News

2014年6月27日(金)

『CROSS†CHANNEL』田中ロミオ氏インタビュー。今後は「ノベルではない純然たるゲーム作品にかかわってみたい」

文:ごえモン

 MAGES.のゲーム&音楽ブランド5pb.から6月26日に発売されたPS3/PS Vita用ADV『CROSS†CHANNEL ~For all people~(クロスチャンネル フォー・オール・ピープル)』。その特集企画最終回では、シナリオライター・田中ロミオ氏のインタビューをお届けする。

『クロスチャンネル』PS3版通常版パッケージ 『クロスチャンネル』PS Vita版初回限定版パッケージ

 記事では、2003年に発売されたPC版の制作経緯やコンシューマ版などについて伺っている。その他にも、シナリオライターになった経緯や今後の作品など、田中ロミオ氏ご自身についても話していただいた。

■「作っている最中はあまり“ループもの”という意識はなかったような気がします」

――まずはPC版『CROSS†CHANNEL』の制作経緯とコンセプトを教えてください。

 学園ものという枠で1本企画を作った際、俗に言う“セカイ系”っぽい作品にしてみよう、という意図だったとかすかに記憶してます。

――本作をループものの最高峰と評価する人も多いのですが、もともとループものがお好きだったのでしょうか? 影響を受けたループものはありますか?

 作っている最中はあまり“ループもの”という意識はなかったような気がします。重要なギミックの1つではありましたが。もともと特別に好きなジャンルというわけではなかったので、企画を立ててから触れた作品のほうが多いくらいです。以前から知っていたものというと『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』や小説の『リプレイ』あたりがあったくらいでしょうか。ゲームでは『パンドラの夢』という先行作品もありましたね。SFでループものの短編などもいくつかあったはずですが、題名は覚えていません。

――そんな『CROSS†CHANNEL』を未プレイの人のために、その魅力や注目してほしいところについて教えてください。

 こればかりは仕方ないことですが、たいへん古い作品ですので、時代遅れの表現がとても目立つと思います。ただ当時は美少女ゲームというジャンルが一番自由だった時期で、今との違いを感じながら遊んでいただくことで新たな発見があるかも知れません。

――クリアした人ならわかると思いますが、初めて本作をプレイされる人に向けて、ネタバレにならない範囲でタイトルに込められた意味を教えてください。

 タイトルを重要視していて、本作では二重三重の意味を込めてあります。例えば“†”という記号にもいろいろな意味があり、ナイフや殺意、死者、交差点など、複数の役目を持っていたはずです。傾ければ“×”のようにも見えるので、そういうニュアンスのシナリオも存在します。言葉や記号が示すものは1つだけではないので、そのあたりを意識しながらプレイしていただくとよいのではないでしょうか。

『CROSS†CHANNEL ~For all people~』ロゴ画像

――10年前に『CROSS†CHANNEL』の移植が決定した時の感想を教えてください。

 さすがにほとんど記憶はありませんが、倫理面で強引な修正が必要になることは明らかだったので、そういう部分を気にしていました。

――CS版では“全年齢”を意識したメタ的発言も多数登場しますが、移植する際に苦労された部分はありましたか?

 先の質問とも関係することですが、移植が決定した後に倫理面で大きな問題が多数あるということがメーカー内部で発覚した……と聞きました。当時なりの苦労はしたと思うんですが、この種のリテイクは日常茶飯事なものでどうにも印象に乏しいです。

■「次にメガネ女のシナリオを書く時は早めに手をつけたいと決めています」

――本作のヒロインたちはループ系シナリオに登場するキャラとして、絶妙な役割を与えられていると思います。各ヒロインたちに与えた役割の解説と、それらを与えた理由を教えてください。個人的には、見里のみ、他ヒロインと比べて印象が薄いような印象もありました(笑)。

 これは開発直後に答えたかった質問ですね(笑)。今はだいぶ記憶が薄れてしまっています……。ただ原則として、どのヒロインも世の中に対して納得できないものを抱えていて、そのうえでひとりよがりの結論を出してしまっている……というのは共通する項目だったはずです。主人公はそこにつけ込んで籠絡していき……みたいな話ですよね。ループするごとに世界が変質していく、というコンセプトなんですが、その中核を担うのが各ヒロインのイデオロギーであるという感じです。

 当時はものすごくのめり込んで書いていた部分なんですが、今だと忘れてしまっている部分も多いのが不思議です。ちなみに見里が薄いのはベストの展開をうまく思いつかなかったからですが(笑)、要するに執筆を後回しにしていたんです。自分なりにメガネっ娘への追求意識があって、ついつい後回しにしてしまうんですよ。このパターンで何度かやらかしています。メガネっ娘は好きです。いつかメガネの神になりたい。

 本作に限らずメガネのヒロインは重視しているつもりなんですが、温存しすぎて作業時間を確保できなくなることが多く、しばしば不完全燃焼気味になってしまいます。次にメガネ女のシナリオを書く時は早めに手をつけたいと決めています。

『クロスチャンネル』眠っている見里のイベントCG

――書いていて一番楽しかったルートはどのルートですか?

 特にどのルートということはないですが、全体的に試行錯誤しながら書けました。楽しいというのとは少し違いますが、実りある仕事になったと感じます。

――書かれる際に特に苦労されたキャラはいらっしゃいますか?

