2019年4月11日(木)
バンダイナムコエンターテインメントより現在配信中のiOS/Android向けスマートフォンアプリ『荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ!』。本作の開発スタッフのみなさんに、3DCGによるキャラクターや戦闘機の表現に対するこだわりを伺いました。
『荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ!』(以下、『テイクオフガールズ』)は、TVアニメ『荒野のコトブキ飛行隊』の世界を冒険できる“レシプロ空戦RPG”です。
今回は、前回のスタッフ対談で登場したプロデューサーの伊藤翔平さんと、ディレクターのQualiArts吉田将人さんに加えて、本作の開発を担当しているQualiArtsのメンバー3名に登場していただきました。
キャラクターや戦闘機を3DCGで表現する際のさまざまな苦労やこだわりについて、開発スタッフならではの視点から詳しく語ってもらっています。これを読めば、ゲームをプレイする際に、新たな発見ができるのではないかと。
▲写真左より、伊藤翔平プロデューサー、テクニカルアーティストの西村徳朗さん、3DCGディレクターの海老沼宏之さん、エンジニアの渡邊俊光さん、吉田将人ディレクター。 |
――プロデューサーの伊藤さんとディレクターの吉田さんは、以前の対談にも登場されていますが、開発スタッフのみなさんにそれぞれ、『テイクオフガールズ』でどんなお仕事を担当されているのかをお聞きしたいと思います。
西村さん:テクニカルアーティストの西村です。本作ではキャラクターの構造を設計したり、3Dアニメーションをどのように動かすかという部分の仕組みを、エンジニアと一緒にやりとりして考えたりしました。
海老沼さん:3Dアニメーターの海老沼です。今回は飛行機のモーションや、キャラクターのアニメーション全般を担当しました。それから、ストーリーモードの3D表現のディレクションも行っています。
渡邊さん:Unityエンジニアの渡邊です。
――Unityというと、ゲームの基礎部分になる汎用のゲームエンジンですね。
渡邊さん:そうです。自分はモバイルの実機で動かせる限界がどこまでなのかを調べて、西村と一緒にスペックを決めていきました。あとは、モーションチームやモデルチームからいろいろな要望が来るので、それを実現する方法を模索してプログラミングするのを担当しています。
――それではまず、キャラクターについて聞かせてください。アニメのキャラは先にデザインがあったと思うのですが、ゲームオリジナルのキャラクターは、どういった形でデザインされたのでしょうか?
伊藤さん:ゲームオリジナルのキャラのうち、ハルカゼ飛行隊の6人に関しては、アニメのメインキャラクター原案を担当した左さんにデザインの原案をお願いしています。それ以外のキャラクターは、開発チームによるデザインですね。
基本的には、コトブキの世界に存在していそうな外見を意識しています。たとえばゴーグルを着けているだとか、髪や目の色が派手すぎるものにならないようにするだとか、荒野の世界にマッチしたある種の野暮ったさみたいなものが、ベースになる基準としてありました。
――3Dならではの見映えや動きを意識して、デザインされたキャラクターもいるのですか?
吉田さん:基本的にはキャラとしてのデザインを優先して、3Dで何か問題が起こりそうな時は、ここにいる開発メンバーにがんばってもらう、という形でしたね。
西村さん:作る前から明らかに3Dとして破綻してしまう部分に関しては、「ここのデザインは直していただけないですか」とお願いしましたが、3Dになってもできるだけデザイン画のテイストを出せるように心がけています。
――ゲームオリジナルのキャラとアニメに登場したキャラでは、どちらが大変でしたか?
