じられた藤原啓治さんにお願いされた点などはありますか?
小山内:とくにこれといってオーダーはありませんが、基本的に藤原さんはアーデンのことを気に入ってくださっていて「オレ、このアーデンってキャラが好きなんだよね」と言ってくださっていまして。狂気の敵のキャラクターがとにかく楽しいようです(笑)。
いつも楽しそうに演じてくださっているんですが、今回はアニメーションも含めて「藤原さん、この回想のときはいい人なので。一応ちゃんといい人になってくださいね」と、念押しして使い分けていただきました(笑)。アーデンはストーリーのなかで、いい人からだんだんと狂気の人に染まっていくグラデーションがとても重要でした。
最初はいい人だけども「あれ? ちょっとおかしい」となり、そこの変化を自分のなかでも気づき始めている。で、おかしくなってからは、いつものアーデンらしくなっている。その“心情変化のグラデーション”は藤原さんにはしっかり説明をして、資料を見ていただきながら演じていただきました。
――アーデンというキャラクターを描くという部分では、前日談を描くアニメーションも公開されています。やはりアニメを見てからゲームをプレイする流れがベストでしょうか?
寺田:『エピソード アーデン』はもともと「アニメ版から作ろう!」という動きでした。最初の4つのDLCと『ロイヤルエディション』で終わらせる計画のなかで、新たに『エピソード アーデン』を作ろうとすると、インソムニアの二千年前の建国まで描く必要がありました。
でも、そこまでゲームで描くことは、DLCの規模からしても難しかったので、やはりアニメーションにしようとなりました。そういう意味では、やはりアニメーションを見てからゲームを遊んでもらう順番が一番いいのではと思います。
――ゲームとアニメでは、エイラの殺されるシーンが違う描き方をされている印象を受けたのですが、どういった解釈で見ればいいのでしょうか?
寺田:あのシーンはあくまでソムヌス視点と、アーデン視点での違いになります。そういう意味でのイメージの違いと思って見てください。
小山内:ゲーム中のアーデンの回想らしいシーンに出てくるソムヌスやエイラは、彼が精神的に作り出した幻なので、実際のソムヌスの性格と少しギャップがあります。
寺田:ちょっと嫌な奴になっていますよね。とくに最初の魔導開発研究所の回想シーンで出てくるソムヌスは(笑)。
小山内:実際そんなあんなニタニタした嫌な奴かといわれると、そうではありませんから。
――まがりなりにもインソムニアの王を務めた人物ですし(笑)。
小山内:アーデンのなかでは二千年前でソムヌスの情報が止まっているし、そのときのイメージのままなんです。しかも、精神状態がだんだんと不安定になっていって、自分のなかにソムヌスやエイラの幻を作り出して、自分で自分を追い詰めているという状態なんですね。
寺田:本当のソムヌスという意味では、ラストに現れる彼の姿が本当のソムヌスかなと、僕は解釈しています。
――アニメに出てくるソムヌスとはちょっと違うわけですね。ゲーム内のイベントシーンはあくまでアーデンの心理描写、ということがわかれば、すごく納得できると思います。
寺田:そうですね。ソムヌスの本質だけをフォーカスすると、そことは少しギャップがあると思います。本当は彼についても描きたかったんですよ。ソムヌスとギルガメッシュとの絡みや、ソムヌスがルシス王国をどう悩みながら大きくしていったかといういきさつなどですね。ただ、そこについては今回バッサリと切りました(苦笑)。あくまでアーデンの物語を描くDLCですし、彼と敵対する存在として描く場合は今の形がベストになるのかなと。
――『エピソード アーデン』はかなりのボリュームがありますが、見どころ、遊びどころをぜひ教えてください。
寺田:ゲームプレイの観点からいえば、王都インソムニアをこれだけ作り込めたというのがあるので、そのインソムニアを端から端まで遊んで、いろいろなものを調べていただけたらうれしいです。
小山内:先ほども言いましたが、シナリオではアーデンという男の心がわからない、なんでこんなにルシス王家を恨んでいるのという、本編の根幹に迫る謎の部分を解き明かすことを目的にこのDLCが作られています。そこが解明されることがストーリー的な魅力であり、みなさんにスッキリしていただけると思います。
――ストーリーといえば、ゲームの途中に選択肢が登場し、アーデンの運命が動きそうな印象を受けたのですが、選択肢で展開は変わるのでしょうか?
