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2015年2月13日(金)

VR/ARセミナー“VRゲーム進化論”が開催。『鉄拳』原田氏らが語ったARはアウトドア派、VRはインドア派とは?

文:広田稔

 昨年9月に開催された“東京ゲームショウ2014”をはじめ、このところゲーム業界ではバーチャルリアリティー・ヘッドマウントディスプレー(VR HMD)が大いに注目されている。最近でいえば、マイクロソフトが1月にAR(拡張現実)メガネ『HoloLens』を発表して、IT業界などで話題になっていた。

VRゲーム進化論
▲マイクロソフトが1月に発表したARデバイス『HoloLens』

 そんな勢いのあるVR/ARの分野で、作り手側は何を感じてコンテンツを生み出しているのだろうか。1月30日、週刊アスキーの“大江戸スタートアップ”プロジェクトが開催したセミナー“VRゲーム進化論”では、最先端を走る3人のクリエイターが出演してアツいトークセッションが行われた。

 VR陣営からは、『鉄拳』シリーズおよびキャラクターと会話できるVRコンテンツ『サマーレッスン』のプロデューサーであるバンダイナムコゲームスの原田勝弘氏が出演。AR陣営からは、スマホ向けHMDをかぶってアクションをとると、目の前の景色にCGの必殺技を出せるゲーム『HADO』を制作したmeleapの福田浩士氏。さらに、決まったポーズを実際にとるとテレビ画面で格闘ゲームのような派手な攻撃ができる『NARIKIRI SHOWDOWN』をリリースするデイジーの稲垣匡人氏、という3名がセミナーに出演した。

VRゲーム進化論
▲バンダイナムコゲームスの原田勝弘氏。

 当日は質問タイムも含めて、1時間以上にわたって大いに熱気にあふれていたが、中でも盛り上がったシーンを抜き出してみた。ちなみに司会は、電撃オンラインや週刊アスキーにも『Oculus Rift』や『Project Morpheus』の記事を寄稿している“VR大好きおじさん”こと筆者・広田が担当した。

●Project Morpheus『サマーレッスン』

●『HADO』

■『NARIKIRI SHOWDOWN ~ふはははは、見ろ!車がゴミのようだ!~』

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■「FPSは好きだけど、サバイバルゲームは好きじゃない」の違い

原田勝弘氏(以下、原田):ここに来ている人はVRとAR、どっちも好きな人が多いと思いますが、僕は両者が意外と違うものと思ってる。一番面白い言い方すると、ARをやりたがる人はすごくアクティブな人が多い。ようは、外に遊びに行っちゃう人で、渋谷のスクランブル交差点で巨大ガンダムがあるといわれると、見に行っちゃう人なんですよね。

――あー、なんとなくわかります。

原田サバイバルゲームが好きな人もARですね。僕はFPSが大好きで、それを知った人からよくサバゲーに誘われるんですが、「いや、家でやりたいんです」っていう。もちろんどちらも好きというケースもありますが。

――似てるようでちょっと違うという。

原田:福田さんが言われているウェアラブルデバイスとARを組み合わせて運動する“テクノスポーツ”という発想は、まさにARですよね。よーく考えていくと、結局、運動神経やみんなでどうコミュニケーションとってやるか、どう競うかみたいな話になってくるじゃないですか。

 VRは違う。根本的に「動きたくない」「外に出たくない」っていうタイプが多い。僕は別に、ヨットなどをやってたのでスポーツは嫌いじゃないんですけど、基本的な発想って実はそれぐらい違うということです。今、VRとARがあまり区別されていないところも面白いですが、逆にしっかり考えていくと現時点のテクノロジーではそれぐらい分かれています。この状況が、テクノロジーの進化で変わっていくところはあるんでしょうけど。

福田浩士氏(以下、福田):僕も原田さんの仰るとおりだなと思います。

――おっ。しかし今回たまたまなんですが、原田さんと広田のVR陣営、福田さんと稲垣さんのAR陣営で、座るテーブルがすっぱり分かれてますね(笑)

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▲meleapの福田浩士氏。

原田:ここ、敵対してるわけじゃないですからね(笑)

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▲左側がVR、右側がARと偶然分かれていた。

福田:僕もサバイバルゲームは好きで、ARを使ってもっと面白いことができるんじゃないかなと思っていて。

原田:そう、モテる人の発想ですよ(笑)。

福田:どちらかと言うと、アクティブに休日過ごす派ですね。一緒にプレイしている人たちとハイタッチをしたいんですよ。

――えっ!?

