2014年3月24日(月)
MAGES.のゲーム&音楽ブランド5pb.から、4月10日に発売されるPS3/PS Vita用ADV『俺たちに翼はない』。電撃オンラインで展開している特集企画として、本作のシナリオの1つ・羽田鷹志編の紹介とレビューをお届けします!
『俺たちに翼はない』は、2009年に美少女ゲームブランドのNavelから発売された人気アドベンチャーゲームです。今回のコンシューマ版は、新規ルートを追加した原作リニューアル版『俺たちに翼はないR』をベースに制作されたもので、新たに『俺たちに翼はない~Prelude~』に登場したヒロイン・林田美咲のシナリオが収録されています。
▲コンシューマ版で追加された新規イベントCG。 |
人気作『それは舞い散る桜のように』を手掛けた王雀孫さんや西又葵さんの新作だけに、オリジナル版は発売前からかなりの話題となっていて、発表から発売までにかかった期間の長さでも注目を集めました(笑)。発売までに時間はかかりましたが、そのシナリオは数年間待った甲斐があるものだったことを強く覚えています。
当時、僕は引っ越しのアルバイトをしていて、その日の日当で1日1本の美少女ゲームを買っていました。引っ越しのアルバイトはとてもつらく、丸1日の苦行の果てに稼いだお金を一瞬で失ってしまうことには若干の虚しさを感じていたわけですが、プレイを始めた『俺たちに翼はない』のあまりの名作っぷりに、そんな些末なことは忘れてしまったわけです。ちなみに、その後しばらくバイトを休みました。
▲システムとしてシーンスキップが搭載されているので、周回プレイは簡単。右上のアイコンで登場キャラがわかるところが便利です。ちなみに、コンシューマ版のセーブスロットはクイックセーブ含めて60あるので、足りなくなることはありません。 |
ゲームをプレイすると理解できるタイトルの“俺たちに翼はない”に込められた意味やテーマ、複数人の主人公の運命が絡み合う群像劇ということもあって、恋愛を主とした美少女ゲームというよりも、人間ドラマ色の強い物語だと思います。ステレオタイプな美少女ゲームヒロインが少ない印象で、どこか冷めた人間関係やそれぞれが持つ表には出さない悲しみなど、妙に描写がリアルなところも特徴です。
『俺たちに翼はない』の物語は複数人の主人公を擁する群像劇で、それぞれの主人公には固有の攻略ヒロインが存在します。物語は“羽田鷹志編”→“千歳鷲介編”→“成田隼人編”の順番に進み、それぞれのルートで立てたフラグの結果によって、最終ルートの主人公と攻略ヒロインが決まるシナリオ構造となっています。
▲羽田鷹志編 | ▲千歳鷲介編 | ▲成田隼人編 |
このゲームのすごいところの1つは、ADVの基本概念である“フラグ”を単なるルート分岐に使うのではなく、物語の根幹と密接に絡めているところ。詳しく説明するとものすごいネタバレになってしまうので割愛しますが、プレイヤーが選択肢を選んだことによって生まれた結果=ルートには、納得できる“意味”が込めれているのです。
▲1つの話題が終わるタイミングで、“バンッ!”というSEとともに場面が転換する演出は独特。最初は面を食らうと思いますが、プレイしていくうちに場面と一緒にプレイヤーの気持ちも瞬時に切り替わるので、物語の途中でダレにくくなっている気がします。 |
この物語には、プレイヤーの主観においては誰もが幸せになる完全なハッピーエンドが存在しません。自分が選ばなかった選択の結果が付きつけられるシナリオなので、物語を読み進めるほどに胸に“くる”ものがあると思います。
しかし、選択肢を選んだことによって生まれた“ささやかな幸せ”を見た時に、チクリとする切なさと確かな満足感を得られるでしょう。エンディングで号泣する、ものすごく感動するというよりは、微笑みながらホロリと涙が流れるような深みのある物語ですね。今回紹介する鷹志編のラストなどが顕著です。
主人公:羽田鷹志(声:下野紘)
羽田鷹志編の主人公。受験を間近に控えた学園の3年生で、クラス内カーストの下層にいるような男の子です。1年生の時に軽いイジメにあっていて、冗談で学園のプリンセス・渡来明日香のことが好きだと本人に言いふらされてしまうのですが、結果はOKの返事。その実態は、男よけとしての仮面の恋人関係でした。
