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<『REZEL CROSS』プレストーリー・セシル編>「セシルの日記」

○月○日
今日からまたパパといっしょに暮らすことになった。
でも、パパは私を1年半前と同じだと思ってるから困る。
朝、私を起こそうとして、パパはノックもしないで部屋のドアを開けた。
私がすごく怒ると、パパはオロオロしてちょっぴり悲しそうな顔をした。
でも、私だってもう12歳なんだから、レディのプライバシーは守ってもらうわ。
今日は一日中こわされたお店の片づけをした。
誰がやったのか知らないけど、ママの絵にあんなひどいことをするなんてゼッタイに許さない。
今度来たら、強くなったパパがきっとつかまえるわ。
でも、パパからはあの力のことを人に話しちゃダメだって言われた。

○月○日
キャンプの夜に私たちをおそった怪物は「ビースト」って呼ばれてるらしい。
お客さんの話では、あの大きなほうき星が飛んでいったあとに、たくさんのビーストが現れたそうだ。
世界中の村や町がビーストにおそわれて、たくさんの人が亡くなったらしい。
シャゼルにはあんまり被害がなかったみたいだけど、いまみんなその話ばかりしてる。
でも、私はビーストの話は聞きたくない。
目の前にあらわれたあのビーストを思い出して、今でも体が震えてしまうから。

○月○日
いよいよパパが本格的に「ママのタルト」作りを始めた。
私はきびしくチェックするつもり。
パパは材料ひとつひとつをきちんと計って、メモをつけながら作った。
でも、今日のは味も見た目もまだまだ。
まあ、始めたばかりだし、がんばりなさいね、パパ。

○月○日
今日、エレンがお店に恋人を連れてきて、パパと私に紹介してくれた。
画家をしてるパヴェルさん。
もともとはエレンが勤めてる病院に入院してた患者さんだったんだって。
きっとナース姿のエレンにまいっちゃったのね。
エレンははずかしそうにしてたけど、何だかキラキラ輝いて見えた。
やっぱり、女は恋をしなくちゃダメね。
私もがんばろう!

○月○日
くやしい! 今日、ヘンな客に食い逃げされた。
背が高い男で、たぶんまだハタチ前だと思う。
店の中をキョロキョロ見回してからすみっこの席につくと、私が出したお水を一気に飲み干して、サンドイッチとオレンジジュースを注文した。
それを待ってる間、ずっと落ち着かない様子で店の外を見てた。
まるで誰かに追われてるみたいに。
着てるものからこのあたりの人じゃないと思って、どちらからいらしたんですかと聞いたら、リコ村だって答えた。
思った通り田舎の人だった。
サンドイッチを口いっぱいにほおばって、ジュースで流し込んでた。
それでトイレに立ったと思ったら、いつまでたっても戻ってこない。
様子を見に行った時にはもうどこにもいなかった。
今度会ったらただじゃおかないから!

○月○日
今日もイヤな客が来た。
目つきの悪いオヤジで、本当かどうかわからないけど刑事だって言ってた。
ケガでもしたのか、痛そうに片足を引きずってた。
リコ村から凶悪犯を追って来たとかで、背の高い若い男のことを聞いた。
昨日のアイツのことだと思ったけど、刑事だっていうのも何だかあやしいし、私のことを「オイ、そこのチビ」なんて呼んですごく態度が大きかったから、何も知らないって答えてやった。

○月○日
パパ、相変わらず「ママのタルト」作りに苦戦。

○月○日
私がお店を手伝うようになってから1ヶ月。
もう注文を聞くのも、飲み物を運ぶのも大丈夫。
お客さんたちには笑顔も忘れない。
「看板娘」と呼ばれるようになる日も近いわね。

○月○日
何か胸騒ぎがすると言ってパパはゆうべ遅くまで店に残ってた。
そしたら深夜に泥棒が入ったことを今朝聞いた。
すぐにパパがつかまえて警察につき出したみたい。
前にお店をこわしたのもソイツだったのかどうかパパに聞いたけど、教えてくれなかった。
でも、そのあとでパパは何か調べに出て行ったから、きっと泥棒から聞き出したことがあるんだと思う。

×月×日
パパがタルト作りを始めて半年、私は「ママのタルト」としてメニューに加えるOKを出した。
パパは本当に嬉しそうだった。
「これでママも喜んでくれるな」なんて言うから泣けてきちゃった。
でもがんばったパパに拍手!

