――本作の戦闘ではターン数が表示されているのも話題性がありますね。
新納一哉氏(以下新納、敬称略):
そうですね、あれも仕掛けの1つです。とはいえ、自分でプレイした感じで、そんなにターン数って自慢したいかな~と、しばらく半信半疑でしたが、アトラスのゲーマースタッフが「あそこのボス、○○ターンで倒しましたよ!」と報告してくるのをみて、「あ、やっぱりターン数はつけて正解だったんだ」と安心しました(笑)。
実は、ターン数は攻略要素もあるんですよ。モンスターには倒したときに落とすアイテム、いわゆるドロップ項目がそれぞれ3つ設定されていまして、「普通・レア・条件付き」で得られるものというのがあって、最後の条件付きのものがこのターン数に密接に関っています。モンスターの情報を見たときに、この項目は「?」になっているので、これを埋めていくときは注意してプレイしてもらいたいです。
――昼と夜の概念がありますが、これの違いはどんなものになりますか?
新納:
ダンジョンが洞窟ではなく樹海なので、昼夜でなにか差別化しようとしたんですが、複雑になりそうなのでやめてしまいました…。昼、夜に「できる」というのは、逆を返せば、昼、夜にしか「できない」と言う事で、自分の中ではストレスのシステムでした。
というわけで、なごりとして、雰囲気としてのみ昼夜のシステムが残しています。街で受けられるクエストでは、時間対応のものもいくつかありますね。ただ、もし2作目を作れるとすれば、F.O.E.などもユーザーは慣れているので、これを活かして少しだけ複雑にするのはありかもしれません。
――画面下の色の点滅はモンスターの出現率を表しているそうですが、これの意図は?
新納:
この表示はアトラスがずっとやっているシステムで、前に進めば進むほどエンカウント率があがって、どこかではじけて戦闘になる、というのを表しています。これで注意したいのは、F.O.E.がそばにいるときですね。戦闘中の1ターンで、マップ上のF.O.E.も1歩動くので、まずはエンカウントでザコを倒してから、F.O.E.のそばを通り過ぎようか、などで利用します。これもパズル的な要素の1つではあります。
――本作のマップには、ワナがなく、職業に盗賊がありませんが、これはあとで登場するのですか?
新納:
ズバリいうと、ないですね。バトル、イベント、F.O.E.だけです。この3つでゲームを構成した時点で、もうゲームになっていたんです。これ以上、要素を詰め込む意味がなかったので、ここにおもしろさを絞ったつもりです。
――ジョブについてうかがいます。9種類のジョブが存在しますが、追加や隠しジョブはありますか?
新納:
ありません。全9種類です。ジョブは、はじめ13種類くらいあったのですが、これもわけがわからなくなりそうだったので、一気に絞りました。スキルの振り分けで個性が出てくるので、問題はないと判断しました。本作では、ダンジョンRPGで活躍するジョブの役割を極端に特化させているんですよ。例えば、パラディンは完全にパーティの盾にしかならないし、アルケミストは魔法しか使えません。
最近のRPGは中間のジョブを作りたがる傾向があるんですよ。剣も魔法も使えて攻撃も防御もできる魔法剣士……とか。そんなジョブが出てきちゃうと、個性が死んでしまうんです。もちろん、続編を作れる場合は、ユーザーの「こんなジョブがほしい!」という声に合わせて追加はしたいです。
それと、パーティが5人しか選べないというのにも理由があるんですよ。ダンジョンRPGは、通常、盤石の体勢をしいた6人がひたすらダンジョンを潜り続けるというのが通例となっていますが、本作はそこをあえてバランスをくずしています。
――ブシドー、カースメーカーは上級職なのですか?
新納:
ほかの7つのジョブと同じ扱いです。しかし、ゲームの冒頭ではまだ選択できません。ブシドーは、攻撃力こそ最高クラスですが、1ターン目に「構え」をとらなければ攻撃できないかなりクセのあるキャラです。また、カースメーカーは敵を眠らせたりする状態異常のスペシャリストです。敵の特徴をつかんでいるプレイヤーにとっては使いやすいキャラですが、通常攻撃はまったく話にならないほど弱いです。2つとも、かなり個性的なため上級者向けといえますね。
――開発陣の人気パーティはなんでしょう?