西村さん:アニメのキャラのほうが大変でした。元になるものが存在するだけに、少しでもアニメと違うとニュアンスが変わってきてしまうんですよ。最後までずっと調整していたのも、アニメのキャラのほうが多かったですね。
吉田さん:ゲームでは、キャラクターの動きはすべてモーションキャプチャーで表現しているんですけど、制作の順番的な問題で、アニメで動いているところをまだ見ていない状態で、モーションキャプチャーを行うことになったんです。
海老沼さん:以前からスマートフォンの3D美少女ゲームを手がけているので、「チカは激しい性格」などの事前にいただいた情報から、女の子らしい可愛い動きをモーションキャプチャーで作り出すノウハウ自体はあったんです。
キリエがパンケーキを食べる動きも、こちらとしては女の子らしい感じで作っていたんです。あとからアニメのキリエを見たら、戦闘機に乗ると予想以上に激しい動きをしていて驚きましたが、アニメでもパンケーキを食べる動きは女の子らしいものだったのでよかったです。
――ゲームで取引を行う酒場のシーンを見ていても、特に違和感は感じなかったです。
海老沼さん:それを聞いて安心しました。酒場のシーンは、全体としてにぎやかさが伝われば成功だと思うので。エンマがお茶を飲む仕草も、“元お嬢様”という情報をもとに付けたものなので、アニメよりも少し品のある飲み方になっていますね。
吉田さん:想定外と言えば、チカがあそこまでカレー好きだというのは想定していなかったです。もっと早くわかっていれば、テーブルに並んでいる料理の中にカレーも用意したんですけど(笑)。
伊藤さん:ゲームの酒場では、チカは星形のクッキーを食べています。
――ローディング画面の1コママンガでは、チカのカレーネタもありましたが(笑)。
吉田さん:2Dの1コママンガと3Dの小物では、制作する時期や工数が違うので、1コママンガには反映できました。
伊藤さん:ローディング画面のネタについてもアニメ制作側とすり合わせているんです。ユーザーさんからご好評をいただいているんですけど、それはキャラクターの特徴をちゃんと拾うことができているからなのかな、と思っています。アニメのキャラのふだんは見られない日常が垣間見える部分ですからね。
海老沼さん:酒場ではゲームオリジナルのキャラも、カランが実験をしていたり、リッタが紫電の模型を飛ばしていたりと、けっこう細かい動きをしているので、そのあたりも見どころだと思います。
――キャラクターを3DCGで表現するにあたって、特に苦労したのはどのキャラでしょうか?
吉田さん:誰だろう……。フィオのジャケットとかは苦労したかな?
西村さん:ミントですね。ミントは上着を羽織っているうえに、おさげの長い髪と、両方あるので、設計が大変でした。服があまりフワフワしすぎても着ている感じがなくなってしまうので、重さの設定などが難しかったです。
伊藤さん:ロイグも髪が長いですよね。
吉田さん:ええ、そしてロイグはコートも長いんですよ。
西村さん:でもロイグは、そんなに苦労した印象がないですね。髪や服がフワッとしているキャラ、たとえばシアラのようなキャラのほうが難しい。シアラはスカートの装飾がかなりフリフリしているので、大変でした。
吉田さん:シアラはリリース直前まで、スカートがどうしても浮かんでしまってパンツが見えちゃうので(笑)、「これは絶対におさえて!」と何度も西村さんにお願いをしてました。
伊藤さん:パンツが見えちゃう問題は、ザラでもありましたよね。
西村さん:ザラみたいにスカートが短いキャラは、普通に座らせるとどうしてもスカートの中が見えちゃうんですよ……。なので、スカートを無理やり下げて、絶対にめくれ上がらないようにしています。
――なるほど。そういう方法で見えないようにしているんですね。
西村さん:もちろん、パッと見だとごく自然な感じに見えるように調整をしています。
吉田さん:あとはカメラのアングルを調整して、絶対にそっちを向かないようにしたり。ゲームのTV-CMで、一番最初にコトブキ飛行隊の6人が並んで食事をしていますよね。あの角度だと本当は、ザラのパンツが見えちゃうんです(笑)。それでCMの映像では、ザラの座る角度をキュッと回転させて、スカートが正面を向かないようにして撮影しています。
――意外なところで苦労があるものなんですね。
吉田さん:キャラクターの表情もいろいろと苦労している部分です。アニメやゲームのキャラ表現として、キャラの歯をモデリングして常に見えているとカワイくならないので、最初は歯がなかったんです。ところがアニメの映像を見たら、カットによってキャラの歯がかなり見えているシーンもありました。それであとから追加したんですよ。
西村さん:表情を変化させるのはブレンドシェイプといって、3Dモデルの表面を変形させるような仕組みになっているんですけど、そのなかのパーツの1つとして、歯を追加したんです。
