アニメ『シンデュアリティ ノワール』キャラデザ原案を担当のnecoさんにインタビュー。キャラクター衣装には現実の延長線から生まれたデザインも

てけおんセスタス原川
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 2024年1月8日から3月にかけて第2クールが放送され、4月7日からはTOKYO MX、BS11にて再放送されることも決定したTVアニメ『SYNDUALITY Noir(シンデュアリティ ノワール)』。本作に登場するキャラクターデザインの原案を担当するnecoさんのインタビューをお届けします。

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 このインタビューでは、本作の世界観に大きく影響しているキャラクターたちの衣装の詳細や、necoさんの各キャラクターのイメージを語ってくださいました。お話を聞いてからキャラクターを見ると納得できる部分が多くありますので、アニメを見ていた方は楽しめること間違いなしの内容となっています。

『SYNDUALITY Noir』において、人間とメイガスを描く上で意識したポイント

――本作のキャラクターデザインの全体的なテーマなどがあれば教えてください。

 テーマは“民族的な分脈を汲んだ近未来SFのデザイン”です。その中でテックやミリタリーといった現代的な衣装を採用しています。

――そのテーマが大きく表れているキャラクターは誰でしょうか?

 アメイジアに関わるキャラクターはその影響が強く見られると思います。民族的……というのはより詳細に言うとアジア圏のものを取り込んでいまして、黒仮面やヴァイスハイトはその流れに沿ったデザインになっています。

――ゆったりとした服が特徴的だと感じたのですが、それもまた民族的な文脈を汲んだような印象があったのですが、そこもテーマと関連している部分なのでしょうか?

 実はゆったりとした服の起源は和服にあったりします。例えば、ヴァイスハイトの着ている服などはアジア圏のとある地域の模様をデザインの参考にしています。

――こうしたキャラクターデザインのテーマはnecoさんが提案したのでしょうか?

 そうですね。最初にゲームでメイガスのデザインをしたのですが、その際にテーマを決めました。その後、アメイジアのデザインをすることが増えた際に和服の要素を取り入れたりしたんです。『SYNDUALITY』の世界が我々の世界の延長線にあることは伺っていましたので、現実世界に存在する衣装やデザインを取り入れるのは自然だろうと考えたんです。

――最初にメイガスたちのデザインから着手されたということですが、メイガスたちのデザインについてもお話しいただけますか?

 まず「明らかに人間と異なるものを入れてほしい」という制作側からの要望がありました。そこでメイガスたちに共通するパーツとして持たせたのが、首元にある逆三角形の“ナブラ”ですね。

――そういう要望があったんですね。アニメ第2話でノワールとカナタが契約を結ぶ際にも“ナブラ”はクローズアップされていたので、確かにメイガスを象徴するデザインとして印象付けられています。

 はい。あれはメイガスの特徴の1つですね。他にも衣装面で言うと、ジャケットなどのアウターの下にダイバースーツのような身体にフィットする形の衣装を身に着けている設定もあります。“ナブラ”とあわせて、メイガスと人間とを大きくわけるレギュレーションでした。

――人間、メイガスと伺ってきましたが、作中で義手を付けているキャラ・ダニエルも印象的でした。メイガスは“ナブラ”や肌部分のモールドはあるもののあまりメカメカしさを感じませんでした。なので、ダニエルがちょっと際立って見えたんですよね。

 ダニエルに関しては監督からのオファーであのデザインになりました。メイガスの技術自体はアメイジアに由来するものなので、人体の復元などとはまったく別の技術なのかもしれませんね。そういう意味でダニエルは義手で補っているという設定……と推測しています。

 ただ、作中ではナノマシンによる医療の発達を描いた場面もあるので、ダニエルが義手を残しているのはその戦いの思い入れから来ているかもしれません。ここの詳しいところは監督のみぞ知る部分ですね。

――『SYNDUALITY』の世界はメイガスが作られるほどでありながら、災害で一度崩壊していることなどを考えると、ダニエルの義手からもいろいろと想像がふくらむなと思いました。necoさんの推測もとても納得できるお話です。

 見比べてもらえると、メイガスと人間の衣装デザインにも差があることがわかると思います。人間については衣装が現代に通じるようなものも多いですが、メイガスたちはタイトでシルエットがわかるものが多いです。ある意味、人間が現代的なものとするなら、メイガスたちは未来的。そういった形でデザインに違いが出ていると思っています。

