2010年12月21日(火)
──クロフネゲームズの第1弾タイトルとしてWiiウェアで『カラーズ』の配信を選んだ理由はなんですか?
稲葉:実は『カラーズ』の他にも、4タイトルの発売を予定しております。そんな中で『カラーズ』が第1弾になったのは、ローカライズ作業も含めて1番早くリリースできるタイトルだったという、タイミングの問題ですね。
阿部:なんでこの作品を発売することに決めたかと言うと、まず遊んでみて単純に楽しかったからですね。エイリアンのキャラクターデザインは、日本では受けないかもしれないんですけど(苦笑)。
一応、最初は絵だけ日本向けに描き直そうかという話もあったんです。でも、変えてしまうと逆に海外のテイストを期待しているユーザーさんから買い控えられてしまうかなと思って、今回はそのままにしてあります。ただ、海外でも日本でも受け入れられる絵はあると思いますから、今後はグラフィックをローカライズすることも視野に入れています。
▲フランスのExkeeが開発した『カラーズ』。ウイルスだらけの画面の中で、UFOを母船に誘導していくアクションゲームで、価格は800Wiiポイント。 |
──今後販売する4つのタイトルはどんなゲームですか?
稲葉:4本とも、それぞれテイストが違うゲームになっていますね。ジャンルも違いますし。カードシミュレーションやアクションなんかもありますよ。
──バラエティ豊かなラインナップになりそうですね。
稲葉:そうですね。このインタビューをお受けすると決めた後に、クロフネゲームズの目標は何かと考えたんですよ。そこで思い浮かんだのが、“生物多様性”というキーワードなんです。ウチもこれを目指すべきかなと。
日本では比較的似たような内容のゲームが好まれ、そして販売されている中で、まったく違うテイストの海外ゲームを販売する意味はあると思うんです。よく日本は色々な業界でガラパゴス化しているなんて言われますが、日本のゲーム市場においてもやっぱりガラパゴス化が進んでいるように見えるんです。
同じようなゲーム、売れると立証されたゲームばかりだと、業界自体が先細りしてくるような気がしているんですよね。開発者の方にも、実際に洋ゲーをプレイしたことがない人が増えています。これって、長期的に考えると日本だけでしか通用しないようなゲームばかりになってしまうと言いますか……。
阿部:日本だけで通用するゲームは伝統芸のようなものとして残っていってほしいんですけど、今後のゲーム業界としてはそればかりというのも困りますよね。
稲葉:だから、日本のユーザーさんにはたまには変わったもの、海外の変なモノも見てほしいんですよ(笑)。それらを見たうえで、やっぱり日本のゲームはいいなって見直す分にはいいと思うんです。でも、海外の色々な作品を見ずに日本のゲームだけをやり続けるというのは、ゲームに携わる人間として非常にもったいなく感じるんですね。
阿部:なんと言うか、日本の常識とは違う環境から生まれたゲームに触れてほしいんですよね。『カラーズ』も後半に行くと、Wiiリモコンとヌンチャクを駆使して同時に3キャラクターを操作するような場面が出てきますから。
――3人同時プレイということですか?
阿部:1人で3キャラクターを同時に操作することもできます(笑)。これは日本のゲームだと、ありえない操作だと思いますし、企画の段階でまず止められますね。ただ、当然ちゃんと操作ができるようになっていますし、2人でなら遊べるんですけどね。どっちにしろ、1人は2キャラ操作しないといけないですが。こういった、変わっているけどおもしろい発想のタイトルに、どんどん触れてほしいですね。
──確かにiPhoneのアプリなどは別にして、家庭用ゲーム機向けのパッケージソフトでは昔ほど実験的な作品に触れる機会は減ったかもしれないですね。
阿部:ええ。プレイステーションの発売当初は、結構変わったソフトも多かったじゃないですか。まぁ買ってプレイしてみるまで中身がわからないタイトルもあって、当然つまらないモノもあったんですけどね(苦笑)。それ含めてゲームだったというか、ギャンブル性があってよかったのかなと思います。
──昔は痛いゲームをつかんじゃった時や難しいゲームを買ってしまった時は、それをネタに友だちと集まって挑戦したりしましたよね(笑)。
阿部:やりましたよね(笑)。そういうことも含めて、ゲームの遊び方になっていた面もあると思いますよ。だから『コロぱた』も、あえて難しくしている部分があるんです。あの時点ではまだゲームの攻略本はなかったんですけど、多少難しくても遊んでいる人はインターネットを使って情報交換をしてくれると思っていたんです。実際その役目を、ネットの掲示板が果たしてくれていました。昔だったら友だちの家に集まって一緒に謎解きをしたりしたコミュニティが、ネット上に場を移して残っていますね。
▲クロフネゲームズが2011年春ごろに発売予定のドイツ製DSiウェア『エレメンタルマスターズ(仮)』。こちらはファンタジー世界を舞台にした、本格派のカードバトルゲームです。1人用のクエストモードの他に、友だちとの対戦モードも収録しているそうです。配信できるDSiウェアの容量をめいっぱい使っているそうで、15種類のマップと100体以上のクリーチャーを収録しているとのこと。 |
──クロフネゲームズでは、ローカライズには何人ぐらいの方がかかわってらっしゃるんでしょうか?