原田:ほらね、すごい明るいでしょ?ハイタッチですよ!?

――:一同笑い

福田:ARでやれてVRでできないことって色々あって、そのひとつがハイタッチ。もちろんその逆もあります。

――休日、ベッドにダラダラと寝そべって、Twitterで無駄に知り合いにからむとか、そういうのはないんですか!?

福田:基本的にないですね。現状の技術とプロダクトでは、やっぱりターゲットの人たちは違うのかなと思います。将来はちょっと変わってくると思いますが。

――面白い話ですね。

原田:格闘ゲームが好きな人と、本当に格闘が好きな人の違いみたいな。格闘ゲーム(鉄拳シリーズ)をつくっていると、「ボクシング好きなんですか?」といった感じで実際にやる人とよく勘違いされます。見るのは好きだけど、やるのは嫌いですみたいな。こういう(AR側)人は、「みんなでボクシングやろうよ」「ボクシング体験しちゃおうよ」みたいな感じ。それぐらい、似てて違うっていう。それが面白い。

――全然アプローチが違うんですね。

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■CGがリアルになるからこそ起こる高度なVR酔いがある

――現状、VR/ARコンテンツを開発をしていて、ここは危ないかもという点は感じることはありますか?

原田:先日、貴重な体験をしました。僕は『サマーレッスン』に先駆けて、3年ぐらい前からVRを研究しているので、体験の質を落とす“VR酔い”に対してものすごく敏感に対処してきた。そんな僕でさえ2014年末に「VR酔いってほんとにヤバイんだな」って次のレベルのものを初めて体験した。

 酔いの原因って、いっぱいあるんですよ。一番多いのは、PCのスペックが追いついていない。PCインディーズタイトルでよくある話では、フレームレートが悪いとか、そもそものゲームのカメラワークが悪いとか。でも、この程度は通常のゲーム画面で酔っているのと変わらないんですよね。

――えっ、そうなんですか。

原田:で、これが進むと、ものすごいレベルの高い酔い方になる。結局、現状のゲームや実写では、どこかで視界をだましきれてないんです。みんな非現実的なものだと思っているので、完全に視界の情報をジャックできてない。現実だと認知されていなくて、没入感としては低いからあの程度の酔いですんでいる。

――もっと現実と見間違えるほどのVRコンテンツがあるんですね。

原田:そう。昨年末、世の中に公開されていない某VRコンテンツを体験したんです。高スペックなPCを5分ぐらい遊んだらしばらく冷やさなきゃいけないほど酷使して、非常に質のいいテクスチャー、高い解像度、安定したフレームレートを実現していた。

 そうした非常に質の高いよくできたCGが出せると、今までよりも没入感が上がって、視覚が本当の視界だと認識するようになる。例えば車のゲームで、実際の運転とほぼ変わらない感覚になるんです。でも、逆に運転が下手な人だったり、運転はうまいけど自分とフィーリングが合わないドライバーにあたったときのような、本当の酔い方をしてしまう。

――なんと(笑)。バーチャルでリアルに酔うっていうのは高次元ですね。

原田:僕、今まで車ゲームはほとんど水平移動だし、上下移動も大したことがないから酔わないです、なんてことをいろんなセミナーなんかで言ってたんですけど違いましたね。面白いのが、車を運転したことのない人は、自分の予想とズレもないので「こういうものかな」と思ってあまり酔わない。

 僕みたいに私生活で運転したりしていると、ラリーゲームとかやったときの本当の挙動じゃない、ふわっと浮いて「こんなに飛ぶわけないじゃん」ってところでウッって気持ち悪くなってしまう。

――不思議ですね。

原田:FPSみたいなゲームで、たかだか5段の階段をスーッと降りるだけでも気持ち悪くて嫌なんです。要はVRのCGがリアルに近づくと、リアルでも起きることが本当に体に起こるし、やっぱりリアルとのズレが気になるんです。だってアクセルの加速度はズレるし、自分は本当には動かないし。僕が今あげているのは2015年現在のことで、デバイスや技術の進化で2020年ぐらいになったらもう笑い話かもしれないですけど。

