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●設定はとにかくハードボイルドにしたかったのです!

――:『デカボイス』の舞台設定が、洋風の時代物、というテイストになっていますが、「時代物」という点についてはやはり、開発が『天誅』シリーズを手掛けていたアクワイアさんだから(笑)なのでしょうか?
山本正美氏(以下敬称略):それはあるかもしれませんけどね(笑)。アクワイアさんとボクとで、「スーツやコートを着て帽子を被っているキャラが登場するゲームってあまり見たことがないよね」なんて、話していたのが企画の発端ですね。もともとアクワイアさんの方で、音声認識を使った作品をプランニングしていたんですが、そのときの…土台になったタイトルってなんだっけ?
倉持信人氏(以下敬称略):『叫べオニグロ刑事(デカ)』です(笑)。
山本:バリバリ日本の刑事ドラマ(笑)。「カツ丼喰うか」の世界ですね。でも、それでは日本でしか通用しないだろう、と。ワールドワイドを狙っていこう、という考えあって、洋風なテイストにシフトしていきました。で、アメコミとかシネマ系のデザインの方向から新しい表現がないかなぁと探していたときに、ちょうど僕と倉持君それぞれが1冊持ってきてカブったのが、「ヘルボーイ」というアメコミだったんです。これは光と影がハッキリ出ているデザインなんですけど、このデザインを3Dにできたらおもしろいな、と。ここからビジュアルイメージがどんどん決まっていきました。
新井清志氏(以下敬称略):とはいえ、このデザインを3Dに起こすにはイロイロ問題がありまして。例えば、2Dで描かれている漫画だからこそ可能な――都合のよい――光や影なんですよね。それを、きちんと演算する3D空間上で表現するのは困難だな、と。なもので、逆に新しいイメージを形成していこうとアプローチしました。
――:そのアプローチの結果、あの独特なビジュアルになったんですね。
新井:「ヘルボーイ」と、映画「アンタッチャブル」から試行錯誤したんですけどね。
――:言われてみれば「アンタッチャブル」の雰囲気がありますよね。
山本:スタッフの課題映画は、「アンタッチャブル」と「L.A.コンフィデンシャル」だったと言えるかも(笑)。場所はシカゴとL.A.とで違うけれども、双方とも1930年代のアメリカってことで。
――:あのテイストが好きな人には、『デカボイス』はタマりませんよね。渋めの男の世界な感じが。
山本:そうですね。少なからず、醸し出されるハードボイルド、ダンディズムが好きな人ってけっこういるハズですし。男性の方が多いかもしれないですけど、女性もけっこういると思うので、『デカボイス』ではそういう面を見てもらいたいですね。今日の格好なんかもそうなんですけれども(笑)。「アンタッチャブル」だと、衣装は「ジョルジオ・アルマーニ」ですね。
――:その雰囲気を壊さないために、血しぶきが花びらだったり?
倉持:単純に最初は……ノリでしたよね? ハードボイルドならバラだろう、みたいな安直なトコロから来ています。
新井:ですね、最初は倉持さんが言ったんですよね、「花びらにしようよ」って。で、そうしてみたら妙に合ってたんですよ。それで、そのままいっちゃいましたね。
山本:プロデューサーも大喜びしちゃって。最初の試作段階でも花びらが飛んでいたんですけれども、そのことを突っ込まれることなく…。
倉持:生き残って(笑)。それがパッケージにも使われたりと、予期せぬキーポイントになっています。
――:舞台のルタシティも、イイ雰囲気ですよね。
倉持:モデルになっているのは、一応シカゴです。実際のシカゴでインディアン語が普通に使われていることに倣って、街の名前を決めました。「ルタ」はインディアン語で「赤」という意味なんですよ。
――:そうだったんですか! かなり奥の深いところまで設定がなされているんですねぇ。
倉持:すべてが出来上がった後に、1週間ですべてを書き上げたという、緻密な設定があるんですよ(笑)。
山本:ゲームが進行していくと、それぞれのデータを閲覧できるようになるんですけど、そこにはおもしろいことがいっぱい書かれていますよ。例えば、サイモンというベテランの刑事がいるんですけれど、彼が刑事を志したきっかけとなったテレビドラマがあって、なんとそのドラマの名前は『刑事オニグロ』(笑)。
新井倉持:原点だ(笑)。
山本:最初はもっと長いストーリーだったんですけれども、制作の都合上でカットしていったモノもあったんです。でも、そのまま捨ててしまうのは惜しいということで、裏設定に全部反映させたんです。全然ゲームの流れに関係ないコソ泥が、実は昔窃盗団の仲間だった! みたいなこととか。けっこう緻密に構築されています。プレイ中に、そういうことをぽろっと言うと、「懐かしいなぁ」みたいに返してくれたりと、イロイロな仕掛けが仕込まれていますよ。