ただ、それは顔のパーツの一部という扱いなので、顔の影が歯にもかかる現象が発生してしまって……。最初に実装した時は、キリエがお歯黒みたいになっていました(笑)。それをいろいろと調整していったんですけど。
海老沼さん:歯に関しては、モーションも難しかったですね。
西村さん:口が動くタイミングと歯の動きが合わないと、突然歯が生えてくるみたいな感じに見えてしまうんです。
海老沼さん:最初はいろんなタイミングで歯を見せていたんですけど、試してみた結果、効果的なところだけで歯を見せるという形に調整していきました。
吉田さん:おかげでキリエがパンケーキを食べる動きでは、いいタイミングで歯が見えます。
海老沼さん:3Dのゲームで食べる動きを表現するのは、なかなか難しいんですよ。通常は食べている瞬間を隠して、見せないことが多いんです。
キリエが食べるパンケーキも、最初は食べた瞬間にパッと消していたんですが、「もっと食べている感じがほしい」という話になって。そこでパッと消さずにフワッと消えるような感じにして、美味しそうに食べている感じをできるだけ表現しています。
西村さん:制作で一番難易度が高かったのは、パンケーキの表現ですね。
吉田さん:パンケーキにはとにかくこだわりました。ガシャで出てくるパンケーキも、ぷるんっと揺れたりしていますから。揺れる物体の表現も得意なので、パンケーキもちゃんと揺らそうと(笑)。
――ガシャの演出では、パンケーキを運んでくるリリコさんの動きも、けっこうパターンが多そうですが?
吉田さん:ガシャの演出は、開発中だともっといろんなことをやっていたんですよ。カメラがリリコさんの足元からグルッと回って、胸にフォーカスするとか(笑)。その結果、シンプル・イズ・ベストということで、今の形に落ち着いたんです。ただ、演出のバリエーションはものすごく豊富にあります。
伊藤さん:もともとアニメが、あまり露骨にセクシーな方向にはしないと聞いていたのでそれに合わせています。ガシャの演出でパンケーキを置く時のリリコの胸元も、最初はもっと見えていたんですけど、最終的には見えるか見えないか、ぐらいの感じにしています。
吉田さん:CGのモデルはなるべくポリゴン数を削減して作るので、最初はリリコさんの胸もちょっと角張っていたりしたんですよ。でも「ガシャの演出で画面に映るので、できるだけなめらかにしてほしい」とわがままを言いまして、がんばってなめらかにしてもらったのですが、結局あんまり映らなくなってしまいました(笑)。
伊藤さん:アニメで登場するセクシーな女性キャラはみんな、セクシーだけど下品にならない感じのサバサバした性格なので、そういうところも西部劇のカラッとした空気感が出ていると思います。
――ストーリーモードについてもお聞きしたいのですが。3Dのキャラクターによる会話シーンはすごくテンポがよくて、まるでTVアニメを見ているような感じで楽しめますよね。
伊藤さん:コトブキ飛行隊のメインストーリーはTVアニメの物語がベースになっているので、3Dキャラの会話も、セリフとセリフの間(ま)が、なるべくアニメにおける会話のテンポに近くなるようにこだわって表現しています。
海老沼さん:酒場のシーンはキャラクターごとに専用のアニメーションが用意されているので、各キャラの個性を発揮できるんですけど、アドベンチャー部分の会話に関してはキャラごとの個性ではなくて、会話そのもののバリエーションを持たせる形になっているんです。
そうすると、キャラの動きがパターン化してしまうのですが、今回は渡邊と相談して“加算モーション”という仕組みを採り入れています。これによって共通するモーションに対して、キャラがうなずいたり、上空を見上げたりする動きを部分的に追加できるようになっているんです。
吉田さん:アニメーションで1つ1つのモーションをつけていくと、時間も労力もかかってしまいますけど、できるだけ自然に見える会話シーンをローコストで作れるようになっているのは、開発メンバーの工夫のおかげですね。
▲こちらは、同じモーションで撮影したキリエとユーカ。“加算モーション”などで部分的に動きを追加することで、個性が生まれます。 |
伊藤さん:ユーザーさんからも「オートで再生するとアニメを見ているみたいな感覚で楽しめる」と、すごく評判がいいんですよ。このゲームのオート再生のテンポにいったん慣れてしまうと、他のゲームの会話が、逆に間延びして見えてしまうことがありますね。
この独特な早いテンポ感は、実は水島努監督からのオーダーなんですよ。開発途中のゲームを水島監督に見てもらった時に、「この会話の間(ま)を詰められませんか」と言われました。結局、会話間の待機時間を……0.1秒ぐらいにしたんでしたっけ?