小山内:分岐はしますが、ストーリー的に大きく変わることはありません。
寺田:あそこはアーデンがどんな選択肢を選んでも、自分の運命は変えられないということを表しています。
――なるほど。どう足掻いてもアーデンの運命の終着駅は、本編のChapter14であるわけですね。
寺田:そうですね。でも、小説版ではそこが変わるんですよ。別の選択肢を選んだことで、違う物語につながっていきます。
小山内:新しいDLCではアーデン、アラネア、ルナフレーナ、ノクティスという4人のエピソードを作る予定でした。この4つは最初に配信したDLCとは異なり、物語がつながっていく前提で作っていたんです。なので、じつはあの選択肢がのちの歴史に影響を及ぼす予定でした。アーデンの運命は今説明したように結末が変わることはありませんが、そういった心の揺らぎがあることで、ちょっとずつその後の運命が変わっていくことを、もともと想定して書いていたんです。
残念ながらDLCとしては作れなくなりましたが、「あのときの言葉はどういうことだったんだろうと?」と、小説版へのネタ振りになっています。もしそこが気になる方は、4月25日に発売される小説『FINAL FANTASY XV -The Dawn Of The Future-』(著者:映島巡)を読んでいただけると幸いです。「アーデンの気持ちはこういう風につながっているんだ」とわかる形になっています。
――それはおもしろい仕掛けですね。映島さんとのやり取りはどういう形で進んだのでしょうか?
寺田:小説にはアーデン編、アラネア編、ルナフレーナ編、ノクティス編が収録されています。アーデン編はゲームが完成していて、アラネア編のシナリオはFIXしていました。ルナフレーナ編もシナリオはだいたいできていて、ノクティス編はどちらかというと、「ラストはこの絵でいくぞ!」みたいなものを2年前くらいから決めていて、ラスボスとの戦いがまだふわっとしていました。そんな形に開発がまとめていたプロットを、出版部を通して先生にお渡して、そこから小説として正しい形にライティングしていった感じです。
――となると、完成するまでに開発側と密接にやり取りをされていたんですね。
寺田:めちゃくちゃしていますね。今、now?(笑)
小山内:ノクティス編までの監修が終わりました(笑)。
――単純にプロットだけ投げて小説として完成させてください、という流れではなく、完全にゲームとリンクした作りになっているので、すごく満足度が高そうですね。
寺田:僕たち開発チームの想いが違いますからね。逆に先生がビックリしていました。
小山内:熱い想いが重すぎて「わ、わかりました」みたいな(笑)。小説版では小説ナイズされるので、プロットは跡形もなくなるのかなと思っていたのですが、先生が熱い気持ちを受け取って書いてくださっているので、当初僕らがイメージしていたものに近い形になっています。ゲームのフォーマットではありませんが、ゲームを想像できる内容になっていると思います。
――いちファンとして発売を楽しみに待ちたいと思います。あとは『エピソード アーデン』で流れる曲がHIPHOP風なのが気になりましたが、こちらはなぜこの曲調になったのでしょうか?
寺田:それはゲストコンポーザーである岩崎琢さんにお願いした曲ですね。今回はタイトルとエンディングで流れるエイラの曲と、インソムニアの戦場で流れるテーマの曲をお願いしましたが、インソムニアの曲にラップが入ってきました(笑)。もしかしたら、岩崎さんはそういう曲を好まれているのかもしれません。
こちらからは『FF』シリーズは世界を守る主人公が冒険する物語なので、逆に世界を破滅するための曲を作ってほしい、そして新宿をモチーフにしたインソムニアの曲を作ってほしいとお願いしています。ラップについては岩崎さんから提案された形です。
――アーデンのキャラクター的にも、帽子をかぶりながらのラップは絵になりますね(笑)。
寺田:そうですよね。だから僕もすごく好きな曲です。
――ではバトルの見どころをお願いします。
加部:バトルの遊び方でしょうか。これまでは“攻撃ボタンを押し続けているだけでカッコよく戦える!”をコンセプトにバトルを作ってきました。ですが『エピソード アーデン』では、攻撃している間に特定ポイントでボタンをあえて離すと、無敵のバックステップが発動して、そこから打ち上げ攻撃に派生します。
また、バックアタックを決めると対象を打ち上げ、そこから空中シガイ化に移行できます。それ以外にも100ヒットコンボを超えると特殊技を出せるようになるなど、これまで以上にアクションゲームらしい要素を仕込みました。操作になれてきたら、そういった遊びにもチャレンジしてほしいですね。
――アーデンはもともと強いという設定ですが、“ACTIVATION”と呼ばれる成長要素が用意されています、こちらを入れた狙いとは?
