2016年5月21日(土)
※本記事は、Webノベル『プリンセスコネクト! ~プリンセスナイト争奪戦~』の第4話です。第3話までを読まれていない方は、下記の記事を先にご覧ください。
⇒『プリンセスコネクト! ~プリンセスナイト争奪戦~』第1話を読む
⇒『プリンセスコネクト! ~プリンセスナイト争奪戦~』第2話を読む
⇒『プリンセスコネクト! ~プリンセスナイト争奪戦~』第3話を読む
⇒『プリンセスコネクト! ~プリンセスナイト争奪戦~』登場人物はこちら
「お疲れさまですわ」
二回戦が終わり、舞台袖に戻ると秋乃さんが声をかけてきた。
「後は決勝ですわね」
「まだこんなのが続くんですか……」
僕は苦笑いをしながら言った。すると、秋乃さんは――
「面白いのはこれからですの」
またとんでもない仕掛けでも用意してるのか、鋭く、不敵に笑った。
そんな時だった――先に控え室に戻っていたはずの、みそぎちゃんが舞台袖に駆け込んできた。
「にいちゃん、大変だ!」
「ん?」
「いいから早く来て!」
「え? えっ!?」
グイグイと手を引かれ、僕は廊下に連れ出された。
「な、なに? そんなに慌てて、どうしたの?」
「『mimi』がないの!」
「トイレとかじゃないの?」
「ち、違うってばっ! ミミちゃんじゃなくて、『mimi』っ!」
「え……っ!?」
盗難、ってことか! 僕は反射的に駆け出し、扉の開いていた控え室に飛び込んだ。怜、ひより、咲恋。そしてミミちゃんと手をつないだ草野が、一斉に僕を見る。
「に、にいちゃん……早いって!」
続いて、追いついてきたみそぎちゃんが、僕の背中に額をつけた。
「えっと、今聞いたんだけど……」
「うん、あたしたちの『mimi』が……」
ひよりが言葉を詰まらせる。その視線の先には、開け放たれたロッカーが並んでいた。
「は、犯人は?」
「えっと、宅急便の人みたいな格好の人……だと思う」
声を震わせ、草野が答える。
「その、この部屋から出てくるところを見たから……」
「それって、いつ?」
「二回戦が終わってすぐ……かな。ミミちゃんとお手洗い寄った後だから」
「そ、そっか……」
「呆けてる暇はないよ、ナオ」
怜がピシャリと言った。
「そうだね、すぐ秋乃さんに言って、警察に――」
「待って、それはダメ! これは私たちで解決しないと……」
ストップをかけたのは咲恋だった。
「警察沙汰になったら、今日きてくれた人たちに悪いから。それに、主催者の秋乃さんの顔を潰すことにもなるし……」
「でも、そんなこと言ってる場合じゃ――」
「それは分かってるけど……お願い」
咲恋は目を閉じて頭を下げた。
いつも振り回されてるとはいえ、咲恋にとって秋乃さんは大事な友達なのだろう。だけど、どんなやつが盗んだのか分からないのだ。自分たちでどうにかしようとして、誰かが怪我をしないとも限らない。簡単に頷くことはできない。
「アタシ、捜してみる。宅急便の格好だったわよね」
「ちょっと待って、咲恋」
僕は咲恋を呼びとめ、みそぎちゃんに言った。
「ミミちゃんと一緒に、秋乃さんに出入り口で荷物検査をするよう伝えてきてくれる? それと、スタッフの通用口は使用禁止にしてほしいって」
「うん、分かった! ミミちゃん行こっ!」
「う、うん……」
みそぎちゃんが手を出すと、ミミちゃんはその手を握った。そして二人で、廊下を駆けていった。
「ナオ……」
咲恋が呟いた。
「まったく……咲恋って危なっかしいよな。どうせ僕たちが警察を呼ぶって言っても、絶対聞かなそうだし」
「それは――」
「だからね、みんなで協力しようよっ!」
ひよりが大きな声で言った、僕もそれに頷き、咲恋に言う。
「二人に連絡係を頼んだのは、秋乃さんの側が一番安全だからだ。あの二人が相手を見つけて逆上されたりしても、舞台袖ならスタッフが大勢いるしね」
「そういうこと……」
咲恋は少しほっとしたような笑みを浮かべる。しかし、すぐに厳しい顔で僕に言った。
「それで、どうするの?」
どうするもこうするもない。僕は頭に浮かんだ言葉を口にした。
「多分、まだ外には逃げてないと思う」