吉田さん:ほぼゼロです。
伊藤さん:そうしたら、すごく良いテンポになったんですよ。会話のテンポのよさは、水島監督のアニメ作品の魅力でもあるので、それが表現できてよかったです。
――キャラの表現について、ここは特に新しいといったものはありますか?
吉田さん:TVアニメの3DCGを制作されているGEMBAさんが、これまでゲームでは使っていなかった表現方法を使われていて、渡邊が「これはぜひゲームでも採り入れたい」と言ってつくったものがあります。
“Face Modification(フェイス・モディフィケーション)”と呼んでいる技術なんですけど、スマートフォンのゲームでこの仕組みを採用しているゲームは、ほとんどないんじゃないかと思います。
渡邊さん:“角度に応じてキャラクターの輪郭が変わる”というものです。その仕組みを今回のゲームでは、すべてのキャラクターで採り入れています。
吉田さん:アニメ風の3Dで表現されたキャラクターの顔を正面から見る場合、鼻が高いと鼻の影が出て、あまりカワイく見えないんですよ。ところが顔を横から見た時は、逆に鼻がぺちゃんこだとカワイくないんです。
そこで顔を見る角度に応じて、鼻の高さやアゴの出方といった顔の輪郭を、なめらかに変化させていくのが“Face Modification”です。これによって、どの角度から見てもカワイく見えるように補正されるんですね。
――2Dの作画だと、角度に応じて一番カワイく見えるようにデフォルメして描いているのを、3Dで再現するといった感じですか。それは興味深いですね。
吉田さん:アニメではこういう技術を使っているんだ、ということを学びました。
伊藤さん:キャラクターだけじゃなくて戦闘機のCGも含めて、アニメ側とゲーム側で意見交換するというのが、『コトブキ飛行隊』では何回かあったんです。
アニメ側とゲーム側の人たちが一緒になって、開発上の会話をするのはなかなかないことなので、そういうところからヒントを得て、新しいチャレンジをするのはスゴイなと思います。
――続いて、戦闘機の表現についてお聞きします。戦闘機を3Dで表現するにあたって、大変だったのはどんなところでしょうか?
伊藤さん:戦闘機はそもそも、歴史上で実在したものですよね。実在したものなので資料がないと作れないんだけど、その資料があまり潤沢にはないというのが、レシプロ戦闘機の難しさなんです。
そういった資料の関係もあって、『テイクオフガールズ』に登場する戦闘機のCGモデルは、アニメのCG制作スタッフにお願いをして作ってもらっています。これはアニメ側の協力もあって実現したことです。
吉田さん:戦闘機のCGモデルを僕らが受け取った際には、基本的に塗装されて“汚し”も入っている状態だったんですけど、ゲームとして戦闘機をカッコよく見せるためには、塗装のテクスチャ(CGモデルの表面を覆う画像)に加えて、さらにもう2枚のテクスチャを使っているんです。
西村さん:その2枚のテクスチャというのは、戦闘機の質感をもたせるための役割を担っています。塗装の上についたキズや、光沢の具合を表現するテクスチャと、機体表面の溝などの凹凸を表現するためのノーマルマップ(法線マップ)と呼ばれるテクスチャです。
これらのテクスチャを重ねていくと、金属のつるつるとした部分やゴムの部分の質感の違いなど、様々な素材感を表現できるようになります。
吉田さん:格納庫で戦闘機を眺める際に、カメラを動かして角度を変えると、光の反射が変わったり、拡大するとパネルやリベットなどの凸凹感が分かりますよね。それをこのテクスチャで表現しているんです。
西村さん:塗装が少しはげている様子は、GEMBAさんのほうで“汚し”として描いてくれているんですけど、光沢を調整することで、塗装がはげて下地の金属が見えている部分は、他の塗装された部分と光り方が違う、といったことを見た目で感じられるようになるんです。
吉田さん:アニメのほうは、キャラクターがマット(つや消し)な感じなので、戦闘機もそれに合わせてマットに表現されています。でも、ミリタリー監修の二宮茂幸さんのお話だと、実際の戦闘機はもっとメタリックな感じだそうです。ゲームはそれに近づけたいと思ったんです。