各キャラクターのデザインで意識したポイント

――それでは各キャラクターのデザインのポイントをお聞きしたいです。まずはカナタからお願いします。

 カナタはざっくりと言えば“完璧ではない主人公”ですね。加えて彼にはエンジニア的な側面もあるのでオーバーオールを着ていますが、それを着崩した部分にヒロイックな印象を感じさせるようにしています。

――necoさんが考えるヒロイックという部分について、もう少し詳しくお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

 オーバーオールの紐が垂れるようになっており、それが揺れ物として動くあたりなどがそうですね。主人公がよく身に着けるマントやマフラーに近いデザインになります。

――ああ、なるほど!

 それを前面に押し出すわけでなく、稀にそのように見えるような慎ましいヒロイックさをイメージしました。

――アシンメトリーなデザインも印象的でしたが、こちらに意図はありましたか?

 『SYNDUALITY』ではシンメトリーなキャラクターのほうが少ないかもしれません。これは僕のデザインというか、そもそも現実でも服のデザイン自体がシンメトリーであることが少ないと思っています。それを拡張していくと、やはりキャラクターデザインにアシンメトリーなものが増えてくるのが自然じゃないかなと。現代の服のデザインを作品用にデフォルメしている感覚です。

――続いて、ノワールはいかがでしょうか?

 ノワールはカナタと同じく“完璧ではないヒロイン”を意識してデザインしています。ノワールはゲームのキャラクターではできなかった着崩しを取り入れたくて、彼女の未熟さと着崩した姿がうまくマッチすればいいと思って提案しました。

 もちろん既存のメイガスのデザインに則っていますが、その中でもゲームではできなかったアニメならではのデザインとして、アニメの唯一性をデザインから表現したキャラクターでもあるんです。

――ノワールの着崩しについては、今考えると1話から“完璧とは程遠い雰囲気”を醸し出すのに一役かっていたように思います。

 あの肘で止めているような着方は僕が提案させてもらいました。作画的には難しいですが頑張っていただけまして、結果的にあの着方をネタにして話を展開してもらった部分もあり、提案してよかったと思っています。こうしてデザインがストーリーでも活きてくるのはキャラクターデザイン冥利に尽きますね。

――ノワールとボディを共有しているミステルはいかがでしょうか?

 彼女はノワールと対をなすデザインにしたいと考えていました。とはいえ、素体はノワールと同様なため外見は同じなので、肌の色など他の部分で差別化を図っています。その他に違う部分と言えば、彼女はジャケットをしっかり着ていますよね。実はジャケットは中の空気を排出する仕組みで、その後はピシッとした見た目になります。そこがノワールとミステルを対照的にしている部分で、彼女の登場でよりノワールのポンコツさが際立つようになっています。

――そうですね。同じジャケットですが、どう着せるのかできちんとキャラクター性の違いを表現できるんだなと思わされました。こちらはゲームがメインのキャラクターになりますが、アルバについてもお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

 アルバは僕の中で“完璧で隙のない兵士”のイメージがあり、それを表現しました。ドリフターという設定に準じる形で、地上の荒野に存在するキャラクターとして描いたので、正式な兵士というよりも民兵のイメージが入っています。

――ゲーム版ではハーネスのような装備も印象的だなと感じました。

 あれはドリフターの基本的な装備のイメージで、危険な任務に挑む兵士として銃などを携帯するためのものです。アルバに限らず、ドリフターたちのデザインにはハーネスを盛り込んでいます。そのレギュレーションが生まれるきっかけになったのが、最初に描いたアルバでした。

――服装などはゆったりとしてもいるんですが、全体的な雰囲気は鋭さが漂っているなと思いました。

 彼は最初から、周りを寄せ付けないようなイメージでデザインしました。実際にそうしたキャラクターでもあるがゆえに、カナタが柔らかい印象を受けるかもしれません。そう考えると、ある意味アルバとカナタも対照的なキャラクターと言えますね。

――そんなアルバとともに行動するメイガス・エイダのデザインについてお聞かせください。

 エイダはゲーム、アニメ含めて『SYNDUALITY』という作品で最初にデザインしたキャラクターです。エイダはまさにメイガスを象徴しているキャラクターで、人間にはない冷たさを持たせています。彼女が本作におけるメイガスたちのデザインのレギュレーションの元になっています。

――エイダから生まれたメイガスのレギュレーションとはどういったものでしょう?