△月△日
今日お客さんから恐い話を聞いた。
パパと同じように1年半前に不思議な力を持った「リゼル」と呼ばれる人たちをさがして、無理やりさらっていく集団がいるらしい。
リゼルならすごい力を持ってるはずなのに、そういう人たちを連れ去ってしまうなんて、どういう集団なんだろう。
パパがリゼルであることは私とエレンしか知らないはずだけど、すごく不安になる。

△月△日
最近パパはお店の仕事以外では出かけなくなった。
ママが殺された事件についての調査をしてないみたい。
リゼルの力を使えば今までわからなかったこともわかるようになるのかもしれないけど、そうするとパパがリゼルだとわかって、つかまってしまうからだと思う。
いろいろと考えてパパが決めたことだろうから、私は何も言わない。

○月○日
今日で14歳になった。
パパはいつの間にか私の肖像画をパヴェルさんに描かせていて、プレゼントだと言ってそれをママの絵があった所にかけた。
絵を見ながら、嬉しそうに一人でウンウンとうなずいてた。
確かに可愛く描いてもらったけど、親バカってこういうのを言うんだろう。
「これで文字通り看板娘になれたじゃないか、ハハハ」だって。
ホント、オヤジなんだから。

○月○日
今日、となりのクラスのミノーリ君にデートにさそわれた。
子供に興味はないんだけど、見たかったサーカスのチケットを持ってたのでOKしてあげた。
シャゼルの街にサーカスが来たのは何年ぶりだろう。
広場に大きなテントが立ってるのを見たらワクワクした。
女の子ふたりのロープを使った出し物がとにかくスゴかった!
息をぴったり合わせて、自由自在に空中を泳いでた。
私とそんなに年はちがわないように見えたけど、何であんなことができるんだろう。
帰りに、またデートしてくれる?って言われたので、「もうイヤ」って答えた。

○月○日
ここのところ、毎日のように店に来る人がいる。
名前はニックさん。年は19で、機関士の見習いをしてるそうだ。
それ以外のことは知らないけど、メガネが似合う優しそうな人。
いつも私に話しかけたそうにするんだけど、話しかけてこないところがシャイで可愛い。
次に来た時には私から話しかけてみよう。
やっぱりカレにするなら年上よね。

○月○日
ニックのヤツが私に聞きたかったのは、エレンのことだったっていうんだからまったく頭に来る。
だから、エレンにはステキな恋人がいるって言ってやった。
そしたら泣きそうな顔して笑ってた。
だいたい直接エレンに話しかけられないなんて、男らしくないのよ。
ああいうタイプ、私はダメ。

×月×日
ザフナム帝国がパステリアに侵攻を開始したというニュースが流れて、パパはお客さんたちと深刻な顔で話してた。
まだ実感はないけど、これが戦争になるってことなの?

×月×日
体の小さいモッチにひどいイジメをしてた上級生たちをどうしても許せなくて、ボコボコに殴ってやった。
そしたらアイツら、男のくせに校長にチクるんだから本当に情けない連中だ。
校長からはパパを呼ぶように言われたけど、病気で入院中だって言ってゴマかした。

×月×日
今日、学校が閉鎖された。
ザフナム軍の侵攻がいよいよシャゼルに迫っているという。
一体どうなっちゃうんだろう。

△月△日
首都を守っていたパステリア軍が降伏して、とうとうシャゼルはザフナム軍に占領されてしまった。
パステリアで一番歴史があって美しいこの街が、どこを見てもガレキだらけになった。
ウチのお店は運良く無事だったけど、とても営業できる状態じゃない。
街のあちこちに放置されたままの死体があった。
初めて目の前で人が殺されるのを見た。
いろんなことを書いておこうと思ったけど、もうこれ以上書けない。
今日は私の15歳の誕生日だった。