「どうして?」
ひよりが首を傾げる。
「格好が格好だからだよ。出入り口から出たら、人の目に留まるだろ?」
「あっ、それでスタッフの通用口を止めたんだ!」
「そう、これで袋のネズミだ」
そう言って、怜をチラリと見ると、しっかりと頷いてくれた。つまり、思考の方向性は間違ってない。それなら、と僕は続きを口にする。
「ところで、盗んだ人って……今、なにしてると思う?」
「えっ? えっと……」
突然の質問に困惑するひより。
「着替え……じゃないかな」
的確な答えを口にしたのは草野だった。
「そう、目立たないように、トイレとかで普通の服に着替えてるはずだよ。そうじゃないなら、そうじゃなくていい。その時は簡単に見つけられるからね」
「……ってことは、普段着で、大きめの手荷物を持ってる人?」
「多分ね」
僕はひよりに頷いた。出演者やスタッフだらけの廊下を歩くなら、宅急便の服は便利だ。でも、逃げるときはそれが裏目に出る。
「この施設の表通路は、ホールを中心に、カタカナの『コ』の字型になってるから、両サイドからチェックしていけば、きっと見つけられる」
草野、ひより、怜、咲恋、そして僕で――
「ともかく、僕は男子トイレを見ていくから、草野は女子トイレを頼む」
「あたしは?」
「ひよりと怜、咲恋は表通路で大きな荷物――リュックやボストンバックの人を捜して、荷物を確認させてもらってよ」
みんなの『mimi』と作業着が入っていれば、それなりにかさばる。イベントを見に来るのに、そんな大荷物を持ってる人は、ごくごく一部だ。
「そっちの分担は――怜、いいか?」
「分かった、任せて」
頼りになる返事だった。
「それと――」
怜は、すぐさまスマホを取り出し、操作をはじめた。
「連絡は私たちのギルドのページでいいわね」
「うん、咲恋をゲストに加えておいて」
「分かった」
テキパキとした行動。僕がスマホを確認したときには、既にメッセージボードには咲恋の名前が追加されていた。
◆
「ここにもいない……か」
一通り通路の男子トイレを見て回ったものの、これといった成果はなかった。休憩中だけあって、廊下にはそれなりの人が出てきていたが、みんな席に荷物を置いているのか、ほとんどの人が手ぶらだった。
スマホを確認するも、特に報告はない。変わったことといえば、同じ学校の生徒に呼び止められ、肩を優しく叩かれる程度だ。事件とはまったく関係がない。
「もしかして僕の推測が違って……」
いや、草野の見た宅急便の人が、本当は関係ないとか――
悪い考えがポツリポツリと頭に浮かんでくる――そんな時だった。通路の一角に数人の人だかりができているのが目に入った。
「なんだろう……」
慌しい雰囲気は見て取れないから、この事件には関係ないとは思う。僕は人だかりの後ろにつき、中心の様子を窺ってみた。
そこには――
【口癖は「ごめんね、私…不器用だから」】
どこかで見たことのあるクセのある字と、下手くそな女の子の絵が描かれたノートが置かれていた。というか、僕のノートだった。
「ほ、本当に展示されてる……」
一瞬、頭が真っ白になった。恥ずかしいというより、つらかった。あまりの衝撃に、ふっと横に目を逸らす、と――
「あ、先輩」
ひよりがいた。
「な、なんで、ひより……」
「その、ね。人だかりがあって、なにかな~って思ったの!」
「いや、今はこんなもの見てる場合じゃ――」
「ごめんなさい。私……不器用で」
「さらっと使うな!」
僕はひよりの腕を引き、人だかりから離れた。
「じゃ、じゃあ……僕はもう一度男子トイレを見てくるから、ひよりはちゃんと大きな荷物の人を捜してくれ」
不器用というセリフには触れず、しっかりと指示を出しなおす。
「頼んだよ」
「ん、分かってる」
ひよりはガッツポーズを見せると、キョロキョロとしながら廊下を走っていった。
「まったく……」
とりあえず一息。あの展示は後で撤去してもらうとして、とにかく今は急がないと! 僕は次のトイレに向かおうとし、はたと足を止めた。ポケットのスマホがブルブルと震えはじめたのだ。
【ユイ】――みつけた!