 うーん、あったかもしれないですが、時間が経ちすぎて完全に喉元過ぎた熱さになってしまっています。シナリオ執筆全期間を通して、苦労の波はあったと思いますが……。

――限定版特典に現状の物語とは少し違う初期プロットが収録されていますが、発売される際に現状のシナリオに決定された経緯を教えてください。

 確かに途中、ストーリー内容は何度か調整がかけられているはずです。当時、私が何を理由に変更したのかはだいぶ忘れてしまっていますが、微調整を重ねた結果、今のような形にまとまりました。

『クロスチャンネル』PS3&PS Vita版の初回限定版特典

■「イージーモードで書くと主人公が恵まれすぎてしまって、達成感が出せないんです」

――シナリオライターとなったきっかけや経緯を教えてください。

 よく質問されるんですが、ドラマチックな経緯というものはないんです。ごめんなさい。あまり深く考えず、サラリーマンよりはライターで食っていきたいと思いその道を目指していました。それも通勤ラッシュの一生はイヤだとか、その程度の理由しかなかったはずです。

――初めて執筆された作品はどのような内容だったのでしょうか?

 ゲーム会社の入社試験がわりに、1本分のシナリオを書き上げるよう要求されました。そこで当時流行していたジャンルである学園ラブコメを書きました。これが最初のシナリオということになると思います。

――近年、D.O.(ディーオー)が山田一氏=田中ロミオ氏と公表されておりましたが、『CROSS†CHANNEL』の際に名前を変えられた理由と、現在になって公表された理由を差支えないようでしたら教えてください。

 山田一というペンネームはもともと業務命令でつけろと命じられたものです。入社してすぐに「これからはライターをカリスマとして売り出していくから」というようなことを言われました。当時はそういうゴリ押しを嫌悪していたので、会社を去る時にペンネームを変えることにまったく抵抗はなかったです。幼稚な人間でした。

 現在公表したのは……仕事をする際に「山田一と同一人物であると宣伝してもいいですか?」とお願いされることがすごく増えたことが大きいです。NGで統一しようとするといちいちチェックしないといけないのがとてもしんどくて、疲れてしまいました。

――シナリオを執筆される際に、特にこだわっている部分や気をつけている部分はありますか?

 これは時々によって違います。作品ごと、時代ごとに細かく変化があります。クライアントから書式の指定があることも多いですし、まず現場全体の空気を読んでからどの程度やるのかを検討していきます。

――『灼熱の小早川さん』のあとがきで、荒川工氏(※)がイージーモードとノーマルモードのお話をされていましたが、確かに田中ロミオ氏のシナリオにはスクールカーストが当たり前にあるなど、ノーマルモード以上といった印象を受けます。これには何か意図があるのでしょうか?

※正しくは、荒川工氏の小説『ワールズエンドガールフレンド』での田中ロミオ氏のあとがきでした。読者の皆様ならびに関係各位にご迷惑をお掛けしましたことをお詫びするとともに、ここに訂正させていただきます。

 イージーモードで書くと主人公が恵まれすぎてしまって、達成感が出せないんです。うまい人はうまいんでしょうが、私はどうも苦手な作法です。ライターには自分の生み出したキャラクターを溺愛するタイプと、距離を置くタイプがいると思うんですが、私は完全に後者なんでしょう。ですのでキャラクターに対しては信賞必罰的な厳しい扱いをすることもあります。

『クロスチャンネル』壊れたフェンスから手を伸ばす美希 『クロスチャンネル』霧にキスをする太一

 その集大成として主人公の置かれた状況をハードを超えたインフェルノモードに設定した『霊長流離オクルトゥム(仮)』という企画がありましたが、ほうぼうで熱くコンセプトを語ったのですが一様に反応が薄く落ち込みました。

――キャラクターをうまく作り出すコツはなんでしょう?

 この方面で私はあまり成功しているとは言い難いものがあります。原則論ですが、一般人に近い刺激の少ない人物造型よりは、多少イージーな表現となってしまっても大げさな人物像を意識したほうが成功は近いんじゃないでしょうか。私個人の作法だと、キャラクターの性格よりは役割のほうがずっと重要になってきます。

――アイデアを出したり集中力を高めたりするためにやっていることはありますか?

 コーヒーが好きでよく自分でドリップして飲んでます。いい気分転換になります。1日3~5杯くらい飲みます。デロンギのお高いエスプレッソマシーンも所持しており、これは大変美味ですがあまり気分転換にはならないようです。

――影響を受けた作品や、作家・シナリオライターはいらっしゃいますか?

 にわか体質なので広く浅くいろんな方や作品から影響を受けています。その中でも野島伸司、筒井康隆、大原まり子あたりは大きめでしょうか? 野島さんが脚本を手がけたドラマは若いころ、忌み嫌いながらも無視できずにイライラしながら観ていました(笑)。ただまあ、好きだけども影響を受けているかどうか自分でも判断できない作家が大多数です。以前にされた同じ質問への回答と違っていたらごめんなさい。けっこう適当に答えているので。

――今後、書いてみたいジャンル、挑戦してみたいことはありますか?

 ノベルではない純然たるゲーム作品にかかわってみたいと思っています。ゲームシステムの構築にとても興味があります。あとは各所で企画を出したまま放置状態になっている案件を1つ1つ仕上げていけたらいいかなあと。

――最後に読者へメッセージをお願いします。

 この『C†C』はとても移植に恵まれた作品で、今回また新たに皆様にお届けできることになりました。本作品が時代を超えて愛されるほどのものなのかどうかはわかりませんが、もし未プレイであればぜひ手に取っていただければ、開発者の1人としては無上の喜びです。よろしくお願いいたします。

【クロスチャンネル特集 バックナンバー】

→第1回:神ゲー『CROSS†CHANNEL』を知らない人、いますか?(紹介記事)

→第2回:田中ロミオ氏を心の師と仰ぐ3人による座談会(ネタバレあり)

→第3回:シナリオライター・田中ロミオ氏にインタビュー【本記事】

(C)2014 WillPlus (C)MAGES./5pb.

データ

関連サイト