――CGキャラの見た目を人間に近づけるほど気持ち悪くなる“不気味の谷”みたいで難しいですね。

原田:サマーレッスンのディレクターがよく言ってることで、料理屋に行ってまずいメニューに当たっても、「次は別のを頼めばいいや」で済むじゃないですか。でも、初めて入ったお店で食中毒をおこしたら、その店には二度と行かないと思う。それぐらいVRを初めて体験する人にとって、VR酔いはヤバいものだと思っています。

 現状のコンテンツならまだしも、超お金を掛けてすごくいいコンテンツができて、異常に酔うものだったらどうか。初めてVRを体験するという友達にやらせてみてください。そいつは間違いなく1、2年、もしくはもう二度と手を出さないでしょう。そんなユーザー人口を減らしてしまうぐらいに本当にヤバいなというVR酔いを、昨年末改めて体験したんです。

――VR酔いに関しては、Oculus Rift開発者もかなり注意して作ってる人が多いです。

原田:僕、酔うかどうかっていうのは、VRで3番目ぐらいの優先度でいいよって言ってたんですけど、1番に上がりましたね。

――酔いを軽減するテクニックって、Oculus VRでもSCEさんでもいろいろシェアされていると思いますが……。

原田:映像表現が上がって、ハードがよくなくなれば、その酔い軽減の工夫もさらにレベルを上げないとダメです。

――じゃあ、今まで使えてた戦法が使えなくなる?

原田:結構あります、そういうこと。だから、フレームレートがもっと上がって、もっと絵が高精細になったら、レベルの高い酔いが待ってます。

――じゃあ、Oculus Riftの次期開発版である“Crescent Bay”ベースの製品版が出たら、開発者はよりVR酔いに注意しなければいけないという。

原田:そうです。例えば「バスの後ろの窓から背景を見てます」みたいなコンテンツをつくったら終わりです。たった時速1kmでも、気持ち悪くてしょうがないです。これからVRコンテンツをつくろうという人は、そういう興味を持った人が「2度とやらない」って言わないように気をつけるっていうところをまずクリアしてから、何をやるかをぜひ考えてもらいたいなと思います。

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■『マトリックス』の世界をそのままVRゲームにしてもおもしろくならない

――最後にAR/VRについて、どう進化していくのか、どうわれわれの生活を変えていくのかという未来予測についてお聞きしたいです。

福田:ARの分野では、デバイスの進化がこれからまさに起ころうとしてると思います。例えば、マイクロソフトの『HoloLens』とかグーグルが出資した『Magic Leap』、あとはソニーやエプソンなどのデバイスが続々と出ようとしてます。

 それらが進化し続けて、例えば2020年代になれば、画角も非常に広くなったり、端末も軽くなったりするので、日常的に付けていられるようになる。日常のシーンでレイヤーを使ってコミュニケーションをするとか、居酒屋にいながらARの何かを表示してコミュニケーションをして笑い合うとかね。

――SNSの内容が目の前に重なって表示されてるようなイメージですかね?

福田:SNSもそうなんですけど、もっとAR的な使い方としては例えば可愛い女の子、自分の好きな女の子に告白するときに、お互いARグラスをつけてるとするじゃないですか。で、バチンと指を鳴らせば周りが暗くなって星がキラキラして……。

原田:ほらあ!! やっぱり発想が違うよね(笑)。そもそも相手を告白とかいう時点でハードルを高く感じるのがVR傾向の人。その告白する相手をバーチャルで用意する気がないところが、もう発想が違うんですよね(笑)。こういう人は絶対に『サマーレッスン』みたいな発想にはいかない。ここに隔たりがあるのかな……やっぱり(笑)。

一同:(笑)

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▲『サマーレッスン』

福田:基本的にARは現実の何かを拡張するっていう発想で、スポーツを拡張して僕らの『HADO』みたいなものが出てくるとは思います。

――稲垣さんはどうでしょう?

稲垣匡人氏(以下、稲垣):スポーツやゲーム以外で思い浮かんだのが、医療ですね。最近、興味を持ったんですが、医療用ロボットの『ダヴィンチ』って知ってますか? タコの触手みたなアームがロボットの手になっていて、立体映像モニターをのぞきながら、機械の手を動かして手術するという。このモニターも、進化するとヘッドアップディスプレーのところにARで情報を持ってこられるかもしれない。

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▲デイジーの稲垣匡人氏

――未来的ですね。

稲垣:すごい世の中だって。『攻殻機動隊』とかサイバーパンクを連想させるようなものが現実的にどんどん出来てくるんだろうなっていうのは感じますね。

――Google Glassのようにあらゆる情報が引き出せて、すぐ目の前の風景に重ねて見られてしまうみたいな。

稲垣:ARは、スマホでかざすだけで情報が呼べるレベルにならないと普及が難しいのかな。僕もそうなんですけど、やはり何か動作がワンクッション入るだけでもういやになってしまう。何かをかざして自動的にババっと情報が出るような感じまで進化して、初めて普及する可能性があると思います。

――原田さんとかは?