【サレン】――今、どこ?
【レイ】――場所は?
【ユイ】――ステージを見て左側の廊下
【ユイ】――突き当たりにある女子トイレ
文面から、みんなが慌てているのがよく分かった。
僕は踵を返し、草野の言う女子トイレへと急いだ。
◆
駆けつけたときには、すでに咲恋、ひより、怜も集まっていた。
「ど、どうなった?」
息を切らせながら、僕は状況を問う。
「今は中に逃げ込んだって」
答えたのは咲恋。そして、草野が詳細を述べる。
「いきなり飛び出してきたから、びっくりしちゃった」
「飛び出して!? どういうことだ」
「それがね……そこのお手洗いで、一つだけずっと出てこない個室があったから、おかしいなってノックしてみたの」
身振りを混ぜ、草野が言う。
「ほら、もしかしたら具合が悪い人がいかもしれないし……」
「そしたら?」
「返事がなくて――でも、人の動く気配はしてたから、繰り返しノックしてみたら……」
「バァン! って飛び出してきたんだって!」
ひよりが興奮気味に言った。
「で、どんなやつだった?」
「小柄で帽子を深くかぶってて、顔は見えなかったけど……丸めた服と、リュックを持ってたから、多分――」
「キミの想像通りだな」
怜がクスッ、と口元を緩める。
「そっか……」
でも、これで本当に追い詰められたのだろうか? 中はそれなりの広さがあるのだ。
「ともかく、絶対に逃がさないようにしないと……」
「どうやって?」
ひよりが疑問に口にすると、怜がすぐさま言った。
「こちらが、相手に対して有利な部分はなんだと思う?」
「有利……というと、数ね」
あごに手を当て、咲恋が言う。それがヒントになり、僕の頭に一つの答えが浮かんだ。
「そうか、ホールの出入り口は、横に二つずつ。それと後方に一つ。つまり咲恋、ひより、草野、怜、僕でそれぞれの扉から入れば……」
「悪くないね」
僕の意見に怜が賛同した。
「で、中に入ったら、草野が犯人を見つける。そして僕が捕まえる」
「え~っ、あたしも手伝うよ!」
「ア、アタシも!」
ひより、そして咲恋が手を上げる、が――
「ダメだ、もし二人が怪我したらどうするんだ。僕に任せて」
僕はハッキリと口にした。そこだけは譲るわけにはいかなかった。ここは現実だ、アストルムじゃない。取り押さえるのは僕の仕事だ。
「でも、僕が危なくなったら、助けを呼んでくれると助かる」
少しおどけてみせた。
「まったく、格好つけすぎよ」
草野、怜の残った方とは反対側の出入り口へ急いでいると、咲恋が言った。
「捕まえるとき……怪我なんてしたら、本当に承知しないわよ」
「分かってるって」
保証なんてない。けど、僕はそう言っておいた。そう言うしかなかった。
「アンタたち……本当にいいギルドね」
「ん?」
「こういうときに、ピッタリと息を合わせられるでしょ」
「それを言うなら、咲恋もだろ?」
「え……っ」
ピタリ、と咲恋が足を止めた。
「ギルドなんて枠を超えて、僕たちに協力してくれてるじゃないか」
僕は咲恋を振り返り、手で走るように促しながら言う。
「それに、ミミちゃんやみそぎちゃんも、僕が言ったことを素直に聞いてくれて、本当に助かった」
「こ、こんな時なんだし、当然よ!」
「そっか、当然か」
その答えに、僕はなんとなく嬉しくなってしまった。
「もう、なに笑ってるのよ」
「なんでもない。それより、そこは頼んだよ」
手前の重苦しい扉を指差し、僕は少し先の扉へ。ついでにポケットからスマホを取り出し、片手で文字を打ち込んでいく。
【ナオト】――反対側の扉についた。みんな準備は?
