2019年4月6日(土)

【おすすめDLゲーム】『ナイト・イン・ザ・ウッズ』はアクの強いセリフ回しが楽しく生々しいドラマが心に刺さるADV

文:キャナ☆メン

 ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、PS4/Nintendo Switch向けに日本語版が配信されている『Night in the Woods(ナイト・イン・ザ・ウッズ)』のプレイレポートをお届けします。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』

 本作は、動物が人間のように暮らす世界観のもと、寂れた田舎町ポッサム・スプリングを舞台に、大学を中退して故郷へ帰った猫・メイの物語が描かれる横スクロール型の2Dアドベンチャーゲームです。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
▲わかりやすく動物が人間のように暮らす世界観と書きましたが、上の画像を見ると分かるように、普通の動物もいます。

 不思議な世界観を描き出す独特のアートスタイルは、上の画像を見ればわかる通り、一見するとかわいらしく思えるものの、心のどこかでゲームの勘とも言うべきモノが「それだけではないぞ!」と奇妙な予感を告げるはず。

 はたしてどんな物語なのか……は下で感想を述べるとして、プレイして引き込まれた本作の魅力を順に綴っていきたいと思います。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
▲ゲーム起動時の壁紙は、黒猫のメイがじっと見つめてくるインパクトにあふれたデザイン。タイトル画面を見る前から、何やら不吉さが漂うわけですよ……。

秀逸なセリフ回しと豊富なミニゲームが楽しい!

 『ナイト・イン・ザ・ウッズ』をプレイしてまず感じたのは、町に住む人々との会話がとにかく軽妙なこと。作中のセリフは、毒舌の応酬や気の抜けるシュールなやり取りの宝庫で、そうした会話が好きだという人は、序盤を触れただけでも本作におもしろさを感じるはずです。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
『ナイト・イン・ザ・ウッズ』

 また、重要な会話だけでなく、普段から路上ですれ違う人たちとの何気ない雑談にも選択肢があるので“人と会話している気分”になれますし、ひいては町の住人1人1人に人間味を感じて、だんだんとポッサム・スプリングという町そのものに引き込まれていきます。

 ただし、そうした会話だけであれば、ゲーム画面を見ながらニヤニヤと笑みを浮かべるだけで終わりですが、ふとした瞬間、物事の本質を突いた言葉が混じる。本作では、それがより一層キャラクターの人間味を引き立て、心に対するフックとなって残り、絶妙なバランスを取る会話のセンスに作家性のようなものを感じ取ることができます。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』

 また、セリフ回しのテイストだけでなく、随所にミニゲームがちりばめられているのもユニークなところ。手を動かしてピザを食べる簡単なものから、バンドでベースを弾く音ゲー、見下ろし型のアクションゲームまで、シナリオに沿った遊びや任意にプレイできるものを含めて、豊富なミニゲームが体験できます。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』 『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
▲メイの自室でいつでも遊べる音ゲーと見下ろし型アクションゲーム『デーモン・タワー』はリッチな作りで、人によっては本編を忘れて遊んでしまうかも?
『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
▲星座を探すミニゲームは、ユニークな逸話とともに、この世界の神話や歴史を知ることができて、筆者のお気に入りでした。

 町の中も高低差があるためにジャンプで建物の屋根や電線の上に登ることができ、散策することでさまざまな発見、寄り道を楽しめるでしょう。極力、プレイヤーの操作が入るような工夫が凝らされ、時として些細な行動が後に影響する場合もあるので、“ゲームとして楽しめる”物語になっていると思います。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
▲屋根の上に人がいたり、窓から入れる部屋があったり。広いフィールドではないものの、さまざまな寄り道があるので、町の散策し甲斐があります。

深い心理描写で人間味にあふれた生々しいドラマを体感できる

 大学を中退して故郷に戻ったメイは、将来に不安を抱き、自己嫌悪にさいなまれ、自分の感情を整理できない、一言にすれば20歳という青年期特有のモラトリアムに溺れて息苦しさを覚えているような状況にあります。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』

 全4章で構成された物語は、メイの苦しみが1つ1つあぶり出され、彼女の友人や家族が抱える苦悩も描かれながら、やがて不思議な失踪事件に巻き込まれて変化を迎える展開になっています。……とここまでは、やや内容に踏み込みましたが概ね公式サイトのあらすじに書かれた通りです。