 僕の中でメイガスたちには“リアルでは存在しないような髪色を取り入れてもいい”という特徴を1つ決めています。真っ白はなかなか現実世界では見られない髪色で、そういう意味でもっともメイガスを象徴しているキャラクターと言えます。

――髪色というと、アルバとエイダが並ぶと色の面でも対比があってお互いが引き立つようにも感じますね。

 デザインの順序で言えば、エイダ、アルバの順ですので、アルバがエイダの対になったと言えますね。この2人がドリフターとメイガスとして組むことは決まっていました。なのでアルバは必然的にエイダと対照的な暗めの色を基調とすることに決まった形です。

――他にもエイダは、白をベースとしつつもジャケットの裏地や目の色が赤で、それも印象的でした。

 エイダのスーツの見える部分に白が多く、視覚的にシルエットをぼかさないように、という意味もあって赤色を入れました。ジャケットの裏地を赤色にしたことで、ボディラインがはっきり見えるようになっています。

――ちょっとアニメのほうに話題を戻しまして、物語における最大のボスとも言えるヴァイスハイトはいがかでしょうか?

 ヴァイスハイトはアメイジアに関係した組織の人間なので、そのデザインの分脈を採用しています。それが最初に申し上げた民族的な衣装で、主に彼は日本の着物のシルエットをイメージしました。

――necoさんから見て、印象深いキャラクターは誰でしょうか?

 うーん……何人もいるのですが、ここではムートンを挙げさせていただきます。デザインしていて楽しかったですね。おじさんのキャラクターを描くことは少ないのですが、別におじさんのキャラクターを描くことは嫌いなわけではありませんでした。

 むしろ、年齢を重ねた男性ってカッコいいなと思っていまして、ムートンは絶対ナイスミドルなキャラクターにしよう! と意気込んで臨んだことを覚えています。発注段階で“執事のおじさん”という設定があったのですが、執事服は品のあるものにしつつ、その中にも色使いなどでオシャレに見える姿にしました。

――銃のホルスターが外側にあるのも印象的ですが、こちらは何か意図があるのでしょうか?

 それはもうケレン味ですね。本来であれば内側にあるケースが多いですが、そうするとアニメではなかなか見えることがないので。ぱっと見で執事に加えて銃を装備しているほうがおもしろいなと思って、外側にホルスターを付けています。ただの執事服では、この世界観だと物足りないかなと思いました。目に見える武装をしているのは、メイガスの中でも特徴的な部分ですね。

――ありがとうございます。ちなみにもう1人印象的なキャラクターを上げるとすれば誰でしょう?

 そうですね。1人挙げるとすればエリーですね。こちらについてはBlu-rayの特典のインタビューで語っています。

――では、エリーの詳しいデザインの経緯が気になる方は、ぜひそちらもチェック……ということで!

 はい。ぜひそちらも読んでいただけると嬉しいです。

『SYNDUALITY』と歩んだ約6年を振り返って

――デザインで苦労したキャラクターはいたのでしょうか?

 実はゲームでもアニメでもリテイクになったキャラクターはほとんどいないんですよ。割と全員スムーズにできあがっていきました。強いて言うのであればカナタですね。“ちょっと頼りない主人公”という切り口でデザインをしたことがなかったので。

 それでも、主人公であるからには「絶対にカッコよく描きたい!!」という気持ちがあって、そのバランス調整が難しかった印象です。

――カッコイイというと、むしろカナタよりもトキオのほうがカッコイイと思える部分もあるなと思いました。

 そうですね。トキオはわかりやすく兄貴分で、そういったシンプルなキャラクターを描くほうが得意だと思っています。カナタはそうはいかなかったので苦労しました。逆に、トキオは“兄貴と言えばジャケット”という安直なイメージでした。余談ですが、実はゲームでも姉後肌のキャラクターが登場しますが、彼女もまたレザージャケットを着ています。

――necoさんの個人的なお気に入りキャラクターがいれば教えてください。

 やはりエイダとノワールは思い入れがありますね。エイダは言わずもがな最初にデザインしたキャラクターで、この作品の全体のメイガスデザインの基礎となっているので印象深いです。

 逆にノワールは、ゲームを通してデザインしているうちに実現できないデザインがあり、それをアニメで昇華させてくれたキャラクターなので印象に残っています。ヒロイン枠ですし、アニメでの印象が深いキャラクターです。

――ゲームとアニメでデザインの違いは設けているのでしょうか?