【レイ】――いつでもいいよ
【ユイ】――私も
【ヒヨリ】――うしろの扉は任せて!
【サレン】――こっちもOK
【ユイ】――でも、ひとめで分かるかな?
【ヒヨリ】――へーきへーき
【ユイ】――私、不器用だから…
表示された文字に僕は、むせ返った。
【サレン】――吹きだしてるわよ
【レイ】――それはなにより ユイに打ってもらって正解だった
【レイ】――緊張はとけた?
【ナオト】――それはもう
【ユイ】――えっ、なになに? 不器用ってなんだったの?
【ヒヨリ】――くわしくは後で(´△`)
まったく……余計なことばっかり。肩の力が抜けた僕は、大きく深呼吸をして『行くよ!』と打ち込んだ。
◆
ホールは廊下よりも、少し薄暗かった。立ち歩いている人もチラホラと目に付くが、大体の人が座っていた。もちろん、扉を開け放ったままの僕に注目が集まるのは分かっていた。状況が状況だけに仕方がない。
と、その中で一人、大きく動く人影を僕は見つけた。中央の階段を駆け下り、ステージに向かって一直線に走っていく。
「その人!」
草野の声が聞こえた。
僕は反射的に足を踏み出し、その人影に向かう。小柄で、背中にはリュック。手にはたたんだ作業着のようなものを持っていた。草野の言う特徴の通りだった。
足は――遅い、というかもたもたしていた。
「いけるっ」
これなら捕まえられると、僕は確信する。しかし、想定できなかった誤算が一つ――
「待ちなさいっ!」
咲恋が扉を離れ、脇の通路からステージへと移動をはじめていた。
「秋乃さんのイベント、台無しにはさせない!」
その思いの強さが、行動につながってしまったらしい。犯人を睨みつけながら、ただただ走る。そして……階段を踏み外し、転倒した。
「――っ」
それは最悪の事態だった。僕と咲恋はステージ右側の扉の担当だ。中央へと走っていた僕のフォローは咲恋にしかできない。でも、その咲恋の足が止まってしまえば――
当然だ。犯人は、咲恋の隙を狙い、細い通路を右側の扉へと曲がる。
「万事休すだ……」
逃げられる、と思った。そんな時だった。
「ひよりっ! そのまま走って右の扉のフォローッ!」
「任せてっ!」
怜の指示に、ひよりが頷く声がした。顔を上げると、ひよりは既に咲恋の扉に到達しようとしていた。俊足のひよりにしかできない芸当だ。
「優衣は左側の扉をキープ! 後ろの扉には私が行く」
「うんっ!」
さらには、ひよりの抜けた穴を自ら塞ぎにかかる怜。これ以上にない連携だった。
足を止める犯人。こうなれば、やはりステージに逃げるしかなくなる。が、もう遅い! 足を止めなかった僕は、既に犯人に肉薄していた。
小柄な体が再び走り出す――が、手を伸ばせば今にも届く。あと数メートル。僕はそいつを追って最前列の通路を曲がり、ステージへと続く階段を上っていく。
「待てっ!」
思い切り飛びつき、背後からその華奢な体に腕を回した。バランスを崩したそいつと共に、ステージ上を転がる。
「わきゃっ! うう……っ」
鈴のような声が聞こえた。しかし、僕はその体に必死でしがみついた。ほんのりと香る甘い匂いと、焼きたてのパンのようなフワフワな感触をその手で味わいながら――
「あ……ん、ダメ、ダメですぅ」
聞いたことのある声だった。
「い、痛いです、そんなに強く――んっ」
「え……っ!?」
ゆっくりと目を開けると、目の前にはボリュームのある膨らみ――をしっかりと掴む僕の手があった。
「な、ナオさん――手が、その……触ってます」
「え? うわああっ!」
僕は反射的に飛びのいた。と、そいつ――いや、少女の帽子が落ち、下ろした髪がふんわりと広がっていった。
「えっと、えっと!?」
「あうぅ……」
恥ずかしそうな顔でペタンと座り、両手で胸を隠すように抱いていたのは――すずめちゃんだった。
「ど、どうして……」