 感想を加えると、上で“心に対するフック”という言葉を使いましたが、まるでその先端がじわじわと食い込んでくるように、セリフに込められた思いを考えさせられる場面が増えてきます。メイを物語の中心に置きながら、彼女を取り巻く人々の心理描写が深いのも本作の特徴でしょう。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
『ナイト・イン・ザ・ウッズ』

 変化する現実に取り残されたメイの孤独、友人や家族の変わらぬ思いやり、その狭間でもがくメイと、複雑な思いで彼女と向き合う周囲のキャラクターたち。友人や家族の間に存在する感情を剥き出しにしたシーンは、相反する思いを同時に抱えて生きる人間のリアルと重なって、人間味にあふれた生々しいドラマを感じさせてくれます。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
▲物語が進むと、メイだけでなく彼女の友人や家族の内面も描き出されます。メイに感情移入できずとも、誰かしらの言葉には、心動かされる部分がきっとあるでしょう。

 メイに共感して心を抉られるか、彼女を見て痛いと感じるか、ふーんと思って終わりか、あるいは他のキャラクターに心を動かされるか。物語の受け止め方は、おそらく年齢や体験によって大きく変わるはずです。

 筆者自身は、大学を中退した親不孝者なのでメイの姿にトラウマを抉られる思いでしたが、他の登場人物の心情にもそれぞれ思うところや共感するところがありました。別の書き方をするなら、作中の登場人物の誰かを通して、普段は自分の心の奥底に押し込めているものと向き合える作品なのかなと。

 登場人物たちの誰しもが“現実世界で普通に生きる人間”と等身大のキャラクターであるために、作品を通して呼び起こされる感情は尽きることがないと思います。1周だけでは見られないイベントがたくさんあるので、少し時間を空けて2周目をプレイしたいですね。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』

超ハイクオリティなローカライズに脱帽。心理描写や個性を余すことなく楽しめる作品

 本作のおもしろさを支えるものは、元々のゲームに存在する要素だけでなく、PLAYISMの粋なローカライズも大きなファクターの1つだと思います。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』

 セリフ回しは、単なる言葉の意味を超えて、スラングで表現されたアクの強い個性、雰囲気、ユーモアまで感じとれる名訳であるだけでなく、改行にも配慮されています。これだけでも拍手を送りたいところですが、メモ帳の手書き文字まで表現をそのままに伝えるデザインでローカライズが行われているのは、脱帽の一言に尽きます。

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』
▲手書き文字のような画像は、翻訳が優れたゲームでも、上から字幕を重ねるだけのことが殆ど。本作は、翻訳を超えた真のローカライズですね(呆然)。

 発売から2年経っているとはいえ、心理描写やキャラクターの個性を余すことなく日本語で楽しめるとは何て贅沢な! しかもこのクオリティで1,980円(税込)だと!? と興奮を覚えるくらい、感動しましたね。なお、執筆時点では確認できていませんが、PC(Steam)版も日本語対応になることが告知されています。

 最初から日本語で作られたゲームと言われても信じられるクオリティに仕上がっているので、アドベンチャーゲームが好きな人は、思わず引き込まれるセリフ回し、心に刺さるドラマを、日本語版『ナイト・イン・ザ・ウッズ』で楽しんでみてください。

データ

▼『Night in the Woods(ナイト・イン・ザ・ウッズ)』
■メーカー:PLAYISM
■対応機種:PS4
■ジャンル:ADV
■配信日:2019年3月28日
■価格:1,980円(税込)
※開発:Infinite Fall
▼『Night in the Woods(ナイト・イン・ザ・ウッズ)』
■メーカー:PLAYISM
■対応機種:Nintendo Switch
■ジャンル:ADV
■配信日:2019年3月28日
■価格:1,980円(税込)
※開発:Infinite Fall
▼『Night in the Woods(ナイト・イン・ザ・ウッズ)』
■メーカー:Finji
■対応機種:PC
■ジャンル:ADV
■配信日:2017年2月21日
■価格:1,980円(税込)
※開発:Infinite Fall

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