 大きな差をつけていません。同じ世界観ということで、地上で暮らす人々のデザインがカナタたちに受け継がれていて、アメイジアの人々がヴァイスハイトたちに受け継がれています。基本的にはゲームのデザインをベースにアニメに引き継いだ形ですが、その中で作画表現の関係で情報量の調整などは気を遣った部分があります。

――ゲームならではの演出として、メイガスが脱出に失敗するとコミカルな爆発頭になってしまうというものもありましたよね。

  • ▲こちらは東京ゲームショウ2023のメディアレビューより。自機は撃墜され、メイガスの脱出に失敗すると、大変な姿に。

 僕もあれはビックリしました(笑)。あの演出のような遊び心を出してもらえるのはおもしろいし、うれしいですね。僕のデザイン作家としての考え方でもあるのですが、デザイン原案を出した後はそれをそのまま使ってほしいというこだわりはなく、ゲームで3Dになる際にリアル調の絵柄になったり、アニメでデフォルメされた表現になったり、自分のデザインが、自分の範囲の外側でどうなるのか? を見られるのは楽しみの1つになっています。そのため、ゲームで爆発するとアフロになったり、アニメでエリーが変顔したりする様子はとても楽しませてもらっています。

――本作ではクレイドルコフィンという特徴的なメカが登場しますが、necoさんから見てどのような印象を受けましたか?

 僕が感想を言うのは恐縮ですが、まったく新しいメカデザインだなと感じました。ポップでカラフル、等身も低くずんぐりむっくりとしたシルエットなのに、ギャグっぽいものではなくリアリティを感じさせるデザインですよね。こういった等身にするとギャグっぽさが出てしまいがちだと思いますが、関節部分をはじめ細かい箇所にはリアルさがしっかりとありますし、ゲームでもアニメでもデザイン映えする類を見ないようなデザインで、素直に感銘を受けました。

――これほど長期に渡って関わる作品は本作が初だったのでしょうか?

 長期をどこまでの期間とするのかによりますが、6年も関わる作品はなかなかありませんね。その影響もあり、思い入れのある作品になりました。

――キャラクターデザインは企画の初期段階から大きな変更などはあったのでしょうか?

 エイダをはじめ、素体となるメイガスたちのデザインを初期段階に行いましたが、微調整をした程度で、そこまで大きな変更は加えていません。ただ、そのまま世に出すことが怖かった部分があるのは正直なところです。

――怖かった理由とは?

 自分の中で「今後こんな衣装のキャラクターが流行るだろう」という予測を立てつつ作業したわけですが、着手した時期は6、7年前になります。時間が経っていくにつれて、だんだんと当時の案が実際に現在で受け入れられるだろうか? という不安が出てきました。

――6、7年後の流行を予測してデザインをするのが難しいというのは、実際にデザインをしているわけではない私からしても想像しやすく、頷ける話ですね。

 今流行っているものをそのままデザインしてもそれが過去の流行になってしまう可能性があるので、そのまま流行を当てはめるだけでは、どうしてもダメだろうなと。

 それを打破するには、先の流行をキャッチしておくか、流行に囚われないデザインを自分の中に持っておく必要がある時代が来ていると思います。それをちゃんとデザイン面で形として把握する能力がキャラクターデザイン業に求められるようになっているのではないでしょうか。

――最後にアニメをご覧になってきた方にコメントをお願いします。

 先ほどもお話しましたが、長い期間の開発で生まれたこともあり、情の籠った作品となっています。新規IPかつロボットモノということで、この作品を世に出すための多くの方が心血を注いできたと、内側から見て実感しています。

 それに見合ったキャラクターたちになるように僕もギリギリまで頑張りましたので、アニメをご覧の皆さま、これから発売するゲームに触れる皆さま、ぜひこれからも『SYNDUALITY』をよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。

TVアニメ『SYNDUALITY Noir 第2クール』(シンデュアリティ ノワール)作品情報

放送・配信情報
ディズニープラスにて見放題独占配信!

2024年4月7日(日)よりTOKYO MX、BS11にて再放送決定!
TOKYO MX:2024年4月7日(日)22:30~
BS11:2024年4月7日(日)23:30~

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©SYNDUALITY Noir Committee
©MAGUS ©Bandai Namco Entertainment Inc.

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