寺田:これまでのDLCでは一度も成長要素を入れてこなかったので、成長要素を入れたかったんです。今回はちょっとした要素でいいから、プレイヤーがカスタマイズできる要素を入れようと採用しました。スコープモード(ケルベロス・試作型)などもありますからね。使いました?
――いえ、ちょっとスコープモードは試せませんでした。
寺田:じつは武器が増えるとライフルを持って狙撃する、なんてこともできるんですよ。成長させていくと、けっこういろいろなものが解放されますのでぜひ試してみてください。
加部:スコープモードが使えたり、ものすごい竜巻が発生する魔法(ダークトルネド)を使えたりします。
寺田:100連コンボもそうだよね。
加部:成長要素でアンロックすると使えるようになり、広範囲の打ち上げ&シガイ化可能になるというという技(ファントムライズ)もあります。
――それは見ごたえがありますね! そういえばインソムニアの街中で魔法障壁の増幅装置を壊すと宝箱がマップに表示されて、換金できるアイテムが入手できます。このギルは何に使うのでしょうか?
寺田:街中にショップがあって、アーデンの帽子が買えます。いろいろな帽子があるんですよ。
――それは2周目でも継続して使えますか?
寺田:はい。最初は3個くらいでかまわないと伝えていたのですが、最終的には13個くらいに増えました(笑)。インソムニアにはいろいろな小ネタを集中的に入れていますのでので、そこも楽しんでいただければ幸いです。
――ちなみにアーデンが帽子をかぶっている理由は、シガイは日の光に弱いという設定があるからでしょうか?
小山内:はい、そうです。ヴァーサタイルのいる魔導開発研究所で「肌を隠した方がいいかな」というセリフがありますが、そこから帽子をかぶるようになったというイメージです。実際はかぶっていなくてもそこまで問題はないんですが、光を遮りたいという潜在意識が出ている象徴として帽子をかぶる設定にしています。あとは、オシャレだからです。
――あんなに服を着込むのを嫌がっていたのに、最終的にはいっぱい着込むようになっているのでなんでだろうと思っていたら、設定的な意味もあるんですね。あとはこのDLCをプレイすることで本編にフィードバックされるような要素はありますか?
寺田:あります。今までのDLCと同じで、衣装と武器とカーステレオの音楽が追加されます。衣装と武器は本編をクリアすれば追加される形です。
――ちなみにクリアするとランク表示がありますが、こちらはやり込み要素ですか?
寺田:そうですね。やり込み要素ですね。ランクはSが最高ランクです。
――ランクを上げるコツはありますか?
寺田:建造物や車をたくさん破壊すればスコアは上がります。破壊して被害総額を高くすれば、という感じですね(笑)。あとは敵を倒すことも重要です。
――みなさんが考えるアーデンという男の魅力を教えてください。
寺田:本当のことを言っているのか、それとも嘘をついているのか、しゃべっていることと行動が本当かどうか読めないところでしょうか。本編のラストではノクティスに向けて「死ね!」とか言っていますが、それが本心から出た言葉なのかすらわからないというのが、僕の中でのアーデンの魅力ですね。だから『エピソード アーデン』では、今は滅茶苦茶怒っている、今は滅茶苦茶悲しんでいると、感情がダイレクトに伝わるように意識しました。
――たしかに素直な内面みたいのが伝わってきました。
小山内:今回のストーリーのテーマは“運命に抗う”というものだったんですが、本編のノクティスやルナフレーナと同じように、アーデンも運命に縛られていたんことがわかります。それでも2人とは違って「俺は神様なんて知らねーよ」と豪語するほど強い意志を持っていたり、常識の枠にとらわれずに自由に生きる姿が、ほかのキャラクターにはない魅力だと思います。空気を読まずにハッキリものを言ったり、みんなが普通はできないことをこの人はやっちゃうという部分が、人を惹きつけるのかなと。
――たしかに劇中でも急に「俺、ちょっと王様殺してくるわ」なんて、軽いノリで言い始めるなど自由過ぎます(笑)。
加部:本心が見えないキャラクターというところでは、戦闘では飄々と立ち回ってあまり本気を見せないバトルにしなくてはと考えていました。ただ、実際にプレイしていただいてわかるように、アーデンはいろいろな人をシガイ化し続けてしまった結果、いい人だったのか、悪い人だったのかどれが本当のことなのかがわからなくなってしまいます。作り終えてからはそこが魅力でもあり、なんて悲しい闇を持った男なんだ……とも感じました。