△月△日
エレンの弟のエットレさんと、恋人のパヴェルさんがザフナム軍に殺されたとパパから聞いた。
パステリア軍の兵士だったエットレさんは、シャゼル郊外での戦闘で亡くなった。
パヴェルさんは、破壊されるシャゼルの様子をスケッチしていたところを見つかって撃たれたそうだ。
エレンの気持ちを考えると胸が苦しくなる。

△月△日
1年前、いっしょにサーカスを観に行ったミノーリの家が砲撃を受け、一家全員亡くなったと聞かされた。

△月△日
ニックのお父さんがザフナム軍に殺されていたことを今日知った。
毎日、誰かが死んだことばかり書いてる。
もうこの日記を書くのが辛い。

△月△日
ザフナム軍の命令で、明日からお店を再開することになった。
もちろんシャゼル市民のためじゃない。
街を占領する兵士たちが立ち寄れるカフェが欲しいからだ。
そのためコーヒーやお酒やある程度の食材は、一般市民より優先的に仕入れることができたけど、それだけじゃお店をやるにはぜんぜん足りない。
なのに、ザフナム軍はマトモな料理を出すよううるさく言ってきていた。
でも、これまで食材を仕入れていた業者はなくなってしまったから、パパと私はこの数日間食材の調達に走り回った。
本当に疲れた。

○月○日
お店を再開してしばらく経つけど、エレンもニックもまだ来てない。
恋人や家族を亡くしたショックからまだ立ち直れてないのかな。
そうじゃないとしても、店にはザフナム軍の連中がいることが多いから寄りつきたくないのかもしれない。

○月○日
すぐにイバり散らすあのイヤな将校に、パパは今日も愛想笑いを浮かべてご機嫌をとってた。
あの姿を見るたびに情けなくてイライラする。
いくら何でも卑屈すぎるってパパに文句を言ったけど、パパは全然気にしてない様子で、それがまた腹が立つ。
オヤジ、サイテー!

○月○日
今日、久しぶりにエレンがお店に来てくれた。
でも、なんか様子が変わっていたのでとまどってしまった。
あんな胸元のあいたドレス姿なんて見たことなかったし、普通シャゼルの人間はザフナム軍とは関わり合いにならないようにするのに、エレンは自分から兵士たちに近づいて、積極的に話しかけてた。
憎い相手のはずなのに、一体エレンはどうしちゃったんだろう。

×月×日
ここのところ、ニックとエレンが閉店後によくパパに会いに来てることに気づいて、隠れてそっと様子をうかがってたら、大変なことがわかった。
パパたちはザフナム軍に対するレジスタンス活動を始めていた。
パパが将校のご機嫌とるのも、エレンが自分からザフナム軍に近づいていくのも、すべて情報を得るためだったんだ。
パパたち、誤解してごめんね。

×月×日
私もレジスタンスのメンバーに入れてとパパに頼んだら、ものすごい勢いで怒られた。
レジスタンスという言葉すらお前は口にするな、だって。
何よ、すぐに子供扱いするんだから!

△月△日
ここ1ヶ月ほど、ニックの姿を見てない。
パパに理由を聞いたけど、何も知らないとしか答えない。
でもウソに決まってる。
きっとレジスタンスの任務にあたってるにちがいない。

○月○日
新しい日記帳を買ってきたところなので、珍しくお店のカウンターで書いてる。
これで何冊目だろう。
この日記帳には、前より楽しいことが――
と、ここまで書いたところで、向こうのテーブルにいる兵士たちがタルトがどうのこうのと騒ぎ出した。
どうせまた言いがかりでもつける気なんだわ。
フン、あんな連中には絶対に負けないんだから。

[END]

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