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2013年12月12日(木)

『コード・オブ・ジョーカー』特別掌編の第6話のメインキャラは黒野時矢――天才ハッカーの趣味は天体観測!?

文:電撃オンライン

 セガが放つ話題のアーケードゲーム『CODE OF JOKER(コード・オブ・ジョーカー)』。本作の特別掌編の第6話を掲載する。

 『コード・オブ・ジョーカー』は、ゲームで使用するカードがすべてデジタル化された思考型デジタルトレーディングカードゲーム。プレイヤーは自分の戦術に合わせてデッキを組み、1VS1で交互に攻守交代をするターン制バトルを繰り広げていく。相手のライフをゼロにするか、もしくはライフが多く残っていれば勝利となる。

 『コード・オブ・ジョーカー』の小説を執筆しているのは、『ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー』で第18回電撃小説大賞銀賞を受賞した、三河ごーすと先生。小説は全7話の構成で、電撃オンライン内特集ページにて順次掲載されていく。

『コード・オブ・ジョーカー』

 特別掌編の第6話“孤高の天才”で注目するのは、少年・黒野時矢。小説内では、天才ハッカーである彼の意外な一面が描かれている。以下でお届けするので、ゲームファンや三河ごーすと先生のファンはチェックしてほしい。


『コード・オブ・ジョーカー』

●黒野時矢(声:岡本信彦)

 天才ハッカーとして、数々の功績を残した少年。過去に何か秘密があるらしく、エージェントたちが活動する電脳空間“ARCANA”に関係しているらしい……。


 黒羽色の絨毯が敷かれたような空に無数の星が煌々と輝いている。

 雲はない。大気の澱みさえなく、何にも遮られることのない星空がそこにある。それは虚構ゆえに純粋。デジタルの存在だからこそ長い年月を経ても朽ちることなく有り続けるだろう。たとえば千年の孤独を生きる者がいたとして、常に変わらぬ星の瞬きはその人物の目にどう映るのだろうか。

 電脳空間ARCANA内のとあるビルの屋上。

 緋神仁は欄干にもたれかかったまま、目の前にいる小柄な少年の挙動をじっと眺めていた。半袖の服と膝下くらいまでの丈のズボン、動きやすそうなスニーカーを履き、頭には十字架をモチーフにした帽子を深くかぶっている。服の色のせいか全体的に黒い印象の少年だ。

 仁は国家情報防衛局直下、ASTという組織のエージェントだ。ARCANAで起こる様々な問題を解決し、犯罪行為を取り締まる、世間からは秘匿されている存在である。

 今日も仁はリバースデビルという犯罪組織の構成員を倒したばかりだった。任務を終えてログアウトしようとしたとき、ふいに建物の上に人影を見て、ここまでやってきた。不測の事態で電脳空間に取り込まれた者がいれば、それを救助するのもエージェントの仕事だからだ。

 しかし屋上にいた少年はどうやらそういった者とは違うらしい。彼は黙々と天体望遠鏡をセッティングしていた。仁のことには気づいているらしいが、ちらりと一瞥しただけで、あとは完全に無視である。

 仁が黙って見続けることにしたのは、少年の存在そのものに興味をそそられたからだ。電脳空間に干渉する犯罪者である可能性も捨てきれないが、なんとなくそれは違う気がした。根拠はない。直感だ。

 さっきの詩的な発想は少年の超然とした存在感が、西洋の吸血鬼のような神秘性を彷彿とさせたために浮かんだものだった。

「あのさ。いつまでそこにいんの? うざいんだけど」

 ふと少年が振り返って、小生意気そうな声でそう言った。

 表情ひとつ変えることなく仁は軽く肩をすくめる。

「一般人なら保護。犯罪者なら排除だ。お前はどっちだ?」

「は?」

 少年は何を言われたのか心底理解できないというように目と口を大きく開けた。それからすぐに小馬鹿にするように鼻をふんと鳴らす。

「俺、エージェントなんですけど。もしかしてエージェント黒野時矢を知らないわけじゃないよね?」

「エージェント? 嘘つけ。国家情報防衛局のビルでお前みたいなガキは見たことないぜ。黒野時矢なんて名前も綾花にもらった所属エージェントの一覧に載ってなかったはずだ」

