前作『Fable』は2004年に発売され、独特の世界観を持つ意欲作として全世界で300万本以上の大ヒット作となった作品。今回の『Fable II』はその続編で、巨匠 ピーターモリニューが、Xbox 360 で実現する圧倒的な自由度の高さを誇るアクションRPGである。
  前作の10倍の規模で描かれたアルビオンの世界を舞台に、プレイヤーは、“英雄”としての“人生”を体験する。プレイヤーの選択・行動の一つ一つによって英雄と世界はその姿を変えて行き、プレイヤーだけの物語を紡いでいく。 前作がモリニューによる“RPGへの挑戦”だったとすれば、本作はその完成形とも言えるような作品となっている。
プレイヤー自身の性格が、ゲームの世界を作り変える!? 驚異の作り込みをクリエイターはどう見るか? 鬼才ピーター・モリニューの頭の中を読み解く!
田中さんは、以前ピーター・モリニュー氏に会われたことがあるそうですね。
1999年の2月に、フランスで開催されたミリアというマルチメディアショーで会ったのが最初です。まだ僕が編集記者をやっていた頃に、『巨人のドシン』を作っていた飯田和敏さんとモリニューさんの対談ということで、僕は通訳兼ライティング役としてお会いしました。当時、モリニューさんは『ブラック&ホワイト』について発表したばかりで、飯田さんの「同じ巨人ゲームの作り手として会ってみたい」という願いから、対談が実現したんです。その後、同年5月のE3でも同じ顔合わせで対談をしているので、モリニューさんとは二度会っています。

実際に会ってみて、モリニュー氏の印象は。
哲学者みたいな人。小さな声で淡々と、落ち着いて喋る方でした。顔は、ミュージシャンのファットボーイ・スリムに良く似ていました(笑)。僕も今までいろいろな方に会ってきたんですが、海外の他のクリエイターとも日本のクリエイターとも、まったく違うタイプの人でした。
それは、どういった部分で?
『ポピュラス』でも『ブラック&ホワイト』でもそうなんですが、あの人の作品には神の視点で見る“ゴッド・ゲーム”と呼ばれるような遊びが多いですよね。そこには、何かしらの宗教性や哲学性を盛り込みたいんだろうな、という印象を受けるんです。その点は、特に日本でゲームを作っている人とは、圧倒的にスタンスが違う人だと思いますね。彼のゲームを実際にやってみても思うんですが、ゲームでそういうことを語るのは、実はもの凄く難しい。僕自身そこに踏み込んでみたいと思うこともあるし、他のクリエイターにもやりたいと考えている人はいると思うけれど、ものの善悪はゲームで表現するテーマとしては難しいんですよ。
モリニュー氏は、高尚なテーマに挑戦しているのかもしれませんね。
ただ本人にとっては、自然に出てしまっているだけで、挑戦と考えているのかどうかは分からないですね。何しろ、喋り方からして哲学者ですから(笑)。実際に会った印象では、気合を入れて挑戦しているわけではなくて、彼にとってごく自然な表現なのかなとも感じています。

スムーズな進行と風景の魅力

そんなモリニュー氏の最新作である『Fable II』を実際にやってみて、第一印象はいかがでしたか。一般的に海外RPGは敷居が高いと思われがちですが。
まず、プレイをする前に思っていたよりもシンプルに作られているなと感じましたね。例えば『エルダースクロールズIV オブリビオン』のように、良い意味で自由度が高いために、一見何をしたら良いのか戸惑う作りなのかと思っていたのですが、実際にはとてもスムーズに進む印象でした。光で行く先を常にリードしてくれるルートマーカーというシステムが実装されているのですが、それに釣られて、ついまっすぐ進んでしまったから、というのもありますね(笑)。最近の流行でもある「何でもできる」というゲーム表現は実はすごく難しいのですが、あのルートマーカーがあることで、非常にスムーズにシナリオに乗っていけるな、というのが第一印象です。

