2011年3月22日(火)
『FFIV ジ・アフターイヤーズ』の舞台は、『FFIV』のエンディングから十数年後。セシルとローザの間に生まれた少年・セオドアを中心に、再び“もう1つの月”とクリスタルをめぐる物語が展開されていくことになります。月の民を乗せて去っていったはずの“もう1つの月”が、なぜ今になってまた出現したのか? 時を同じくして魔物たちも動き出したのは、はたして偶然なのか? 不気味に鼓動するバブイルの塔。静かに輝きを放つクリスタル――。物語は序盤からただならぬ緊張感をともない、プレイヤーをグイグイとゲームへ引き込んでいきます。
物語は9つのショートシナリオと、それらをクリアすると進むことができる“真月編”の、合計10本のシナリオによって構成されています。真月編を除く各章は、セオドア編、ヤン編、カイン編といった具合に、各キャラクターにスポットを当てた内容となっており、それぞれの章を進めることで、断片的だった物語が少しずつ1本のラインで結ばれていき、真月編ではそれまでに育てたキャラクターが集結し、すべての謎が解ける――という流れになっています。
▲本作のために制作されたオープニングムービーは必見! ゲームクリア後に見るとまた違った感慨があります。 |
個々のシナリオはどれも2~3時間ほどで終わる短いものですが、そのぶんテンポがよく、数十分おきに訪れるヤマ場の連続に、プレイ中は終始「うおお!」とか「ここで終わるのおおおお!?」などと悶絶しっぱなし。セオドア編で仲間になる“謎の男”の正体が別の章で明らかになったり、ヤン編で起こっていたイベントの裏側をエッジ編で見ることができたりと、それぞれ独立していながらも密接に絡み合ったシナリオは、間違いなくシリーズ屈指の出来でしょう。もともとはケータイアプリの容量制限に収めるため、各章ごとに別アプリとして順次リリースする形を採ったのだと思いますが、“容量”という制約に屈せず、章立てにしたことでよりドラマチックなストーリーを実現したスタッフの努力には本当に頭が下がります。
それにしても、よりによってどのシナリオも「うわー、この先どうなっちゃうの!?」というところで“つづく”になるんですが、これ、リアルタイムで新シナリオがリリースされるのを待ちながら遊んでた人たちは楽しかっただろうなぁ……。
▲ピンチに陥ったセオドアを救う謎の男。その正体は終盤になってようやく明かされることになります。 |
リアルタイムでコマンドを入力していく“アクティブタイムバトル(ATB)”など、基本的なゲームシステムは、原典である『FFIV』を踏襲しています。加えて『FFIV ジ・アフターイヤーズ』だけの新システムとして、月の満ち欠けによって魔法や物理攻撃の威力が変わる“月齢”と、特定の仲間同士でコマンドを組み合わせて発動する“バンド技”が加わっています。
▲80種類もの組み合わせが存在する“バンド技”。組み合わせを想像し、見つける楽しさもあります。 |
個人的におもしろかったのは、シナリオによってパーティメンバーがガラッと変わる点。『FFIV』でも進行に応じて次々メンバーが入れ替わったけど、そんなレベルじゃない。1~2人くらいの少人数パーティは当たり前で、なんとか4~5人そろっても“回復役ナシ”とか“全員モンク”といった“変態”構成が多く、パーティバランスなんぞ知ったこっちゃねぇという潔さです。
で、かといってゲームバランスが破綻しているかというと全然そんなことはなくて、役割が片寄っている分、アイテムやアビリティの重要性がより高まり、バトルのおもしろさはむしろ飛躍的にアップしています。回復役ナシのパーティではポーションやいやしの杖が生命線になるし、ムダにアイテムを消費しないためにも黒魔法などによる速攻は非常に有効。今までのように、“たたかう”と“ケアル”だけあればいいや――といった戦い方は通用せず、かなり歯ごたえのある戦いが楽しめます。同じシステムなのに、パーティ編成が変わるだけでまったく別のゲームになってしまうあたり、『FFIV』の戦闘システムって、当時からかなり洗練されていたんだなぁ。
▲エッジ編では“エブラーナ四人衆”が仲間に。章によってパーティ編成が変わるため、戦略を切り替える必要があります。 |