――たしかに悪ではありますが、今までの『FF』シリーズのボスにはあまりいないタイプです。狂人ならば『FFVI』のケフカなどがいましたが、彼とはまた違うベクトルなのかなと。だからこそ、DLCにしてほしいという声が一番大きかったんだと思います。
――ではDLCの購入を検討している方にメッセージをお願いします。
寺田:購入を迷っている方は、『FFXV』を2年くらい前にプレイして、そこから遊んでいないという方がほとんどだと思います。そういう意味ではこの『エピソード アーデン』を機に、2年前に発売したコンテンツへ帰ってきて、ぜひもう一度『FFXV』という世界に触れていただけるとうれしいです。
小山内:先ほども言いましたが『エピソード アーデン』は、作られなかったDLC含めてのプロローグになっています。新しいシリーズがこのDLCで始まって、小説で終わる形の展開に奇しくもなっているので、新しい『FFXV』のシリーズをここから楽しんでいただくには、ちょうどいい入口になっています。ぜひアニメを見てゲームをプレイして、小説を読んでいただいて、最後に自分たちが見たいと思っていた未来につながる『FFXV』のフィナーレを、もう一度体験していただけたらすごくうれしいです。
加部:今迷っている方たちは、本編の発売当時には遊んだけどもDLCは「まあ、いいか」と遊ばれていない方が多いと思います。今は『ロイヤルエディション』などですごくたくさんのアップデートが入り、王都城周辺もすごいことになっています(笑)。『エピソード アーデン』はそんな変化が起きた『FFXV』を、もう一回見るにはいいタイミングだと思います。そして、最後にこれから発売する小説も読んでいただければ『FFXV』の物語は完結しますので、それも含めて『FFXV』を楽しむにはいいタイミングではないでしょうか。
――最後に『FFXV』の開発に長くかかわられてきた立場から、それぞれひと言いただけますでしょうか。
寺田:僕は長い期間『FFXV』の開発にかかわってきました。ゲームを作ってきたなかで、ここまでいろいろやることができたのは『FFXV』なので、単純に言うと「『FFXV』ありがとう」というのが僕の感想です。ゲームを作ること以外に、ユーザーのみなさんと会話することも、このようにインタビューを受けることもそうです。最後はディレクターまでできたので、そういう意味でも感謝してもしきれないタイトルになりました。
――こんなに長く携わるコンテンツはなかなかありませんよね。
寺田:そうですね。やはりみなさんに支えられていることが大きいかなと。ゲーム開発以外の方たちが努力してくれたからこそなので、感謝しかありません。
小山内:最初に言ったように『FFXV』ではいろいろな仕事を担当して、アニメも小説もかかわるとは当初は想定していませんでしたので、本当にいい経験をさせていただきました。あとはいろいろな展開をしてきたので、開発をしていながらお祭り感というか、ムーブメントのなかに自分がいるような感覚で作っていたんです。
外部で協力してくださった方たちはもちろんですが、『FFXV』はみんなが1つになって作った作品です。距離感が近い形で作れた、本当にめずらしいタイトルだと思います。そこに自分も立ち会って作ることができて、ファンに支えていただいていることを肌で感じることができて、本当に開発冥利に尽きるタイトルになりました。僕も本当に感謝しかありません。
加部:自分が『FFXV』に入った最初は、主にイベント関連のアニメーションを担当していて、そこから半年くらいで「プレイヤーキャラクターもやってみたい」と言ったら、実際に担当させてくれたことに感謝です。「自分にまかせてくれるんだ」と(笑)。
それもありつつ、『FFXV』のように発売から2年間も愛されるコンテンツはなかなかないと思っています。じつは何かのタイミングごとにファンの方がファンレターをくださるのですが、届いたという知らせを聞いたら速攻で読みにいって、みなさんからエネルギーをもらっていました。同じ言葉になってしまいますが、ファンの方にエネルギーをいただきつつ作ることができて、本当に楽しかったです。
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