原田:未来を語るときに、『ソードアートオンライン』や『マトリックス』が究極みたいな話はよく出ますが、みなさんよく考えて欲しいんです。今のHMDは視界をジャックしているだけですが、オンラインにみんなで集まって歩くとなったときに、自分の足は動いてないのに違和感がでてきます。風がこないとか、匂いが足りないとかもそうですね。

――そのへんは尽きないですね。

原田:嗅覚だ、聴覚だ、三半規管だって対応させても、結局肌の感覚が残っているから実際には動いていないって分かるから、今度脳神経をジャックすることになる。それが究極のバーチャルリアリティで、おもしろいコンテンツだっていう人がいますが、それは誤解だと思います。

――といわれると?

原田:ゲームがなぜ売れて、エンターテイメントとしておもしろいかというと、現実じゃないところの感覚、言い方悪くすると何かが欠落しているからなんです。視覚は奪ってるけど、身体は残してるからゲームだと認識できてておもしろいんです。

 つまり『マトリックス』の中にいる主人公のネオは、あの世界を現実として生きているわけですよね。はたから見れば設定ってわかるから面白いですけど、本人からしたらとてつもなく恐ろしい状態ですよ。

――確かに!

原田:会場のみなさんに問いますけど、この場がVRか現実なのかって証明するのが難しいんですよ。今このビルの屋上に行って、「ゲームですから飛び降りてください」って僕が一生懸命言っても誰も飛び降りませんよね。脳や神経をジャックしたときに「ここはゲームですよ」って知らせる信号や判別する方法を残せれば成り立つんですが、本気で『ソードアートオンライン』や『マトリックス』をやっちゃうと本当に死ぬわけですから、死んだら死ぬってわかってることが楽しめるわけがない。

――その視点は気づかなかったです。

原田:ドラゴンとか架空のモンスターが出てきたときにも、「さすがにそれは偽物ってわかりますよー」という人もいますが、みなさん夢をみているときを思い出してほしいです。隣の人が襲ってきたりとか、車にはねられそうになるときって夢だと認識してませんよね。

――ですね。寝汗がヤバい感じです。

原田:寝汗もスゴいし、あれは起きる寸前だったりするので、脳がいくつかの神経を残してくれるから途中で夢だと気づく人もいる。つまり欠落しているんです。実はわれわれは、リアルで安全な場所にいて、家でクーラーを浴びながら、ジャングルの中で銃を撃ち合っている、そういうものだから「おもしれー!」って言える。めちゃくちゃ暑くて、虫も飛んでて、敵から窒息するぐらい首を締められたりしたら絶対面白いわけがない。

 僕ホラー映画が好きなんです。幽霊を信じてないし見たことないけど、下手すると本当に見えちゃうわけじゃないですか。死んだはずのおばあちゃんの顔がここからでてきたら、「これは本当にゲームです」って言ってくれないと。

――システムからのアラートメッセージが出てくるみたいな。

原田:でも、それさえも「ホントかな?」みたいに信じられない。究極の世界はそうなってしまう。それはもはや、VRじゃなくて現実ですよね。だからVRはあくまでVRだって言ってるうちが華ということをいいたかった。僕は最近そこの境地に達しました。

――『サマーレッスン』を手がけたことで見えてくる話もあるんですね。

原田:『サマーレッスン』が本当に現実と区別つかないものとして、この子に嫌われたくないと思って一生懸命いろいろなことをやったあげく、「原田さん臭いから嫌」って言わてみてください。ゲームだったらまだ笑い飛ばせますけど、あれだけ没入感が高ければほんとに落ち込むじゃないですか。「大嫌いです先生」って言われたら、ヘタしたら失恋のショックで自決する可能性もある。それはダメですよね。もはやVRとかゲームの世界じゃない。

――越えてますねそれは。

原田:どこかに現実じゃないところを残すっていうのはすごく重要なんだとおもいました。

――本日はみなさん示唆に富んだお話をありがとうございました!

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