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2012年7月18日(水)

『ガンパレ』の芝村裕吏がブラウザゲーム業界を斬る! 脱線ありの『ガン・ブラッド・デイズ』しゃべくりインタビュー(前編)

文:電撃オンライン

――シナリオに芝村さんを起用されることになった経緯をお聞かせください。

上町:日本内戦、軍事SFというテーマが決まった時点で、本作はゲームだけでなく小説でも展開したいと考えておりました。軍事SFでゲームシナリオも小説も書ける方となると、世界的に見てもトム=クランシーさんか芝村さんくらいしか思い当たらないです(笑)。

 それに、今回の企画を作るにあたって、いろいろな業界の方にご意見を伺ったところ、各所から「こういった作品でシナリオをやるなら芝村さんだよ」というお墨付きもいただいた経緯があります。それなら間違いないだろうと熱烈オファーをさせていただいた次第です。

芝村:裏で推そうとする動きがいくつもあったことは、俺自身はまったく知らなかったんですけどね(笑)。じつは、アスキー・メディアワークスの某編集者Eさんといつもの安い居酒屋で飲んでいた時に、このお仕事の話を紹介されたんです。最初は「ブラウザゲームで設定を書かない?」みたいな話で、小説の話なんて微塵も聞いてなかったんです。

 ブラウザゲームが盛り上がってることは知っていましたけど、コンシューマーゲームに20年近くかかわってきた人間に、ある日ブラウザゲームの設定をやってと言われたら、誰でも躊躇すると思いますよ。そもそもコンシューマーゲームとブラウザゲームってビジネスモデルが全然違うじゃないですか。

 俺は“課金ビジネス”は経験がないので、なかなか難しいんじゃないかなと思ってたら、某編集者Eさんが「大丈夫。新しいチャレンジをすればいいんだよ」って、無責任に笑顔で言うわけですよ。しかも、やっすい飲み屋の席で!

 そこまで言うんだったら話だけでも聞いてみようかと思い、開発会社に行ったらアルファシステム時代の知り合いが手を振っていて。「あ~、もうダメだ。観念しよう」って(笑)。

 フリーになって「やった! 俺はもう自由だ!」とか考えていたところに、過去の亡霊が現れて「元気~?」って。思わず平身低頭で「頑張らせていただきます…!」って言ってしまいましたね。まるで漫画みたいな展開で笑うしかありませんでした(笑)。

――なるほど(笑)。初めてのブラウザゲーム制作はいかがでしたか?

芝村:俺もブラウザゲームの勉強はそれなりにやっていましたが、ブラウザゲームって今までのMMORPGの歴史をすごい凝縮したかのような発展と衰退をしているんですよ。

 MMORPGが初めて出現して、それこそ俺たちが『ウルティマオンライン』で一生懸命に城を作ったり、羊を飼ったりしていたような時代から、レベルを上げて転生するような時代がやってきたころには、ゲームがどんどん複雑化していって。そうなればなるほど、俺たちにとってはおもしろいんだけど、複雑化しすぎてついていけないユーザーが出てきて、ゲームが尖っていく反面、売り上げは落ちていくように見えました。

 一方、ブラウザゲームが勢いを増していたころ、『サンシャイン牧場』を遊びました。「あ、簡単なゲームだなー」とか「たまに水をあげるだけでいいなんて素晴らしいじゃないか」と。「これをみんなが遊びたがるのはよくわかる」と思っていたら、あっという間に複雑になりすぎてビックリしましたけどね。

 その後、ブラウザゲームが下り坂に入ったタイミングで、『ガン・ブラッド・デイズ』の話が来たんです。新しいお客さんや出会いができそうなアプローチの仕方だったんですね。何の作戦もなく突撃するのは好きじゃないんで、明確なビジョン――例えば俺を起用するにしても、ちゃんとした前段階があってこういう形にしましょうというビジョンがあれば「喜んでやらせていただきます」ということにもなりますよ、それは。

 尖ったゲームで一部のユーザー層をターゲットにするんじゃなくて、もう少し平べったい受け方のできるゲームがあった方がいいと思いまして。俺自身、ブラウザゲームの限界が来ているとは思ってないんですが、あまりフックがないというか。我々自身がもっとフックを作ったり、お客さんにアピールしないとダメなんじゃないかな、と。

――「日本の内戦」というテーマはブラウザゲームでは珍しいですが、舞台を国内にした理由をお聞かせいただけますでしょうか。

芝村:言ってしまえば、世界より日本の方がなじみ深いからですね(笑)。先行体験での例を挙げると、秋田出身の子が「地元がセイバーに蹂躙されているのが許せないから、寝ずにプレイする!」と一念発起していて、その人のツイートを見た無関係の秋田の人が「がんばれー秋田ー!」って応援しているんですよ(笑)。