「当然なんですけど。だってそれ、新規に集めたエージェントの情報しか載ってないし」

「なら、お前は軍司のおっさんよりも古株だってのか? ……冗談も大概にしろ」

「まあいーけど。いちいち説明すんのもだるいし」

 仁は声を低くするが、時矢はそれをさらりと流して、望遠鏡のほうに向きなおった。そのままふたたび望遠鏡の調整を再開しようとして、その手をふいに止めた。顔だけで仁を振り向き、蒼い双眸をきつく細める。

「一応確認しとくけどさ、エージェントと知った上で俺とヤろうって考えてる?」

 凄みを利かせた声で時矢は言う。彼の体には淡い光が集っていた。周囲を取り巻くのは、半透明の小さなカードだ。ホログラムのように曖昧な存在感をまとったカードが、数十枚、まばらに浮かんでいる。

 プログラムカード。エージェントが電脳空間内で超常の力を行使するためのツールだ。時矢の蒼穹に彩られた闘気が漂う。彼の脳波を察知した電脳空間が視覚的なエフェクトを付与したのだろう。

「たまにいるんだよね。仕事の利害がぶつかったり、単純に気に入らなかったり……馬鹿みたいな理由で喧嘩ふっかけてくるエージェントがさ。あんたも馬鹿の一人じゃないの?」

「荒ぶるなよ、ガキ」

 仁は内心の感情を押し殺して、つとめて冷静に言い返した。

「ぶちのめしてやりたいほど憎たらしいと思ってるが、俺は無駄なことをする主義じゃないんだよ。仕事で必要なら喜んでぶちのめすけどな」

 両腕を無防備に左右にひろげて敵意がないことを示す。プログラムカードの展開もしていない。まじまじと見つめていた時矢だったが、やがて臨戦態勢を解いて肩の力を抜いた。

「ふうん。あんた、意外とやるじゃん。一瞬だけキレかけてたけど、そこで抑えられるんなら大したモンだよ」

 上から目線の口調でそう言うと時矢は今度こそ天体望遠鏡に向き直って作業を再開した。仁も言いたいことがないではなかったが、すぐに興味は時矢の行動へと移った。

「電脳空間にも望遠鏡なんてアイテムがあるんだな。街は一昔前の東京を再現してるが、細かいオブジェクトに関しては行き届いてないように見えたんだが」

 ARCANAはかつてある大企業が“人類の第二の生活空間”を謳って設計を始めたという。そのため電脳空間は当時の現実世界のほぼ完全なコピーである。しかし計画はサイバーテロによって頓挫。生活空間として応用できる水準には達していないままに放置される運びとなった。

 時矢はうっとうしげに仁を見て、やれやれと首を振る。

「ないよ。おにーさんの言うとおり」

「じゃあその望遠鏡はなんなんだ? プログラムカードの効果……じゃないよな」

「あのさぁ。方法はいくらでもあるだろ。自分で作るとかさ」

 当然のような口調で時矢が言う。

 それに対して仁は素直に驚いた。

「そんなことができるのか?」

「俺を誰だと思ってんの? ……って、ああ、知らなかったんだっけ、俺のこと」

 呆れたようにため息をついて、時矢は足元を指さした。

「ビルん中に視聴覚室があるんだよ。そこのパソコンからARCANAの制御システムに干渉してコードを書き換えてやれば一発。これぐらいの大きさの物を作るプログラムなら、猿でも書けるよ」

「お前ホントに口悪いな……まあでもプログラミングの腕は本物ってことか。その能力を買われてエージェントになったのか?」

「さーてね」

 時矢は肩をすくめておどけてみせると、ふたたび仁を拒絶するように顔をそむけた。斜に構えたいけすかないガキだ、と仁は思う。しかし望遠鏡の筒やレンズの細部を丁寧に手入れする真剣な横顔はまた違った印象を仁に抱かせた。

次のページに続く!

Illustration:Production I.G
(C)SEGA

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データ

▼『CODE OF JOKER(コード・オブ・ジョーカー)』
■メーカー:セガ
■対応機種:AC
■ジャンル:ETC
■稼働開始日:2013年7月11日

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