稲葉:『エレメンタルマスターズ(仮)』はそこそこの人数をさいていますが、『カラーズ』ぐらいの規模でしたら1~2人で十分ですね。人件費の面でもそうですが、デベロッパーとはSkypeやメールなどで打ち合わせをしてしまうので、あらゆる部分で制作コストは低めに抑えられていると思います。
──開発もできるし、ローカライズもできるしで、イイとこ取りですね。
阿部:ええ。ウチみたいな組み合わせで仕事ができる環境にない会社もありますので、そういうところはこの不況下に苦戦を強いられていると思います。海外とやりとりする際は通常は言葉が一番のカベになるわけですが、ウチの場合はナニカさんを通してすぐに連絡ができますから。
──ちなみに、クロフネゲームズとお付き合いのある海外のデベロッパーはどんな会社なんでしょうか?
稲葉:当然ですが小規模なところが多くて、政府の支援制度を受けて開発を行っているような会社もあります。政府の持つインキュベーション施設(起業を支援するために政府が用意している施設)を使わせてもらったり、資金的な援助を受けてゲーム制作を続けているんです。
そこのスタッフと話をすると、みんなゲームを作ることが本当に好きで働いているという気持ちがひしひしと伝わってきますね。たとえばスマートフォン向けには作らないの? と聞いたりすると、「僕たちは家庭用ゲーム機向けに作りたいんだ」とハッキリ言うんです。そんなもの作りたくない、と。コントローラを使ったゲーム制作にこだわっていて、作れるけどあえて作らないと答えるんですよね。もちろん収益も重要ですが、とにかく自分たちが何を作りたいかのビジョンを明確に持っている。これは、見習うべき点だと思っています。
──いい意味で同人制作っぽいですね。本当に好きで作っているといいますか。
稲葉:ええ。もし同人でゲームを作っている人が将来職業としてゲーム制作をしたいなと考えた場合、人材の受け皿が多いのは政府支援などがあるヨーロッパの方かもしれませんね。
──たとえば、国内で同人ゲームを制作されている人の中にメジャーデビューを目指している人がいた場合、クロフネゲームズがその手助けをするような可能性はあるんでしょうか?
阿部:はい。将来的にはその可能性もあると思います。もちろんどんなタイトルでもいいわけではないですし、なんでも受け付けているわけではないですけどね。ただ、昔のようにクリエイターがゲーム制作を生活の一部のように楽しんで作れるレベルまでゲーム制作を取り巻く環境を巻き戻したいという気持ちはありますね。まだウチにはそこまでの力はないので、地道に続けていくしかないと思います。
──今後国内のデベロッパーと組んで、海外でタイトルを発売するということもありえますか?
阿部:クロフネゲームズとしては、しばらくは海外のデベロッパーと組む予定です。ただ、ラックプラスとしてはすでに国内のデベロッパーと組んだ企画が進行していますよ。
──それは来年中に発表できそうですか?
阿部:そうですね。来年にはいけそうかなと。こちらは『コロぱた』とはまったく違うテイストのタイトルで、一部で人気のある内容のゲームになっています。詳細はまだ発表できませんが。
──今後、クロフネゲームズはパブリッシャーになっていくのですか?
稲葉:いえ。あくまでも海外ゲームをローカライズ販売する“レーベル”として活動するつもりです。今回の『カラーズ』ではフランスのデベロッパー・Exkeeとラックプラスをつなぎましたが、デベロッパーとパブリッシャーをつなぐレーベルとして、クロフネゲームズに参画いただけるパブリッシャーも増えてくれればと考えています。
阿部:僕らはクロフネゲームズが発売するちょっと変わったゲームに触れてもらうことで、ユーザーさんに海外の変なゲームや新しいゲームに触れる機会を提供していきたいんですね。僕も最初に『ウィザードリィ』や『ダンジョンマスター』で遊んだ時は、ものすごく驚きましたから。今の日本のユーザーさんにもそんな体験をしてもらいたいと考えています。
──今後はどんなタイトルを手がけていきたいですか?
阿部:既存のワクにはまらないゲームですね。そのゲーム自体が、新しいジャンルになるようだとなおいいと思っています。
稲葉:僕は、クロフネゲームズという名前がブランドになるようなタイトルを発売していきたいですね。クロフネゲームズが紹介しているなら日本にはないようなゲームだろう、と思われるようになることが目標です。
──本日はどうもありがとうございました。
インタビューの中でお2人がたびたび話題にされていたのが、昔と比べるとコンシューマゲームに小粒の海外ゲームが発売されなくなったということと、ダウンロード販売の可能性、小規模で成立するビジネスモデルについてでした。
在庫を抱えたり品切れを起こすリスクもなく、流通コストやパッケージの製造費を考えなくてもいいダウンロード販売は、中小の企業にとっては千載一遇のチャンスということですね。だからこそ、小粒の洋ゲーはこの販売方法が向いているのかもしれません。超大作はもちろんですけど、かつての『トージャム&アール』とか『ファーストサムライ』とか(笑)、「なんじゃこれは?」と思うヘンなゲームにも触れてみるのはゲーム体験の幅を広げるうえでもいいことだと思います。
現状、ダウンロード販売はコンシューマゲーム機よりもiPhoneを中心としたApp Storeに勢いがありますよね。とは言っても、コントローラを使ってしっかり遊べる作品は、やはりゲーム機のほうに分があるわけですから、今後クロフネゲームズさんのタイトルが充実してくることを期待しています。
(C)Exkee 2008-2010