●『デカボイス』の音声入力システムはこうして生まれた!
――:その"仕掛け"の1つになると思うんですけど、犬のライアンのバラエティに富んだ反応がイイですよね! ゲームの途中で「お手」とか「おすわり」とか遊んじゃうんですよ、「本編プレイしろよ」って自分で突っ込みながらも(笑)。
倉持:このゲームは、音声入力というシステムが大前提でした。最初は単純に「無線機を使おう」という案もありましたけど、それが1930年代にそもそもあったか? となると、それだけオーバーテクノロジーになるじゃないですか。音声入力システムにマッチする、かつ時代設定にマッチするような「命令で動くモノ」となると、犬しかいないだろう、と。
山本;決まった命令を履行する、ということが警察犬として能力が高いとされていますよね。音声認識のゲームとして、決まった命令に対してリアクションをしてくれるライアンはカンペキに近いキャラクターなんですよ。
――:絶対的に言うことを聞きながらも不機嫌になったりとか、すごい喜んだりとか、人間以上に喜怒哀楽が表現されている感じがしますよね。
倉持:プログラムの領域を越えてリアクションをしてきますからね。
山本:何か言ったことに対して反応してくれる。そんなプリミティブな部分を見事に再現してくれたキャラクターになってくれましたね。
――:それにしても、しゃべることでキャラクターと会話できるだけでなく、イロイロな操作もできるってスゴイですよね。音声入力システムの開発は、相当タイヘンだったことでしょう。
倉持:早稲田大学に1度ヒアリングしに行ったことがあります。その当時だと、「お前らの企画は5年早い」と言われまして。でも、あれよあれよという間に…。
山本:2年でできちゃった(笑)。
倉持:早稲田の一言によって1度その企画は封印されたんですけどね。
――:でもやっぱりやりたい! みたいな。
倉持:山本さんがミドルウェアソフトの話を持ってきてくれたことから、封印が解かれたってカンジですよ。
山本:今回使っている、スキャンソフトというミドルウェアの音声認識、それはSCEの『オペレーターズサイド』で使っているそれと同じものなんですけれどね。発音された単語を辞書と一致させて、そこからリアクションを導き出すということに関しては普通にできる技術。最初の試作はそれをベースに、基本的にはマービンから命令されて、それを履行していく、それに対して回答していくゲームだったのですが、試作を作っていて1つの方向性が見えてきたんです。例えば、地下下水道をライアンと探索しながら移動していて、1カ所閉じている扉があるとしましょう。で、その前にくると、マービンが「爆弾が仕掛けられている可能性があるから、周囲に何があるかを教えてくれ」と、と言ってきます。で、「そうすれば検証するから」という返答があるんですけれども。そこで、「周囲にあるものを教えてくれ」といった明解な答えが決まっていない質問が可能なら、プレイヤーが画面を見て「ここに何がある」と自分自身が想像して言える、という広がりがあるんじゃないか、と発見しまして。そこから一気に方向性が見えてきたワケです。これなら会話というレベルまでいけるのではないか、と。
倉持:追い風だったのが、ちょうど試作が終わったころに、音声認識の技術のシステムが確立されたことですね。これで単語だけじゃない、文章レベルの入力にも対応できるようになりました。
――:それに伴って、セリフを用意するのに苦労されたでしょうね。
山本:それが一番の難関でしたね。プレイヤーが何を言っていいかわからないという問題を解消するために、基本的には登場人物がしゃべるセリフは、なんらかの質問のカタチになっているんです。ですから、それに対して答えればいいワケですが、「取り調べ」だけは能動的に段取りよく物事を伝えていかないと、自白に追い込めなくなるので、プレイヤーが何を言うべきかの呼び水として、どういう情報を見せるかということに関して、何回も試行錯誤しましたね。
――:キャラクターが受け答えてくれる言葉は、ズバリいくつあるのでしょうか?
倉持:ゲーム全体で使っているWAVEファイルは、16,000くらいかな。
山本:比較対象がないとわからないですね。普通のフルボイスのゲームだと、4,000ファイルくらいじゃないかと。
倉持:抽象的に言うと、プログラマーが管理しきれないと言って泣くくらい(笑)。
――:数字を聞いてもピンと来ないけど、どおりでイロんなコトを話しても反応してくれるワケだぁ。
山本:試作が終わった段階で、質問に対して答えているだけではヤバイんじゃないか、という話になって。特にその危機感を倉持君はすごく持っていましたね。とは言え、あらかたセリフも録っていたので、この資産を有効に活用してかつゲーム性も上げなきゃ! みたいな段階になったときに、「相づち」という要素を倉持君が考えてくれたんですよ。セリフをセンテンスごとに区切って、その合間でプレイヤーが何かを言うと、そこでリアクションのセリフにジャンプしていく、というものなんですけどね。質問に対する回答するという行為は、限りなく受動的なんですけれども、「相づち」は能動的。相づちを打たないと、何もリアクションが出てこない。これで、受け答えのバランスがとれたシステムになりました。
――:ゲームとは関係ないことを言ってみたのに、ちゃんと答えが返ってくる、と。
山本:そうですね。会話をコンボ的につなげていく。相づちを打ちまくって欲しいですね。すごく会話がつながるときってあるんですよ。
倉持:会話している感、というか、臨場感がすごく出ますね。
――:ちょっとしたところで、思いもしなかった反応が返ってきて、それが驚きだったりしますよね。