 こういうのが“身近なことによるメリット”でしょうね。本作では、俺が個人的に「日本の内戦を描きたい」ということよりも、「秋田は大変だよね~」みたいなローカル感を出しておもしろくできればいいな、と思っています。身近なネタは口コミとかで広まりやすいですし、これをきっかけに新しいプレイヤーさんが入ってきてくれたらうれしいです。

――なるほど。SNSのように活用して、郷土愛を持つ人たちで集まってほしい、ということでしょうか。

芝村:そうですね。

上町:本作でこだわっているポイントの1つが“陣営としての固まり”なんです。まずセイバー、オルトロスという所属陣営があって、そこから都道府県という集合体があります。私は大阪出身ですが、「大阪は他の陣営には渡さねぇ!」という風に、さらに小さなコミュニティを作って楽しんでほしいですね。

――そうした地域ごとのコミュニティは、ゲーム内で作っていくのでしょうか?

上町:はい。正式サービスではギルドも作れるようになりますので、都道府県だけにとらわれず、さまざまなコミュニティを作ってもらうのもいいと思います。

芝村:「芝村のことだから(出身地の)熊本にいるに違いない!」っていう噂が流れたり、他にも事実無根の噂が流れ始めて、「桝田省治氏さんの『俺の屍を越えていけ』にちなんで京都にいるに違いないから、京都を攻めろ」とか、おもしろいプレイヤーも多いですしね。一方で俺は、京都が火の海になっているのを見ながら「馬鹿め、俺は北海道だわ」なんてニヤリと笑いながらゲームしていました(笑)。

――そのうち「芝村さんを討伐しろ」といったイベントが実装されたらおもしろそうですね(笑)

芝村:おもしろがってくれるユーザーはいると思います(笑)。あの盛り上がりを見ていると、俺が作ったシナリオよりもおもしろそうな感じがするので、それはそれでちょっとイラッとするかもしれません(笑)。

 でもユーザーが自由に新しい遊び方を作り出すのは、『ガン・ブラッド・デイズ』という遊び場を提供した側としては鼻が高いという部分もあります。それはそれで「俺らの勝ちじゃね?」みたいな感覚はありましたね。

――そもそもファンタジーものが多い中での現代モノを選んだ理由というのはどこにあるのでしょうか?

上町:やはり“取っ掛かり”を重視したというところですね。遠い異国の話だったり、架空の話だったり、魔法の世界での話だったりするよりも、ユーザーさんがすんなり物語に入っていけますし。

芝村:そのこだわりは実際にゲーム内に使われているカードにも反映されています。ロボットとか戦車ではなく人(キャラクター)が中心になっているのも、そのためですね。

上町:小説の方でもメカなどに走ってしまうと、やっぱり現実離れしてしまうと思ったので、キャラクター中心になっています。

芝村:最初のオファーの時も「なるべく超兵器は出さないでください」という話がありました。「ここまでなら架空兵器もOKですが、なるべく白兵戦にしてください」と言われて。「地味だけどいいの?」と質問をした時に「なるべく身近な感じが欲しいので」という回答をいただいて、なるほどと思いましたね。

――それほどのこだわりがあると、武器も現実世界の銃なのでしょうか?

上町:ベースとしてお願いしているのは、現用の武器や、理論上確立されていて研究段階にある技術を用いた武器ですね。小説の中でもそこまで突拍子もない技術の武器は登場しないはずです。

『ガン・ブラッド・デイズ』 『ガン・ブラッド・デイズ』 『ガン・ブラッド・デイズ』
▲キャラクターはもちろん、精巧を極める銃のイラストにも注目だ。

――二足歩行型のロボットとかは……?

芝村:基本的には出てきませんね。

上町:小説でも少しだけ触れていますが特徴的な多脚戦車であったり、歩兵用のパワードスーツは存在しますね。それらは主力兵装というわけではなく、あくまで支援が役割です。

芝村:陸上自衛隊の兵器内訳を見ても、戦車が主力になったことは国軍始まって以来一度もないわけで。相変わらず“普通科”と書かれた歩兵が主力でしかないので、そこは忘れないようにしようね、というのが開発でのルールですね。

→次のページでは3つの陣営や気になるポイントに迫る!(3ページ目へ)

(C) CAVE Interactive CO.,LTD. developed by Vanguard CO.,LTD

データ

▼『ガン・ブラッド・デイズ』
■発行:アスキー・メディアワークス
■著:芝村裕吏
■イラスト:kyo
■発売日:2012年7月10日
■定価:630円(税込)
 
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Amazon.co.jp
▼『ガン・ブラッド・デイズ』
■運営:ケイブ
■対応機種:PC(対応ブラウザ:Internet Explorer7以降、Firefox3.0以降、Google Chrome)
■ジャンル:SLG(オンライン専用)
■サービス開始時期:2012年夏予定
■プレイ料金:無料(アイテム課金)

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