悪意に鈍感で、常に“誰かの役に立ちたい”と考えているとてもいい子なんですが、その思いとどこか外れた言動が周囲の悪意を助長し、孤立しています。もうすぐこの世界からいなくなると考えていて、消える前の心残りを“残務処理”としてケータイにメモし、それらの達成を目指して学園生活を送っています。
▲コミカルな部分が目立ちますが、全編を通して生きる過程での悲しみが描かれている作品です。 |
メインヒロイン:渡来明日香(声:吉田真弓)
鷹志の仮面彼女で学園のプリンセス。明るく社交的で人気者ですが、実は人間嫌いで友だちは少なめ。どこか冷めていて、真剣な言葉の後には心の中で「なーんちゃって」と付け足さないとやっていられないという斜に構えた性格の持ち主です。冷めた明日香が時折見せる照れた表情は破壊力があります! イチオシのヒロインです。
難攻不落のプリンセスである彼女が、なぜ鷹志と付き合うふりをしているのか? 仮面彼女と言いつつも、鷹志に目をかけている理由はなんなのか? その辺りの事実と行動、物語後半の鷹志への態度が見どころですね。ちなみに『Prelude』の明日香シナリオは、本編の先と後、どちらのタイミングでも楽しめる物語となっています。
▲あこがれのプリンセスといちゃこら。個別ルートでの2人の絶妙な距離感が好きです。 |
サブヒロイン:山科京(声:高口幸子)
鷹志のクラスメイト。体が弱く、体調がいい時にしか学校に来ないので、クラスでの存在感は希薄。その時の精神状態によって、物静かで落ち着いたニュートラルな京、何事も悲観的に受け取って自分に価値がないと考える京、言葉が次から次へとあふれてくる別人のようなアッパーな京と、3タイプの京へと切り替わります。とてもおもしろいキャラなんですが……重い。個別ルートの展開には変な汗が出てきます(笑)。
▲彼女とうまく付き合えるのは鷹志しかいないでしょう。ぜひ、一度バッドエンドを見てほしいヒロインです。 |
新ヒロイン:林田美咲(声:岡嶋妙)
コンシューマ版で追加された新シナリオの攻略ヒロインで、本作の目玉! 本編発売前の『Prelude』でメインヒロインとして登場しましたが、その後発売された本編ではなぜかモブでした(笑)。スピンオフ作品の『AfterStory』で登場したこともあって、『俺たちに翼はないR』でのヒロイン昇格を期待していたのですが……結果は、他のサブヒロインのルートが追加というものでした。
恋に恋をしているような少女で、鷹志をストー……常に見守っています。明日香と恋人(仮面)関係と知って、自分では彼女にはかなわないと2年間ストー……片思い状態を続けていました。彼女をひと言で言い表すと、“萌えキャラ”。鷹志が好きなゲームに登場するような女の子なので、そんな彼女と鷹志が出会ったら、さて、どうなるのでしょうか?
▲針生蔵人(声:川原慶久)……鷹志のクラスメイト。留年生。クラスの誰にも媚びず交わらない孤高の人ですが、明日香とは何やら関係がある様子。 | ▲高内昌子(声:小松由佳)……鷹志のクラスメイトで女子のリーダー的存在。自分のことを「あーし」と話す口が悪いギャル系で、鷹志に強く当たることが多いキャラです。しかしそれにはとある理由が。 |
鷹志編の特徴は、ほぼ鷹志の家と学園、そして鷹志の前世である聖騎士ホーク・シアンブルーが活躍する異世界“グレタガルド”で展開すること。ゲーム開始直後に突然、剣と魔法のファンタジーADVが始まったものですから、発売当時にプレイした人は戸惑ったことでしょう(笑)。
▲プリンセス・アスカや騎士ペガサスなど、クラスメイトに似たキャラが多数登場するグレタガルド編。時折見られる綻びのようなものに注目です。 |
鷹志は自分が真に存在すべきは異世界のグレタガルドだと考えていて、“ある条件下”で現実世界から異世界へと召喚されてしまいます。召喚後は、皆に慕われる無敵の戦士として、そしてプリンセス・アスカの想い人であるホーク卿として、敵との戦いで大活躍を見せます。
登場人物の姿が現実世界と同じだったり、ホークの必殺技が“縦横微塵切り”という変な名前だったり、多数登場する人物たちの名前がどんどんテキトーになっていったり、ご都合シナリオだったりと、その展開はどこかチープ。あえて簡単な答えにプレイヤーを誘導させつつ、次の鷲介編でさらなる真実の一端を見せるという構成が素晴らしいです。
▲このシーンだけでなく、『俺たちに翼はない』ではメッセージウインドウの名前欄をよく見てほしいです。おもしろい名前がたくさん登場します。 |