●ボツになった要素もイロイロありました…
――:それでは、会話自体は比較的後から盛り込まれた要素だったんですね。
山本:そうですね。最初はもうライアンがかなり活躍する方向で作っていたので、いろいろなキャラと会話することによって情報を引き出す、そんな要素は後からどんどん膨らんでいったものです。
倉持:ボツになった要素に、「調査書」というのがありましたね。
山本:「調査書」は封印されました(笑)。やってみたけれども…。
倉持:何かがおかしかったんですよね(笑)。
山本:最初に麻薬の密売人が出てくるんですけれど、あいつを逮捕した後に、カバンの中を調べるというシーンがあったんですよ。で、「ツインピークス」みたいに主人公が、カセットレコーダーに吹き込んでいくようなシチュエーションで、マービンに対して報告していく事柄を実行していくシステムでした。例えば「カバン、開ける」→「よし、カバン開けてみろ」と言われて、開けてみるんですがまだネジが閉まっている。「ネジ、まわす」と言うと、ネジがまわってフタが開くようになるとか。……なんだか不評だったので終了(笑)。
倉持:すごいボリュームの音声ファイルを録ったんですけど(笑)。
山本:マービンに「ここが怪しいからここをなんとかしてみろ」とか言われて、「カバン」「調べる」とか、名詞と動詞を組み合わせて何かをやらせるというシステムなのですが、プレイヤーが何を言うかわからない部分があるじゃないですか。例えば、「カバン」「なぐる」とか…。
倉持:「ネジ」「燃やす」とか(笑)。
山本:そういう組み合わせを全部やり出す労力の割には、おもしろくないのでやめちゃったんですよね。
――:でも「カメラ撮影」は、そのシステムを継承しているのでは?
山本:そうですね。「調査書」の要素から抽出されたものです。
――:「ズームイン」「アウト」という声で操作するところが斬新ですよね。
山本:声でしかできなかったんだよね、最初。
倉持:そうしたらまた不評(笑)。
山本:「ストップ!」って言っても止まらないよー(笑)。
新井:声だけで全部対応できるようにしようとしていたんですが、「ストップ」という単語そのものを認識しづらかったということと、身に付けているものを声で操作しなくてもいいんじゃないかという意見があったことから、コントローラでも操作できるようにしました。
山本:映画「ブレードランナー」に、写真を解析するときに「ズームイン、ズームイン、ズームイン」って言うと写真が拡大されて謎がわかる、そんなシーンがあるんですけれども、「そういうのをやりたい!」というオーダーがプロデューサーの方からありまして。それを無下にするワケにもイカンというわけでして…(笑)。
――:当初予定されていたシステムや演出の変更が、かなりあったようですね。
山本:それは、かなり泣いた部分があります。マップも増えたり消えたり、みたいな。行かないのに部屋があったりとか。例えば博物館。何階建てにもなっていて、そこにいる研究員から情報を聞き出して爆弾を解除してあげる、といったような話もあったんです。爆弾があちこちに仕掛けられていて、博物館自体が爆発炎上するさなか、館長を引き連れて屋上まで行くとエレノアがヘリコプターで助けに来てくれるという、すごい壮大な救出劇があったんです。それがまるまるカット…(笑)。完全版をやりたいですねぇ…。
新井:イリオステル島ってのもありましたよね。最後の舞台になる予定の島だったんですよ。そこに行くまで列車に乗ったり、列車の屋根に上がって追いかけっこをしたり、そういうのを作ってみたかったですねぇ。映画「アンタッチャブル」にもあったような、駅でのやりとりも入れたかったんですけど、なくなっちゃいました…。他には、映画「タイタニック」みたいな豪華客船。ゲームにカジノが登場するじゃないですか、あれはもともとカジノ船という豪華客船の予定だったんです。そういうのがいっぱいありますね。デザインだけ残っているのが数知れず…。乗り物で言えばボートもあったし、犬ぞりもあったし…。
――:イヌぞりで? なんだかもったいないですね。
山本:すり落されて、いいところだけが残った感じです。