そんな陳腐な言葉しか出てこなかった。
「すずめちゃんが……犯人なの?」
「それは、その――」
すずめちゃんは言葉を詰まらせ、それから舞台袖に懇願するような目を向けた。
『おめでとうございます!』
「……え?」
そこに現れたのは秋乃さんだった。
『ということで、ナオさんたちが見事に犯人を捕らえましたので、会場のみなさまには、ささやかなプレゼントをご用意しましたわ!』
そんなアナウンスが流れると、割れんばかりの拍手が会場に響きはじめた。
「え? えっ!? えっ!」
ふと見れば、巨大モニターには、挙動不審な僕が映し出されていた。まったくもって状況がさっぱりだ。
「こ、これは?」
『楽しんで頂けたみたいでなによりですわ』
「楽しんで?」
『ご説明いたしますわ。でもその前に……咲恋さん、それに怜さんたちもステージにきて下さいな』
その瞬間、会場で立ち尽くす草野、怜、ひより、咲恋にスポットが当てられた。当然のごとく、みんなポカンとしていた。
「ちょ、ちょっと! 秋乃さんっ!」
はじめに動いたのは咲恋だった。連なるようにして、怜、ひより、そして草野がステージへと足を向ける。
『――では、ご覧いただきましょうか』
全員がステージに揃うと、秋乃さんが巨大モニターを指し示した。そこには『ナオさん争奪戦』のタイトルがあった――が、次の瞬間、その文字がド派手に爆発し四散した。
そして新たに『ギルド親睦会』というタイトルが表示された。
「ど、どういうこと?」
まさか、このイベント自体が釣りで――
『ふふっ、見ての通りですわ』
秋乃さんが楽しそうに笑う。
『これからのアストルムには、新たなる強敵や試練が待ち受けているはずですわ。その時に協力し合えるように、交流会を開かせていただきましたの』
「か、観客の人たちは……」
『みなさんには、来場の際にご協力を仰ぎましたの』
「そ、そんな大掛かりな……」
完全にやられた。突拍子もない人だとは思ってたけど、まさかここまでするとは思ってなかった。
僕はその場にへたりこんだ。
そんな時だ。
「おにいちゃんっ! ごめんなさい」
ステージの袖から現れたミミちゃんが、僕に飛びついてきた。
「ミ、ミミちゃん!?」
「ミミね、知ってたの! すずめちゃんが犯人だって!」
「うん、みそぎも知ってたんだ……ウソついてごめんなさい」
続いて現れたみそぎちゃんが、ぺろりと真っ赤な舌を見せた。
「そ、そっか……」
『小学生の二人には、驚かせないよう、前もってお伝えしておきましたの』
なるほど、秋乃さんなりの配慮、ということか。たしかに思い返してみれば、思い当たる節がある。ミミちゃんやみそぎちゃんなら、泣き出してもおかしくない事件だというのに、いやに落ち着いていたし――
「はめられたのは、僕と草野、怜、ひより、咲恋か」
お互いに顔を見合わせ、僕たちは乾いた笑いを浮かべた。怒るに怒れなかった。そう、交流会という意味では、大成功だったからだ。
僕たちは協力し合い、一つの結果を出した。そして、それを悪くないと思えてしまったから――
『では最後に、参加者へのプレゼントを発表させてもらいますわ』
「プ、プレゼント?」
僕は秋乃さんに聞き返した。
『わざわざ準備して下さった方がいますの』
「えっ? 誰が……」
僕は反射的に舞台袖に目を向けた。
『会場には来ていませんわ。というか、来られませんの。ですから、私がゲーム内で撮影してきたビデオレターでお伝えしますわ』
秋乃さんがスッと手を上げると、場内がゆっくりと暗転しはじめた。モニターに映し出される、3.2.1.というカウントダウン。
『みんな~っ、お疲れ様っ! フィオだよ! 頑張ったみんなには参加賞として、ゴールドの強化像×10を用意したからね!』
そこには、カメラ目線で声を弾ませるナビゲーターがいた。
「フィオが……ゴールドの強化像を!? しかも10個って――」