▲ファンタジー世界なのでこんなことも。ちょっぴりエッチなシーンもいくつかありますよ。 |
序盤のストーリーでありながら、ホークたち普通の人間と“翼人兵”と呼ばれる羽を持った敵との戦いを描くグレタガルド編は、『俺たちに翼はない』というタイトルに込められたテーマにも触れる内容ですので、冒頭から気が抜けません。
個人的に鷹志編で一番好きなエピソードが、イケメンクールガイ・針生くんの変貌です。知的好奇心が旺盛で、常に新しい知識、新しい世界を探している針生くん。そんな彼に、鷹志はギャルゲーをおすすめします。「恋愛シミュレーションなんてとっくに極めた」と語る針生くんですが……数日後、そこには『SHUFFLE!』(2004年/Navel)にドハマりし、萌えを熱く語る針生くんの姿が!?(笑)
▲私男だけど、針生くんと仲よくなっていく過程はとても楽しいです。攻略したい(笑)。 |
学園ではオタクであることを隠したい鷹志と、ギャルゲーについて語りたくてしょうがない針生くんのやり取りは和みます。これまでの展開が重かっただけに余計に。原作だとエ○ゲーの話もするのですが、レーティングの関係でBLゲームの話になっているところも別のおもしろさがありました。
ちなみに、林田美咲ルートでは『艦○れ』らしきゲームにハマる針生くんの姿や、好きな人を前にした時の普段とまったくキャラが違う好青年バージョンの針生くんが見られます。こちらもオススメ!
▲この画像ではまだ冷静ですが、シーンによってはかなり熱く萌えを語る針生くんを見られます。 |
コンシューマ版『俺たちに翼はない』では、鷹志編のノーマルエンド部分から林田美咲ルートに入ることができます。絶望に打ちひしがれた鷹志が、目を閉じかけたところに現れる救いの主・林田美咲。このシーンは本当に痺れます。
▲原作では絶望しかなかったシーンに救いの女神が。ここから物語が大きく動き出します。 |
そこから始まる少女漫画のような恋をする林田と、萌えキャラ・林田のおかげで変わっていく鷹志の物語が描かれると思いきや……物語はそう簡単には運びません。明日香、京、針生くん、さらには鷲介と鷲介に関係する人たちまで登場し、どんどんと深刻な状況に陥っていきます。
▲林田との出会いをきっかけに、会うはずのない人たちと知り合っていくことに。 |
鷹志ノーマルエンドは明日香たちとの関係がだいぶ進んだ後なので、そこから林田ルートに入る展開はかなりの痛みをともないます。京ルートと違って、林田ルートでは明日香の苦悩や心情が事細かに描かれるので、明日香ファンにとっては苦しい展開かもしれません。ですが、未来を感じさせるエンディングを迎えた時には、明日香ファンもきっと満足できるんじゃないかと思います! 僕もそうでしたから!! あとは鷲介と鷲介編ヒロイン・玉泉日和子のラストシーンには泣かされます。最後の鷲介の叫びは必見です。
▲カケルくんと鷲介との関係にも注目です。 |
林田ルートでは、高内さんと鷹志の関係も少しだけ語られます。2人の過去の出会いと再会、どんな心情で3年間過ごしたのか。その想いのキレイな決着……。テキストとしては少ないですが、見たかったものの一端に触れることができてうれしい反面、やっぱり個別ルートが欲しいという思いも強くなりました。移植用の蛇足なんて言わず、機会があればぜひ追加をお願いしたいところです。
▲高内さんがかわいいところも林田ルートの魅力。 | ▲メタ発言も(笑)。もう一回移植とかしないですかね? |
林田ルートは2時間くらいで終わるだろうと踏んでいたのですが、クリアまでに4時間くらいかかりました。結構なボリュームではないでしょうか? 僕はテキストを読むのが早いので、遅い人だと1.5~2倍はかかるかもしれませんね。
▲どのシナリオでも狩男さんは場を和ませてくれます。 |
テキスト量の多さでも有名な『俺たちに翼はない』ですが、今回のコンシューマ版でさらにプレイ時間が増えました。シナリオがおもしろく、長く物語を読んでいたい人には特にオススメです。シナリオ系ゲームとしては上から数えたほうが断然早い名作ADVですので、まだプレイしていない人にはぜひプレイしてほしいです。
以上、鷹志編レビューでした。それでは、次回の“千歳鷲介編”レビューでまたお会いしましょう! 世界が平和でありますように。
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