――ゲームだとキャラクターと戦闘機が並んで出てくることはないので、そうしたリアルな質感の表現が可能なんですね。
渡邊さん:このあたりの表現はいろいろと調整している部分です。リアルな物理の質感で表現すると、今のゲームよりもう少しマットな感じなんですよ。参考にするため、実物のゼロ戦を見学に行きましたが、そこまでピカピカに反射しているわけではなかったですから。
ところが開発中にパラメータの設定を間違えて、ピカピカに反射するようになっていたのですが、そのほうが材質の違いがより伝わるという話になったんです。同様に、キャノピーのガラスの質感も、より誇張した表現になっています。
西村さん:ですから、完全なリアルを再現するというよりは“ゲームとして説得力のある見た目にする”という考え方ですね。
戦闘機の表現では他にも、アニメ調の雰囲気を出すためにアウトライン(輪郭線)をつけたらどうだろう、といったこともやっていました。でもアウトラインは、いつのまにかなくなっていましたね。
吉田さん:アウトラインは、僕が絶対にイヤだって言いました。どうしてもオモチャ感が出てしまうんですよ。
▲左はアウトラインを表示させた状態の3Dモデル。実際にゲームで使われている右のモデルと比べると、雰囲気などがかなり違います。 |
渡邊さん:キャラクターだと丸みがあるのでアウトラインがキレイに出るんですけど、戦闘機は角張っているので、鋭角なところはアウトラインが浮いちゃうんです。なので、ないほうがよかったです。
――ものすごく基本的な質問なのですが、本作の空中戦は3Dで描かれていますが、デフォルトの表示は真上から見下ろした、まるで2Dのように見える視点になっています、これはどういった理由なのでしょうか?
伊藤さん:『荒野のコトブキ飛行隊』の空戦は、アニメも含めて編隊を組んで戦うのが基本です。編隊の戦況をわかりやすく伝えるには、俯瞰視点がもっとも適しているという理由ですね。
でもその一方で、空戦の醍醐味は戦闘機どうしのドッグファイトですから、その状況を楽しめるアングルの視点も、カメラを切り替えることで見られるようにしています。
吉田さん:そもそも最初は、戦闘機の視点で空中戦を見られるアングルは存在していなかったんです。試しに作ってみたらカッコよかったので、これはぜひ採用したいってなったんですけど、この視点を実際のゲームで可能にするためには、いくつか条件があります。
まず大事なのが、戦闘機にカメラが寄ってもカッコよく見えるクオリティで描画できているかどうかです。ゲームでは最大12機の戦闘機が一度に戦うので、通常はLOD(Level of Detail レベル・オブ・ディテール)という技術で3Dモデルのポリゴン数を削減したり、ローポリのモデルを別途制作して、それに切り替えて表示したりするんです。
――カメラが引いて戦闘機の画面上でのサイズが小さくなると、それに合わせてポリゴン数も自動的に減らされる仕組みが、ゲーム内にあるわけですね。
吉田さん:そうです。ところが今回のゲームでは、格納庫で見られるものとまったく同じ3Dモデルの戦闘機が、空中戦でも使用されています。その負荷をがんばって解決してくれたのが、ここにいる西村と渡邊ですね。彼らのおかげで戦闘機視点のビューが実現できたんです。
渡邊さん:最近のスマホだと、意外と描画できるんですよ。止まっていれば一度に200機ぐらい出せますから。それが一斉に動き始めるとヤバいんです(笑)。それでいろいろと検証した結果、飛行機の可動する部分が多いと、かなりの負荷が発生するとわかりました。
西村さん:もともとの戦闘機の3Dモデルでは、ラダーなどの可動する部分が、それぞれ別のパーツになっていました。それを1つのパーツとして組み立てて、スキンという人体を動かすのと同じような仕組みで可動部を動かす形に変えたんです。こうした構造にすることで、負荷をかなり減らすことができました。
吉田さん:先日プロデューサーレターで発表されましたが、今後は巨大爆撃機の“富嶽”が登場するミッションも予定しています。これも、この2人にかなり検証してもらって、でっかい飛行機をさらに登場させても大丈夫だと分かったので発表できました。
――戦闘機の表現で他に、ここは特に苦労したという点は?