確かに、道をそれて探索をしてもルートマーカーが、目的、行き先を指し示しているので、何をしていいかわからなくなることはないですね。
それと、背景にはとても良い印象を受けました。今の次世代機環境になって以降、ゲームの背景はまたひとつ綺麗になったけれど、何だか似たような印象のものが多くなってしまっていると思うんです。でも、この作品の背景は、独特だと感じました。
独特、というと。
四季折々の光景があるイメージなんです。日の光が上がって来たり、夜になっていく感じだったりという時間と自然の変化を、しっかりと描いていると感じました。例えば木々ひとつ見ても、土地土地で少し違っていたり。先日、遅い夏休みでハワイの本島に行ってきたんですが、あそこは4000メートル級の山があったり、他方では常に30度を越える常夏があったり、あるいは寒い場所もあったりと、ひとつの島の中にいろいろな表情がある場所なんですね。このゲームの風景には、まさにそういう感じがあるんです。時間の流れや土地ごとの季節感を味わえるというのは、単に絵を綺麗にしたゲームの背景とは明らかに違うものだと思います。
確かに、『Fable II』の背景には表情や変化がありますね。
エリアを直接指定して移動をすることもできる便利な機能もあったのですが、僕は基本的に飛ばさずに歩いていくプレイをしちゃいました。同じ場所でも昼と夜で違いを感じられるし、歩いているだけでも面白かったので。結果的に、歩いていたら敵と戦うことも多くなるので、あっという間に経験値が溜まるというメリットもあった(笑)。いろいろな景色も見られたし、歩いていて飽きさせない何かが絵作りの中にありますね。
やり進めていくうちに、印象は変わりましたか。
どちらかというと、最初の印象がより強くなりました。プレイに戸惑いを感じさせない、よくできたアクションRPGとして遊ばせてくれるな、と思いましたね。
海外ゲームを遊んだことのない日本のユーザーでも大丈夫そう?
作りに無理がなくて、誰か日本人スタッフが入っているんじゃないの?とさえ思ったくらいです。いわゆる洋ゲーなのに、複雑さがなく、適度な難易度設定でプレイに全然困らない作り。それがむしろ不思議で。
不思議、ですか。
そう。「俺、どこかで困らされるかな?」と思って進めていくうちに、それほど困ることなくエンディングまで遊べましたから。メインのルートに乗ると、基本的に善な自分が出やすかったので、ある程度悪な自分を出してプレイしたら、また違った印象になるかもしれないですね。

オンラインには興味津々
作り手としての目線から見て、一般的な日本のゲーム作りとは異なっているな、と思う点はありましたか。
日本というか、特に僕自身がこれまで経験してきたカプコンなりの環境では、わりと“トンがっていること”が良しとされていたんですよ。それを突き詰めていった先に“らしさ”が生まれてくるんですが、この『Fable II』については、それが“綺麗にまとまっている感”という形で出ていると思いました。
例えば戦闘システムでは、剣、銃、魔法を使い分けたアクションとなっていますが。
戦闘は、自然と自分の得意なプレイスタイルができて、ボス戦を除いてはそのスタイルで切り抜けられるので、ストレスを感じさせない。僕自身はアクションゲームらしいアクションゲームが好みなので、作り手目線としては、こういうアクション性なら、こういうボスのバリエーションとかどうだろうとか、もっとこのアクション部分だけを全面に押し出しても良いくらいなんじゃない?!とか思っちゃいました。(笑)
実に作り手らしい目線ですね。
ただ、こういう「ここをもうちょっと」というお話をすると、欠点だと思われるかもしれないんですが、長所でもあると思います。RPGなのにそれを求めたくなるというのは、アクション部分がよく出来ていることの裏返しでもあるわけですから。
アクションRPGの戦闘部分なのに、純アクションゲームの水準で見られる、クオリティということですね。
それと、やられたときのペナルティが顔に傷が残るほかは経験値が少し減る程度で済むので、つい強引に行っちゃうことが多かったんですが、狙いなのかな。この点はモリニューさんに聞いてみたいところですね。
前へ前へという気持ちでどんどん進んでいけるので、ゲームとして純粋に楽しいと思います。クエストにしても、それほど迷うこともないですし。ただ、僕はなかなか結婚せずに犬とばかり暮らしていたおかげで犬の能力が高かったのか、だいぶ犬にアシストしてもらったので、プレイの進め方によっては大変なクエストもあるかもしれないですね(笑)。

その辺は、田中さんのプレイスタイルも影響しているかもしれないですね(笑)。
このゲームは、遊ぶ人によって、まったく違うゲームになっている可能性があるので、オンラインでの協力プレイに凄く期待感があるんですよ。今回は発売前なのでオンライン部分を試せなかったんですが、他の人がどんな風に進めているかを見られるというのは、もの凄く興味があります。