新納:
パラディンは必須ですね。それと、攻撃役にソードマン。そして器用なレンジャー。後衛にはメディック。残るもう1人は、かなり好みが分かれているようです。発売前に話題だったのは、もう1人メディックを前衛にすることですね。パラディンで守りつつ戦えば、回復役が2人になるので戦いが安定しますよ。
ですが、前衛と後衛ではダメージ差があって、これはかなり危険といえば危険な陣形です。メディックや、レンジャーといったジョブは前衛に出すとすぐ死んでしまうので、いったん崩れると立て直しにくく、極端な戦いになってしまいます。そういうわけで、残る1つの枠には、序盤はアルケミストを入れたほうがオススメですね。
――アイテムの制限が60個までなので、メディックなしのプレイは相当つらいですね。
新納:
そうですね。回復アイテムを持って行けば持って行くほど街に持って帰れるアイテムが減るわけですから、お金もたまりにくくなる。初心者にはオススメできないプレイですね(笑)。
とはいえ、浅い階層ではレアアイテムや、高価な素材は手に入りません。できるかぎり深い階層で探索を続ける必要がありますよ。このバランスには注意しています。
――スキルについてですが、序盤ではまだあまり強さを感じられませんでした。後半にしたがって重要になるのでしょうか?
新納:
戦法を確立してから育てると、ちゃんとした強さになります。プレイヤーによって伸ばしたいスキルも違うでしょうし、ここをどう上げるかでバランスが変わってきます。なかでも、ダークハンターなんかは使い方次第で評価が変わるジョブですね。嫌な技を使う敵がいて、その技を封じる事ができますので、考えればちゃんと活躍できます。スキルはただ習得するだけでなく、工夫して使うことが肝心です。
――戦闘中のパラメータアップのスキルは使えますか?
新納:
パラメータ強化はけっこう大事ですよ。物理攻撃主体のパーティであれば、バードに攻撃力アップを歌わせると、その戦闘中はかなり戦いやすくなります。でも、パーティに物理攻撃が得意なジョブがいなければ、まったくムダになるので注意が必要ですね。
本作でパラメータアップが使いやすいというのは、かさねがけを3回までできるからです。例えば、パラディンが自分に「渾身ディフェンス」かけて「防御系陣形」をとって、バードが「聖なる守護の舞曲」を歌うと、ボス戦では完全な体勢ですよ。HPのMAXを増やす歌が実はかなり使えたりもしますね。
こういったサポート系のジョブは、マニアなゲーマーが好きなところなので、しっかり活躍の場を与えました。一般のゲーマーなら、防御力アップなんて滅多に使わないし、守備力ダウンなんて一生使いませんよね。「素早さアップ超使えるよね!」とか、そういうRPGのノリを大事にしたかった。
――属性防御についてはどのような効果がありますか?
新納:
炎の息が来る前に炎属性防御を上げていれば、無効化したりできます。ゲームが進んで強敵と対決するとき、自分の弱点の攻撃を吸収できるようにすれば、大量に吸収回復できたりしますよ。
――毒の1ターン25ダメージが強力ですね。1階であれは面食らいました。
新納:
毒を食らって一気にパーティが撃沈し、プレイした人が青ざめるのを見て「これ思い出に残るんじゃない?」と(笑)。逆に、そういう体験をすると、真っ先に毒攻撃をしてくる敵を倒そうとするようになりますよね。そういう方向のほうがおもしろいかなと思ったので採用しました。
この毒の追加ダメージにはちょっとした仕掛けがあって、ターンの最後にダメージを受けるので、プレイヤーはいろいろと考える時間を与えられるんです。例えば、「4人生き残っていて、毒を受けた2人がターン終了時に死ぬ。次のターンで敵を倒しきれるかどうか…さあどうする!」みたいな感じで。
――死んでも灰になってしまうようなペナルティはないですね。
新納:
はい。お金がかかる程度ですね。ただ、お金を稼ぐのが大変なゲームなので……見方によってはかなりのペナルティですよ。僕もプレイしていて、生き返らせるお金がないから別のパーティを組む……なんて、ヒドイこともしました(笑)。
お金と言えば、ゲームが進むにつれて宿屋の値段が増していくんですが。はじめは15エンが5000エンに。何があったんだ? という感じです。宿屋のお兄さんの笑顔が邪悪に見えてきますね(笑)ラスボスを倒す段階で「宿屋代払えない」なんてプレイヤーもいますから。後半で見られるあの理不尽な値段設定は、一人前となった主人公のパーティが、新米のパーティにお酒をおごっているからだ、なんて設定があったり、なかったり……(笑)。商店も50エンの素材を5,000エンの武器にしたりするんで信用なりませんよ(笑)冒険者はいいようにむしられてます。
――F.O.E.はどんな周期で活動するのでしょう?
新納:
たいてい一度倒しても7日・14日の周期で復活します。かなりお金になるものを落とすのでぜひ倒したいですね。でも、宿屋に14日泊まるのもお金がかかりますが…。
――街の施設もシンプルにまとめられていますね。
新納:
そうですね。施設といえば、酒場に関しては「酒を振る舞う」という選択項目が入る予定でしたが、CEROがBになりそうなので見送りました。まぁ何のネタも考えてなかったんですが(笑)
――イベント数は盛り込まれているのでしょうか?
