2011年9月22日(木)
僕は今まで『リッジレーサー』というタイトルを通して、PS2、PSP、Xbox 360、PS3のローンチ開発に携わってきました。このローンチ開発というのは、未知のハードと対話していくことに独特のおもしろさがあります。ハードメーカーの方々と会話したり、資料を読んだり、実際に開発機に触っていきながら、このハードってなんだろう? このハードはどういう世界を作りたいんだろう? そこで僕らは何ができるだろう? って考え、探り、理解していくおもしろさがあります。中でも、ハードの“名前”は重要なカギの1つです。
ご存じの通り、PS Vitaは以前“NGP”と呼ばれていました。正直にいって、当時の僕は、まだその名前にはピンときていませんでした。NEXT GENERATION PORTABLE=次世代のポータブル。意味はわかるけれども、そこに強い思いは感じられなかった。
けれど、今年のE3のカンファレンスで発表された正式名称は“NGP”でも、それこそ“PSP2”でもなく、“PS Vita”でした。SCEの平井さんからもVitaは“人生”という意味だ、という説明がありました。VitaにかけるSCEの、開発者の思いを感じ、おもしろいと思いました。
ここからは僕の妄想ですが、PS Vitaって、プレイヤーの人生にかかわろうとする初めてのハードだと思います。ゲーム機でありながら、その人の人生の時間、生活、友だち関係に溶け込んでくるようなハードなんじゃないか。そう考えると、PS Vitaに搭載されたさまざまな機能の意味が、有機的につながってくるんです。
例えば、通信機能について。今までのゲームの通信……通信対戦とか、ランキングとかって、基本的に同じソフトを持って同じゲームをプレイしている人同士が通信するっていう意味でした。PS Vitaは、こうした従来のゲーム内通信ができるだけでなく、個別のタイトルを越えた共有もできちゃうハードなんですよね。
もちろん今までのハードでも、インターネットでランキングが公開されたり、トロフィー情報がFacebookに連携したりっていう取り組みは今までのハードでもあったわけですけど、PS Vitaでは本体機能の“Near”を通じて、それがほぼリアルタイムにいつでもどこでも、周りにいる他のプレイヤーが何を遊んでいるのかがわかるわけです。周囲のプレイヤーの存在を感じながら一緒に個別のタイトルを越えて、大きな意味でみんなで“ゲームを遊ぶ”。そんな楽しさを提供してくれるんじゃないかって思いました。
また、PS Vitaで一番目立つ特徴である“有機ELディスプレイ”は、その色彩の美しさだけでなく、視野角の広さが特徴です。この視野角が広いということは、例えば机の上にVitaを置いた時、周りに集まったみんなで同じ画面、同じ美しさを一緒に楽しめるっていう意味です。すでに僕らも開発チームの会議で体験していますが、Vitaを1つぐるっと5~6人で囲んで話ができるんです。しかも携帯機だから、いつでもどこでも、それこそ友だちと集まった飲み屋のテーブルでも、一緒に楽しむことができます。極端にいえば、ゲームを持ってない人、PS Vitaを持ってない人とも、ゲームが楽しめちゃうハードなんですよね。
そしてPS Vitaには、ゲーム以外にも、TwitterやFacebookを楽しんだり、動画を見たり、さまざまな機能があります。これは単に“多機能だ”というだけでなく、プレイヤーひとりひとりの人生にいつでもどこでも一緒にいられて、いろんな“やりたいこと”に応えられる懐の深さだと思うんですよね。多機能だからこそ、いつでも一緒にいられる。
NGPでもPSP2でもなく、“Vita”という名前の新ハードは、今までのように1が10になったり100になったりするような数直線上の進化ではなく、みんなの人生に溶け込む、みんなの生活の中にゲームを置き直す、そんな質的な変化を目指したハードだと僕は考えています。僕はそんなPS Vitaが作り出すゲームの世界に、すごくわくわくしています。
(C)NAMCO BANDAI Games Inc.
※画面は開発中のもの。
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