自分なりに進めていると、違う可能性があったことに気づかずに進んでしまう、ということもあり得ますからね。
このゲームでは、自分自身が出やすくて、プレイする人の性格ひとつで全然違うものが見られると思うんです。ゲーム作りの中で、「バリエーションを持たせた」と言いつつミニゲームの量で差をつけていたりするケースがよくあるんですけれど、このゲームには、そういう意味ではないバリエーションがありました。今回ピーター・モリニューが作った“神の視点”は、遊んだ人によってまったく違うものが勝手に出来上がっていく、というところにあるのかもしれない。その辺を確認してみたいので、他の人がプレイした跡を覗きに行ってみたいんです。
他の人のプレイの足跡が見えるというのは、かなり面白いですよね。
僕自身のプレイで言うと、まあ言ってみればおっさんなので、結婚して子供を作ったら金かかるだろうなあとか、いろいろとためらいがあったりするんですけれど、もっと若いプレイヤーはどう感じるだろうなあ、ということにも興味があるんですよ。選択の欲求が僕とまったく違うであろう若いプレイヤーがどう受け止めるのかを見てみたいですね。例えば、結婚するために、もの凄く慎重に相手を選ぼうとして、街にいるキャラクターのプロフィールを真剣に読み込んでいたりしたら面白いな、とか(笑)。
遊び手の年齢や性格によって、プレイスタイルも変わりそうですね。
あとは、女の子がこれをどう遊ぶか、というのも興味がありますね。結婚や出産に対しては、きっと目線が違うでしょうから。ただ、日本では女性プレイヤーが男性主人公を、男性プレイヤーが女性主人公を選ぶケースが非常に多いので、どちらを選ぶかは分かりませんけれど(笑)。オンライン部分については、実際に体験していないのでクエスチョンもあるんですけれど、いろいろな興味がわくポイントですね。

遊び手ごとに面白さが変わる?
この『Fable II』を、田中さんなりの言葉で誰かにオススメすると、どんな言葉になるでしょうか。
考えてみたんですけれど、それ、結構難しいんですよ。このゲームの面白さは、プレイする人なりに違うものだと思うんです。そういう意味では、きちんと接すれば、いろいろなことを体験できたり、理解や考えを深めるきっかけになるゲームかもしれないですね。このゲームの中には、いろいろな関わりを感じて、いろいろな選択をして欲しい、というメッセージも込められていると思いますから。
確かに、ゲーム内での選択については、端々にメッセージ性を感じることもありますね。
それを考えに考えて悩むのも、逆にそれを無視していくのも、すべて遊ぶ人自身の性格なんです。人のそういう面が如実に出るゲームですね。例えば家を買うことだったり、結婚だったりと、人それぞれで楽しさの感じ方が異なるであろう要素が、ゲームの中にたくさん準備されている。よくRPGには、選択肢があっても実は根っこでは一方向ということもあるんですが、これはそうじゃない何かが込められているゲームですね。
遊び手を映すゲームと言えるかもしれませんね。
そうですね。あと、カードゲームやスロットなどが遊べるパブゲームが凄く面白かった。正直、パブゲームばっかりやっていたくなる(笑)。RPGなので、どうしても疲れたり悩んだりすることもあるんですけれど、そういうときはパブゲームやって寝るのがいいです(笑)。それで次の日にやると、案外スムーズに進めたりするので。そんな息継ぎ的な意味でも、パブゲームは良く出来ていますね。カードゲームが好き、というのもあるんですけれど。
パブゲーム単体でもXbox LIVEアーケードで配信されているので、試してみるにはちょうどいいかもしれないですね。
それでは、最後にプレイを終えた感想はいかがでしょうか?
エンディングの先までプレイしたのですが、このゲームの中には、まだまだ見えていない部分がありました。あそこでああしたらどうなっていたかな、ということが、振り返ると無数にある。そういう意味では、少し間を空けて、また改めてやってみたいな、という気持ちにさせてくれるゲームですね。
率直に言って、『Fable II』はプレイする価値アリだと思いますか?
アリ、ですね。やって損はないです。僕自身、これだけ一気にエンディングまで進めたのは久しぶりでしたから。できるだけ多くの人にプレイしてみて欲しいですね。それだけ、オンラインを通じて沢山のプレイスタイルを見ることもできるでしょうし。