●刑事になりきって、声を出してください!
――:AVGパート以外に、敵に向かって銃を撃ったり、カーチェイスがあったりと、ACT要素がある部分もありますが、慣れるまで難しいかもしれませんね。
倉持:コツをつかむと早いんですよ。そのコツをつかむまでは――アクワイア全部のゲームを通して言えることですが――、難度が高いんですよ。
――:そういえば『天誅』、難しかったかも。
新井:ライアンを使うとうまくいくようになって、普通にやると厳しくなるようにしているんですよね。
山本:スティーブン単体で突っ込んでいくと、近距離からガンガン撃たれてしまう。近い位置で撃たれてしまうとダメージも大きい。だから自分が死なないためにはライアンをうまく使う。そのためには積極的に声で指示しなきゃいけない、というバランスにしてあります。銃撃戦では特に、ライアンに「襲え」と言えば、敵探知器かのように敵を追って行くので、その後を追いかけて攻撃すると、美しく逮捕することができますよ。
――:その他にも、プレイする上でのアドバイスを!
新井:バーやキャバレーにいるお客さんや脇役に話すときは、なるべく具体的に言ってあげると反応しますよ。何か話しかけると、カメラアングルが変わって、それが戻ったら会話が終わり、ということなので、アングルが変わらない間は同じ内容の話題で話しかけると、自然な会話になりますから。
山本:刑事になりきって欲しい! という一言に尽きます。
倉持:ただ「はい」と返事しているだけだと、評価画面の「スティーブン度」が100%を越えないんですよ。なりきったセリフで対応することで、さらにスティーブン度を高められるので、恥ずかしがらずに!
新井:映画の登場人物になった気分でやってもらえると、すごくいいと思いますよ。あまりゲームをしているという感覚はないと思うんですよ。自分が映画や小説の中に入りこんでしまうゲームなので、そういうなりきり要素でやってもらえるとおもしろいゲームだと思います。

山本正美 氏
(株)ソニーコンピュータエンタテインメント 制作2部

倉持信人 氏
(株)ACQUIRE アミューズメントコンテンツ部 プランナー

新井清志 氏
(株)ACQUIRE アミューズメントコンテンツ部 グラフィッカー

デカボイス
■メーカー:SCE
■対応機種:PS2
■発売日:2003年2月13日
■価格:5,800円
  マイク同梱版 7,980円
■関連リンク:SCE
(C)Sony Computer Entertainment Inc.


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