新納:
下の階に進ませるイベントはありますが、それ単体でシナリオがどうこうといったイベントはありません。あくまで、探索時のエッセンスといった感じです。
――ダンジョン内でのメッセージ表示にも、こだわりがあるように感じました。
新納:
シナリオ担当の小森氏に相談して、是非往年のゲームブック風にして欲しいと伝えました。ちょっとはっちゃけ気味なのですが、そもそも、このゲームが生まれたこと自体奇跡的だったので、やれるところまでやってみよう! と。その場でノリで書いてもらって、すぐに表示してみたんですが、実に良かった! で、そのまま全部やってもらいました。
――音楽がいいですね。効果音にもこだわりを感じます。
新納:
曲は古代祐三氏に制作していただきました。ダンジョンは1階層ごとに音楽が変わっていきます。また、戦闘も、ゲーム中盤から音楽が変わることになります。
本作の音源で使われているFM音源の再現って大量のメモリを食うんですよ。普通のオーケストラ音源の方が、よっぽど使うメモリ少なかったくらいで。プログラマーからは「ありえない贅沢な使い方ですよ」と言われましたけど。いかにもゲームっぽい音楽にして、頭に残るものを目指しました。
――樹海を降りるとどんどん暗くなっていきますね。
新納:
やはり、樹海とはいってもダンジョンっぽさがなければいけないと思うので、光の加減で深く潜っていく感じを出していました。とはいえ、暗いのが嫌いな人も多いと思うので、たまに明るい階層があったり、見た目にはこだわっています。
――1階のクリアにかなりの時間がかかりますが全体的にはどのくらいのボリュームなのでしょう?
新納:
全部で、30~40時間はかかりますね。システムを覚えてスキルを駆使すると、スピードはアップしていきますよ。
――マッピングのおもしろさをひとことで言うと、なんでしょうか?
新納:
「プレイヤーが楽しむこと」ですね。マップを埋めていく達成感は、このゲームでしか味わえません。マップを攻略するごとに実感がわくように心がけました。
オートマップの場合、一回奥まで行って入り口まで帰ってくるともう、マップになっていますよね。それってまったく攻略では必要なくて、ただ埋められているだけなんですよ。そこを自分で書けば、自分で達成感を得らるのではないかと。
本来プレイヤーがやるべきことをゲームがやっちゃうのはどうかというのがあって。せっかくだから、それをやらせてあげよう! ということでこのシステムを採用しました。
――間違えてマッピングしてあって、あとでその場所に戻ってみたら新たな道があったりしたんですが、不思議と「新発見」に感じるんですよね。
新納:
あとで行こうと思ってたのに、通路を閉じて描いちゃったり。間違いがあるというのはコンピュータにはないおもしろさですから。開発陣のマップを4台くらいならべて見ると、みんながみんなウソのマップ描いてるんですよ(笑)。そうやって比べる楽しみなんかもあったりしますね(笑)
床はセミオートマップで塗りつぶされていくんですが、あれでも完全に塗りつぶすことは難しかったりしますよね。もう、手描きだとみんなマップにも個性が出てて。失敗することもおもしろいといういい例ですね。
――プレイして気づいたんですが、カニ歩きはないんですか?
新納:
ありえないんですが、僕が知らなかったんですよ…スタッフはみんな知っていたのに誰もいってくれなかった(笑)。あとで問いただしてみると「このゲー厶でカニ歩きはありえないと思ったんで言う意味ないと思ってました」と。自分もあとでカニ歩きを調べてみて、個人的には、これって「作業」かなぁって思ってしまいました。例えばの話ですけど、ボスへと続く道をまっすぐ歩いていくときに、どんどん向こうの扉が近づいてくる雰囲気ってけっこう大事な演出だと思いませんか?それを左右の壁をみながら横歩きしたら台無しな気がします。快適になること=いいゲームになるとは思わないですね。ただ、想像以上の方に意見を頂きましたので、それも含めて考え直してみたいとは思います。
――マップのアイコンはどのようなセレクションなんですか?
新納:
ゲームの攻略本にあるようなアイコンは入れていこうということで選んだ項目です。これは完全にオリジナルの要素なので、今回はこういう感じになりました。まだ、これに関しては手探りの部分があるので、ユーザーの反響がききたいですね。これがあったらいい、逆にこれはいらない、とか。意見は募集したいくらいです。
――あらためて、読者にひとことをお願いします。
新納:
本作は、「3Dダンジョン探索RPG再生計画」というのをかかげて発売いたしました。本来無くなってしまっていいダンジョンRPGがなくなってきているこの現状で、そこを復活させるために、あらゆる工夫をしました。市場に最も受け入れられやすい、かつてのファンが最も喜んでもくれるゲームを作ったつもりなので、その第1弾の作品としてぜひ、遊んで、更に指摘なども頂ければうれしいと思います。