僕たちは驚き、互いに顔を見合わせた。大奮発、といっても言い過ぎではない。みそぎちゃんとミミちゃんに限っては、もう大はしゃぎだ。
『あ、でもね。急な話だったから、ナオの分まで用意できなかったの。ごめんね』
「え……っ?」
画面の中、フィオは両手を合わせて舌を出していた。続く言葉は……ない。
「お、終わり?」
『終わりですわ』
半笑いで尋ねる僕に、秋乃さんはニッコリと微笑んだ。うん、なんともいえない脱力感だった。ただ――
ふと顔をあげれば、完全な徒労というわけではないようにも思えた。草野、怜、ひより、咲恋は手を取り合って喜んでるし、すずめちゃんやミミちゃん、みそぎちゃんも嬉しそうだ。
「この顔が見られただけでもよかった……のかな」
『そう言ってもらえると、私も嬉しいですわ』
秋乃さんは、肩にかかった髪を払って言った。そして、大きく片手を上げ――最後のアナウンスを口にする。
『みなさま、楽しんで頂けましたか! これで本日のプログラムは全て終了となりますの。気をつけてお帰り下さいな』
ゆっくりと落ち始める会場の照明。そんな中、贈られてくる拍手はいつまでも鳴り響いていた。
坂井直人(主人公)
ひょんなことから『アストルム』に無理やりログインさせられた高校生。少女たちの能力を増大させる“プリンセスナイト”の素質を持つ。
春咲ひより | 草野優衣 | |
▲直人が初めてパーティを組んだ女の子で、ギルドメンバーの1人。いつも元気はつらつで、どんな状況でも困っている人を助ける優しい心の持ち主。 | ▲直人と同じギルドのメンバーであり、中学時代からの同級生。優しくて控えめな性格で、学校では優等生として慕われている。 |
士条怜 | 茜ミミ | |
▲常に冷静沈着なギルドメンバーの1人。礼儀や規則に厳格だったり、頑固な一面も持つ。人との触れ合いに不慣れなで、男性に対しては潔癖なところも。 | ▲ふわふわした口調が特徴的な、小学生の女の子。すぐ迷子になったり、知り合いとはぐれたりする。直人にとっては歳の離れた妹のような存在。 |
穂高みそぎ | 氷川鏡華 | |
▲元気をあり余らせるイタズラ盛りの少女。好奇心の赴くままに行動するため、よく周囲を困らせるが、人懐っこい性格でどこか憎まれない。 | ▲小学生らしからぬ堅い口調で話し、性格もマジメなしっかり者。ニンジンとピーマンが嫌いだったり、少し意地っ張りだったりと、年相応な一面も。 |
佐々木咲恋 | 天野すずめ | |
▲現在は大豪邸で暮らすお嬢様だが、幼いころに貧しい生活を送っていたため、お金にはシビア。正義感が強く曲がったことが嫌い。 | ▲佐々木咲恋の家でメイドとして働く女の子。いわゆるドジっ娘で、よく転んだりお皿を割ったりしている。趣味は“ぞうきんがけ”。 |
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▲世界中にグループ会社を持つ藤堂家の令嬢。プライドが高さと庶民感覚のなさから、突拍子のない言動でたびたび周囲を驚かせる。 | ▲“アストルム”の世界でプレイヤーをサポートする妖精。ナビゲーターのわりに自由奔放。 |
人気恋愛シミュレーションゲームなどを手掛ける作家/シナリオライター。2014年にTVアニメ化されたPCゲーム『失われた未来を求めて』をはじめ、数多くのゲームでシナリオとディレクションを担当。ライトノベルの著作も行っている。
■経歴作品
PCゲーム『失われた未来を求めて』(シナリオ)
TVアニメ『失われた未来を求めて』(シナリオ監修)
小説『別れる理由を述べなさい!』(著作)
小説『断界の失喚士』(著作) ……他多数
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