また終章になると、これまでバラバラだったキャラクターが集結し、最大で20名以上ものメンバーから自由にパーティを編成できるように。キャラクターへの愛着で決めるもよし、アビリティやバンド技で決めるもよし。その気になれば女性オンリー、魔道士オンリー、ガチムチオンリーといったパーティ編成も可能なので、ぜひ自分だけのお気に入りメンバーで最終決戦に挑んでほしいです。『FFIV』では最終パーティは固定だったので、こういうサービスはうれしいですね。
▲各章クリア後に挑戦できる“チャレンジダンジョン”などのやり込み要素も。手に入れたアイテムは“真月編”に引き継ぐことができます。 |
『FFIV』のアフターストーリーということで、街やダンジョンのマップ、BGM、出現するモンスターなどは基本的に『FFIV』とほぼ同じ。中にはもしかすると、「使い回しじゃねえか!」と思う人もいるかもしれません。
でも遊んでみてわかったのは、スタッフがいかに『FFIV』という作品を愛し、大切に扱っているかということ。思わぬキャラが仲間になったり、懐かしいあの場所で意外なイベントが起こったり、やっぱりアイツは裏切ったりと、ファンなら思わずニヤリとしてしまうような『FFIV』ネタが満載。パロム編で仲間になるあの子が実は……とか、開発室があった場所が○○になっていたりとか、あのキャラの「いいですとも!」がまた聞けたりとか、よくもまあこれだけネタを詰め込んだものだと感心します。やっつけで作ったようなリメイク/続編も多い中、こんなにも愛のあるアフターストーリーを作ってもらえるなんて、『FFIV』はつくづく幸せなゲームです。
▲本当に『FFIV』が好きで好きでしょうがないファンが思わず作ってしまった、(いい意味で)二次創作ゲームのような手触り。 |
そして何よりうれしかったのは、“もう一度この世界に戻ってこられた”ということ。
正直に告白すると、実はケータイやWiiウェアで『FFIV ジ・アフターイヤーズ』がリリースされた当初、僕はすぐにプレイする気になれなかったんです。冒頭でも書いたけど、僕にとって『FFIV』は特別な存在。これまで何度もクリアし、何度となく“セシルやカインたちとの別れ”も経験しています。でも、だからこそ、安易な続編で大切な“別れ”の思い出が壊されるのが怖かった。いいかげんな続編を作るくらいなら、美しい思い出のままそっとしておいてほしい、とも思っていました。
でも、今回勇気を出して『FFIV ジ・アフターイヤーズ』を遊んでみて、それまで抱いていたネガティブなイメージは一気に吹き飛びました。なんでもっと早くこれを遊ばなかったんだろう! それはまぎれもなく『FFIV』の世界であり、そこにはかつて僕が救った街やキャラクターが、20年という(現実の)時間に隔てられながらも、そのままの姿で営みを続けていました。シドは相変わらず頑固だし、パロムは以前にも増して小憎らしく成長していました。セシルの息子・セオドア、ヤンの娘アーシュラ、ジオット王の娘ルカ――。新しい世代の息吹もあちこちから聞こえてきます。懐かしい音楽を聴きながら、かつてと同じ場所を歩いていると、なんとも言えない甘酸っぱい気持ちがこみ上げてきます。この世界にまた大いなる危機が迫りつつあることがわかり、「また俺の出番が来ちゃったか!」とニヤニヤしている自分もいました。一度自分の手で救った世界だからこそ、守ってやりたい思いもまた強いんですね。
これがもしいいかげんな続編だったら、とてもこんなふうに再会を喜ぶことはできなかったと思います。「世界に平和が訪れると、プレイヤーがその地を歩くことはもうない」なんて言ったけど、ごくひと握りの幸せなゲームに限って、そうじゃないケースもあります。すでにケータイアプリ版は450万ダウンロードを突破したといわれる『FFIV ジ・アフターイヤーズ』ですが、もっともっと多くの人がこの名作に触れてくれることを願って、このレビューを締めくくりたいと思います。(てっけん)
▲新旧の貴重なイラスト資料を閲覧できる“ギャラリーモード”の存在も、ファンにはうれしいところ。まさに『コンプリートコレクション』の名に恥じない充実ぶりです。 |
(C)2011 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
ILLUSTRATION / (C)2010 YOSHITAKA AMANO