吉田さん:プロペラの表現ですね。プロペラに関しては、アニメのほうでどう表現しているかが分かったのもかなり後の時期だったので、僕らとしてもどういう見た目にするのが正解なのか、手探りで進めていた状態でした。
最初は、色のついた半透明の円盤がただくっついているだけの状態で、正直言って、回っているプロペラだとは思えない感じのものになってしまったんです。
――最終的に、どのような形でプロペラを表現されているのですか?
吉田さん:ゲームで回転している状態のプロペラは、実は、実際の二枚とか三枚とかの羽根のプロペラが高速で回転しているわけではありません。“高速で回転しているプロペラの残像”みたいなものを、ゆっくりと回転させているんです。
――なるほど、そういう形で解決したんですね。
吉田さん:戦闘機が飛び立つ時に、三枚羽根のプロペラが回転し始めて、ある程度の速度で回転するようになったところで、“ゆっくり回転している残像のようなモデル”に差し替えています。
――すっかり、プロペラのモデルをそのまま回転させて表現しているものだと思っていました。
吉田さん:そう思ってもらえているのなら、狙い通りですね。
渡邊さん:あとは、先ほどの“face modification”と同じように、見る角度によって回転するプロペラの厚みが変わるようになっています。ただの板にしてしまうと、真横から見た時にまったく見えなくなってしまうので、横から見てもプロペラの厚みが感じられるようにしています。
西村さん:かと言って、普通に厚みを持たせてしまうと、今度は横から見た時、プロペラの位置に“筒がくっついている”みたいに見えてしまう。見る角度によってプロペラの残像の厚みが変わることで、本当にプロペラが回転しているように見えるんです。
海老沼さん:プロペラの表現の調整は本当に、最後の最後までやっていましたね。
――『テイクオフガールズ』には、キリエの発進シーンをVRで見られるモードが用意されていますよね。このモードはどのような経緯で本作に搭載されたのでしょうか?
吉田さん: QualiArtsがスマホVRを得意としている会社なので、ウチでやるからには何かVRをやりたいなと。それでアニメの第1話を見て、「キリエの発進シーンをVRで再現したい」と海老沼に言ったら、叶えてくれました。
海老沼さん:実はこのVRのシーンは結構前から作っていて、もっといろんな要素があったんです。他の機体が順番に飛び立ったり、キャラクターがこちらに向かって手を振ったりとか。最終的に今の形に落ち着いたのは、アニメの発進シーンと整合性を持たせるためですね。
伊藤さん:お客さんからも「空戦をVRで見たい」という声が出ているくらいですから、いずれ、新たなVRモードが登場するかもしれないですね。
――それでは最後に、『テイクオフガールズ』で特にここを見てほしいというポイントのアピールをお願いします。
西村さん:戦闘機に関しては、QualiArtsで初めて、光源を利用したリアルなシェーダーを使って、質感にこだわり抜いて作っているので、そこを見てもらいたいです。あとはキャラクターの可愛さも見てもらいながら、『コトブキ飛行隊』の世界を楽しんでもらえればと思います。
海老沼さん:ゲームオリジナルの飛行隊のストーリーでは、戦闘機がドラマ的に描かれるカットシーンなども用意されていますので、そういったところもぜひ見ていただきたいです。
渡邊さん:今回のゲームでは“リニアレンダリング”という新しい仕組みを使っていて、これによって空気感が表現されるというか、戦闘機の光の反射がよりリアルになっているんです。そのあたりも意識しながら戦闘機を見てもらえると嬉しいです。
伊藤さん:海外のゲームみたいに、写真撮影モードなんかも作れそうですよね。レシプロ戦闘機が飛んでいるところを写真に撮るのは、今はもうできないですから。
吉田さん:ここにいるスタッフは、キャラクターはこうだ、プロペラがどうだとわがままを言っていたら、全部叶えてくれた頼もしいチームです。今後のアップデートでまた新しい機能を追加していきますので、みなさんも彼らの活躍を楽しみにしていてください。
伊藤さん:今回はレシプロ戦闘機を題材としているところに、新しさを感じてもらっていると思います。そういったなかで、お客さんが「あったらいいな」と感じているものを、どういうアイデアで実現すればいいのか、これからも考えていきたいと思います。
ですので、「こういったものがほしい」というご意見がありましたら、遠慮なくご意見をいただけると嬉しいです。
(C)荒野のコトブキ飛行隊製作委員会
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